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12:不意打ちのインパルス
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一人旅を甘く見ていたわけではない。ただ、治安の悪い地域に予想以上に自分はショックを受けていた。
ぼったくりのような値段の飲食店や宿屋。道端や路地裏で倒れる人々。乞食の多さ。ここに来るまでに通ってきた街で食料は買ってあるから宿だけでなんとかなるが……長居は出来ない。
「すみません。こういう顔の子見ませんでした?」
「んぁ? 悪いな。俺は目が悪くて」
乞食の一人にパンを渡し、目に治癒魔法をかける。目の濁りを取り去れば、光が戻る。
「ぇ? 見える」
「この子を見たら、教えて欲しい。一週間ぐらいは居るから」
「お、おお、おお! わかった!」
怪我をしている人達に声をかけて治して恩を売りつつ情報を集めていく。
必要なら食料も別ける。
そんな事をしていたからか、私を見るなり駆け寄って来る怪我人が増えた。子どもを抱える母親もいた。
治癒魔法をかけ、あの子の事を聞いていく。
『ガン!』
滞在八日目……私はその街で唯一の医者である人物に出会い頭でぶん殴られた。
前世含めて、初めての衝撃だったかもしれない。すぐに治癒魔法を自分にかけて、相手を見上げる。
「俺の仕事の邪魔しやがって! お前が勝手にアイツら治すから、誰も俺の所に金を落とさねえ!」
「……ケホッ」
「調子にのりやがって……ガキだからって、容赦すると思うなよ!」
『ガッ!』
恰幅の良い医者にマウンティングを取られている子どもを見ても、周りは見て見ぬふり。
そうか……私はフラッと訪れていつか去っていく旅人で、医者はこの先も街に居続ける。私を助けて医者に刃向かえば、今後不利益を被るのは目に見えている。
この治安だ。医者に頼らざるおえない状況も多いだろう。
そう自分を納得させた。
助けてやったのに、なんで私を助けてくれないんだって……恩着せがましい憤りの気持ちがないわけでもない。
納得しても、痛いものは痛い。涙が出てくる。
『ドンッ!』
「おわ!」
「!?」
誰かが医者に体当たりをして私の上から退けてくれた。素早く私の手をとって路地裏に駆け込む。
「くそ、待てぇ! クソガキ!」
「クタバレ! ヤブ医者!」
私の手を引くのは同じ歳程の子ども。口が悪い。声変わりを迎えている低い声。
「……あいふぁほ」
「別に……」
ペイっと掴んでいた手を放り出された。ボコボコになった顔に治癒魔法をかけていく。背を向けたままのその子に問いかけられる。
「こんな場所に何しに来た」
「ひとさふぁし……」
「人探し?」
「うん。名前も知らないけど、ずっと探してる」
「名前が無い……奴隷か?」
おお、鋭い子だな。
「奴隷が禁止されてるのに、裏で営まれていた奴隷商の奴隷の中に、私の探し人が居たって……」
「……なんで探してんだよ」
「気になってて……私の勝手なエゴだけど、どうしても……あの子にもう一度会って……それから、考える」
「考える?」
「幸せなら、それでいい。苦しいなら、私がその場から連れ出して一緒に暮らすなりする。願いがあるなら、叶えてやりたい」
「…………」
やっと顔の腫れが引いた。
振り向いたその子に、探し人の似顔絵を見せる。
「この子、知ら──」
「バカじゃねえの」
「…………」
「……俺達が過ごした時間なんて、クソ短えのに……ずっと探してたのか?」
似顔絵の人物が、そこにいた。似顔絵よりも成長しているけど、特徴が完全一致している。
黒髪、吊り目、緑の混じった黒い瞳。
「あの日から……ずっと」
「……良いご身分だったじゃねえか。 同じ髪色の坊ちゃんに奴隷の身分で仕立て屋連れてってもらってさ」
「!?」
あの日……餓死寸前で行く宛てなく彷徨っていたところ、私とマグナさんの姿を窓越しに見たらしい。
絶望して街を出たところ、別の奴隷商に拾われたと言う。
「奴隷じゃなくなったら、何者にもなれなくて……保護だのなんだの言って、誰かの下に置かれるのはもうごめんだ」
「……そう」
私には想像も出来ない辛い日々を送って来たんだろうな。手の甲を見ると、やはり紋章が無い。生き辛さに拍車をかけているのは明白だ。
「ねえ、私が今している仕事には人手がいるんだけど……手伝ってくれないかな?」
「は?」
「お金も払うし、食事も住居付いてくる。どう?」
「……お前が嘘を付くとは思いたくないが、そんな美味い話にホイホイ乗れるわけねえだろバカ」
警戒心が強い。
だが、それ以外にも理由があるようで目線が下がる。
「……他に人が居るのか?」
「…………ああ」
何人かの奴隷と共に逃げたと聞いている。今もその人達と暮らしているならば、一人だけでは気が進まないだろう。
「……会わせてくれないか?」
「…………じゃ、有金と食料全部寄越せ」
「はい」
『ジャラ』
『ドフ』
「重っ」
差し出された物によろめく彼に笑ってしまった。
