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34・ハッピーエンドロール
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俺が二体の魔王を倒してから丸一年が経過していた。
街はより活気付き、人々の生活は安定してきている。
俺は毎日のように子ども達の世話をし、子ども達と一緒に遊び、子ども達に勉強を教える日々を送っていた。
時折、バイトとして娼館へ行ったり、王宮にて第二王子が指名した忠誠心の高い信頼出来る者へ能力値の授与を行っている。
その行いが功を奏し、他国で開催された全国から強者を募る武闘大会にて上位と優勝をオーラル王国の兵が独占し、全国にオーラルの武力を知らしめる事に成功した。
それにより周辺国から勇者抜きに一目置かれ、緊迫状態から和平会談まで第一王子が漕ぎ着けた。
美味しい名物料理から、高性能な武器や防具やアクセサリー、気になる噂の娼館まで、見所目白押しの国となり観光客は増えている。
だが、それに伴い。
「おい! 遅過ぎなんだよ! 何分待たせんだ!」
「すみませんお客様。お待たせ致しました、こちらが『バシャ』
「もう要らねえよ」
柄の悪い連中も増えていた。腕に自信があるのか、一般人にイキって横暴な態度を取る者もいる。
折角作ったクレープを叩き落とされ、店員は急いで膝を付いてそれを拾う。
「口で拾えよ」
「まだ食えるぞ。奢ってやるよ」
その様子を柄の悪い男達がニヤニヤと見下した様子で笑っていた。
そんな彼らと店員に気付いて、他の従業員がそこへ顔を出した。
「失敬……商品を受け取らないと言う事は、お客様では無いと言う事ですね」
「あ?」
『ドゴォ!』
男の一人を地面に叩き付けるように殴り付けた。他の二人が身構えるが、敵うわけがない。
店舗展開し始めた店で働く従業員が歴代最強レベルの元勇者であるなど思いもしないだろう。
「舐めた真似してくれんじゃねーか! こちとらお客様だぞ!?」
「金銭も払わず商品を無駄にしたどころか、うちの従業員をコケにするような輩をお客様として歓迎出来る程、聖人ではないので」
そう言いながら殴りかかってきた一人の男を投げ飛ばし、残りの男がナイフを片手に飛び掛かってくる。
が、ナイフを持った男の手を捻り、地面へと押さえつける。
そのまま首筋に手刀を落とすと男はあっさり意識を手放した。
「っ……」
意識のある一人が顔を青ざめて後ずさる。
「さっさと行け。お客様の邪魔だ」
「ひ、ぃっ!」
仲間を引き摺りながらも足早に逃げて行く三人を見て、他の店員達が彼の元へやって来た。
「助かりました、ユウキ店長」
「気にするな。従業員を守るのも仕事のうちだ」
「店長っ!」
一部始終を見ていたお客様も店員と同じくイケメンムーブをかます店長にトゥンクと胸をときめかせていた。
元勇者達の店は福利厚生も手厚く、給料も良いと評判だ。残業代という追加賃金も出るらしい。
ゲンゾウさんの店も繁盛していた。
元々デザインセンスのあるゲンゾウさんの武具は最近流行りである芸術武具としても注目を集め始めている。それ以外にも裏でアナホと言うアダルトグッズを販売していたが、相変わらず売れ行き好調との事。
「よぉジュンイチロー、お前んちにも一本どうだ?」
「あ、夫ので足りてます」
「誰が表でそんなど下品な呼び込みするかよ!」
「あっはっはっは!」
ゲンゾウさん自身も相変わらずである。
支配人に呼ばれていたので、娼館へ赴いた。
退職する男娼の勃起不全を治す為に、娼館の一室で俺は男娼と肌を重ねる。
『ギシ……ギィ、』
「っ……ん、ぅ」
「勃ってる……ちゃんと、気持ちいい……」
「はぁ、もっと……集中して、気持ち良くなって……」
「うん……ふわ、っ……凄い……お尻、こんな……あっ」
「んん! 大、丈夫……大丈夫だから、いっぱい出して」
俺を抱きながら乱れる男娼の頭を抱え込み優しく髪を撫でると、男娼の目からはポロリと涙が零れた。
嗚咽混じりに腰を振り続けて、何度も果てていた。
