巻き込まれ転移者の特殊スキルはエロいだけではないようです。

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おまけ

おまけ・その後の話

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※本編から5年後

 双子がいろいろと手がかからなくなってから産まれた三つ子の子ども達の相手を器用にこなすモモを眺めながら、俺は夕飯の支度をしていた。

「うわあああん!」
「泣くなって言ってるでしょ!」
「だってぇ、だってぇ!」

 玄関から元気な言い合いの声が聞こえてきた。
 よくある事だ。

「おかえり、ヒカリ、アカリ」
「ただいまジュンパパ」
「うあああんぱぁぱぁ!」
『ヒシ!』
「おっと、今日はどうしたんだ?」

 俺とモモに益々似てきた二人だが、性格は独自の発展を遂げていた。
 アカリは伸ばしてる黒髪の先を指でいじりながらワンピースの裾を握る。対してヒカリは大泣きしながら俺の足に抱きついた。
 夕飯作りを一旦中止して、足元のヒカリと目線を合わせる。
 涙と鼻水を拭って、背を叩いて落ち着かせる。
 
「うっ、ひっく、ぅう……」
「よしよし、何があった?」
「ぅにゃが、へんって、うっく」
「……アカリ」
「友達に角生えてるの変って言われて泣いてるだけ」

 アカリはあっけらかんと言うが、頭の触手が横を向いている。態度には出していないが、気にする事を言われてしまったらしい。
 感情的なアカリが激怒していないあたり、友達は恐らく寝癖を指摘するぐらい気軽な気持ちで言ったのだろう。

「へんじゃぁないぃもぉん!」

 ぴょんぴょんとヒカリの触手が怒りと悲しみに跳ね上がっている。
 
「うん。変じゃないよ。モモパパにもあるし、アカリやチビ達にもある。じゃ、パパには?」
「? ぅ、ん。無い」
「変かな?」
「変じゃ、ない……」
「そう、変じゃないな。違うだけで、変じゃない。友達もきっと、ヒカリをおかしいって言ったんじゃなくて、自分とヒカリは違うねって言ったんだよ」

 赤い目からポロポロ溢れていた涙がようやく収まった。
 友達の本意はわからないけど、相手も子どもだ。語彙や配慮が無い為、言葉選びが拙いだけだろう。
 
「ぅう~~……でも、いやだったのぉ」
「うん。嫌だったか。そうかそうか。よしよし」

 抱っこしてヒカリの頭を撫でてやれば、ススッとアカリが俺のズボンをぎゅっと摘んできた。

「私も抱っこー」
「うん。抱っこ抱っこねぇ」

 五歳になっても甘えたがり。まぁ俺が甘やかしてるからだけど。
 ヒカリのグズりが落ち着いたら、二人を下ろして夕飯作りを再開する。

「お兄ちゃんお姉ちゃん、チビ達の面倒をモモパパと見ててくれる?」
「うん」
「はーい」

 駆け足でモモのところへ向かう二人の背中。あんなに小さかったのに、友達と喧嘩するまでになるなんてなぁ……感慨深い。
それから夕飯を食べ終え、食器を洗っていた時のこと。

「ヒヨリ~お姉ちゃんよぉ」
「きゃぅ!」
「んふふ!」

 三つ子は次女、次男、三男の姉弟だ。
 アカリは妹のヒヨリを特別可愛がっている。女の子同士だもんな。

「ヒカリ、それじゃヒナタが起きちまうぞ。もっとしっかり抱き寄せる。こう」
「こう?」
「そうだ」

 次男のヒナタをヒカリがおぼつかない手つきで抱きしめる。危なっかしいがモモが付いてるので大丈夫だろう。
 モモの触手の揺籠の中でスヤスヤ気持ちよさそうに眠っているのは、三男のアサヒ。
 三男は所謂未熟児で、兄弟の中でも一回り小さく、水槽から出てくるのも大分遅かった。足もまだ別れていない。
 モモ曰く、別に珍しい事では無いと言う。成長が遅いだけで、ちゃんと食事を摂れば脳や身体に障害は残らないとも言っていた。
 ウシガイが未熟児で産まれた場合、死因の八割が餓死らしい。身体が小さい分、移動速度も遅く餌に辿り着く前に死ぬって聞いた。自然界は厳しいなぁ。いや、畜産ウシガイの未熟児は間引かれるらしいし人間界でも厳しいか。

