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79:口下手のスーヴェニア【R18版】

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 サミュエルがエンロン配送屋の正社員になって一ヶ月が経った。
 ちゃんとした業務内容と福利厚生だったので安心した。残業もほぼ無いし。

「ぁ……アーサン」
「おかえり。今日が給料日だよね。どうだった?」
「……二十万」
「…………す、すごいね。それだけ仕事出来るって証拠だよ」

 二十万ギル……国内の月収平均が確か十万八千ギル。倍近い給料だ。
 サミュエルは出来高払いで、この金額だと言う。
 医者は高給取りの代表だが、今後は配送屋も高給職になるのかも。

「こんな大金稼いだの初めてだ……ど、どうしよう」
「好きに使っていいんだよ。欲しいもの買ったり、何か食べたり」
「……なら」

 私と共にサミュエルは市場へと向かった。夜の市場は昼間とは違った賑やかさがある。

「何買うの?」
「今まで世話になった人達に……こう、なんて言うんだ? ありがとうって、伝える品を買いたい」
「!」

 恥ずかしそうに頬を掻くサミュエルの瞳に市場の優しい光が灯っている。

「俺、そういうのずっと言ってこなかったから」
「……うん。一緒に選ぼうか」

 サミュエルは本当に優しい。他者に対して、素直ではないけれど想いを返そうとしている。
 二人で病院や教会、ワン先生達へ贈る感謝の品を一緒に選んだ。

「聖女に贈り物って下心に思われないよな」
「フェン様は、友達からのプレゼントを疑う人じゃないよ。素直に選んでいい」

 長く楽しい夜となった。
 今までサミュエルがお世話になった人は私もお世話になった人達でもある。
 仕事先で、これからはもっと多くの人と関わりを持っていくであろうサミュエルに、私がドキドキしている。
 
「……買い過ぎか?」
「良いお買い物だったって事だ」
「なら良かった。お前にも感謝してる」
「!」
「いつも、ありがとうな。これ」

 両手にいっぱい荷物を抱えているのに、私に差し出してきた物は……桜に似た花のループタイ。

「偶然、見つけたんだ。教えてくれた桜って花みたいだから、お前っぽいと思って……気に入らなかったら付けなくていい」
「そんな……サミュエルからの贈り物を気に入らないわけないよ。ありがとう。すごく嬉しい」
「……そうか」

 涙が出そうだ。嬉しい。めちゃくちゃ、嬉しい。

「私も、サミュエルに何か贈りたい」
「もういっぱい貰ってるよ」
「嫌だ嫌だ! 私も何かプレゼントしたいぃ!」
「我儘言うな」

 駄々を捏ねている私を宥めながら家へ帰って、感謝の品の仕分けをした。

「ねぇ何か欲しいものない?」
「お前に言うと土地でも何でも買ってきそうだからな……物は要らない」
「形の無い物?」
「……こういうのも、買っておいた」
『ボフン!』
「ぶぇ!」

 顔面にクッションを投げつけられた。
 柔らかくとも勢いがあると、痛い。膝の上にポフっと落ちたクッションを見ると……

「……え?」
「…………」
「…………まる……」

 単純に、記号の丸がデカデカと刺繍されていた。
 もしかして、と裏を見てみるとデカデカとバツが……つまり、これは──

「イエス・ノー枕」
「クッションだ」
「……サミュエル、野暮な事は聞かないよ」
「……」

 そっぽを向いているサミュエルの横髪を撫でると、真っ赤に色付いた耳が髪の隙間から見えた。
 愛おしい夫のお誘いに、私は勿論乗った。

 広いベッドで、私の愛で溺れさせるぐらいサミュエルを甘やかして、蕩けさせる。
 
『ギシ……ギシ……』
「はっ……ぁ……んぅ」

 緩やかな腰の動き、息苦しくならないようにキスを調整して、潤んだ瞳を揺らめかせてトロンとしているサミュエルに「気持ちいい?」と訊いてみる。
 理性が大分残っていて恥ずかしいのか、私の背中に回している手が震えている。握り拳にして顔を隠そうとしているのも可愛い。だが、それでは可愛い表情が見え難くなるので阻止だ。

「んっ! ……んむ」

 再びキスで口を塞いで、身体の密着度を上げる。

「っ……ん、ふ」
「サミュエル、好き……好き、とっても可愛いよ」
「は……かわ、いい?」

 可愛いと指摘されて切なげに眉を顰める所も可愛い。
 正直言えば、最初はこんなに色気を撒き散らす表情を彼が出来るとは思わなかった。
 だが、私の愛を惜しみなく注いでいけばいく程、可愛さが増していく。どこまでも愛おしい。
 私の指で、舌先で、愛し方によってはこれだけいやらしく変貌するのにも興奮するが……それでもまだ愛したい私が貪欲に、サミュエルの身体を暴いていく。

