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27:可能性のビリーバー
しおりを挟む体視気功法を習得するには、気を練って気功へと変換する必要がある。
気を練る呼吸法を教わり、常時行う。
体に巡る魔力とは別の力。
「んーーコツが掴めない」
「お兄ちゃん、不器用だね」
兄弟の弟君、ヨンキ君が私の胡座の上に座って饅頭を齧っている。ふくふく動くほっぺがすっごい可愛い。
「仕方ねえな。手出してみ」
兄弟の兄の方、キンジュ君が差し出した私の手を掴んだ。
「俺の気を流してやる。感知できれば自分の気もわかるようになる」
『ゾワッ』
「っ!」
「あ、悪い。強過ぎたな。でもこれでわかったろ」
「…………うん」
掌から流れ込んで来た暖かい水のような何か。これが気。
「凄いね二人とも、これ使えてるんだ」
「まぁな! 俺、将来じいちゃんの跡継ぐんだ!」
「僕も!」
気の感覚を教えてもらった。体の中に意識を向けると……腹部に違和感。
「ここに何か暖かい物が巡ってる」
「おお、それが気だな」
「それを呼吸で練るの」
練る……呼吸で練る。
「ヒューー……スーッヒューー……」
いや、全然わからん。練るってなんだ!?
認識出来ても、呼吸でどう練ればいいのかイメージが湧かずに四苦八苦。
五日が経っても、経過は芳しくなかった。呼吸法は合ってるけど、何かが違うんだろう。
「んんんーー」
「今日は俺達が飯作るよ。そろそろ出来ないとじいちゃんが怒るぜ」
「アーサンのご飯食べれなくなるの嫌だもんね」
「ごめん。ありがとう」
見兼ねた二人が夕飯の準備を代わりにしてくれると言う。
薪を窯に入れて、火を付けて筒で風を入れて火を大きくしていく。
「フゥーー……フゥーー……」
火が一定のリズムで燃え盛っていく。
呼吸、リズム、火……練るイメージが漸く掴めた。
気を火に見立て、呼吸法で気を燃え盛らせるように、気道を動かし、肺に酸素を送り、心臓が静かに脈打つ。
竈門に空気を送るように、全身を使って気を“練る”。
「ヒューーッ、はっ、ヒューーッ、はっ」
熱い。腹の奥がジワジワと熱される。
呼気に炎が混ざっているようだ。
蓄積された熱が徐々に全身へと巡る。
血管を通り、臓器に到達する感覚が鮮明に感じた。
熱が巡り切ると、胸の中心から泉の如く気功が溢れて来るのがわかる。
心臓が高鳴り、体中が沸騰するようだ。火照った頬を風が撫でると気持ち良い。思わず瞼を閉じる。
「(……あ、わかる)」
何も見えないはずなのに、体の動きが全て把握出来た。筋肉の動き、骨、血液の流れが手に取るようにわかる。
「ふーーーー……よし」
呼吸を整えて、体の感覚に意識を向けながら立ち上がる。
『ガララ』
「ただいま」
「「おかえりおじいちゃん」」
「なんだ。今日は二人の晩飯か。楽しみだのー」
「ワン先生、おかえりなさい」
帰ってきたワン先生と目が合った。
「思ったより遅かったな」
「すみません」
何も言わずとも、先生にはわかるらしい。
気が見えていると言っていたっけ。
「明日から外に出ろ。気功の使い方を教える」
「あ、ありがとうございます!!」
次の日、修行は思ったよりキツかった。
「ゼーッ、ハーッ」
「呼吸を乱すな。筋肉の動きと負荷を意識しろ」
「ぁい!」
「足を動かせ。腕が下がってるぞ」
呼吸が全然安定しない。
気を練り続け、気功を酷使する筋肉へ注ぐと運動機能が上がった。
呼吸でしっかり気を練って、気功を効率的に身体に行き渡させると、疲労度は段違いだった。気功の扱い方、使い方がわかった。
「ヒューーッ、はっ……」
「よし、今日はここまでだ。よく頑張ったなアーサン」
「あ、ありがとう、ございました」
「次はお目当ての体視気功法だ」
修行をはじめて二週間が経った頃、ワン先生から及第点を貰った。
「気功ってすごいですね」
「そうだろ。お前もココに来た頃より随分と顔色が良くなった」
「え?」
