巻き込まれ転移者の特殊スキルはエロいだけではないようです。

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おまけ

おまけ・未来永劫の幸せを……

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 指輪を買うにも、ジュンの稼ぎで買うわけにはいかない。
 エンゲージリングは一種の甲斐性とやらの指標になる。
 だが、魔物である私は使い魔としてジュンの仕事の手伝いをする程度。
 自分で働いてはいない。
 チビ達の世話もある。短い時間でパパッとある程度、稼ぎたい。使い魔だけでは冒険者の仕事は出来ない。

「(私に出来る事は、家事と育児と性交だ。万が一を考えて戦闘は避けたい)」
「ぱぁぱ!」
「ぱぱぁ、だっこぉ」
「ぱ~あっこぉあっこぉ」
「よしよし、抱っこなぁ」

 触手を生やして、三人を抱っこして高い高いをする。

「(ヒヨリとヒナタも重くなったな。アサヒもだいぶ喋るようになってきた)」

 そろそろ二歳になる。
 ああ、アカリとヒカリももう六歳か。
 子ども達はほぼ全員同じ時期に孵化している。誕生日は二日間に分けているが、そのことも考えなければならない。
 自分の稼いだ金でプレゼントを買ってやりたい。

「待て待て~」
「カムフラはやいー!」
「!」

 外でアカリとヒカリがカムフラと追いかけっこをしている。
 ジュンは洗濯物を……おや?

「すぅー……すぅー……」
「……寝てる」

 陽気に当てられたのか、珍しくソファーに寄りかかり、ジュンが寝ている。
 いくら体力があると言っても、精神面は普通の人間だ。日頃の疲れが出たのだろう。

「……お疲れ様」

 ジュンの膝の上にある畳み掛けの洗濯物を取り、他の物と一緒に畳む。
 食事は私が作ろう。
 三人を抱っこしたまま料理が出来る自分の体の便利さに少し感動した。
 




「んぅ……ぅ? あっ!」
「ジュンパパおはよー」
「ジュンパパ! 今日はモモパパのご飯だよ!」
「あ、あーーごめんモモ! 全部任せちゃって! 洗濯物もありがとう!」
「気にする事はない。いつもコレぐらい任せてくれていい」

 それじゃ家庭放棄だー! っと叫ぶジュンを宥めて、席に座らせる。
 皆で手を合わせて、ご飯を食べる。

「美味しい!」
「美味しいね!」

 皆が口々に美味しい美味しいと言ってくれる。嬉しい。
 満腹になったお腹がさらに満たされていくような幸福感だ。とても良いものだな、家族というのは……

「美味しい……お店で出せる味してる」
「(ハッ!)」

 ジュンの一言でピンときた。
 そうだ、売れるじゃないか。
 ジュンの料理で学んだ風変わりなレシピにアレンジを加えれば、新感覚の味として売りに出せる。

「(だが、売るにしても、商売ギルドに登録と販売認証が必要だ)」

 それぐらいならば、私個人でも登録出来るだろう。
 問題は売り方だ。あまり家を開けられない。出店を出せる程時間に余裕もない。
 どうしたものか。

「カムフラにもご飯ねー」
「!」
「ガウ!」

 専用の皿でガツガツと夕食を食べているカムフラが目に入った。
 ああ、そうか。ヤツに頼むか。

 後日、私は商業ギルドで承認登録と販売許可証を発行した。銀貨二枚もかかったが、仕方ない。
 必要な雑貨類を買い、家に帰って少し加工する。

「モモパパ? 何作ってるの?」
「カムフラの装備品だ」
「ボクも欲しい」
「うーん、そうだな。三日後に作ってやろう」
「やったぁ!」

 ヒカリが欲しがるって事は、後でアカリも欲しがるはずだ。材料は多めに買っておこう。

「カムフラ」
「ハゥ?」
「コレを持って、街を練り歩け。小銅貨三枚先払いだ。払ったヤツにコレを渡す。いいか?」
「バウ!」
「練習するか」

 商品の入ったサイドバッグを着せ、首元に下がった一個小銅貨三枚と書かれた貯金箱に小銅貨三枚を入れる。
 カムフラがそれを確認して、サイドバックから袋に入った商品を私に渡した。