「(うちの子で良かった……)」
「ジュンパパ、私もう一人妹ほしぃ」
「え?」
「じょしかい? って言うの? 友達がね、姉妹だけで集まって遊んだって。だからウチでもしたい。ヒヨリも妹欲しいよねぇ?」
「んねぇ!」

 女子会……だと……!?
 そんな文化が異世界でもあるのか!?

「(娯楽の為に妹が欲しいと言うのはどうかと思うけど……)」

 まぁ、金銭的余裕は全然あるし、三つ子が歩行出来る二年後なら……でも、女の子が産まれる保証も無い。
 

「……ちょっと難しいかなぁ。赤ちゃんはポッと出てくるわけじゃないから」
「じゃあ、何処で卵買ってきたの?」
「買っ……買ってはない。いや、その」

 卵生における『赤ちゃんはどこからくるの?』へ発展してしまった。
 どう伝えれば良いんだ?

「……モモパパに聞きなさい」

 モモに振ったらすっげぇめんどくさい顔された。仕方ないじゃん。

「モモパパは卵がある場所知ってる?」
「ああ。パパが赤ちゃんが欲しいですと毎晩ジュンパパにおまじないをかけ続けると、ある日ベッドの中から卵が見つかる」
「その卵、何処から来るの?」
「ジュンパパの身体の中から」

 ぼかしきれてない部分があるが、モモの子供向けの言葉選びに胸がきゅぅっと締め付けられる。
 
「へぇ~じゃ、モモパパ! 毎日ジュンパパにおまじないかけて!」
「ふふ、アカリとヒカリがチビ達の面倒しっかり見られるようになったら、おまじないかけてやる」
「見る! ちゃんと見れる!」
「ぼくもヒヨリ達のお世話する」

 ヒカリとアカリの頭にある触手がブンブンと勢いよく揺れている。
 可愛らしいが、その側でモモの触手が落ち着きなくソワソワしている。
 
「はいはい。夕飯出来たぞ。席について」
「はーい」 

 二人が大人しく席につく。モモと変わって、三つ子の面倒を見る。
 今日は隣国よりお取り寄せしたスパイスで作ったカレーだ。
 
「んあ~」
「お前達もご飯だなぁ」

 バナナみたいに湾曲した特注ベビーテーブルの備え付けの椅子に三つ子をそれぞれ座らせて、ご飯を食べさせていく。
 歯が生えているヒヨリとヒナタには茹でた野菜や解した魚、パンなど。まだ歯が生えていないアサヒには、魚のすり身と水菜をペースト状にしたものをスプーンで食べさせる。
 三人共食欲旺盛で口の許容量考えずに詰め込んでしまう為、喉に詰まらせないようしっかり制御しないといけない。