最後にはいつもスッキリした晴れやかな表情で、男に戻った元男娼は俺に礼を告げた。
ベッドで一人、一息付いていると支配人が部屋に入ってきた。
「ありがとうございます。ジュンイチロー」
「いえ、俺も助けになれて嬉しいです」
支配人に労われ、温かい飲み物を渡される。
「君のおかげで、ココから進んで行ける子達が増えました」
「……経営大丈夫ですか?」
「和平で他国の人がこっちに出稼ぎに来てるので逆に人手は増えてます」
「そうですか。それは良かった」
「ふふ、君の搾精スキルのおかげで、国のいろんな事が好転していますよ」
「あはは、大袈裟ですね。でも、そうなら良いんですけどね」
支配人にお駄賃を貰って、次は冒険者ギルドへ。
「あ、ジュンイチローさん」
「ジュンイチローだ。久しぶりだな」
「元気だったか? 子どもはもう喋ったか?」
「俺は特に変わりなく。うーん……二人とも、まだ意味のある言葉は話してないですね」
今日は冒険者としてではなく、依頼をしに来た。
「ご依頼は、隣国へのお使いですか?」
「はい。まだ、俺の入国許可証が発行されていないので……」
「成る程、承知致しました。それでは、こちらにサインをお願いします」
受付嬢に渡された書類に目を通してサインをしてE級依頼料金の小銅貨三枚を支払い、達成報酬の銅貨5枚ギルドに預けておく。
ギルドを出ようとしたら、ゴドーさんに肩を叩かれた。
「よぉ、ジュンイチロー」
「ああ、お久しぶりです。ゴドーさん」
「お前俺の渡したグローブ失くしたんだってな」
「ギクゥ! あ、あーー……ごめんなさい」
腕切り落とした時、腕ごと失くした。
「ほれ、新しいの」
「え?」
「子どもを抱く大事な手だろ? しっかり保護しとけ」
ゴドーさんから新しいグローブをいただいた。
「あ、ありがとうございます。今度こそ、失くしません」
「そうしろ。じゃあな」
グローブを渡しにきただけだったようだ。ずっと俺を気にかけてくれていたゴドーさんに頭を下げて、ギルドを後にした。
帰路に着いて、家へ続く砂浜を歩く。
ぼんやりと支配人の言葉を思い出していた。
俺の搾精スキルで国が好転した。そう言ってくれた。
「(……エロいだけだと、思ってたのにな)」
『バシャッ!』
「うおっ!?」
突然水をかけられ、驚いて声を上げるとカムフラがこちらへ突っ込んできた衝撃で水飛沫が上がったらしい。
「ヘッヘッヘッ! バフ!」
「迎えに来てくれたのか。あはは、ビシャビシャじゃないか」
カムフラに袖を噛まれてグイグイ引っ張られる。
そのまま打ち寄せる白波を踏み締めながら砂浜を小走りで進んで行くと。
『パシャパシャ』
「きゃふふ!」
「ぱふぅ~」
「ジュン、おかえり」
「……ただいま」
モモがヒカリとアカリを支えて波打ち際で遊んでいた。
「うにゃ!」
「ぴゃぁ!」
俺に気付いてバタバタする双子を抱き上げて歩み寄ってくるモモ。
「パパが帰ったぞー」
ぷにぷにの小さな手を取れば、キュッと指を握られる。
「ヒカリもアカリも、力強くなったなぁ」
「う、あ。ぱー」
「ほう、ぁう」
足をパタパタして歩きたがっている二人を下ろし、四つの手を繋いで浜辺を散歩する。
潮風が心地よく、寄せては返す穏やかな海を眺めていると、自然と笑みが溢れた。
時折視界に入る水遊び中のカムフラは相変わらず可愛い。
「平和だな」
「そうだな」
「「ぱぁぱ」」
「ん? どうし……あれ? 今」
聞き間違えかと思った。
モモと俺を見上げる双子を見下ろすと、クリクリした赤い瞳と目が合う。
「「ぱぁ、ぱ?」」
「うん。うん……パパだよ」
初めて二人が言葉を発してくれた。
俺達を“ぱぱ”と呼んでくれた。
嬉しくて、愛おしくて、思わず目頭が熱くなって、足を止めてしまった。
「ジュンパパが泣いてるぞお前達」
「むー」
「ぁい」
ヒカリとアカリを俺の腕に抱かせて、俺達三人を纏めて抱き締めるモモ。
俺が泣いているのに気付いてカムフラも足元に寄り添ってくれた。
「ジュン、泣くな」
「だって、だって、こんなに嬉しい事はないだろ」
「これからもっと幸せな日々が続くんだ。そんなんじゃ持たないぞ」
