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おまけ
14・ピアス
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同棲を開始して一ヵ月が経った頃……ちょっと困った事になっている。
「深呼吸、深呼吸してください」
「ひー……ふ、ぁああ……やっぱりむり!」
「もーー空矢さん……コレで五回目ですよ」
「無理無理無理……」
土下座の勢いで床に突っ伏す空矢さん。
「そんなの入んない……」
「大丈夫、入りますよ。ほら、一瞬ですから」
「やだ……今日はやめる」
そそくさとソファーに移動してクッションを頭の上に乗せて拒絶の意を示してくる空矢さんを眺め、俺は大きなため息をつくしかなかったのだった。
俺は手に持ったピアッサーを棚に仕舞った。
俺とお揃いのピアスを着けたいと空矢さんが言うから、いろいろ準備したのに……耳に穴を開けるピアッサーにビビりまくって怖気づいているのだ。
確かに初めてだと怖いかもしれないが……五回覚悟決めて寸前で五回心が折れている。流石の俺も呆れてしまう。
「……空矢さん」
「……なんだ?」
クッションを頭に乗せたままこちらを振り返った空矢さんは、半目で少し睨み付けるようにしている。
思わず抱き締めたくなる衝動を抑えて口を開く。
「あの、やっぱりイヤリングでもいいんじゃないですか?」
「……イヤリングはイヤリングで痛い」
そうなのだ。イヤリングの場合、耳を挟む形になるのだが、耳を挟むと徐々に痛みが出る事もある。
その体験を済ませている空矢さんはイヤリング着用は避けている。
『はむ』
「ひぁ!」
耳に噛み付いて舌先で耳殻をなぞると、空矢さんは肩を跳ねさせて身を捩る。
舌を這わせ、そのまま耳孔に挿し込んだ。
「ひっ、やめ、ぁ……おい」
くちゅくちゅと音を立てて耳の穴を舐め回し、耳たぶに軽く歯を立てる。
ビクッと震えたと思ったら、顔を振って振り払われてしまった。耳を押さえて空矢さんがプクッと頬を膨らませて怒っていた。
「(……なんか、段々と空矢さんが俺に対して大人な振る舞いしなくなってきたな)」
最初は、大人であろうと俺に寛容で、上から包み込んでくれていたが、今ではただの空矢さんで駄々も捏ねるし、こんな風に子どもっぽく怒る事が増えてきた。
そんな変化が嬉しくて、ついニヤけてしまいそうになる。
「急に耳舐めんなよ」
「可愛い声出てましたよ」
「不可抗力だ」
そう言ってまたクッションを頭の上に乗っけて、ソファーの上で膝を抱えて丸まってしまった。
「うーーん……」
どうやったら、ピアッサーの恐怖が薄れるんだ?
耳が敏感な空矢さんは、耳の痛みにも敏感だろう。
何かいい方法はないだろうか。
「ピアスを開ける方法?」
「はい。相手怖がっちゃって、毎度寸前でやっぱり無理だって拒否られるんですけど……良い方法がないかと思って」
仕事の合間に先輩に相談を持ち掛けると、先輩は腕を組みながら考え込んでから案を出してくれた。
「別の衝撃与えたり、意識を逸らしてその隙にパチンって開けるとか? 友達、映画で推しの攻撃と共にピアス開けて、推しによって齎された痛みだって誤魔化してたよ」
「中々に愉快なピアス開けですね」
「まぁ、開けるぞって意気込んでやるより、意識を逸らして開ける方が怖くないんじゃないかな」
確かに……空矢さんの意識を逸らして……どうやって逸そう。
本人に聞けばいいか。
新居であるマンションの三階の一室へ向かう。途中で会った大学生のお隣さんと挨拶を交わしながら帰宅した。
「ただいま帰りました」
「おかえり……」
「空矢さん、ちょっと相談が」
「?」
先輩から貰った案を空矢さんにも伝えた。すると、空矢さんは難しい顔をしながら首を傾げていた。
暫く黙り込んだ後、ハッとした表情を見せたかと思うと、急に赤くなって俯いてしまった。
「意識を逸らしてる、間に?」
「そうですね。映画はどうですか?」
「……開けられるってわかってたら集中出来ないと思う」
ビビリようを思い出すと、宣告して映画を見ても、意識はピアッサーに向くだろう。逸らそうとすればする程意識がそっちに行ってしまう。
でも、このままではお揃いのピアスは無理そうだし……うーん。
空矢さんは、顔を真っ赤にして手先をモニモニさせながら俺を伺う。