「むぅー」
「んぐ」
「ゴックンしてからな」

 グズって催促してきても慌てず、ゆっくりと口に運ぶ。

「美味いか?」
「う~!」

 モキュモキュと一生懸命頬張る様子を眺める。ほぼ毎日見てるのに……愛おしさに上限が無い。
 可愛いなぁ。

「ほらヒナタ、ちゃんと噛んで。ヒヨリも。ちゃんと飲み込むまで待って。あ~アサヒ、口開けたらこぼれる」

 大変だけど、これにつきっきりになれるから心労は少ない。

「アカリ、人参残すな」
「…………」
「人参残す子の元に妹は来ない」
「ええー」
「ぼくのとこには来る?」
「ああ。好き嫌いしない良い子のとこにくるぞ」

 好き嫌いの激しいアカリをモモが毎度言いくるめて食べさせている。
 食べれる物が増えてくし、食べられるように工夫もしてるが、俺が周辺国から輸入されてる新しい食材で料理するから食べられる物が増えても、好き嫌いは減らない。
 ヒカリは好き嫌い無く、なんでも美味しい美味しいと食べている。でも、皿まで美味しい美味しいって齧ってたから、もしかしたら味覚が鈍いのかもしれない。ただの食いしん坊ならいいんだけど。

「なら食べる……」
「うんうん。良い子だ」

 人参をもぐもぐと嫌そうな顔で食べているアカリ。
 それを優しい眼差しで見つめるモモ。
 父親の顔だ。

「(好きだなぁ……)」

 三つ子の食事と掃除を終えたら、即効お風呂だ。
 モモに沐浴をお願いして俺はその間に食事を済ませて、双子と片付けや洗い物を済ませる。
 
「洗濯物畳むの上手くなったな」
「「にへへぇ」」

 俺もモモもきっちりかっちりした方じゃない。洗濯物の畳み方も少しよれてても気にしない。五歳児の畳み方にしてはだいぶ綺麗だし、手直しはしない。

「上がったぞ」
「ありがとう」

 三つ子のお風呂が終わった腕が六本になってるモモから一人一人タオルに包んで拭いていく。

 着替えも双子が甲斐甲斐しく手伝い終える。

「ばぶ、うぅ」
「はふー」
「んぅ……」
「んじゃ、次は俺達のお風呂だ」

 双子を連れて歯磨きをしてからお風呂に入る。二人の身体を洗っているとヒカリが俺の身体と自分の体を見比べていた。

「どうした?」
「ジュンパパ、ピンク無い」
「あ、ああ。模様か。ヒカリ達にあるピンクは、モモパパから貰ったピンクなんだ」
「ジュンパパは貰ってないの? ぼくがお願いしよっか?」
「あはは! いいよ。大丈夫。モモパパからは沢山プレゼント貰ったから」

 俺の上機嫌な様子に二人が顔を見合わせて首を傾げている。

「なんだろ?」
「なんだろね?」
「さぁ、なんでしょう?」
『ワシャワシャワシャ!』
「うっひゃひゃ!」
「くすぐったぁい!」

 二人を抱き寄せて擽るように身体を洗えば、キャッキャと声をあげてバタバタと泡が舞い散る。
 ああ。沢山、沢山貰ってるとも。

 肩までしっかり浸かって、ホカホカと湯気を立ち昇らせ、三人でお風呂場を出る。

『ダッダッダ!』
「あ! コラ、身体まだ拭いてないだろ!」

 出た瞬間走り出す二人を追いかけまして、タオルで捕獲する。
 コレが毎度楽しいみたいだ。けれど、床が濡れるから、あまりして欲しくはない。転ぶと危ないし。
 パジャマに着替えさせて、三つ子のベビーベッドを覗きに行く。

「……ちっちゃいね」
「うん。ちっちゃいね」
「(君達もまだまだちっちゃいよ)」

 ヒカリとアカリが下の子達を見て嬉しそうにクスクス笑っている。時折噴き出す愛おしさが擽ったいのだろう。

「さて、ヒカリもアカリも寝る時間だぞ」
「はぁい」
「モモパパ、ジュンパパにおまじないかけてね。絶対だからね」
「ああ。頑張るけど、すぐには出来ないからな。ちゃんと待っててくれるか?」
「うん!」

 二人を子供部屋のベッドへ送ってから、俺達は自分達の寝室へ向かう。

『スリ』
「っ……」

 モモに手を握られる。急に気恥ずかしくなって俯いてしまった。もう五年目なのに、未だドキドキさせられてる。

「ジュン、いいか?」
「……聞かないでくれ」
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