「うん、うんっ……」
鼻水をすすりながら顔を上げれば、優しい笑顔を浮かべるモモがいた。
「さぁ、帰ろう」
「……うん」
家族で身を寄せ合い、漣の音を聞きながら歩幅を狭めてゆっくりと歩く。
一定のリズムに揺られた子ども達は夢の中。触れ合う肌から伝わる温もりが、俺に幸せを教えてくれる。
「モモ……」
「なんだ?」
俺は勇者ではない。ただの巻き込まれ転移者だ。おまけにエロいスキルを与えられたおっさんだ。
そんな俺を世界一の幸せ者にしてくれたのは、モモだ。
「好きだ」
「何を今更」
「言いたくなった時にちゃんと言わないと」
「それでは真面に会話ができないだろ」
「常時かよお前……ぷ、あはは!」
ああ……心穏やかだ。清々しい程に。
俺は今、とても満ち足りていて、これ以上何も要らないくらい、モモの愛で満たされている。
「俺、モモと出会えて良かった」
「私も……ジュンと出会えて良かったと、心の底から感じている」
愛の輪郭を愛撫する言葉を囁き合う。
それはやがて熱を帯びていく。
「ジュン……」
「だめ、流石に今は二人が起きる」
「……んぅ」
ちゅっと触れるだけのキスをして、見つめ合いながらクスリと笑う。それから額を合わせて暫く無言で余韻に浸った。
俺の帰る場所。俺の居場所。俺の家族。愛しい子ども達。愛しい俺の魔王。
「モモ、愛してる」
「知ってる」
「いや、お前は俺の愛をまだ知らない。この先何十年もかけてゆっくり教えてやるから覚悟しとけよ」
「……なら、お互いしっかり教え込まなければいけないな」
モモとの時間も、家族としての時間も始まったばかりだ。
「ワウ!」
「カムフラも参戦する気だ」
「三つ巴かぁ……混戦になるな」
これから沢山の時間を共に過ごしていこう。
いつか、子ども達が巣立つその日まで、共に育み、守っていこう。
ずっと、ずっと共に生きていこう。
「あ、家着いた。モモ、扉開けて」
「ほらよ」
「あ、帰ったらちゃんと言わないダメだぞ」
「はいはい」
玄関に入って声を上げる。
「「ただいま」」
俺の人生は一つのハッピーエンドを迎え、そしてココからハッピーライフが続いて行く。
END
街はより活気付き、人々の生活は安定してきている。
俺は毎日のように子ども達の世話をし、子ども達と一緒に遊び、子ども達に勉強を教える日々を送っていた。
時折、バイトとして娼館へ行ったり、王宮にて第二王子が指名した忠誠心の高い信頼出来る者へ能力値の授与を行っている。
その行いが功を奏し、他国で開催された全国から強者を募る武闘大会にて上位と優勝をオーラル王国の兵が独占し、全国にオーラルの武力を知らしめる事に成功した。
それにより周辺国から勇者抜きに一目置かれ、緊迫状態から和平会談まで第一王子が漕ぎ着けた。
美味しい名物料理から、高性能な武器や防具やアクセサリー、気になる噂の娼館まで、見所目白押しの国となり観光客は増えている。
だが、それに伴い。
「おい! 遅過ぎなんだよ! 何分待たせんだ!」
「すみませんお客様。お待たせ致しました、こちらが『バシャ』
「もう要らねえよ」
柄の悪い連中も増えていた。腕に自信があるのか、一般人にイキって横暴な態度を取る者もいる。
折角作ったクレープを叩き落とされ、店員は急いで膝を付いてそれを拾う。
「口で拾えよ」
「まだ食えるぞ。奢ってやるよ」
その様子を柄の悪い男達がニヤニヤと見下した様子で笑っていた。
そんな彼らと店員に気付いて、他の従業員がそこへ顔を出した。
「失敬……商品を受け取らないと言う事は、お客様では無いと言う事ですね」
「あ?」
『ドゴォ!』
男の一人を地面に叩き付けるように殴り付けた。他の二人が身構えるが、敵うわけがない。
店舗展開し始めた店で働く従業員が歴代最強レベルの元勇者であるなど思いもしないだろう。
「舐めた真似してくれんじゃねーか! こちとらお客様だぞ!?」
「金銭も払わず商品を無駄にしたどころか、うちの従業員をコケにするような輩をお客様として歓迎出来る程、聖人ではないので」
そう言いながら殴りかかってきた一人の男を投げ飛ばし、残りの男がナイフを片手に飛び掛かってくる。
