大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

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41:救済のマリアージュ END

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 彼の名前がついに決まった。大急ぎで指輪に刻印をしてもらう。
 教会の控え室で店長に。

「こんなギリギリの刻印は初めてだわ……はぁ」
「すみません」
「わざわざ御足労いただきありがとうございます」
「まぁいいわ。二人の素敵なウエディング姿見れたし。それでは、良い結婚式を」

 指輪をケースに戻して、ベールのセッティングが終わった彼に声をかける。

「……すごく良い名前だよ」
「まぁな」
「一緒に考えてたけど、君の考えた名が一番いいね」

 スッと立ち上がって、誇らし気に笑う彼はまるで、神から遣わされた使者のように神々しかった。

「ふふ、お二人とも凄くお綺麗です」

 教会専属のウエディングスタイリストさんにお墨付きをいただいた。
 彼女は彼の手を取り、丁寧にブーケを握らせてから、ゆっくりと話しかける。

「…………」
「大丈夫ですよ。震えるほど緊張せずとも、この手を気にする方は誰も居ません」
「違、違う。俺が緊張してるのは……その……皆の前でする、アレだ」
「まぁ、うふふふ」

 プルプルと震えるブーケの震源は、緊張と言うより羞恥心だった。

「誓いのキス、口じゃなくて頬や額でもいいんだよ」
「…………口でいい」
「本当に? 大丈夫?」
「…………」

 皆は別に式の流れ的に当然だろうと受け止めてくれるけど、一番気にしてるのが本人達なんだよね。
 特に彼は、注目されるのが苦手で、人前でキスをするのはハードルが高い。

「……口が、いい」
「!」

 それでも、私に愛を捧げてくれる彼が愛おしくて仕方ない。
 静かに身悶えている時、結婚式の開始を知らせる入場用の讃美歌とパイプオルガンの演奏が聞こえた。
 控室を出て、二人で扉の前まで移動する。

「さぁ、新郎。エスコートしてくれ」
「勿論ですとも。麗しき新郎」

 照れ隠しか、演技がかった口調で手を差し出す彼の隣へ足を運んでその手を腕へ誘導する。

「行こうか」
「ああ」

 厳かな雰囲気の扉が開けば、皆が起立しながらワッと息を溢した。
 ふふん。私の新郎は美しかろう。
 練習した通りに入場の際に一礼をして、バージンロードを適度なスピードで足を進める。

「(アーサンめっちゃ見られてるのに、胸張っててすごいな)」

 やはり、皆に見られて恥ずかしいのか俯きがちな彼。

「顔上げろ。転ぶぞ」
「……うるさい」

 参列者のマグナさんの横を通り過ぎる時に、いつもの調子で声をかけてくれた。おかげで、少しリラックス出来たようで、前を向いて、最後まで歩ききる事が出来た。
 牧師を務める聖女のフェン様の前まで進んだら、練習通り丁度讃美歌が終わった。
 参列者が着席したのを確認してから、フェン様が凛とした声がチャペルに響く。

「これより、神前による婚姻の宣誓を執り行います」

 その言葉と共に私は彼と向き合い、手を取り合う。

「アーサン。貴方は病める時も健やかなる時も、富める時も貧しい時も、夫と愛し合い敬い慰め合い共に支え合い、その命ある限り心を尽くすことを誓いますか?」
「はい。誓います」

 力強く、迷いなく答えた。
 フェン様は頷いてから、もう一人の新郎へ顔を向ける。

「では──……サミュエル」

 彼の名が呼ばれ、参列者達が一瞬ざわついた。しかし、彼──サミュエルは一切動じず、静かに前を向いてフェン様の言葉を待つ。

「貴方は病める時も健やかなる時も、富める時も貧しい時も、夫と愛し合い敬い慰め合い共に支え合い、その命ある限り心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」

 彼もまた、迷いなく答えた。
 その応答に、今度は周囲の皆も息を潜めて私達を見守る。

「では、指輪の交換を」
「「?」」

 あれ? 指輪を持って来てくれる予定の聖職者見習いさんが何も持っていない。
 サミュエルと顔を見合わせて首を傾げたら、再びチャペルの扉が開いた。

「きゃっ可愛い~」
「あれ、エルサさんとこの」

 そこにいたのは、おめかししたエルデン君とエリアーデちゃんだった。
 
「ぇ? リングボーイ?」
「アンドガール。どうしてもやりたいって言うので」
「…………エルデン」

 まだポテポテ歩きのエリアーデちゃんと手を繋いでこちらへ歩いて来るエルデン君。参列者に拍手をされて二人共誇らしげで……いや、本当に可愛いな。

「アーサン、お兄ちゃん、おめでとう」
「ゆびわぁ」

 可愛いボーイとガールが私とサミュエルへそれぞれ指輪のケースを手渡ししてくれた。
 頭を撫でて役目の完遂を労う。
 満足気にエルサさんとココルデさんの居る参列者の席へと戻って行った。
 微笑ましさで緊張感が解れた空間で、私達は互いの薬指に指輪を通す。
 宝石商で見た時より、彼の指に嵌められた指輪はもっとずっと輝いて見える。