「確実に……意識が逸れると言うか……散る……なら、その」
「……セックスは俺の手元がブレるんで」
「ッ……」
何を想像しているのか察しが付いて、口に出すと、ますます真っ赤になって俯いてしまう空矢さん。
「(けど、確実に意識が逸れるのは間違いない。俺の意識まで逸れるのが問題だ。如何に俺が冷静に空矢さんの耳に穴を開けられるかだ)」
「……とりあえず、ご飯食べよう」
「あ、はい」
空矢さんに促されて食卓に着く。
今日は肉じゃがだ。ほくほくのジャガイモを口に運び、味わってから白米を掻き込む。
空矢さんももぐもぐと口を動かしながら、時折こちらをチラ見してくる。
さっきの話を気にしているのかもしれない。
食事を終え、片付けを済ませてからソファーに並んで座った。
テレビから流れるバラエティ番組をBGMにしながら、寄り添いながらぐーたらする。
「(俺自身、ピアスホールを開けた時は物凄く痛かったなぁ……軟骨は病院でやってもらったけど麻酔切れた後も少し痛かったし)」
「……みんなピアス付けてるな」
「ん? ああ、そうですね」
番組のゲスト女優や俳優の耳に光るピアスを眺めて呟いた空矢さん。
「星波はさ……なんで、ピアス付けてるんだ?」
「アオさんがしてたから、真似したんです。今はしてませんけど、出会った当初は今の俺と同じぐらいバチバチに開けてたんで」
俺の世話をしながら仕事もしているしっかり者のアオさんに憧れて、誕生日にピアスを強請った。それが、ピアスを付ける切っ掛けだった。
『似合うじゃん』と褒めてくれたアオさんの言葉が今でも鮮明に残っている。
弱い自分がちょっと強くなれた気がして、自信を持つ事が出来た。
「舌も?」
「舌は、俺が自分で勝手にやってます」
俺のセンタータンは、今の職場の先輩におすすめされて病院で開けた。タンリムはめちゃくちゃ痛いって聞いてやってない。
「……空矢さん、病院で開けます?」
「嫌だ。見ず知らずの人より、星波がいい」
「……麻酔してもらえば、痛くないですよ?」
「ぅう……痛みが無いのは、魅力的だけどもぉ」
めちゃくちゃ葛藤してる。
うんうん唸りながらも、ポツリと溢す。
「やっぱり……痛くても、星波がいい」
自身の耳に触れながら、そう言った。その言葉にドキッとして心臓が大袈裟に跳ねまくる。顔がじわじわ熱くなってきた。
俺は無意識に唇を噛み締める。嬉しくて、幸せで堪らない感情が爆発してしまいそうだったからだ。
「ッ……ッッ~~……空矢さん、俺が必ず成し遂げます!」
「そんな意気込まないでくれ」
決意を新たに拳を握ると、空矢さんに苦笑されてしまった。
その日からいろいろ考えて、必要な物を揃えて日にちも調整した。
空矢さんの気持ちも整えつつ、当日はお互いの休みを照らし合わせて、実行に移す日を決めた。空矢さんはその事を楽しみにしているようで、ずっとソワソワしていた。
そして当日、ついに空矢さんの体に穴を穿つ時が訪れたのであった。
「ちょっと待て」
「はい?」
「最中に開けると思ってたんだが……コレ、なんだ?」
「エッチな事はするって事前に伝えてましたけど、セックスしながらとは言ってませんよ?」
今日の為に購入した様々な道具を前に困惑している空矢さん。
男性器を模したバイブをまじまじと見つめている。
「普通のセックスだと、俺の手元が安定しないので、空矢さんだけの気を散らそうと思いまして」
「いや……でも、コレ」
「アナル用ですよ?」
「聞きたいのはそこじゃなくて、運用方法!」
「見たまんまです」
アダルトグッズサイトには本当にいろんなものが売っていて面白い。用途不明のアイテムとかあって見てると楽しい。
……まさか買う日が来るなんて思わなかったけども。
空矢さんは顔を赤くしたり青くしながら、目をぐるぐるさせて俺と玩具を交互に見ている。
ピアス開けに必要な消毒液やガーゼ、綿棒、ピアッサー。ファーストピアス用の透明なガラスピアス。アフターケア用品もある。
その側に、バイブにバイブ固定ベルト、ローション、コンドームが並んでいる。
ベッドの上にはタオルが敷かれており、準備万端である。
「大丈夫です。空矢さん、感度良好ですしすぐ良くなります」
「…………」
嫌だけど、俺がココまで準備してるのを見て、嫌だとは言えない様子だ。
眉を下げ、恥ずかしさと不安が滲む瞳を見詰め返して微笑み掛ければ、おずおずと俯いて小さくコクリと肯いた。