が、ナイフを持った男の手を捻り、地面へと押さえつける。
そのまま首筋に手刀を落とすと男はあっさり意識を手放した。
「っ……」
意識のある一人が顔を青ざめて後ずさる。
「さっさと行け。お客様の邪魔だ」
「ひ、ぃっ!」
仲間を引き摺りながらも足早に逃げて行く三人を見て、他の店員達が彼の元へやって来た。
「助かりました、ユウキ店長」
「気にするな。従業員を守るのも仕事のうちだ」
「店長っ!」
一部始終を見ていたお客様も店員と同じくイケメンムーブをかます店長にトゥンクと胸をときめかせていた。
元勇者達の店は福利厚生も手厚く、給料も良いと評判だ。残業代という追加賃金も出るらしい。
ゲンゾウさんの店も繁盛していた。
元々デザインセンスのあるゲンゾウさんの武具は最近流行りである芸術武具としても注目を集め始めている。それ以外にも裏でアナホと言うアダルトグッズを販売していたが、相変わらず売れ行き好調との事。
「よぉジュンイチロー、お前んちにも一本どうだ?」
「あ、夫ので足りてます」
「誰が表でそんなど下品な呼び込みするかよ!」
「あっはっはっは!」
ゲンゾウさん自身も相変わらずである。
支配人に呼ばれていたので、娼館へ赴いた。
退職する男娼の勃起不全を治す為に、娼館の一室で俺は男娼と肌を重ねる。
『ギシ……ギィ、』
「っ……ん、ぅ」
「勃ってる……ちゃんと、気持ちいい……」
「はぁ、もっと……集中して、気持ち良くなって……」
「うん……ふわ、っ……凄い……お尻、こんな……あっ」
「んん! 大、丈夫……大丈夫だから、いっぱい出して」
俺を抱きながら乱れる男娼の頭を抱え込み優しく髪を撫でると、男娼の目からはポロリと涙が零れた。
嗚咽混じりに腰を振り続けて、何度も果てていた。
最後にはいつもスッキリした晴れやかな表情で、男に戻った元男娼は俺に礼を告げた。
ベッドで一人、一息付いていると支配人が部屋に入ってきた。
「ありがとうございます。ジュンイチロー」
「いえ、俺も助けになれて嬉しいです」
支配人に労われ、温かい飲み物を渡される。
「君のおかげで、ココから進んで行ける子達が増えました」
「……経営大丈夫ですか?」
「和平で他国の人がこっちに出稼ぎに来てるので逆に人手は増えてます」
「そうですか。それは良かった」
「ふふ、君の搾精スキルのおかげで、国のいろんな事が好転していますよ」
「あはは、大袈裟ですね。でも、そうなら良いんですけどね」
支配人にお駄賃を貰って、次は冒険者ギルドへ。
「あ、ジュンイチローさん」
「ジュンイチローだ。久しぶりだな」
「元気だったか? 子どもはもう喋ったか?」
「俺は特に変わりなく。うーん……二人とも、まだ意味のある言葉は話してないですね」
今日は冒険者としてではなく、依頼をしに来た。
「ご依頼は、隣国へのお使いですか?」
「はい。まだ、俺の入国許可証が発行されていないので……」
「成る程、承知致しました。それでは、こちらにサインをお願いします」
受付嬢に渡された書類に目を通してサインをしてE級依頼料金の小銅貨三枚を支払い、達成報酬の銅貨5枚ギルドに預けておく。
ギルドを出ようとしたら、ゴドーさんに肩を叩かれた。
「よぉ、ジュンイチロー」
「ああ、お久しぶりです。ゴドーさん」
「お前俺の渡したグローブ失くしたんだってな」
「ギクゥ! あ、あーー……ごめんなさい」
腕切り落とした時、腕ごと失くした。
「ほれ、新しいの」
「え?」
「子どもを抱く大事な手だろ? しっかり保護しとけ」
ゴドーさんから新しいグローブをいただいた。
「あ、ありがとうございます。今度こそ、失くしません」
「そうしろ。じゃあな」
グローブを渡しにきただけだったようだ。ずっと俺を気にかけてくれていたゴドーさんに頭を下げて、ギルドを後にした。
帰路に着いて、家へ続く砂浜を歩く。
ぼんやりと支配人の言葉を思い出していた。
俺の搾精スキルで国が好転した。そう言ってくれた。
「(……エロいだけだと、思ってたのにな)」
『バシャッ!』
「うおっ!?」
