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13:二人目

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「セリアス様の子、全然似てませんね!」
「触手だからな」
「でも、赤ちゃん可愛いです」

 七体の触手が両腕に引っ付いているホープ。ニコニコとタスクとセリアスの子どもである触手の面倒を見ていた。

「……いいなぁ。僕もセリアス様との赤ちゃん欲しい」
「「ブホォッ」」

 ストールに触手の育児を教えられていたタスクと見守っていたセリアスが驚愕の余り勢いよく咳き込んだ。

「ゲホッケホッ……ホープ、何を言ってるんだ」
「え? 好きな人との子が欲しいって言いました」
「……んぁ~~その感性は自然な事だが……軽々しく言うもんじゃない」
「え? すみません」

 特に罪の意識も無く、悪い事とも思っていない様子のホープを訝しむ二人。

《牛獣人は優秀な雄牛がハーレムを形成する文化があります。所謂一夫多妻の番形態です。相手が居ても特に気にする事はありません》
「なるほど」
「ホープ、魔王様の事好き?」
「好き! 薬でダメになった僕の目直してくれた。僕の身体、変じゃないって言ってくれた。優しくて大好き」

 ホープの純粋な好意にセリアスの口元が緩む。

「僕、この身体になって内臓きのー? が、ぐちゃぐちゃになっちゃった。だから、女の子と子ども作れない」
「……そう……だったのか」
「セリアス様と一緒にいるとふわぁって気持ちになって胸の奥がぐるぐるして……お腹の下の方がぎゅーって苦しくなる。心臓が早くなるし、手とか脚の先がじんわりあつくなって頭がぽぉっとする」
《ほうほう》
「だからね、セリアス様と赤ちゃん作ったら僕ね、すっごい幸せだと思う!」

 頰を赤らめながら無邪気に笑うホープ。
 タスクとストールに恥ずかしげも無く恋の症状も伝える。

《私としては、ハーレムに賛成ですよ》
「何故だ?」
《現実問題、人類の次世代潰しや魔族化の計画には触手の数が必要です。タスクさん一人では、何年かかるかわかりません。出産の負担は見た通りですから》

 セリアスとタスクが一緒になった大元の話。
 しっかり責任を持って育てていくが、触手を増やしていかなければ、流石に世界の支配種である人間を淘汰、又は滅亡させる事は容易ではない。
 出産を経験したタスクは、耳を垂れさせ恥ずかしそうに俯いた。

《最低でも四人は欲しいです。体力のある丈夫な男がいいですね!》
「繁殖の事となるとイキイキととんでもない事言い出すよなお前」
《いえいえ、ひとえに魔王様の野望の為です。触手の一部をどのように人間へ溶かし込むかの方法も考えなければなりませんよ》
 
 ひとまずの結果は出せたが、まだまだ頑張らなければならない。

「魔王様……」
「タスク」
「…………俺も、賛成です」
「!?」
「俺達には目的があります。それに人数が増えても、俺への気持ちは変わらないですよね?」

 目的の為に割り切ったタスクの言葉に、セリアスはグッと言葉を詰まらせる。

「気持ちが変わらないのは勿論だが……うぅん、私の気持ちが問題だ。ホープをそういう目で見れない」
「やはり、目的の前に相手の気持ちに向き合う事が前提なんですね」
「セリアス様、僕って子どもっぽいですか?」
「子ども……そうだな。確かに、そう感じる事が多い」

 耳と尻尾がペショリと下がり、腕の触手達に顔を埋めたホープ。

「んん~~……」
「ホープ、そういうとこだから。仕草が幼い」
《……ホープさん、肉体改造を受けたのは子どもの頃ですか?》
「うん。成長期に連れてこられてずっと一人だった」
《その性格は、見本の大人が居なかった所為ですね》

 子どもの内から閉じ込められて肉体改造を受けていたホープは、大人になっても振る舞いが幼い子どものよう。
 セリアスが鉱山で見たホープの動きは子どものそれではない為、判断力はそれなりに大人の域だ。だが、立ち振る舞いはどうしても、子どものまま。

