大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

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30:天命のデストロイヤー

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「こ、こんにちは。魔力障害科医兼薬剤師のアーサンと申します。この度はご足労いただき、ありがとうございます」
「ほほぉ。思ったより腰の低い若者だな。初めまして、クーフード・フレッセルだ。脳外科医をしている」
「存じております。貴方の論文にはとても助けられました」

 脳外科医のクーフード・フレッセル。脳にメスを入れた第一人者で、数多の難関手術を成功させてきた名医だ。脳を理解する上で欠かせない情報をくれたのが彼の論文だ。
 彼に頼みたいところだが、彼のやり方も治癒魔法ありき。
 
「アーサン先生、お会いできて光栄です。ガレー・ゼ・ルーラ大病院で医院長をしております。アリメル・J・フークイです。あの、患者の口元に繋がれた機械は呼吸補助機ですか?」
「はい。勿論、患者に負担をかけぬよう動力に魔石は使用しておりません」
「なんと!」

 ガレー・ゼ・ルーラ大病院は世界最大規模の病院だ。ここも大きいけど、五倍の大きさと、二十倍の人数の専門医を抱えている総合病院。最先端医療の多くはガレー・ゼ・ルーラ大病院から発信されている程に、医療研究に余念がない。
 見た事のない呼吸補助機に惹かれて当然だろう。
 呼吸補助機には魔力ではなく電力が使われている。学園の魔法具研究棟にて魔法具制作コースの生徒達と専門教師に依頼した物だ。人数が居るだけあり凄いスピードで納品された。電気については私が送ったレシピで先生が上手くやってくれたようだ。
 読んでて良かった◯r.st◯n◯。科学は全てを解決する。
 詳しい事は後ほど時間を取って話す事となった。
 そして最後に……

「……セニア・コロア。君と同じく魔力障害科医だ」
「初めまして。アーサンです。セニア先生の本、全部持ってます」
「光栄だよ」

 セニア・コロア先生の本は、私が初めて読んだ医学書だ。ファンタジー図鑑を読んでいる気分だったけど、それが今に繋がっている。本当に感謝している。

「アーサン先生。お時間です」
「はい」

 ごめん。浮気ではないだけど、ぶっちゃけ全員タイプだわ。腐女子的な感想で。
 三者三様の老紳士。

「(うーん、全員右ですねぇ)」

 普通なら大先生達と対話した後に挑む治療なんてド緊張しそうだけど、私がキモいオタクだったおかげで逆に緊張が解れた。
 肩の力を抜いて、いつも通りに接する。

「……準備はいいかな?」
「ん……いつ、でも」

 ヒヤピタを額に貼って、頭を撫でる。
 ココからは、時間との勝負だ。

「魔力欠落体質者による《特発性とくはつせい脳梁魔石結晶性のうりょうませきけっしょうせい関節症かんせつしょう》の脳梁魔石摘出処置を開始します」

 全員が息を呑む。私は練り上げていた気功をゆっくりと彼の脳に浸透させる。
 
「……気功はやはり目に見えないな」
「始まっているのかすらわからない」
「むぅ……」
「やれやれ、見えんもん見学しに来てどうする」

 フッと聞き覚えのある声がしてガラスの方へ顔を向ける。
 つい声が出てしまった。

「えっワン先生!」
「ワンチェン老師、いらっしゃってたんですね」
「弟子の晴れ舞台を見に来てやったぞ。感謝せい。ついでにお主らにも見せてやろう。気功の世界を」
『トトトン!』
「!」

 ワン先生が大先生達の頸あたりを指で素早く突くと、先生達の目の色が変わった。

「あれが……気功、ですか」
「素晴らしい。切開せずとも、内部が見える」
「……不思議だ」

 気のツボ押しでもしたのか、先生達にも気功の流れが見えるようになったみたい。
 コレで私の処置の理解がしやすくなっただろう。

「……行くよ。大分痛いだろうけど」
「…………ああ。やってくれ」

 気功で魔石を捉えながら、いち、にの──

「さん!」
「ううッ!」

 一気に魔力を伸ばし、練習通りに最短ルートで魔石に到達させる事が出来た。吸収が終わるまで、このまま維持だ。
 だが、予測出来ていた回避不能の事態が起こる。

「グッア゛ア゛!」
『ガァンガァン』

 彼が激しい痛みに痙攣を起こした手足をベッドに打ち付けてしまう。
 想定以上の振動。一瞬でも魔力から魔石がブレたら終わりだ。
 全身を襲う激痛に、耐えようとして起こる痙攣。身体ごと仰け反ってベッドから転げ落ちても無理もない激痛。けれど、耐えてくれている。
 二十秒あたりでシーツに血が飛び散り始めた。結晶が皮膚を現在進行形でゆっくり突き破っている。

「アァァアザン!」
「あと少し! あと少しだ!!」

 あと十秒で彼の地獄が終わる!!

「ぐあああああ!! いだい、いだぃ! せなかがッさける゛! ぐっ!?」
『ガクン!』
「ッ!?」

 大きく胸が反り上がってしまった。危機的状況に陥った身体の無脊髄反射の行動だ。本人も事態に気付いているが、止められない。
 ダメだッこれ以上動いたら! 魔石が!

『ガッ!』

 魔力の中から魔石がブレてしまいそうになった瞬間、結晶に貫かれた血だらけの両手が私の両手を支えた。

「おれああ、ぜっだいに……お゛まえッと、家にッッ! か゛るんだああああ!!」
 
 二秒……一秒……零……

「はっ、はっ……ッ! トータルヒーリング!!」
「「はい!!」」

 病室の出入り口に待機していたトータルヒーリングが扱える魔法医達が一斉に駆け込んだ。

「ヒューッ……ヒューッ……」
「もう大丈夫ですよ!」
「痛みは全て無くなります」

 二十七秒間の壮絶な痛みから解放された彼は、トータルヒーリングで全ての結晶が取り除かれた。
 
「………………」

 横になったまま、天井へ手を伸ばした。次第に感覚が戻ってくると同時に彼の目が大きく見開かれた。

「……ぁ……ああッ、ああああぁぁぁあ!」

 初めて、彼の涙を見た。今の痛みの中でさえ見せなかった涙が、大粒の雫となって幾重にも溢れる。
 二十四年もの間、自身を蝕み続けた呪縛から解放された喚声があがる。目からポロポロと流れ落ちる歓喜の涙が、宝石のようにキラキラと輝いて見える。


 ああ、私はこの日の為に生まれてきたのだと、思わずにはいられない。



「良かった……本当に、良かった」
「あああさん! あああさぁん!」
「頑張ってくれてありがとう……」

 私の名を呼びながら、痛みの消えた手で私を手繰り寄せて、胸に抱き寄せてくる。

「患者と医師の間でこれ程まで絆が芽生えるとは……」
「何を言っている。あの二人は恋人同士だ」
「「えっ!?」」
「あーー……ひょっとして、我々はすごい野暮な立ち会いを希望してしまったのでは……?」
「ふん。お主らの事など誰も気にしとらんよ」

 歴史的快挙だとか、史上初だとか、そんな事を気にしている者はこの場には居なかった。
 ただ、患者が病を克服して喜んでいる。それが何よりも重要な事だったからだ。
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