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3:猫被りのダフト

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 あの日から、マグナさんが少し変わってきた。身体が動くようになったのもあり、父であるジャナルさんに師事をして医学に関心を向けていた。
 
「頑張ってますね。素晴らしい」
「ふふん。俺の癒しの紋章は、とっても珍しいんだぞ」
「わぁ、お揃いですね!」
「なに!?」

 気付いてなかったのか。
 マグナさんは医者の適性が極めて高い癒しの紋章。私も同じ紋章を持っている。

「…………」
「……珍しいので、知らない人も多いんですよ」
「何も言ってない」
「貴重な紋章を持ってるのになんで奴隷なのかって言いたそうだったので」
「エスパーかお前」

 そして、私はマグナさんが学んでいる間、やる事がない。
 一人の時は使用人達の手伝いをしてお駄賃を貰っている。外出許可が出ないから、ひとまず金を貯める手段がこれしかない。

「アーサンって本当に物知りね」
「お話しも面白いし」
「はい、お駄賃」
『チャリン』
「ありがとうございます!」

 お手伝いが百ギル。日本円だと百円みたいなもんだ。ガチで子どものお小遣い。

「いたっ」
「!」

 水洗いをしている使用人がアカギレに手をさすっていた。

「ミアさん、手見せてください」
「え……でも、子どものアーサン君には結構ショッキングかも」
「多分、大丈夫」

 私もバチバチにアカギレあったしな。薬で楽になったけど、お医者様の使用人達であっても恩恵を受ける事は少なく、自分で薬を買う金がかかる。

「(……思ったより酷いな)」
「やっぱり、見てて気分のいいものじゃないよね」

 ミアさんの手にちびっこい自分の手を乗せる。

「(確か……魔法はイメージと知識。癒しの紋章は、慈しみと優しさがものを言う)」

 魔力で傷口を塞ぐベールをイメージ。

「!」
『ポワ』
「んんんぅぅ」

 力を込め過ぎたら、過剰再生で傷跡が盛り上がってしまう。綺麗な肌だから、傷跡は勿体ない。
 優しく、丁寧に、慎重に。

『シュワシュワ……』
「…………え?」
「出来た?」
「無い……」
「おお、やった! 魔法使えた!」

 ミアさんの手を取って成果を確認する。アカギレが綺麗さっぱり無くなっていた。

「ありがとうアーサン君。治癒の魔法が使えたんだ」
「実験台にしてごめんなさい。でも、これでみんなのアカギレ治せる!」
「「アーサン君……!」」

 アカギレは痛いし、血が滲むと布洗いに気を使う。
 良い事をしたら良い事を返す。良くしてもらってるから、こっちからもいっぱい感謝を返さないと。

「「良い子~~!」」
「わわわ!」

 みんなから頭を揉みくちゃに撫でられる。
 自分の魔力量がわからないから、使用人達に実験台になってもらう。失敗しなければお互いに良い事尽くめ。

『シュワシュワ』
「これにお小遣いはいらないの?」
「クオリティが不安定で、責任が持てませんのでお金はいいです」
「わぁ! 手がツヤツヤ!」

 金は欲しいが、これはお返しの奉仕だ。時間はかかるけど、お手伝いでお金を貯めて迎えに行くんだ。

「(……もうすぐ冬だ。売主は私達を最低限清潔に保ってくれたから、商品である奴隷が死なないように手は尽くすだろう)」

 既に売れているかもしれないけど……どうだろう。

「アーサン、使用人達の怪我を魔法で治してるって聞いたが本当か?」
「ぇ、あっはい。良くしてもらってるので……後、自分の魔力量の把握に」
「……へぇ。魔法が何人にも使えるぐらいには魔力があるんだな」
「そうみたいです」

 Qマリ世界の人間は魔法が使える。即ち、魔力を保有している。その保有魔力量によって魔法の威力や精度、連続性が変化する。
 良い紋章があっても、魔力保有量が少ないと使える魔法は限られるし、回数もこなせない。

「よし! お前も一緒に来い!」
「?」

 グッと手首を掴まれて、急にマグナさんにジャナルさんの元へ連れて行かれた。

「失礼します。父さん、今よろしいですか?」
「構わんよ」
「今度、俺の魔力測定に教会へ行きますよね? アーサンにも魔法の才があるようなので、魔力測定を受けさせたいです」

 ジャナルさんに対して敬語になってる。師として敬意を持って接しているんだな。

「それは何故だ」
「主人として、アーサンの力を把握しておきたいのです」

 あれ? マグナさんが私の主人なんだ。てっきりジャナルさんかと。

「奴隷をそこまで優遇する理由はあるのか?」
「アーサンは俺と同じ癒しの紋章を持ち、尚且つ既に治癒の魔法が扱えます。ゆくゆくは俺の片腕として働いてもらいたいのです」
「(すげぇ、何故何故攻撃にしっかり応えてる。つか、その目論見初耳なんだけど)」
「アーサンに務まると思うのか?」
「はい」

 ぶっちゃけ医療従事者になれる気がしない。トリアージなんてしたくないし、優しいだけじゃ人は救えない事ぐらい知ってる。
 夢も向上心も無い私に医者の片腕として務まるとは思えない。

「……わかった。お前がそこまで言うならば、連れて行こう」
「やった! ありがとうございます!」
「よろしいんですか? 教会に卑しい身分の私が」
「主人が許したのならば、問題はない。身なりを整えて、教会の神父様達に失礼がないようにしておけ」
「「はい」」

 身なりを整えるというのは、ただの服ではダメだ。

「仕立て屋に連れてってやる」
「わぁ、良いんですか? ありがとうございます!」

 これがきっかけで、私がどれほど悠長に愚かな事をしていたのか思い知らされる事となる。
 
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