「ワフ」
「そうだそうだ。そうやって渡すんだ。やはり、お前は賢い魔物だな」

 胸を張るカムフラを褒めてやる。
 サイドバックに入っているのは、キューブ型のパンをくり抜いてクリームや果物を詰めた甘味だ。
 原価はとても安い。小銅貨三枚で元は取れる。
 まぁ、売れるかわからないが、カムフラは愛想が良い。子どもにも好かれる。
 
「期待してるぞ。売上げに応じて、食事を肉多めにしてやろう」
「ワウワウ!」
「そうかそうか。じゃ、私とジュンの為に頑張ってくれ」
「アウン」

 大きく頷き、ダッと走って行った。

※※※

 カムフラが帰ってきたのは、夕方頃であった。毛並みをボサボサにしながら御満悦な様子。
 
『ジャラ』
「……全部、売ってきたのか」
「バウ!」

 尻尾を振り乱し、褒めろ讃えろという顔をしてくる。
 
「お、おー初日でこの成果は予想してなかった。よしよし、偉いぞ。成果報酬の夕飯を楽しみにしておけ」
「きゃふーん!」

 一、二個売れれば良いだろと思っていた。残りは皆でオヤツにでもしようと思っていた。
 あぁ、何故か……空のバックを見て、達成感だろうか? うずうずとむず痒い喜びが背筋を這う。
 売上げは、小銅貨三〇枚……貨幣繰り上げると、銅貨三枚(三千円)か。ココから原価とカムフラの成果報酬分を抜くと、手取りは銅貨二枚ぐらい。
 ただ今日の運が良かっただけかもしれない。
 ジュンのようにコツコツ堅実に積み重ねていこう。

「モモ、なんか機嫌いいじゃん。どうした?」
「……目に見える成果が出ると嬉しいものだ」
「ん??」
「おやすみ」

 次の日も、次の日も、次の日も、次の日も……カムフラは立派に仕事をしてくれた。
 順調に指輪の資金は貯まっていく。

「ジュンパパ! 見て見てぇ! モモパパが作ってくれたの!」
「私も私も!」
「はぁ~蟹さんの可愛いリュック……モモパパが作ったの?」
「「うん! いいでしょ~!!」」
「いいね…………へぇーーーー」

