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34:眠気覚ましのプロポーズ

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 王室から戻ったその足で病院へ寄った。スーツを着てのお見舞いに皆が驚いていたが、疲れた私には気にする余裕はない。

「うお、誰かと思ったらアーサンか」
「……疲れた」

 彼のベッドに頭を埋めると、頭を撫でられる。

「お疲れさん」
「君が足りない。抱き締めていい?」
「はいはい」

 顔色の良い彼を抱き締めて体温を堪能する。

「は~~癒される」
「……俺も」
「まだリハビリ続きそう?」
「いや、そろそろ自宅療養に切り替えていいだろうって言われた」
「マジで! やったぁ!」

 もうすぐ彼が家に帰ってくる!
 綺麗にしておかないと!






 ……綺麗に、しておかないと。彼がまた病気になってしまう。

『ゴチャァ……!』
「……忙しかったもんな」

 家の散らかりように、片付けの暇がなかったと言い訳して、ひとまず洗濯と掃除、台所に溜まった食器を洗う。
 片付けの最中に、着けている事を忘れていた勲章をケースに入れて、棚の中にしまっておく。
 
「一人分だと思ったより早く済んだな」

 ゴミ出しを終えてひと段落。
 ベッドのシーツも洗う事にした。

「病院のに比べて、狭いなぁ」

 よくコレで添い寝出来てるな。
 帰って来たら、またあの距離感で寝るのか。

「(……まずいかも)」

 はれて恋人同士となり、お付き合いをしている身だ。密接してベッドで寝たら……私、理性がぶっ飛ぶかもしれない。
 何より彼も同じように理性が揺らいでしまったら。
 二次創作のようなご都合展開を妄想するだけで心臓が口から、飛び出しそうになる。エッチ過ぎる。

「ふう……自制心……自制心。彼は療養の身だ」

 絶対にそういう負担をかけるべき時期ではない。
 職場に置いていた寝袋を持ち帰って、彼の帰宅後、当分寝床は別にする事にした。
 

 準備をして一週間後。ついに、彼が四年ぶりに家へ帰って来た!

「おかえりなさぁい! 今夜はご馳走だよ!」
「…………あれなんだ?」
「へ?」
「これ病院で使ってた寝袋だろ? なんで家で使ってんだ」
「だってベッド狭いから。病人に窮屈な思いさせられないじゃん」

 私が医者じゃなかったら、彼はもっと噛み付いてきただろうけど、医者の私から言われてはそれ以上不服を言えない様子だった。
 それに、机に並べられた料理の方が、今は重要だ。

「匂いだけで、健康になりそうだ」
「あはは。ずっと私の料理が食べたいって言ってくれてたから、それぐらい気合い入れたよ」

 東の国の料理もある。
 食べ過ぎは体に悪いが、彼を祝うには豪勢な方がいい。
 手を合わせてから、料理に手をつける。
 
「…………美味い」
「うん、美味しいね」
「はぁぁ……帰って来たって感じがする」

 しみじみと家の味に笑みを浮かべる彼。本当に良かった。本当によく頑張ってくれた。

「頑張ってくれて、ありがとう」
「頑張ったのはお前だろ」
「いや、君が痛みに耐えてくれなきゃ、私は間に合わなかった」
「それは、お前が……まぁ、いいか。お互い頑張ったな」
「うん。嬉しい……本当に嬉しい。元気なって、本当に良かった」

 彼が帰ってきた実感がじわじわと込み上げてくる。
 食事を終えて、食器を片付けてからストレッチをして彼の身体を解す。

「痛くない?」
「全く。今でも信じられない」
「あふふ、私も」

 ストレッチで触れ合っていた指が、どちらともなく絡み合う。
 伝わる体温が、とても心地良くて自然と肌を触れ合わせる。
 背後から抱き寄せて頬を擦り付ける。
 
『スリ……スリ』
「キスしていい?」
「……ん」

 キスをねだれば、なんの躊躇いもなく唇が重なった。
 彼とキスをしている。推しである彼が、私にキスをしてくれている。
 
「好きだよ。好き。好き」
「んは、擽ったい」

 耳を食みながら愛を囁く。擽ったさに身を捩る彼がとても扇情的で息が詰まる。

「アーサン……俺、幸せ過ぎて怖い。病気の俺が見てる夢じゃないよな?」
「これは現実だよ」
「本当に? 証明出来るか?」
「そうだね。夢っていうのは、君の想像で出来てる。だから、君の想像もつかない事を私が君に齎せばいい」
「な、何する気だ」

 身構えた彼は、セオリー通り痛みによって現実証明をされると思っている。
 背後から抱き締めていた彼を正面に抱き直して、目を見ながらはっきりと伝える。

「結婚しよう」

 その一言で十分だった。
 数秒、彼は私が何を言ったか理解出来ずに固まっていた。そして、言葉の意味を理解し始めたのか、見開かれていく目にどんどん涙が溜まっていく。

「アー……サン」
「うん?」
「……俺でいいのか?」
「君じゃなきゃダメなんだ。私は、君と結婚したい。君じゃないと嫌だ」

 彼の目から涙が止めどなく溢れてくるが、瞳は揺らぐ事なく私を見つめ続ける。

「俺……も、俺も、お前がいい。アーサンと、結婚したい。アーサンとじゃなきゃ、嫌だ」

 肩に顔を埋めながら、彼はプロポーズを受け入れてくれた。
 ずっと抱き締め合っていたかったが、そろそろ時間となり寝床につく。

「……今、離れたくないんだが」
「ごめん。コレはしょうがない事だから……ちゃんと完治したら、ずっと一緒に寝られるよ」

 ベッドから手を差し出されたので、寝袋から手を出して握り合って眠った。
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