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22:狂奔のエンデバー

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 ガリガリガリガリガリガリガリガリ

「うわ……なにあれ」
「すごい量……」

 ガリガリガリガリガリガリガリガリ

「あー……アーサン君、三日間でこの図書室の医学書全て四回は読み尽くしてます」
「魔法医になるって、急に……」
「彼の実践経験なら、問題ないでしょうけど……魔力障害科を中心に勉強してます」
「あの分野は、歴史は長いですが特効薬の少ない難病の多い茨の道……アーサン君、難しい事嫌いなのに、心変わりする何かがあったんでしょうね」

 難しい事は嫌いだ。暗記も嫌い。だけど、魔法は好きだ。面白いから。
 でも、今は魔法なんてよりも彼の事しか考えたくない。

「アーサン居るか?」
「居る」
「土砂崩れで酷い事故があった」
「行く」
「ちょ、ちょっと! アーサン君、流石に少しは休まないと!」

 サリーさんに止められたが、知識の他に実践経験も必要だ。
 隠居老人は経験豊富だ。今とは違う、昔のやり方も教えて貰える。

「いでえええ!」
「……横骨折……位置固定します。痛いですが、我慢してください」
『ググ』
「ぎゃああああ!」
「トリプルヒール」

 ヒールを三枚重ね合わせ、折れた箇所を角度に合わせて一周繋ぐ。
 
「あ……ああ、痛くない。ありがとう」
「…………いえ」

 次の人の元へ。
 落石で手足が潰れた人達の処置は大変だ。骨と神経と筋肉の事なら頭にぶち込んであるが、コレまた処置が痛いんだ。
 再生される神経には痛覚も含まれる。酷い怪我程、現場治療は痛い。麻酔を効かせている暇がないからだ。

「はっ……はっ……まずい。魔力がもう」
「アーサン、コレ使え。魔力増強の指輪だ」
「ありがとうございます!」

 夜が明けるまで、私は現場を走り回った。
 器具の片付けと消毒を行う。頭の中で、治療の反省点などを洗い出していく。

「いやぁ、助かりました。えらいスピーディーな若手がいると思ったら、あの鬼才が来てただなんて」
「……私はただの見習いです。お役に立てて光栄でした」

 土砂崩れの被害にあった街の偉い人に褒められた。嬉しいけど、一歩一歩にいちいち歓喜してられない。
 
「マグナさん」
「ああ、アーサン。勉強でわからないところはあるか?」
「メモして来たから、経過報告の後に質問させて」
「わかった」

 現地から帰ったら、すぐに病院へ彼のお見舞いに行く。
 隔離された特別な病室。魔力を遮断するガラス張りの壁の向こうで眠る彼の表情は少し苦しそうだ。
 
「酒でボロボロになった肝臓がやっと回復し始めた。やはり治療の際も魔力に反応して結晶が成長してしまう。治癒魔法は最低限に止めている」
「投薬治療で進めているのか。それが一番病の進行を止められる」
「しっかし、魔力がダメとなると魔道具も使えない。貧相な治療器具しか使えないとキツい」
「…………課題が山積みだ」

 内科で薬学に精通しているマグナさんが彼の主治医をしてくれている。独房のような病室に入れられて、見知った顔が側にいる方が安心だろうという配慮だ。ただ、触診は魔力量が少ない先生と看護師にしてもらっている。

「朝のうちに、世界初の病って事でメディカルヒーリングを使える最高位の魔法医の方にお越しいただいたが……アイツの結晶が育ち過ぎてて、魔法で病が完治する前に結晶が多量の魔力に反応して急成長を遂げ、内臓や血管をズタズタにして死に至るだろうって……診断が下された」
「……はぁぁ……メディカルヒーリングも万能じゃないんだな」
「万能だが、森羅万象に効くわけじゃないって事だ。お前の話してくれた万能薬の話が良い例だ」

 この世に、万病に効く薬なんて存在しない。

「……万能薬じゃなくていい……私が、彼の特効薬になる」
「ああ。俺も手伝うさ。ほら、メモ見してみろ」
「うん」

 私は、来る日も来る日も勉強に明け暮れた。事故現場に連れて行ってもらい、マグナさんやジャナルさん、魔石障害科の先生方、教会の魔法医や神父様。
 頼れるとこには全て頼った。
 
「魔石が骨になった場合、もしそこだけ新陳代謝が起きなければ、骨に変形が起きる可能性が大きい。けれど、彼の体に骨の異常はない……んーー可能性。可能性を探れ」

 魔石が代謝の影響を受けないのなら、身体のどこかに歪が現れる。
 
「(背が低いわけでも無い。歩き方も普通。運動機能もそれなりにある)」

 ともかく、関節の魔石結晶をどうにかしないと。手首から採取した魔石結晶の分析結果を貰ったが……よくわからない。
 専門家に聞く事にした。

「宝石商に医療診断書の分析結果持ち込んだの、あんたが初めてよ」
「専門家の意見を聞きたくて」
「まぁ、いいけど。えーっと……んー魔石の種類は、柱状結晶で……透明度が高いわね」
「数値だけでわかるんですか?」
「じゃあ、何聞きにきたのよ」

 思っていた以上に細かい事がわかってきた。

「この種類の魔石は、魔物ホワイトラビットが持つ物に似てる。この魔石は透明度がダンチなのよ。ダイヤの代用品にもなるぐらい。この辺じゃ取れないわ」

 食べた魔石と飛び出した魔力の結晶が同一の成分なのは、無差別に取り込んだ魔力が魔石を通し、都合の良い魔力に変換される魔物用の機能が働いているからだ。魔物も載ってる生物図鑑で読んだ事がある。

「魔物……魔物の魔石って、食べたらどうなるんですか?」
「知らないわよそんなの。クソにでもなんじゃないの」
「うぅ……ありがとうございました」
「専門家に聞いて、タダで帰れると思ってんの?」

 やっば。凄い商魂逞しい店に聞きに来てしまった。

「……あのぉ、では結婚指輪を」
「あら、いいお買い物。流石に一人で決めちゃダメよ」
「では絶対、彼とここに来ます」
「ええ。絶対だかんね」

 おお……付き合っても無いのに、結婚指輪を選びに行く予定を入れてしまった。
 未来への期待は持っておいた方がいい。
 彼が嫌がったらペアリングで収まるかな。

「魔物の魔石か……」

 こんな街中じゃ、魔物に縁がない。本の挿絵や市場で加工された肉なら見た事あるけど、本物はない。

「……食べたら何処に……」

 ああ、気になる。気になって仕方がない。
 私は、魔石の行方を探求する為に書物を読み漁り、詳しい方へ話を伺いに行く事を繰り返した。
 
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