「……ホープ、少しの間、私と生活してみるか? タスクも居る」
「いいんですか! やったぁ!」

 座った状態で身体を上下に揺するホープ。
 
「…………大丈夫ですかね?」
「ホープの事をもっと知らなければな」

※※※

 二人目を迎え入れるべく、共同生活を開始したが……

『ゴツン!』
「いたい」

 ホープに合わせて生活スペースを改築する事となった。
 頭一個抜けて大きなホープはそこら中で頭をぶつけている。
 壁に角が刺さって抜けなくなった時は、流石にまずいと感じたセリアスが魔法で天井を大幅に高くした。

「コレで大丈夫だろう」
「ありがとうございます」
「本当に雄牛の方々は大きい……」
「タスクさんはちっちゃぁい」
「種族が違うから体格差が出るのは当然」

 獣人族であっても種の違う牛と兎では、同じ雄でも体格に差が出るのは必然。
 天井が高くなったのもあり、タスクの小ささが際立っている。

「…………よくその身体に七体も入ってたな」
「魔王様まで……ホープと並んでたら小さく見えるだけで、俺は極めて平均身長です」
「はは、悪い。そうむくれるな」

 ムッと尖らせた口を潰すように、唇を押し当てるセリアス。
 
「んぐっ……だ、から、ホープの前でコレはやめてください」
「ストールが言うにホープには見本が必要なんだ。番の在り方をちゃんと見せなければ」
「楽しんでませんか?」
「楽しいが、別に揶揄っているわけではない。可愛い兎を愛でたいと思うのは変か?」

 耳の付け根を揉むように撫でられ、カッと赤くなるタスク。
 イチャイチャしている二人の様子をホープはじっくり観察している。

「僕もキスしたいです」
「おお。何故? どうしてそう思った?」
「うーん……胸がむずむずして、口が、なんか……寂しい? からです」
「思った以上にしっかり理由が言えたな。偉いぞ」

 撫で撫でと跳ねっ毛を掻き混ぜれば、前髪に隠れた両目が伏せられたのが見えた。
 俯きがちにセリアスの方へ顔を向ける。

「……お前も存外、愛らしいな」
「んぅ」

 踵を浮かせたセリアスが、ホープの頬に触れながら唇を合わせた。

「ふゃ……んむ」
「……どうだ?」
「………………」

 『わーい』と尻尾を振って大喜びする様をセリアスとタスクは想像していたが、実際のホープは静かだった。

「……っ」

 そして、両手で顔を覆いしゃがみ込んでしまった。

「ホープ? 大丈夫か?」
「ぅ……ぅぅ……なんでしょうか。コレは」

 自分を暗闇から連れ出してくれた想い人からの口付け。嬉しくて堪らない筈なのだが、今の今まで愛しむ触れ合いを知らなかったホープには刺激が強過ぎた。
 本人が思っていた以上に、激しく胸が高鳴った。

「嬉しい……嬉しいのに……恥ずかしい」
「(いじらしい……想像との乖離にいい意味で打ちのめされてるな)」

 手酷く愛のない義務的な触れ合いしか、もう覚えていないホープにとって、セリアスは優しい劇薬だ。

「番になったらこんなものでは済まない。その事をしっかり考えるんだ」
「はぃ」

 膝を抱えてどんどん小さくなっていくホープを気の毒に思ったタスクが背を撫でてて落ち着かせる。

「思ったより重症ですね」
「いつからされていたのかわからないが、なかなか根深いようだ」
「?」
「ああ……言っていなかったか。では、タタスク。身体から母乳が出る条件はなんだと思う」
「それは、妊……しッ」

 ハッと顔を上げたタスク。
 セリアスと目が合い、冗談を言っているのではない事がわかるとゴクリと唾を飲んだ。
 自分と同じく、酷い目に遭わされている。しかも一人で、前が見えない暗闇の中、何年も。

「……ホープ」
「僕……こんなんじゃ、セリアス様と一緒に居られない……番になれなぃ」

 羞恥心に塗れた悲痛な言葉に、タスクの胸がズキリと痛む。

「だ、大丈夫だ! 俺が教えるから、諦めるな!」
「タスクさん……」
「恥ずかしがる事じゃない。キス一つで大慌てしてるのは、お前だけじゃないから」

 セリアスがギクリと肩を跳ねさせながら、子ども触手達を腕に抱え上げる。

「ま、まぁ……一歩一歩お互い距離を縮めていけばいい。焦らず、自分の気持ちに耳を傾けてな」
「はい、セリアス様」

 ホープはひとまず、タスクにサポートされながら心の準備を進めていく事となった。
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