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4・こびりつく夢※
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十年前の小学生、星波とピアス青年のせな君が同一人物だと知らされて、生きていた事に安堵させられると同時に……酷く後悔した。
「……なんでお泊り禁止なんですか」
「君があの星波だって自覚した途端、なんか三十路のおっさんの家に泊めさせるの気が引けて……」
「俺はもう大人ですよ? 小学生じゃありません」
「わかってる。わかってるつもりなんだが……」
『なでなでなで』
俺の中で小学生星波のインパクトが強過ぎて、当時のような接し方をしてしまう。
もう社会人なのに、つい頭を撫でてしまうのだ。
「もーー! 今の俺を見てください。大人になった俺を」
「よく見ると面影結構あるな」
「昔の面影探さないで!」
「ごめん。本当に嬉しくて……」
俺の喜び様に、若干引き気味になっている星波。
「……空矢さんは優しいですけど、考え込み過ぎです。あと……無防備すぎますよ」
「え?」
「いや、何でもないです! それより……お泊り禁止は、まぁ、気持ちの整理がつくまで仕方ないとして……もう少し会う頻度あげてもいいですか?」
「それは……構わないが」
「やった! 何時頃なら大丈夫ですか?」
「はは、別にいつでも良いぞ」
俺の返事に呆れる星波。
「いや、少しは警戒してください。顔見知りだからって油断してると、いつか襲われますよ?」
「あはは、君はそんな事しないだろ」
「…………」
「おい、黙るなよ」
気を許されたら普通嬉しいもんじゃないのか?
「今日は大人しく帰りますけど、戸締りしっかりしてくださいよ」
「はいはい。おやすみ」
「おやすみなさい」
玄関先で星波を見送った後、リビングに戻った俺はソファーにダイブした。
『ボフ』
「……はぁ」
会えた……ちゃんと生きている。それだけで充分過ぎるくらい幸せだった。
実感が脳裏にこびりついて綿毛に擽られてるような感覚がする。
「……ん……ねむ」
横になったら眠くなってきた。風呂に入りたいが、この眠気の中入ったら風呂場で寝てしまう。
朝シャンでいいか。休みだし。
ベッドへなんとか移動して、ベッドに身を投げる。沈み込む身体と共に意識もストンと落ちていった。
それから、金曜日以外にもちょくちょく星波が遊びに来る様になった。
二時間ぐらい駄弁ったり、一緒にランニングしたり、買い物したりと、交流を深めていった。
そんな日々が続き、季節もすっかり冬になった頃。
嬉々として家に来た星波の開口一番。
「本日、借金の全額返済が完了致しました」
「おぉ、おめでとう」
抱えさせられた借金を長きに渡り返済し続け、とうとう完済に至った報告を受けた。
リビングで肴をつまみながら、上機嫌に焼き鳥を食い、酒を呷る星波にこっちまで嬉しくなる。
「何か祝いの品渡さないとなら」
「なら、バイクの免許取りたいので勉強教えてください」
「勿論、いいぞ」
本気でバイクの免許を取る気らしい。俺と同じく大型二輪を。
まぁ、大型自動二輪免許があれば制限なく全てのバイクに乗れる。
バイクに興味があるみたいだし、色々教えてやりたい。
俺もオタクって程詳しくないが、それなりにメンテナンスもしてるし、知識もある。
「よしよし。怪我しないように頑張れよ」
「空矢さん、俺の事子供扱いしますよね?」
「……んーーまだまだ抜けないなぁ」
「いい加減に俺の事ちゃんと見てください」
事実発覚から三ヶ月は経っているが、未だに俺は星波を小学生の星波として見ている節があった。
星波の言う通り、そろそろ大人として見ていかないといけないのだが……どうしたらいいんだ?
