36 / 77
34:眠気覚ましのプロポーズ
しおりを挟む王室から戻ったその足で病院へ寄った。スーツを着てのお見舞いに皆が驚いていたが、疲れた私には気にする余裕はない。
「うお、誰かと思ったらアーサンか」
「……疲れた」
彼のベッドに頭を埋めると、頭を撫でられる。
「お疲れさん」
「君が足りない。抱き締めていい?」
「はいはい」
顔色の良い彼を抱き締めて体温を堪能する。
「は~~癒される」
「……俺も」
「まだリハビリ続きそう?」
「いや、そろそろ自宅療養に切り替えていいだろうって言われた」
「マジで! やったぁ!」
もうすぐ彼が家に帰ってくる!
綺麗にしておかないと!
……綺麗に、しておかないと。彼がまた病気になってしまう。
『ゴチャァ……!』
「……忙しかったもんな」
家の散らかりように、片付けの暇がなかったと言い訳して、ひとまず洗濯と掃除、台所に溜まった食器を洗う。
片付けの最中に、着けている事を忘れていた勲章をケースに入れて、棚の中にしまっておく。
「一人分だと思ったより早く済んだな」
ゴミ出しを終えてひと段落。
ベッドのシーツも洗う事にした。
「病院のに比べて、狭いなぁ」
よくコレで添い寝出来てるな。
帰って来たら、またあの距離感で寝るのか。
「(……まずいかも)」
はれて恋人同士となり、お付き合いをしている身だ。密接してベッドで寝たら……私、理性がぶっ飛ぶかもしれない。
何より彼も同じように理性が揺らいでしまったら。
二次創作のようなご都合展開を妄想するだけで心臓が口から、飛び出しそうになる。エッチ過ぎる。
「ふう……自制心……自制心。彼は療養の身だ」
絶対にそういう負担をかけるべき時期ではない。
職場に置いていた寝袋を持ち帰って、彼の帰宅後、当分寝床は別にする事にした。
準備をして一週間後。ついに、彼が四年ぶりに家へ帰って来た!
「おかえりなさぁい! 今夜はご馳走だよ!」
「…………あれなんだ?」
「へ?」
「これ病院で使ってた寝袋だろ? なんで家で使ってんだ」
「だってベッド狭いから。病人に窮屈な思いさせられないじゃん」
私が医者じゃなかったら、彼はもっと噛み付いてきただろうけど、医者の私から言われてはそれ以上不服を言えない様子だった。
それに、机に並べられた料理の方が、今は重要だ。
「匂いだけで、健康になりそうだ」
「あはは。ずっと私の料理が食べたいって言ってくれてたから、それぐらい気合い入れたよ」
東の国の料理もある。
食べ過ぎは体に悪いが、彼を祝うには豪勢な方がいい。
手を合わせてから、料理に手をつける。
「…………美味い」
「うん、美味しいね」
「はぁぁ……帰って来たって感じがする」
しみじみと家の味に笑みを浮かべる彼。本当に良かった。本当によく頑張ってくれた。
「頑張ってくれて、ありがとう」
「頑張ったのはお前だろ」
「いや、君が痛みに耐えてくれなきゃ、私は間に合わなかった」
「それは、お前が……まぁ、いいか。お互い頑張ったな」
「うん。嬉しい……本当に嬉しい。元気なって、本当に良かった」
彼が帰ってきた実感がじわじわと込み上げてくる。
食事を終えて、食器を片付けてからストレッチをして彼の身体を解す。
「痛くない?」
「全く。今でも信じられない」
「あふふ、私も」
ストレッチで触れ合っていた指が、どちらともなく絡み合う。
伝わる体温が、とても心地良くて自然と肌を触れ合わせる。
背後から抱き寄せて頬を擦り付ける。
『スリ……スリ』
「キスしていい?」
「……ん」
キスをねだれば、なんの躊躇いもなく唇が重なった。
彼とキスをしている。推しである彼が、私にキスをしてくれている。
「好きだよ。好き。好き」
「んは、擽ったい」
耳を食みながら愛を囁く。擽ったさに身を捩る彼がとても扇情的で息が詰まる。
「アーサン……俺、幸せ過ぎて怖い。病気の俺が見てる夢じゃないよな?」
「これは現実だよ」
「本当に? 証明出来るか?」
「そうだね。夢っていうのは、君の想像で出来てる。だから、君の想像もつかない事を私が君に齎せばいい」
「な、何する気だ」
身構えた彼は、セオリー通り痛みによって現実証明をされると思っている。
背後から抱き締めていた彼を正面に抱き直して、目を見ながらはっきりと伝える。
「結婚しよう」
その一言で十分だった。
数秒、彼は私が何を言ったか理解出来ずに固まっていた。そして、言葉の意味を理解し始めたのか、見開かれていく目にどんどん涙が溜まっていく。
「アー……サン」
「うん?」
「……俺でいいのか?」
「君じゃなきゃダメなんだ。私は、君と結婚したい。君じゃないと嫌だ」
彼の目から涙が止めどなく溢れてくるが、瞳は揺らぐ事なく私を見つめ続ける。
「俺……も、俺も、お前がいい。アーサンと、結婚したい。アーサンとじゃなきゃ、嫌だ」
肩に顔を埋めながら、彼はプロポーズを受け入れてくれた。
ずっと抱き締め合っていたかったが、そろそろ時間となり寝床につく。
「……今、離れたくないんだが」
「ごめん。コレはしょうがない事だから……ちゃんと完治したら、ずっと一緒に寝られるよ」
ベッドから手を差し出されたので、寝袋から手を出して握り合って眠った。
144
お気に入りに追加
322
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします
muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。
非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。
両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。
そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。
非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。
※全年齢向け作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる