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23:暗中模索のモメント
しおりを挟む一年後、私は魔法医の試験に合格していた。試験内容は思ったより大変じゃ無かった。
けれど、ここからが大変だ。
「マグナさん」
「おお、免許取得おめでとう。ココで働くのか?」
「いえ、併設された研究機関で薬の開発を担当させていただきます。今後ともよろしくお願いします」
「……薬剤師の資格も取ったのか。すげえな」
患者さんへ渡す既存の薬を作りながら、新薬の調合を行う。
私は新人だが、皆と顔見知りだった。事故や災害現場に駆り出されているのは私だけではない。
「やっとこっちに来たのか」
「友達が難病だって聞いたよ。頑張ろうね」
「早速案内させてくれ」
「ありがとうございます」
薬草の場所や、機械の使い方、梱包方法などを教えてもらった。
研修期間中は、既存の薬品作りに専念。彼への新薬研究はまだ手がけられない。
出来る事をするだけだ。
三ヶ月みっちり、医薬品と向き合った。
地球の医薬品と違って、治癒魔法ありきの錠剤、粉薬。用法にあった薬草の効力を強める為に魔法を付与している。
水に付与した物はポーションと呼ばれている。火傷や裂傷などの外傷に効く。
教会でもやっていた事だ。慣れた作業をテキパキこなす。
「途轍もない魔力コントロールだ。もう終わってるのか」
「ジャナル医院長! え、あ、はい。今日の分は終了です」
「魔力Cランクにしては申し分ない。もう研修は終わりだ。明日からは、君もマグナのチームに加わりなさい」
「わかりました。よろしくお願いします」
ジャナル医院長は、本当に私をよく気にかけてくださる。
「アーサン、この報告書にある魔物の魔石についてだが」
「はい」
「……マウスの解剖実験。魔石が身体の何処に蓄積されるか判断したいと言う件だが、蓄積をどう見分けるんだ?」
「同じ効力を持つ特殊な魔石を使います。コレが蓄積された後、見分けられる方法があります」
「そう上手くいくか?」
「命を無駄にはしません」
マウス実験の許可を得て、私は五匹のマウスを使って魔石の蓄積場所を特定する。
餌の匂いがする粉にした魔石を一ヶ月摂取させていると、魔石結晶性関節症の症状が出始めた。
一匹に麻酔をかけて解剖を行う。
「(……骨が)」
魔石は暗がりで光る特性のある物を使用した。ライトを逸らすと、骨が薄っすら発光していた。腹を縫い合わせてヒールをかける。
そしてもう一つ、気になる可能性の為に頭を切り開く。小さな頭を慎重に。
『ホワ……』
「…………ぁぁ、なんたる」
脳は骨より数倍輝いていた。脳髄液ではなく脳の奥で何かが発光していた。
他の四匹のマウスも度合いの違いはあれど、脳の発光が極めて強かった。
「……経過観察。報告書を纏めないと」
連日連夜、病院に寝泊まりして実験を行い、マグナさんやチームの方と会議や彼の治療方針など……裏方ではいろいろ進んでいるが、彼の容態は悪くなる一方だ。
「ここの飯は不味い」
「病院食はそういうもんだよ」
「また、アーサンの飯が食いたい」
「うん。退院したらいっぱい食わせてやる」
白いシーツの上で私の手を握り込んで投薬の副作用で常時眠気に苛まれる彼。
「面会時間伸ばせないか?」
「私が魔力空っぽにしたら一分伸びるかな」
「……一分でもいい。側に居てくれ」
だいぶ気が弱くなっていた。
痛み止めが効いていても、今この瞬間も病は進行して、死神の刃が彼の首にひたりと当てられている。
ああ、考えてはいけない考えまで胸中に押し寄せてきてくる。ダメだ、私が末期状態になるのは良くない。駄目だ。駄目なんだ。
「絶対に生きて家に帰ろう」
「……ん」
目を閉じて寝息を立て始めた彼の病室を出て、気合いを入れ直す。
まだまだ確証は無い。実験を繰り返さないと。
魔力障害の先生達と情報共有しながら、治療法を模索していく。
「治癒魔法で結晶は消滅させられても、治癒魔法の魔力が影響しては意味が無い。魔力を取り込んでる場所を突き止めねば」
「アーサンの解剖実験では脳の可能性が高いとあるが、そこは安易に確認も行えない」
「完治しても何かしら障害が残りかねない場所です。慎重にならなければ」
「二件ほど成人後の発症前例はありますが……」
「「「う~~む」」」
前例とは全く状況が違う。しかも、前例の二件も……良い結果に終わってはいない。
「マウスの脳はまだ、切り開いて無いんですよね?」
「はい。マウスの経過観察で死亡個体が出たら切り開く予定です」
「魔物の魔石についてもっと調べてみるか」
「魔物食のある地域の文献も取り寄せます」
皆が一丸となり取り組んでいる。
魔物食の文献は翻訳された物が少なく、読み解くのに時間がかかりそうだ。
「アーサン、それは?」
「東の国の気功による医学本です」
「きこう……?」
「はい。気功とは、魔力とはまた違うエネルギーです。特殊な呼吸法で生命エネルギーの“気”を練り上げた“気功”を使う治療法があるそうです」
「は? なんだその胡散臭い本は」
胡散臭いが実績がちゃんとあるし、もし使えれば魔力を使わず体内の様子が把握出来る技もある。
「藁にも縋ろうかと」
「そんな頼りない物に縋ってないで、仮眠をとってこい。新人のお前がそれじゃこっちが休み辛い」
「……はい」
『ガッ』
「本は置いてけ。仮眠室で読むな」
「縋らせてくださいよぉーー」
鍼治療も気功も、各国の民間療法にまで手を出したが、頼れそうな物はあまりなかった。
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