「……わかりました」
「?」
星波がペンを取り出して、手帳に何かサラサラと書き始めた。
そして、書いたページを破って俺に差し出す。
「はい。これ」
「……なんだ?」
紙切れを受け取り、書いてある内容に目を向ける。
そこには、見慣れぬ住所が書かれていた。
「俺の働いてるアクセサリーショップです。ちゃんと俺が働いてるところを見れば、意識変わりますよ」
「なるほど。一理あるかもしれない」
俺だって一人の大人として尊重してやりたい。甘やかして、頭を撫でて、守ってやりたいという俺の庇護欲求は、大人の星波にとって煩わしいだろう。
「(……いつまでも俺だけあの日のままじゃダメだろ)」
前に進まないとな。
『スリ……』
「?」
不意に、星波の指が俺の頬を滑る。
困ったように首を傾げて微笑んでいた。その仕草が妙に艶っぽく見えて、俺は息を飲んだ。
『ズイッ』
「空矢さん」
「っ」
「ここ、タレついてる」
「え、あ……」
慌ててティッシュで口元を拭って誤魔化した。
顔近付けてきたから、キスされるかと思った。
『ペロ』
指に付いたタレを舐める赤い舌がちろりと唇の隙間から覗いた。心臓がバクッとした。
「……空矢さんって、本当無防備」
「最近それ言うけど、俺に警戒されたいのか?」
「うーん、どっちかって言うと意識されたいです」
「意識はしてるさ。あと、信頼もしてる。だから警戒もしてない」
俺の言葉に、また困った顔で笑いかけられた。
何に困ってるかは分からないけど。
「……んん」
まだ日付も変わっていないのに、睡魔に襲われてしまい、目を擦って欠伸をする。
「今日はお開きにしましょうか」
「んーー」
「……泊まってもいいですか?」
「…………ん」
子ども扱いしないってんなら、別に泊まらせてもいいだろう。
晩酌の片付けをしてシャワーをサッと浴びたら、布団が敷かれていた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
心地良い眠気に抗えず、俺は眠りについた。
その日は、珍しく夢を見た。
あまり良いものではない。けれど、不思議と悪夢とも言い切れない微妙なものだった。
ただ、一つ言えるのは……
「ん……んぅ……」
「……はぁ、空矢さん」
コレは淫夢に該当するものだということ。
ぽやぽやする頭で、赤ん坊のように俺の胸に顔を寄せている星波の旋毛をぼんやり眺めながら、身体の違和感を感じていた。
何も感じないはずなのに、胸の飾りが弾かれ、潰される度に声が出てしまう。
「ん、あ……あっ」
星波の熱い吐息が俺の肌に触れる度に、腰がゾクっとする。
「はぁ、はぁ……空矢さん」
俺は、星波に何をやらせているのか……意味が分からない。
現実逃避、というか夢中逃避の為にもう一度瞼を閉じた時……夢が終わったようで、そこから何も覚えていない。
『チュンチュン』
「…………」
いつもより早めに起床した。隣では、まだ星波が寝息を立てており、俺に抱き着いている。
「星波……?」
名前を呼んでみるが、起きる気配はない。
俺は少し考えた後、星波の腕から抜け出して、自分の下半身を確認した。
朝勃ち……だろうな。うん。夢精はしてないし。
「……寒」
こりゃくっ付きたくもなる。冬の早朝の寒さが身に突き刺さる。
トイレでいろいろ用を済ませて、顔を洗って歯磨きした後、朝食の作り始める。
寒過ぎて上着羽織って、靴下履いた。
「んーー……んん? あれ、おはようございます」
「起きたか。飯できてるぞ」
「……ありがとうございます」
賞味期限の近い卵焼きと有り合わせ味噌汁を星波に出した。
ちょっと固い白米をよそってやる。
「空矢さんのご飯、家の味って感じがします」
「そうか? 自分で作ってるから、よく分からん」
「俺を引き取ってくれたアオさんも料理苦手で、家で食べる機会少なかったので」
「マジか……こんなんで良かったらいつでも作ってやるよ」