「神前による婚姻の宣誓を確かに承りました。では、誓約の口付けを」

 顔にかかったベールをあげる行為は、二人の間に何も隔てる物が無い事を表していると聞いたが、本当にその通りだ。
 私達の間には、もはや何の障害もない。
 この先、運命がどのように歯車を回そうと、誓う言葉を違える事はしない。
 その誓いを逃さぬように、二人の中に封じる為に唇を重ねる。
 触れ合うだけのささやかなもの。けれど、人生で最も意味を持つ口付けである。
 堪らない気持ちで胸が熱くなる中、顔を離して、皆の方へ向くと祝福の拍手喝采が起きる。
 夢や幻では無い今を実感して、脳裏に感慨が湧いて心が震えた。
 何があってもきっと大丈夫。言葉に出来ない気持ちがそんな確信を呼び起こす。まるで、魔法のように。
 拍手が止んだら、私は参列者へ言葉を紡ぐ。

「本日、私達は、ここに結婚の誓いをいたします。今日という日を迎えられたのも、私達二人を支えてくださった皆様のおかげです。格差社会の時代を乗り越え、難病を乗り越えてまいりました。この先も、二人で力を合わせて苦難を乗り越え、喜びを分かち合い、 笑顔あふれる家庭を築いていく事を誓います。未熟な二人ではありますが、どうか今後とも末永く見守っていただければ幸いです」

 大分テンプレートに沿ったカチコチの誓いの言葉を言い終わってホッとした。緊張が伝わっていたのか、同僚には苦笑いされていた。
 これで残すは退場のみ──……と、私は思っていたのだが、隣のサミュエルが参列者に向けて口を開けた。

「神様じゃなくて、皆に向ける言葉だから許して欲しい。畏まった言い方は、俺には難しいから」

 参列者への誓いの言葉は、私だけの予定だったんだけど……

「祝いの席でこんな事を言っていいのかわからないが、正直に言わせてもらう。俺の生涯は、何一つ報われないものになるのだと、思っていた」

 確かに、結婚式で言う事じゃないな。でも、彼の目に曇りは一切ない。

「けれど、違った。底辺から引っ張り上げてくれる少年が隣にいた。病から救い上げてくれる青年が隣にいた。そして、俺を世界一幸せにしてくれる最高の夫が今、隣にいる」

 フッと俺を盗み見たサミュエルの表情は、安堵に包まれた優しい微笑みを浮かべていた。
 彼の荒まじい闘病生活を全員が知っている。そして半数以上が彼が奴隷という身分だった事を知っている。

「俺は、きっとこの日の為に生まれてきたんだ」

 紋章と魔力を持たずして生まれ、蔑ろにされ続けたサミュエル。そして親に与えられたのは愛では無く病の種。何の為に生まれたのか……ずっと考えていたであろう人生とその回答の重みが参列者の瞳を潤ませる。
 一番涙腺にきてるのは私だ。感激してる。今にも大声で泣き喚いて抱き締めたい。
 最上級の愛の言葉を貰ったんだから当然だろ。

「これからも、きっと毎日そう思える日々となる。アーサンを生涯の夫とし、どんな時でも、感謝の気持ちと愛する気持ちを忘れない事を、皆に誓う」

 最高の誓いの言葉を言い遂げたサミュエルに皆は割れんばかりの拍手で大いに讃える。

「二人の未来に幸多からん事を!」

 晴れ晴れとした声が挙式を締め括った。
 皆から拍手と祝いの言葉で送り出されて、門を出て退場する。
 
「つ、疲れた……」
「お疲れ様。ふふ、エルデン君達のサプライズにはびっくりしちゃったけど、君にも驚かされた」
「ああ……お前には秘密にしてたからな」

 指輪を見つめる彼の眼差しはとても優しくて、もう……今から披露宴なのに、このまま二人きりで居たい気持ちが強く湧いてくる。

「サミュエル」
「ん?」
「愛してるよ」

 チャペルの出口で、皆から見えないところで彼の唇へもう一度キスをした。
 
「……アーサン」
「ごめん。急に」
『トン』

 ベールを靡かせながら、私の胸に飛び込んで顔を埋めるサミュエル。

「俺の人生……救ってくれて、ありがとう」
「……ッ」
「……アーサン……世界で一番、愛してる」

 涙が零れ落ちないように外の青空に目を向けながら、彼を強く強く抱き締めた。
 もう二度と離さない。何があっても君を守るよ。

「私も……」
「はいはーい。物陰でイチャイチャしてないで中庭来てねー」
「「おわあ!」」

 いつの間にか聖女のフェン様が隣にいらっしゃって、二人して飛び退いてしまった。

「遅いと思って迎えに来たの。溢れる気持ちはわかるけど、みんなともその気持ち共有して」
「ご、ごめんなさい」
「……すんません」
「うふふ、結婚式はまだ終わってないんだから、もっと楽しみましょ!」

 そう言って私達の手を掴んでフェン様が中庭へと連れて行く。
 
「はぁ、かっこつかないな……」
「お前はずっとずっとかっこよかったよ」
「え?」
「なんでもない」

 救済も結婚も、全て終えた後も、人生は続いていく。

「アーサン遅いぞ」
「お兄ちゃーん!」
「ほら、みんなお待ちかねよ」

「……賑やかだな」
「うん! 嬉しいね!」

 名を得た君が人生を謳歌できるように、私は君の隣に居座り続けるから、君も私の隣にずっと座っていて。
 その名を最後の瞬間まで呼ばせてね。
 私の愛しき、サミュエル。
 
END
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