 ヒカリとアカリにリュックを見せびらかされ、ジュンが唇をツンと尖らせてムッとしている。

「……羨ましいのか?」
「別に~?」
「そうか。ジュンにも作ろうかと思ったが、別にいいなら」
「ホシイデス……」

 我が子に嫉妬するぐらい欲しかったのか。
 欲しいと言えばいいものを……変なところで素直じゃない。
 肩掛け鞄になるが、双子とお揃いの蟹デザインだ。

『ツトトトトトト』
『シュルシュルシュルシュル!』

「早ッ! すごいすごい! 器用ってもんじゃないよ! まるで工場機械だ!」
「こう?」

 時折、鑑定でもヒットしない情報がジュンから飛び出してくる。
 
「あ! かにしゃん」
「かにしゃん!」

 ヒヨリとヒナタが出来上がったばかりのジュンの鞄を指差して連呼し始めた。
 双子のも確か連呼してた気がする。

「そうだねぇ! かにしゃんだね!」

 二人を抱っこして舌足らずな言葉にメロメロになっているジュン。ああ……可愛い。

「っしょ……っしょ……」
「ん? アサヒ?」

 アサヒが掴まり立ちで壁沿いに歩いて、蟹鞄へ向かっている。
 何をする気かわからず、とりあえず小さな末っ子の行動を観察する。

「っと、ちゃくー」
『ズボ!』
「ッアサヒ!」

 蟹鞄に手を付いた途端、アサヒが鞄の口に飲み込まれてしまった。
 すっぽり入ってしまったアサヒの安否を確認する為、鞄の口をガバッと開く。

『ひょこっ』
「????」
「…………」

 中からアサヒの頭だけがひょっこりと出てきた。状況が解ってない様子でキョロキョロしていた。

「……おい、ジュン! ジュン!」
「なにって、だあっはっはっはっは!!」
「????」
「あさひがかにしゃんなったぁ!」
「あさひかにしゃん!」

 末っ子の可愛い状況を共有したくて、ジュンを呼べば、可愛さと間抜けさに大爆笑している。
 
「アサヒちっちゃぁい」
「ちっちゃいね」

 アカリとヒカリもニコニコしながらアサヒの頭を撫でる。
 なんだ……この空間……癒しが満ち満ちている。

「ゲホッゴホッ! かっわいい~! お持ち帰りしたい!」
「アサヒ、ばんざーい」
「ばんざーい」
「んきゃ!」

 双子の声かけに小さな手がにゅっと出てきた。
 胸がギュンと締め付けられる。

「(作って良かった!!)」

 その夜は子ども達とわちゃわちゃと楽しく過ごした。ジュンも子ども達も楽しそうで、それだけで嬉しいものだ。





 翌日、いつもより多く商品を持たせたが問題無く完売させたカムフラのおかげで目標金額まで到達した。
 少銅貨の両替を行い、金貨一枚となった。
 今後も入り用になったらカムフラに手伝って貰うことにしよう。
 寝室にて、横になっているジュンが、フッと思い出したように私の方へ身体を向けた。

「最近、朝と夜に何かカムフラとしてるけど、何してたんだ?」
「少々資金繰りをな」
「え? 俺の稼ぎじゃ足りない?」
「そうじゃない。自分の稼ぎでお前に指輪を買ってやりたいと思って、こっそりとパンを売っていた」
「…………そのパンって、小さな箱型でクリームと果物入ったヤツ?」

 ジュンには見せていないはずだが、言い当てられてしまった。

「街で噂になってたぞ。人懐っこい森狼が一匹で美味い菓子パン売ってるって……うちの男娼も客も走って買いに行く人が居たぐらいだ」
「…………つ、続けた方がいいのか?」
「うーん、週一ぐらいでいいんじゃない? 今度は俺も手伝うから」

 私とカムフラの小遣い稼ぎが、軌道に乗ってしまった。まぁ、いいか。

「明日、指輪を買いに行こう」
「明日!?」
「子どもらも一緒だ」
「騒ぎそう……大丈夫かな」
「なんとかするさ」

 まぁ、騒がしいだろう。だが、家族揃っての買い物は稀だ。偶にはいいだろう。
 ジュンの手を取って、薬指に口付ける。

「楽しみだ」
「……ぉぅ」

 そっぽを向いてしまった。
 可愛らしい。
 互いの指に、ただのリングを通して唯一無二の意味を作る。
 ジュンはそれを見てどんな風に笑うだろうか。いや、泣いてしまうかもしれないな。感情的になるとよく泣いてしまうから。
 そんな事を思いながら、愛しい人を抱き寄せた。

「モモ?」
「……寝れん」
「子どもみたいなこと言うなよ」

 この幸福の微温湯に漬かっている感覚が好きだ。だが、どれだけ浸かっても、足りない。
 ジュンの与えてくれる幸せは予想以上だ。
 このまま腕の中に居てくれるのなら、時が止まってもいい。
 だが、明日が待ち遠しい。

「明日はもっと良い日になるから、早く寝ようぜ」
「……ああ」

 ────今日も明日も、明後日も、未来永劫幸せな日々を、貴方に誓おう。

END
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