焦げ目の多い卵焼きも形が不揃いな具の味噌汁も毎度の事ながら、星波は美味しそうに食べてくれる。
「ご馳走様でした」
「お粗末さま」
「俺が洗い物しますね」
「おう」
本当に、いつもと変わらないやり取りだ。
それなのに……
「(……なんか、むずむずする)」
妙な感覚だった。
星波の背中を眺めながら、爪先を丸めたり逸らしたりして、気を紛らす。
あんな夢を見た所為だ。罪悪感と焦燥感に腑をジリジリと焼かれてる感じがする。
「ふぅ……終わりました」
「ん、お疲れさん」
「空矢さん、この後どうします?」
「そうだな……」
特に予定がない。買い物は昨日行ったばかりだし、今日は一日ダラけるつもりだった。
けれど、星波と今は離れた方がいい。ボロが出そうだ。
「外に用事がある」
「そうですか。じゃ、俺もお暇します」
「ああ」
星波が玄関でスニーカーを履いている間に、俺は身支度を整える。
そして、星波と一緒に外に出た。
「……あ、雪」
「あー……本当だ」
空を見上げるとチラチラと雪が降っていた。
どおりで寒いわけだ。凍てつく空気を吸う度に、冬の匂いが鼻腔をくすぐる。
「コレから一気に寒くなると思いますから、お互い気を付けましょう」
「ん、そうだな。星波もちゃんとあったかくして寝るんだぞ」
「わかってますよ。それじゃ、また」
「おう」
駅の方へ歩いていく星波の後ろ姿を見送りながら、俺は白い溜め息を吐く。
用事があるなんて嘘をついてしまったが、仕方ない。
「(ビデオでも借りに行くか)」
どうせダラっとする予定だったんだし、ちょっと有意義にダラけても問題ないだろう。
※※※
久しぶりにレンタルビデオ店に足を運んだ。
いやはや……俺もまだまだ若いもんで。
アクション映画に紛れるAVを見て、新成人みたいだなんて感想を抱いた。
最近はネットで動画が見れる時代だが、やはりこういう質量のある背徳はネットでは得難い。
パッケージには、綺麗な女優が大胆な露出をしてこちらを見つめてくる。
「(……そういえば、星波と女性のタイプについて話した事ないな。下ネタは時々言うけど……アイツ、そもそも性欲あんのか?)」
普段の星波は、俺の前では性欲を感じさせないくらい好青年の顔をしている。見た目は遊んでそうだが、内情を知ってしまうと納得してしまう。
借金の事もあって遊んでる暇もなかったのかもしれないな。
《あ、あっ、あん♡ もっとぉ》
AV女優の素晴らしい肢体と激しい行為を鑑賞しながら、耽っていたら胸元に違和感を感じた。
「?」
視線を落とせば、胸の先が衣服越しに主張しているのが見えた。触ってみると、微かに粒が膨らんでいる。
寒さの所為で敏感になってるのか?
試しにシャツの上から撫でるように擦ってみる。
『ピン』
「っ!?」
背筋に電流が流れたような衝撃に息を飲む。
なんだこれ?
え? なん……は??
《ちくび、き、もちぃの♡》
AV女優の喘ぎ声に図星を突かれて、顔が熱くなった。
まさか、そんな……だって、俺は男で……
『キュッ』
服の上から乳首を摘まんでみた。その瞬間、身体に甘い痺れが駆け巡る。
「ん、んっ」
無意識に手が動いて、今度は直接触ってみる。指先で潰すように弄って、親指と人差し指の腹で粒を挟んで引っ張った。
「ふぁ……ん、んん」
陰茎を扱く手も止まらない。頭が真っ白になり、腰が揺れる。腹の奥が熱い。
「ん、んんんん!!」
ビクビクと腿が痙攣して、手の中がぬっとりと濡れていくのが分かった。
「はーーーーーーーーーー……」
賢者タイムに突入して、ようやく我に帰った。
俺と同じようにぐったりしている女優を見ながら、ティッシュで手を拭う。
「……マジかよ」
服を捲り上げると、ぷっくりと腫れた乳首があった。
風呂場でなら寒さで勃つ事はあっても、快楽を感じなかった。
急にこんな乳首で感じるようになるか?
「(……夢)」
そういえば、夢で星波に……いや、いやいやいやいやいやいや!!