「よろしく、おねがい……します」
「はい。任せてください」
「ん……」
「深呼吸、深呼吸してください」
「ひー……ふ、ぁああ……やっぱりむり!」
「もーー空矢さん……コレで五回目ですよ」
「無理無理無理……」
土下座の勢いで床に突っ伏す空矢さん。
「そんなの入んない……」
「大丈夫、入りますよ。ほら、一瞬ですから」
「やだ……今日はやめる」
そそくさとソファーに移動してクッションを頭の上に乗せて拒絶の意を示してくる空矢さんを眺め、俺は大きなため息をつくしかなかったのだった。
俺は手に持ったピアッサーを棚に仕舞った。
俺とお揃いのピアスを着けたいと空矢さんが言うから、いろいろ準備したのに……耳に穴を開けるピアッサーにビビりまくって怖気づいているのだ。
確かに初めてだと怖いかもしれないが……五回覚悟決めて寸前で五回心が折れている。流石の俺も呆れてしまう。
「……空矢さん」
「……なんだ?」
クッションを頭に乗せたままこちらを振り返った空矢さんは、半目で少し睨み付けるようにしている。
思わず抱き締めたくなる衝動を抑えて口を開く。
「あの、やっぱりイヤリングでもいいんじゃないですか?」
「……イヤリングはイヤリングで痛い」
そうなのだ。イヤリングの場合、耳を挟む形になるのだが、耳を挟むと徐々に痛みが出る事もある。
その体験を済ませている空矢さんはイヤリング着用は避けている。
『はむ』
「ひぁ!」
耳に噛み付いて舌先で耳殻をなぞると、空矢さんは肩を跳ねさせて身を捩る。
舌を這わせ、そのまま耳孔に挿し込んだ。
「ひっ、やめ、ぁ……おい」
くちゅくちゅと音を立てて耳の穴を舐め回し、耳たぶに軽く歯を立てる。
ビクッと震えたと思ったら、顔を振って振り払われてしまった。耳を押さえて空矢さんがプクッと頬を膨らませて怒っていた。
「(……なんか、段々と空矢さんが俺に対して大人な振る舞いしなくなってきたな)」
最初は、大人であろうと俺に寛容で、上から包み込んでくれていたが、今ではただの空矢さんで駄々も捏ねるし、こんな風に子どもっぽく怒る事が増えてきた。
そんな変化が嬉しくて、ついニヤけてしまいそうになる。
「急に耳舐めんなよ」
「可愛い声出てましたよ」
「不可抗力だ」
そう言ってまたクッションを頭の上に乗っけて、ソファーの上で膝を抱えて丸まってしまった。
「うーーん……」
どうやったら、ピアッサーの恐怖が薄れるんだ?
耳が敏感な空矢さんは、耳の痛みにも敏感だろう。
何かいい方法はないだろうか。
「ピアスを開ける方法?」
「はい。相手怖がっちゃって、毎度寸前でやっぱり無理だって拒否られるんですけど……良い方法がないかと思って」
仕事の合間に先輩に相談を持ち掛けると、先輩は腕を組みながら考え込んでから案を出してくれた。
「別の衝撃与えたり、意識を逸らしてその隙にパチンって開けるとか? 友達、映画で推しの攻撃と共にピアス開けて、推しによって齎された痛みだって誤魔化してたよ」
「中々に愉快なピアス開けですね」
「まぁ、開けるぞって意気込んでやるより、意識を逸らして開ける方が怖くないんじゃないかな」
確かに……空矢さんの意識を逸らして……どうやって逸そう。
本人に聞けばいいか。
新居であるマンションの三階の一室へ向かう。途中で会った大学生のお隣さんと挨拶を交わしながら帰宅した。
「ただいま帰りました」
「おかえり……」
「空矢さん、ちょっと相談が」
「?」
先輩から貰った案を空矢さんにも伝えた。すると、空矢さんは難しい顔をしながら首を傾げていた。
暫く黙り込んだ後、ハッとした表情を見せたかと思うと、急に赤くなって俯いてしまった。
「意識を逸らしてる、間に?」
「そうですね。映画はどうですか?」
「……開けられるってわかってたら集中出来ないと思う」
ビビリようを思い出すと、宣告して映画を見ても、意識はピアッサーに向くだろう。逸らそうとすればする程意識がそっちに行ってしまう。
でも、このままではお揃いのピアスは無理そうだし……うーん。
空矢さんは、顔を真っ赤にして手先をモニモニさせながら俺を伺う。
「確実に……意識が逸れると言うか……散る……なら、その」
「……セックスは俺の手元がブレるんで」
「ッ……」
何を想像しているのか察しが付いて、口に出すと、ますます真っ赤になって俯いてしまう空矢さん。