『ギシッ……ギシ……ッ』
「ん、ああぁ」

 今日は特に反応が良い。ゆっくり抱く方がサミュエルには効果的なのかも。

「は、ぅ……あぁしゃん」
「ふふ、可愛い声だね」

 耳元で甘く囁くと、中がきゅうっと締まった。

「やらしいね。何処までも私を夢中にさせて」
「……ぅう」
「好きだよサミュエル……サミュエル」
「ぁ……ん、ぐす」
「え?」

 首に抱き付いて、鼻を啜っている。生理的なものではなく、感情的な涙を流して泣き始めたのでギョッとしてしまった。

「ご、ごめん! 痛かった? 抱きしめすぎて、苦しかった?」
「……違う」

 ギュッと腕の力が強まった。正直キツイのだが、動けない程じゃない。どうしたのかと肩口に埋まる頭を撫でると……そっと耳に囁いた。

「うれじぃ……」
「!?」

 その言葉の意味を頭で理解するよりも先に身体が動いた。

『グチュ』
「んぁ!」
「っ、いっぱい不安にさせてごめんね。その分、いっぱい安心させるから」

 サミュエルの腰を掴んで、強く穿つと彼の背中が仰け反った。

『ギシッ! ギシ!』
「あっ! ああぁ!」
「は、はっ……サミュエル」
「んぁ、ん……ふ、はぁ」

 激しい動きにベッドのスプリングも激しく軋む。
 だが、その音がより私の興奮を煽って動きを加速させる。そしてそれはサミュエルにも言える事だった。

「あーさっ、音が」
「セックスの音すごいね……生々しい」
「おかし、く……なるっ」
「大丈夫……どんなサミュエルも可愛いから」

 サミュエルは抱き締める私の顔を押し退けてキッと睨んできた。涙に濡れた怒った顔も愛おしいし、ムラムラする。

「ごめんね……でも、サミュエルと繋がってる実感が湧くし、感じてくれるのが嬉しくて」
「ひぅっ、待って……アーサッ!」
『ドチュ!』

 押し退けようとする手を掴んで引っ張り上げ、より深く腰を打ちつけた。サミュエルの腰が浮き上がる程強く。そして、そのまま激しく揺さぶると、彼は悲鳴のような嬌声を上げた。

「あっ! やぁっ! あぅ、んああぁあ!」
『ギシギシ、ギシ!』
「は……っ、はぁ」
「うぁ……あーしゃん、はげし」
「……激しいの嫌?」

 少し意地悪な聞き方になってしまった。

「ぃ、ぃや、じゃなぃ、しゅき」

 サミュエルが「すき」と舌足らずに答えるものだから、キュンキュンときめきが止まらない。

「れも、でもッ……はげし、くしたらぁ」
「?」
「すぐ、終わっ……あっああ!」
「~~~ッ♡」

 肌と肌がぶつかる音と潤滑油が粘着質な卑猥な音を立てている。耳を擽る淫らな音。だが、ここは一旦落ち着かなければ。
 サミュエルが大事な事をまだ言えていないから。
 ゆっくりとスピードを落として、サミュエルの言葉をちゃんと聞く。

「確かに……激しいと、私とのセックスは、すぐ終わっちゃうね」
「もっと……ずっと、こうして、たい」
「はぅ!」

 ヤバい。今、私、ハートを射貫かれた。今夜は夜更かしする事に決めた。

「じゃあ、今夜は……ずっとこうしてよう」
「んっ……」
『ギシ……』

 再びゆるゆると腰を動かすとサミュエルは甘い声を上げた。その声がもっと聞きたくて、私はサミュエルを愛で続けた。




 イチャイチャしながら二人で夜遅くまでシていたが…………私は腹痛で目を覚ました。

「いででで!」
「んぁ? ぇ、あ、アーサン?」
「つぁ……腹いってぇ」
「えぇ? 大丈夫か?」

 ハッスルし過ぎて筋肉痛になった。

「サミュエルごめん……服、脱がせて」
「おお……」

 男性の体は筋肉が付きやすいから、筋肉痛もやべえ。
 太腿も痛い。脚がガクガクするし、下半身に力が入らない。

「私も、もう一回走り込みしようかな」
「時間無いだろ。病院で走り回ってたら、そのうち戻る」

 甲斐甲斐しく世話をされて……サミュエルに愛を注いだつもりが、すぐに愛を注ぎ返された。

「今日は俺に甘えろ」
「ありがとう」

 愛おしい。敵わないなぁ。
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