夢は夢であって、現実じゃない。
俺と星波がそういう関係になるはずがない。
夢で見た事を思い出すな。忘れろ。全部、夢だ。夢だったんだ。
コレには、別の要因があるはずだ。
「(アクション映画見て落ち着こう)」
借りたDVDで意識を散らして映画に集中する。
けれど、脳裏の片隅にべったりと残ってしまったそれを忘れられない。映画を気持ち良く見終わってもぶり返しがしつこく、結局その日は悶々としたまま過ごした。
「……なんでお泊り禁止なんですか」
「君があの星波だって自覚した途端、なんか三十路のおっさんの家に泊めさせるの気が引けて……」
「俺はもう大人ですよ? 小学生じゃありません」
「わかってる。わかってるつもりなんだが……」
『なでなでなで』
俺の中で小学生星波のインパクトが強過ぎて、当時のような接し方をしてしまう。
もう社会人なのに、つい頭を撫でてしまうのだ。
「もーー! 今の俺を見てください。大人になった俺を」
「よく見ると面影結構あるな」
「昔の面影探さないで!」
「ごめん。本当に嬉しくて……」
俺の喜び様に、若干引き気味になっている星波。
「……空矢さんは優しいですけど、考え込み過ぎです。あと……無防備すぎますよ」
「え?」
「いや、何でもないです! それより……お泊り禁止は、まぁ、気持ちの整理がつくまで仕方ないとして……もう少し会う頻度あげてもいいですか?」
「それは……構わないが」
「やった! 何時頃なら大丈夫ですか?」
「はは、別にいつでも良いぞ」
俺の返事に呆れる星波。
「いや、少しは警戒してください。顔見知りだからって油断してると、いつか襲われますよ?」
「あはは、君はそんな事しないだろ」
「…………」
「おい、黙るなよ」
気を許されたら普通嬉しいもんじゃないのか?
「今日は大人しく帰りますけど、戸締りしっかりしてくださいよ」
「はいはい。おやすみ」
「おやすみなさい」
玄関先で星波を見送った後、リビングに戻った俺はソファーにダイブした。
『ボフ』
「……はぁ」
会えた……ちゃんと生きている。それだけで充分過ぎるくらい幸せだった。
実感が脳裏にこびりついて綿毛に擽られてるような感覚がする。
「……ん……ねむ」
横になったら眠くなってきた。風呂に入りたいが、この眠気の中入ったら風呂場で寝てしまう。
朝シャンでいいか。休みだし。
ベッドへなんとか移動して、ベッドに身を投げる。沈み込む身体と共に意識もストンと落ちていった。
それから、金曜日以外にもちょくちょく星波が遊びに来る様になった。
二時間ぐらい駄弁ったり、一緒にランニングしたり、買い物したりと、交流を深めていった。
そんな日々が続き、季節もすっかり冬になった頃。
嬉々として家に来た星波の開口一番。
「本日、借金の全額返済が完了致しました」
「おぉ、おめでとう」
抱えさせられた借金を長きに渡り返済し続け、とうとう完済に至った報告を受けた。
リビングで肴をつまみながら、上機嫌に焼き鳥を食い、酒を呷る星波にこっちまで嬉しくなる。
「何か祝いの品渡さないとなら」
「なら、バイクの免許取りたいので勉強教えてください」
「勿論、いいぞ」
本気でバイクの免許を取る気らしい。俺と同じく大型二輪を。
まぁ、大型自動二輪免許があれば制限なく全てのバイクに乗れる。
バイクに興味があるみたいだし、色々教えてやりたい。
俺もオタクって程詳しくないが、それなりにメンテナンスもしてるし、知識もある。
「よしよし。怪我しないように頑張れよ」
「空矢さん、俺の事子供扱いしますよね?」
「……んーーまだまだ抜けないなぁ」
「いい加減に俺の事ちゃんと見てください」
事実発覚から三ヶ月は経っているが、未だに俺は星波を小学生の星波として見ている節があった。
星波の言う通り、そろそろ大人として見ていかないといけないのだが……どうしたらいいんだ?