「(けど、確実に意識が逸れるのは間違いない。俺の意識まで逸れるのが問題だ。如何に俺が冷静に空矢さんの耳に穴を開けられるかだ)」
「……とりあえず、ご飯食べよう」
「あ、はい」
空矢さんに促されて食卓に着く。
今日は肉じゃがだ。ほくほくのジャガイモを口に運び、味わってから白米を掻き込む。
空矢さんももぐもぐと口を動かしながら、時折こちらをチラ見してくる。
さっきの話を気にしているのかもしれない。
食事を終え、片付けを済ませてからソファーに並んで座った。
テレビから流れるバラエティ番組をBGMにしながら、寄り添いながらぐーたらする。
「(俺自身、ピアスホールを開けた時は物凄く痛かったなぁ……軟骨は病院でやってもらったけど麻酔切れた後も少し痛かったし)」
「……みんなピアス付けてるな」
「ん? ああ、そうですね」
番組のゲスト女優や俳優の耳に光るピアスを眺めて呟いた空矢さん。
「星波はさ……なんで、ピアス付けてるんだ?」
「アオさんがしてたから、真似したんです。今はしてませんけど、出会った当初は今の俺と同じぐらいバチバチに開けてたんで」
俺の世話をしながら仕事もしているしっかり者のアオさんに憧れて、誕生日にピアスを強請った。それが、ピアスを付ける切っ掛けだった。
『似合うじゃん』と褒めてくれたアオさんの言葉が今でも鮮明に残っている。
弱い自分がちょっと強くなれた気がして、自信を持つ事が出来た。
「舌も?」
「舌は、俺が自分で勝手にやってます」
俺のセンタータンは、今の職場の先輩におすすめされて病院で開けた。タンリムはめちゃくちゃ痛いって聞いてやってない。
「……空矢さん、病院で開けます?」
「嫌だ。見ず知らずの人より、星波がいい」
「……麻酔してもらえば、痛くないですよ?」
「ぅう……痛みが無いのは、魅力的だけどもぉ」
めちゃくちゃ葛藤してる。
うんうん唸りながらも、ポツリと溢す。
「やっぱり……痛くても、星波がいい」
自身の耳に触れながら、そう言った。その言葉にドキッとして心臓が大袈裟に跳ねまくる。顔がじわじわ熱くなってきた。
俺は無意識に唇を噛み締める。嬉しくて、幸せで堪らない感情が爆発してしまいそうだったからだ。
「ッ……ッッ~~……空矢さん、俺が必ず成し遂げます!」
「そんな意気込まないでくれ」
決意を新たに拳を握ると、空矢さんに苦笑されてしまった。
その日からいろいろ考えて、必要な物を揃えて日にちも調整した。
空矢さんの気持ちも整えつつ、当日はお互いの休みを照らし合わせて、実行に移す日を決めた。空矢さんはその事を楽しみにしているようで、ずっとソワソワしていた。
そして当日、ついに空矢さんの体に穴を穿つ時が訪れたのであった。
「ちょっと待て」
「はい?」
「最中に開けると思ってたんだが……コレ、なんだ?」
「エッチな事はするって事前に伝えてましたけど、セックスしながらとは言ってませんよ?」
今日の為に購入した様々な道具を前に困惑している空矢さん。
男性器を模したバイブをまじまじと見つめている。
「普通のセックスだと、俺の手元が安定しないので、空矢さんだけの気を散らそうと思いまして」
「いや……でも、コレ」
「アナル用ですよ?」
「聞きたいのはそこじゃなくて、運用方法!」
「見たまんまです」
アダルトグッズサイトには本当にいろんなものが売っていて面白い。用途不明のアイテムとかあって見てると楽しい。
……まさか買う日が来るなんて思わなかったけども。
空矢さんは顔を赤くしたり青くしながら、目をぐるぐるさせて俺と玩具を交互に見ている。
ピアス開けに必要な消毒液やガーゼ、綿棒、ピアッサー。ファーストピアス用の透明なガラスピアス。アフターケア用品もある。
その側に、バイブにバイブ固定ベルト、ローション、コンドームが並んでいる。
ベッドの上にはタオルが敷かれており、準備万端である。
「大丈夫です。空矢さん、感度良好ですしすぐ良くなります」
「…………」
嫌だけど、俺がココまで準備してるのを見て、嫌だとは言えない様子だ。
眉を下げ、恥ずかしさと不安が滲む瞳を見詰め返して微笑み掛ければ、おずおずと俯いて小さくコクリと肯いた。
「よろしく、おねがい……します」
「はい。任せてください」
「ん……」
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