「マジで全部出すなよ」
「コレを対価に案内してもらえる?」
「……アイツらに変な事したら、お前でもぶっ殺すからな」
「はいはい」
ぼったくりのような値段の飲食店や宿屋。道端や路地裏で倒れる人々。乞食の多さ。ここに来るまでに通ってきた街で食料は買ってあるから宿だけでなんとかなるが……長居は出来ない。
「すみません。こういう顔の子見ませんでした?」
「んぁ? 悪いな。俺は目が悪くて」
乞食の一人にパンを渡し、目に治癒魔法をかける。目の濁りを取り去れば、光が戻る。
「ぇ? 見える」
「この子を見たら、教えて欲しい。一週間ぐらいは居るから」
「お、おお、おお! わかった!」
怪我をしている人達に声をかけて治して恩を売りつつ情報を集めていく。
必要なら食料も別ける。
そんな事をしていたからか、私を見るなり駆け寄って来る怪我人が増えた。子どもを抱える母親もいた。
治癒魔法をかけ、あの子の事を聞いていく。
『ガン!』
滞在八日目……私はその街で唯一の医者である人物に出会い頭でぶん殴られた。
前世含めて、初めての衝撃だったかもしれない。すぐに治癒魔法を自分にかけて、相手を見上げる。
「俺の仕事の邪魔しやがって! お前が勝手にアイツら治すから、誰も俺の所に金を落とさねえ!」
「……ケホッ」
「調子にのりやがって……ガキだからって、容赦すると思うなよ!」
『ガッ!』
恰幅の良い医者にマウンティングを取られている子どもを見ても、周りは見て見ぬふり。
そうか……私はフラッと訪れていつか去っていく旅人で、医者はこの先も街に居続ける。私を助けて医者に刃向かえば、今後不利益を被るのは目に見えている。
この治安だ。医者に頼らざるおえない状況も多いだろう。
そう自分を納得させた。
助けてやったのに、なんで私を助けてくれないんだって……恩着せがましい憤りの気持ちがないわけでもない。
納得しても、痛いものは痛い。涙が出てくる。
『ドンッ!』
「おわ!」
「!?」
誰かが医者に体当たりをして私の上から退けてくれた。素早く私の手をとって路地裏に駆け込む。
「くそ、待てぇ! クソガキ!」
「クタバレ! ヤブ医者!」
私の手を引くのは同じ歳程の子ども。口が悪い。声変わりを迎えている低い声。
「……あいふぁほ」
「別に……」
ペイっと掴んでいた手を放り出された。ボコボコになった顔に治癒魔法をかけていく。背を向けたままのその子に問いかけられる。
「こんな場所に何しに来た」
「ひとさふぁし……」
「人探し?」
「うん。名前も知らないけど、ずっと探してる」
「名前が無い……奴隷か?」
おお、鋭い子だな。
「奴隷が禁止されてるのに、裏で営まれていた奴隷商の奴隷の中に、私の探し人が居たって……」
「……なんで探してんだよ」
「気になってて……私の勝手なエゴだけど、どうしても……あの子にもう一度会って……それから、考える」
「考える?」
「幸せなら、それでいい。苦しいなら、私がその場から連れ出して一緒に暮らすなりする。願いがあるなら、叶えてやりたい」
「…………」
やっと顔の腫れが引いた。
振り向いたその子に、探し人の似顔絵を見せる。
「この子、知ら──」
「バカじゃねえの」
「…………」
「……俺達が過ごした時間なんて、クソ短えのに……ずっと探してたのか?」
似顔絵の人物が、そこにいた。似顔絵よりも成長しているけど、特徴が完全一致している。
黒髪、吊り目、緑の混じった黒い瞳。
「あの日から……ずっと」
「……良いご身分だったじゃねえか。 同じ髪色の坊ちゃんに奴隷の身分で仕立て屋連れてってもらってさ」
「!?」
あの日……餓死寸前で行く宛てなく彷徨っていたところ、私とマグナさんの姿を窓越しに見たらしい。
絶望して街を出たところ、別の奴隷商に拾われたと言う。
「奴隷じゃなくなったら、何者にもなれなくて……保護だのなんだの言って、誰かの下に置かれるのはもうごめんだ」
「……そう」
私には想像も出来ない辛い日々を送って来たんだろうな。手の甲を見ると、やはり紋章が無い。生き辛さに拍車をかけているのは明白だ。
「ねえ、私が今している仕事には人手がいるんだけど……手伝ってくれないかな?」
「は?」
「お金も払うし、食事も住居付いてくる。どう?」
「……お前が嘘を付くとは思いたくないが、そんな美味い話にホイホイ乗れるわけねえだろバカ」
警戒心が強い。
だが、それ以外にも理由があるようで目線が下がる。
「……他に人が居るのか?」
「…………ああ」
何人かの奴隷と共に逃げたと聞いている。今もその人達と暮らしているならば、一人だけでは気が進まないだろう。
「……会わせてくれないか?」
「…………じゃ、有金と食料全部寄越せ」
「はい」
『ジャラ』
『ドフ』
「重っ」
差し出された物によろめく彼に笑ってしまった。
「マジで全部出すなよ」
「コレを対価に案内してもらえる?」
「……アイツらに変な事したら、お前でもぶっ殺すからな」
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