「……わかりました」
「?」
星波がペンを取り出して、手帳に何かサラサラと書き始めた。
そして、書いたページを破って俺に差し出す。
「はい。これ」
「……なんだ?」
紙切れを受け取り、書いてある内容に目を向ける。
そこには、見慣れぬ住所が書かれていた。
「俺の働いてるアクセサリーショップです。ちゃんと俺が働いてるところを見れば、意識変わりますよ」
「なるほど。一理あるかもしれない」
俺だって一人の大人として尊重してやりたい。甘やかして、頭を撫でて、守ってやりたいという俺の庇護欲求は、大人の星波にとって煩わしいだろう。
「(……いつまでも俺だけあの日のままじゃダメだろ)」
前に進まないとな。
『スリ……』
「?」
不意に、星波の指が俺の頬を滑る。
困ったように首を傾げて微笑んでいた。その仕草が妙に艶っぽく見えて、俺は息を飲んだ。
『ズイッ』
「空矢さん」
「っ」
「ここ、タレついてる」
「え、あ……」
慌ててティッシュで口元を拭って誤魔化した。
顔近付けてきたから、キスされるかと思った。
『ペロ』
指に付いたタレを舐める赤い舌がちろりと唇の隙間から覗いた。心臓がバクッとした。
「……空矢さんって、本当無防備」
「最近それ言うけど、俺に警戒されたいのか?」
「うーん、どっちかって言うと意識されたいです」
「意識はしてるさ。あと、信頼もしてる。だから警戒もしてない」
俺の言葉に、また困った顔で笑いかけられた。
何に困ってるかは分からないけど。
「……んん」
まだ日付も変わっていないのに、睡魔に襲われてしまい、目を擦って欠伸をする。
「今日はお開きにしましょうか」
「んーー」
「……泊まってもいいですか?」
「…………ん」
子ども扱いしないってんなら、別に泊まらせてもいいだろう。
晩酌の片付けをしてシャワーをサッと浴びたら、布団が敷かれていた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
心地良い眠気に抗えず、俺は眠りについた。
その日は、珍しく夢を見た。
あまり良いものではない。けれど、不思議と悪夢とも言い切れない微妙なものだった。
ただ、一つ言えるのは……
「ん……んぅ……」
「……はぁ、空矢さん」
コレは淫夢に該当するものだということ。
ぽやぽやする頭で、赤ん坊のように俺の胸に顔を寄せている星波の旋毛をぼんやり眺めながら、身体の違和感を感じていた。
何も感じないはずなのに、胸の飾りが弾かれ、潰される度に声が出てしまう。
「ん、あ……あっ」
星波の熱い吐息が俺の肌に触れる度に、腰がゾクっとする。
「はぁ、はぁ……空矢さん」
俺は、星波に何をやらせているのか……意味が分からない。
現実逃避、というか夢中逃避の為にもう一度瞼を閉じた時……夢が終わったようで、そこから何も覚えていない。
『チュンチュン』
「…………」
いつもより早めに起床した。隣では、まだ星波が寝息を立てており、俺に抱き着いている。
「星波……?」
名前を呼んでみるが、起きる気配はない。
俺は少し考えた後、星波の腕から抜け出して、自分の下半身を確認した。
朝勃ち……だろうな。うん。夢精はしてないし。
「……寒」
こりゃくっ付きたくもなる。冬の早朝の寒さが身に突き刺さる。
トイレでいろいろ用を済ませて、顔を洗って歯磨きした後、朝食の作り始める。
寒過ぎて上着羽織って、靴下履いた。
「んーー……んん? あれ、おはようございます」
「起きたか。飯できてるぞ」
「……ありがとうございます」
賞味期限の近い卵焼きと有り合わせ味噌汁を星波に出した。
ちょっと固い白米をよそってやる。
「空矢さんのご飯、家の味って感じがします」
「そうか? 自分で作ってるから、よく分からん」
「俺を引き取ってくれたアオさんも料理苦手で、家で食べる機会少なかったので」
「マジか……こんなんで良かったらいつでも作ってやるよ」
焦げ目の多い卵焼きも形が不揃いな具の味噌汁も毎度の事ながら、星波は美味しそうに食べてくれる。
「ご馳走様でした」
「お粗末さま」
「俺が洗い物しますね」
「おう」
本当に、いつもと変わらないやり取りだ。
それなのに……
「(……なんか、むずむずする)」