突然水をかけられ、驚いて声を上げるとカムフラがこちらへ突っ込んできた衝撃で水飛沫が上がったらしい。
「ヘッヘッヘッ! バフ!」
「迎えに来てくれたのか。あはは、ビシャビシャじゃないか」
カムフラに袖を噛まれてグイグイ引っ張られる。
そのまま打ち寄せる白波を踏み締めながら砂浜を小走りで進んで行くと。
『パシャパシャ』
「きゃふふ!」
「ぱふぅ~」
「ジュン、おかえり」
「……ただいま」
モモがヒカリとアカリを支えて波打ち際で遊んでいた。
「うにゃ!」
「ぴゃぁ!」
俺に気付いてバタバタする双子を抱き上げて歩み寄ってくるモモ。
「パパが帰ったぞー」
ぷにぷにの小さな手を取れば、キュッと指を握られる。
「ヒカリもアカリも、力強くなったなぁ」
「う、あ。ぱー」
「ほう、ぁう」
足をパタパタして歩きたがっている二人を下ろし、四つの手を繋いで浜辺を散歩する。
潮風が心地よく、寄せては返す穏やかな海を眺めていると、自然と笑みが溢れた。
時折視界に入る水遊び中のカムフラは相変わらず可愛い。
「平和だな」
「そうだな」
「「ぱぁぱ」」
「ん? どうし……あれ? 今」
聞き間違えかと思った。
モモと俺を見上げる双子を見下ろすと、クリクリした赤い瞳と目が合う。
「「ぱぁ、ぱ?」」
「うん。うん……パパだよ」
初めて二人が言葉を発してくれた。
俺達を“ぱぱ”と呼んでくれた。
嬉しくて、愛おしくて、思わず目頭が熱くなって、足を止めてしまった。
「ジュンパパが泣いてるぞお前達」
「むー」
「ぁい」
ヒカリとアカリを俺の腕に抱かせて、俺達三人を纏めて抱き締めるモモ。
俺が泣いているのに気付いてカムフラも足元に寄り添ってくれた。
「ジュン、泣くな」
「だって、だって、こんなに嬉しい事はないだろ」
「これからもっと幸せな日々が続くんだ。そんなんじゃ持たないぞ」
「うん、うんっ……」
鼻水をすすりながら顔を上げれば、優しい笑顔を浮かべるモモがいた。
「さぁ、帰ろう」
「……うん」
家族で身を寄せ合い、漣の音を聞きながら歩幅を狭めてゆっくりと歩く。
一定のリズムに揺られた子ども達は夢の中。触れ合う肌から伝わる温もりが、俺に幸せを教えてくれる。
「モモ……」
「なんだ?」
俺は勇者ではない。ただの巻き込まれ転移者だ。おまけにエロいスキルを与えられたおっさんだ。
そんな俺を世界一の幸せ者にしてくれたのは、モモだ。
「好きだ」
「何を今更」
「言いたくなった時にちゃんと言わないと」
「それでは真面に会話ができないだろ」
「常時かよお前……ぷ、あはは!」
ああ……心穏やかだ。清々しい程に。
俺は今、とても満ち足りていて、これ以上何も要らないくらい、モモの愛で満たされている。
「俺、モモと出会えて良かった」
「私も……ジュンと出会えて良かったと、心の底から感じている」
愛の輪郭を愛撫する言葉を囁き合う。
それはやがて熱を帯びていく。
「ジュン……」
「だめ、流石に今は二人が起きる」
「……んぅ」
ちゅっと触れるだけのキスをして、見つめ合いながらクスリと笑う。それから額を合わせて暫く無言で余韻に浸った。
俺の帰る場所。俺の居場所。俺の家族。愛しい子ども達。愛しい俺の魔王。
「モモ、愛してる」
「知ってる」
「いや、お前は俺の愛をまだ知らない。この先何十年もかけてゆっくり教えてやるから覚悟しとけよ」
「……なら、お互いしっかり教え込まなければいけないな」
モモとの時間も、家族としての時間も始まったばかりだ。
「ワウ!」
「カムフラも参戦する気だ」
「三つ巴かぁ……混戦になるな」
これから沢山の時間を共に過ごしていこう。
いつか、子ども達が巣立つその日まで、共に育み、守っていこう。
ずっと、ずっと共に生きていこう。
「あ、家着いた。モモ、扉開けて」
「ほらよ」
「あ、帰ったらちゃんと言わないダメだぞ」
「はいはい」
玄関に入って声を上げる。
「「ただいま」」
俺の人生は一つのハッピーエンドを迎え、そしてココからハッピーライフが続いて行く。
END
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