「しっかり寝て、しっかり食べろ。人を救うなら、自分の命にも向き合え」
「……はい」
連日徹夜はしょっちゅうで、一日三食ちゃんと食べた日なんて殆どない。栄養バランスも考えていなかった。
患者である彼にも心配かけてしまう程、私は自分をおざなりにしていた。それは、医者として非常に情けない事だ。
「美味しい~」
「もうずっとここに居ろよ。村のおばちゃん達にも可愛いって大人気だぞ」
「レシピは残してくから、勘弁して」
「お前の飯は優しいな。染み渡るわい」
「ふふ、作った甲斐があります」
彼が治ったら、ココにお礼に来よう。二人で。差し入れ持って。
『ポタポタ』
「……お兄ちゃん?」
「ひっく、ごめん……ごめんっ、なんでもない。うっうぅ」
「そんな泣いちまって、なんでも無いわけないだろ」
兄弟にぐしぐしと頭を撫でられて慰められる。
「あったかいご飯……美味しい……みんなで食べるの、美味しいぃ」
「ん? ああ、そうだな」
「あの子と、またっご飯一緒に、食べられるのかなぁ……って、思ったら、苦しくなって、ぁぁぁあ」
「……お前はよくそんな調子で医者をしてるなぉ。医者をしておれば、患者の死が日常の一部になってしまう。命を取りこぼす度に、身も心も擦り減って擦り減って、それでも人を助けたいと涙を拭って前を向いている」
私にとって何よりも大切な彼だけど、病院の一患者に過ぎない。命も運命も平等で、都合の良い奇跡は訪れない。
それでも命を繋ぎ止めるのが、医者だ。
万能なメディカルヒーリングでも、治せない病気がある。神級魔法のリザレクションがあったとしても、死には対面する。
「お兄ちゃんの大事な人、きっと大丈夫だよ」
「おう。こんな頑張ってんだ。大丈夫大丈夫」
「……ぅん」
「やれやれ。子どもに慰められおって……そら涙を拭け。飯が不味くなるぞ」
「はい」
ホッと息を吐くと不安が身を包む。その不安を退ける為に、呼吸で気を張る。
寝床についても気を練っていたら、いつの間にか眠っていた。
※※※
「体視気功法はその名の通り、身体を見通す気功法である」
「はい」
「見通し方は至って簡単。自分の気功を相手に流し込み、隅々まで模る事で体内の毛細血管の細部まで把握出来る」
「……難しいですよ」
『ね? 簡単でしょ?』じゃん。プロの感覚だ。素人にはまだまだ修練が必要だ。
「アッシに流してみろ」
「はい先生。行きますよ」
「うむ……って、どわあ! 一点突破で流すヤツがあるか!! アッシを殺す気かお前!?」
「ふぇ?」
「無自覚!? 指先から射出するように気功を出すな。こちらの気が乱れていかん。掌からゆっくり滲ませるように」
魔力と同じ様な出し方をしてしまった。掌から……滲ませて、浸透させる。
『グググ……』
「………」
目を瞑って、気の流れに集中する。ワン先生の頭の輪郭、頭蓋骨……髄膜……前頭葉……もっと奥へ。奥へ。
「……はっ」
「一回目にしては上出来だ。しかしまだまだ荒い。もっと余裕を持ってゆったりと」
「はい!」
繰り返し繰り返し、ワン先生に気功を流しては修正してもらう。
気は精神の脈動。激しく干渉すると不安や恐怖心を覚えてしまう。そうなると気功が入る隙間が狭まり、流し込めなくなる。
ゆっくり優しく、刺激しないように。
「…………ふぅ」
「うむ。だいぶ良くなった」
「ありがとうございます」
「この技術を使って、脳にある魔石の位置を特定して……その次はどうする?」
「……まだ模索中です。ですが、魔石の位置が分かるだけでも万々歳な事なんです」
けど、言われた通り、特定した後の方法がわからない。摘出手術は不可能だろうから、マジで手段が思いつかない。
「そうか。厄介な病気だな。お前の恋人は」
「こっ! こ! こ、恋人じゃないですってば!!」
こうして、私は約一ヶ月かけて体視気功法を習得した。
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