妙な感覚だった。
星波の背中を眺めながら、爪先を丸めたり逸らしたりして、気を紛らす。
あんな夢を見た所為だ。罪悪感と焦燥感に腑をジリジリと焼かれてる感じがする。
「ふぅ……終わりました」
「ん、お疲れさん」
「空矢さん、この後どうします?」
「そうだな……」
特に予定がない。買い物は昨日行ったばかりだし、今日は一日ダラけるつもりだった。
けれど、星波と今は離れた方がいい。ボロが出そうだ。
「外に用事がある」
「そうですか。じゃ、俺もお暇します」
「ああ」
星波が玄関でスニーカーを履いている間に、俺は身支度を整える。
そして、星波と一緒に外に出た。
「……あ、雪」
「あー……本当だ」
空を見上げるとチラチラと雪が降っていた。
どおりで寒いわけだ。凍てつく空気を吸う度に、冬の匂いが鼻腔をくすぐる。
「コレから一気に寒くなると思いますから、お互い気を付けましょう」
「ん、そうだな。星波もちゃんとあったかくして寝るんだぞ」
「わかってますよ。それじゃ、また」
「おう」
駅の方へ歩いていく星波の後ろ姿を見送りながら、俺は白い溜め息を吐く。
用事があるなんて嘘をついてしまったが、仕方ない。
「(ビデオでも借りに行くか)」
どうせダラっとする予定だったんだし、ちょっと有意義にダラけても問題ないだろう。
※※※
久しぶりにレンタルビデオ店に足を運んだ。
いやはや……俺もまだまだ若いもんで。
アクション映画に紛れるAVを見て、新成人みたいだなんて感想を抱いた。
最近はネットで動画が見れる時代だが、やはりこういう質量のある背徳はネットでは得難い。
パッケージには、綺麗な女優が大胆な露出をしてこちらを見つめてくる。
「(……そういえば、星波と女性のタイプについて話した事ないな。下ネタは時々言うけど……アイツ、そもそも性欲あんのか?)」
普段の星波は、俺の前では性欲を感じさせないくらい好青年の顔をしている。見た目は遊んでそうだが、内情を知ってしまうと納得してしまう。
借金の事もあって遊んでる暇もなかったのかもしれないな。
《あ、あっ、あん♡ もっとぉ》
AV女優の素晴らしい肢体と激しい行為を鑑賞しながら、耽っていたら胸元に違和感を感じた。
「?」
視線を落とせば、胸の先が衣服越しに主張しているのが見えた。触ってみると、微かに粒が膨らんでいる。
寒さの所為で敏感になってるのか?
試しにシャツの上から撫でるように擦ってみる。
『ピン』
「っ!?」
背筋に電流が流れたような衝撃に息を飲む。
なんだこれ?
え? なん……は??
《ちくび、き、もちぃの♡》
AV女優の喘ぎ声に図星を突かれて、顔が熱くなった。
まさか、そんな……だって、俺は男で……
『キュッ』
服の上から乳首を摘まんでみた。その瞬間、身体に甘い痺れが駆け巡る。
「ん、んっ」
無意識に手が動いて、今度は直接触ってみる。指先で潰すように弄って、親指と人差し指の腹で粒を挟んで引っ張った。
「ふぁ……ん、んん」
陰茎を扱く手も止まらない。頭が真っ白になり、腰が揺れる。腹の奥が熱い。
「ん、んんんん!!」
ビクビクと腿が痙攣して、手の中がぬっとりと濡れていくのが分かった。
「はーーーーーーーーーー……」
賢者タイムに突入して、ようやく我に帰った。
俺と同じようにぐったりしている女優を見ながら、ティッシュで手を拭う。
「……マジかよ」
服を捲り上げると、ぷっくりと腫れた乳首があった。
風呂場でなら寒さで勃つ事はあっても、快楽を感じなかった。
急にこんな乳首で感じるようになるか?
「(……夢)」
そういえば、夢で星波に……いや、いやいやいやいやいやいや!!
夢は夢であって、現実じゃない。
俺と星波がそういう関係になるはずがない。
夢で見た事を思い出すな。忘れろ。全部、夢だ。夢だったんだ。
コレには、別の要因があるはずだ。
「(アクション映画見て落ち着こう)」
借りたDVDで意識を散らして映画に集中する。
けれど、脳裏の片隅にべったりと残ってしまったそれを忘れられない。映画を気持ち良く見終わってもぶり返しがしつこく、結局その日は悶々としたまま過ごした。
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