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38:空海のスターライトメモリー
しおりを挟む『ズザアアアン!』
「うわああごめんよぉお! トーマァ!」
「良かったぁ。飼い主さんですか?」
「はいぃ、そうです。もしかして……この子を見つけてくれた方ですか?」
漁業用合羽を着た茶髪の青年が子犬を抱っこしてこちらに頭を下げた。
「ありがとうございます! 朝からずっと探してて……良かったぁ……波に飲まれて死んじゃったかと思ったぁ」
「良かった良かった」
「本当にありがとうございます! 何かお礼を!」
「別にいいって。見つかって良かったな」
「…………いや、折角だからお礼をしてもらおう」
子犬トーマの飼い主はエイハと言う青年だった。
彼は服装通り漁業者らしい。
『ザアアアアアアアア』
「おわ! すげえ!」
なので、子犬を助けたお礼に漁船へ乗せて貰った。
こんな機会、滅多にないからね。
「魔道具のエンジンでここまで速度出るんですね」
「海上レース用のボートを漁船に改造したんですよー」
「速いわけですね」
線の細そうな青年だったエイハ君。漁船を操縦している姿は海の男の雰囲気があった。かっこいい。
「へっへっへっ」
「トーマはいつも船に乗ってるのか?」
彼にすっかり懐いたトーマが彼の胡座の中でじゃれついていた。
これだけでこの街に来た意味があった。
「はい。この地域には漁船に番犬を乗せる風習があるんです」
「へぇーー! 知らなかったです。なんでですか?」
「女神様が犬好きなんですよ。なので水難事故があっても犬と共に護ってくれるっていう、言い伝えがあるんです」
「犬好き……」
「大昔に津波がこの地を襲った時に、犬の生存率がとても高かったんです。これは女神様が犬達を愛するが故に、津波から助けたんじゃないかって」
なるほど。伝説ってこういう風に出来るのか。
動物の危機察知能力によるものだろうが、そう捉える事も出来るのか。
「……絶景だな」
「ああ」
夕日が海に飲み込まれる瞬間を海上の特等席から眺める。
「わぁ……本当に素晴らしい景色です……ありがとうございます」
「いえいえ、トーマを助けてもらったんです。本当にこれだけでいいんですか?」
「充分だ。いい思い出になった」
日が完全に沈んで、夜の帳が下りる。
『カチカチ』
「明るーい」
「こんな時間まで海上に居たこと無いんで、初めてライト使いました」
魔法のランプが幾つも灯って、船の動きに合わせて揺れている。
「陸に戻りますね」
「はい、お願いします」
それは、船が港へ向かい始めてすぐだった。
『ピチュン』
「?」
「何の音だ?」
『ピチュン、ピチュン』
海から何か聞こえる。ソッと海面を覗いてみると、何かが飛び跳ねて私の顔にぶち当たった。
『ピチュン!』
「うわ!!」
「アーサン!」
「え!? どうしました!?」
顔に何か引っ付いてる!
私の異変に気付いて、エイハ君が船を停止させて、彼と共に駆け寄ってくれた。
「なんだコレ」
「光ってますね」
「……ああ、そうか。ホタルイカの親戚か」
「「?」」
私の顔面に付いていたのは、ホタルイカっぽいイカだった。若干の違いはあるが、青い光を灯した二本の腕は私の知ってるホタルイカとほぼ一緒。
『ピチュン!』
『ペチョン』
「あ!」
船の上に小さなイカが飛び込んできた。このままだとイカだらけになる。
「あのイカは光に寄ってくるんです。エイハ君、船を動かしてください」
「わ、わかりました」
すぐさまエンジンをかけて、自慢のスピードを発揮する改造漁船。
しかし、それでもホタルイカ擬きはこちらへ飛び乗って来る。すごい遊泳速度だ。
「揺れます! 落ちないように掴まってください!」
『ガコーン!』
スピードが出ている分、少しの動作で船が激しく揺れる。
『ピチュン』
「うっ、あ!」
『ズルン!』
「!!」
彼がイカの直撃を避けた時に、飛び乗って来るイカの所為で甲板が海水で濡れていた。足を滑らせた彼が船から落ちる。
私は咄嗟に彼の手を掴んだが、私も海水に足を滑らせて、彼共々勢いよく海に落ちてしまった。
『バッシャアアン!』
彼を抱き寄せてすぐさま浮上しようと顔を上にあげた時、思考停止に陥った。
「ごぽ……」
大量のホタルイカ擬きの光が一定方向へ向かっている。まるで流星群の中にいるような錯覚を起こす程に、幻想的な景色。
彼も見えているようで、背に回された腕から感動が伝わって来る。
「……ぶぼぼ!」
呼吸を忘れてしまっていた! 浮上しなければ! 冬服が重い!
『バシャ』
「ぶはっ!」
「ゲホッ、ケホケホッ」
「大丈夫!? 何処か打ってない!?」
「大丈夫だ……はは、凄かったな」
「うん……」
泳げない彼を抱えて立ち泳ぎを頑張る私。
「アーサン……本物も負けてないぞ」
「……ほわあ!」
底抜けに間抜けな声が出てしまった。海から見上げた夜空は、本当に宝石箱の中を覗いているみたいな光景だった。
夜を壮大に彩り滲む色を縫い留めるように星々が瞬いている。
エイハ君が私達を迎えに来てくれたが、彼の心配を他所に、私達はしばらく夜空を流星群の真っ只中で眺めていた。
「申し訳ありませんでした」
「良い物見れたからいいですよ」
「ああ……けど、服の洗濯と乾燥を頼む」
「任せてください! あ、もう遅いのでウチで食べてってください!」
「ああ、助かります」
脳を焼くような絶景の連続で、二人して気持ちがホワホワしていた。
すげえ思い出が出来てしまった。
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