巻き込まれ転移者の特殊スキルはエロいだけではないようです。

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30・不思議な人生の山と谷

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 王宮で報告を済ませて、第一王子から魔王討伐の報酬を俺へ贈りたいと申し出を受けたが……なんでも望む物を与えると言われてしまった。
 俺は、海辺に一軒家が欲しいと言ったところ、三日で建ってしまった。
 一応、建築士の方と内装の相談はした。王宮お抱えだけあって腕が良い。利便性を重視してくれてた間取りだ。
 広いリビングとキッチン、トイレは一階と二階に一つづつ、大きなお風呂場。
 部屋数は五つに客間は一つ、二階建てでコレまた広い庭付きだなんて素晴らしい。
 俺達用の寝室には、クイーンサイズのベッドが置かれていた。
 広いと掃除が大変だが、まぁモモの触手に頼ろう。

「ジュン、荷解きは置いといてこっちに来い」
「ん?」

 モモに呼ばれて水槽に顔を出すと、卵の中身が見えるようになっていた。

「わ、わ! 透けて見えるようになってる!」
「そうだ。産まれる準備が整ったんだろう。殻にひびが入った」
「お!」

 ピシッと半透明の殻にヒビ割れている部分があり、そこから子どもの素肌が覗いていた。
 子どもの身体が、ゆっくりと殻を破っていくのを眺めていたら『パチン』という可愛らしい音と共に小さな……本当に小さな俺達の子どもが水の中で産まれた。
 モモの言っていた通り、ウシガイより人寄りの姿。手はあるが足は無くクリオネの下半身のようだった。その身体にピンク色の模様浮き出ている。
 二対の触覚が覗く黒髪を揺蕩わせ、赤い瞳を瞬かせる赤ちゃんがプルプルと震えながらも自力で水の中を泳ぎ始める。

「泳いだ!」
「あぁ、可愛いだろう?」
「すげぇ……」
「ほら、もう一方も出るぞ」

 もう片側にも同じようにひびが入り始め、中から同じ姿の子どもが産まれてきた。
 
「こっちは雌だ。兄と妹の双子だぞ……はは、妹のが泳ぎが上手いな」
「…………」

 掌サイズの赤ちゃん達が一生懸命、必死に泳ぐ姿をみて、言葉が出なかった。
 ただ、ただ感動していた。

「ちいさい……」

 俺は……この瞬間を、この子達に巡り会う為に頑張って来たのだなと、そんな気持ちにさせられた。
 モモの言うように妹の方が泳ぐのが早く、追いつく為に兄が少し焦ってるように見える。
 それが、なんだか微笑ましく水槽に手を当てると二人がよちよちと泳いで俺の手に触れようとガラスに身体をくっつけてきた。

「ジュン、水中で抱いてやれ」
「うん」

 モモが水槽の蓋を開ける。
 俺は、両手を器にして中に入れれば、二人が片手づつに収まった。恐る恐る我が子を指で撫でる。

「……ふ、ぁ……うっ」
「泣いてるのか? ジュン、どうした?」
「ごめ、なんか、涙出てきた」

 胸の奥から、込み上げてくるものが抑えられない。こんな経験は初めてだった。

『生まれて来てくれてありがとう』
『俺の家族になってくれてありがとう』

 伝えたいことが多すぎて、言葉にならない。
 けれど……一番、言いたい事は決まっていた。

「愛してる……俺が、絶対、お前達を守るよ」

 モモは何も言わずに、泣きじゃくる俺を抱き締めてくれた。それだけで、十分すぎるほど幸せだった。
 掌の生命が精一杯俺に身体を擦り付けるものだから、俺の頬を伝うものが増えてしまったのはご愛敬である。

「特に気になるところはない。さぁ、早速水槽の引越しだぞ」
「ズビ……うん」

 モモと二人の子ども達を新しい水槽へ移す。ベビーベッドのようなものだ。
 初めてのご飯は魚のすり身だ。

「この卵の殻は?」
「水に溶けるか、土に還る」
「欠片だけでも保存しておけないか?」
「なんだ? 欲しいのか?」
「……人間は、自分と子を繋いでいた臍の緒を残しておくんだ。無病息災を願う為だとかなんだけど」

 魔物のモモはピンときていない様子だったが、俺の願いを聞き入れてくれた。

「なるほど。何かと縁起を担ぐ人間らしい。うーん、そうだな。水気を切って、綿で包んで箱に入れて置けば少し縮むが保管には問題ないだろう」
「ありがとうモモ」

 水気を取り、乾燥させた後綿を敷き詰めた木箱に結局、卵の殻を丸々入れた。
 二つ分。箱に名前を書いておく。

「兄がヒカリ、妹がアカリ……良い名だ」
「自分でもそう思う」

 ヒカリとアカリ。
 ありきたりかもしれないが、この世界にも馴染める名だ。
 新しい水槽でよちよち泳ぐ二人を、モモと見つめる。
 人間の子どもとは違ってずっと小さいが、ちゃんと生きている。
 これから沢山成長をするのだろう。
 俺はこの子達の親として立派にやっていけるのだろうか?
 その答えはわからない。
 でも、一生懸命やっていこう。

※※※

 双子生誕一ヶ月後。

「きゅ、きゅぃ」
「きゅー」
「声帯が出来てきたみたい」
「なら肺も結構出来てきてるはずだ」

 水中で身体を洗っている最中、喉を絞り、音を出す。モモが言うには、抗議の声だと言う。撫でられるのと洗われる違いがわかっているようで、ゴシゴシされるのがいやらしい。
 一ヶ月で両掌サイズに育ち、ますます人っぽくなってきた。

『パシャ』
「あ、アカリの一本足に亀裂がある。怪我しちゃったのか?」
「それは一本脚が二本脚になる為の切れ目だ。泳ぎが上手い分、脚にかかる力が強い。このまま裂けても問題はない」
「なるほど」

 モモが居てくれてよかった。子育て経験と知識が半端なく活かされている。
 
「きゅぅ」
「可愛い……頭の触手がピコピコ動いてる」
「…………」
『ピコピコピコピコ』
「ぷっ! 赤ちゃんに対抗するんじゃない。あはは、モモも可愛い可愛い」

 人型状態で頭に触手をわざわざ生やして大袈裟にピコピコ動かすモモが可愛い。
 そんな尊い日々の中、カムフラはほぼ毎晩、森や山を駆け回っている。
 そして、その嗅覚であるものを持って帰ってくる。

『ゴトン、ゴロ』
「バフ!」
「! おかえり、カムフラ。今日も頑張ったな」
「ヘッヘッヘッ!」

 土で汚れた魔石だ。土に埋まっている、いや……埋められている魔石を掘り返して回収している。
 カムフラの嗅覚と仲間を殺した魔石への執念が功を奏して、この短期間でかなりの数を確保出来た。
 換毛期は終えたので、痕跡もあまり残っていないだろう。
 万が一、人間に見つかって殺されてしまわないように、スキルの能力値供与を使用してカムフラの能力値を飛躍的上昇させておいた。
 与えた分、俺の能力値は下がるが、問題ない。何故なら、追加分から分配出来るからだ。

名:ハラノ ジュンイチロー
LV:69
HP:4180/4180(+116539)
MP:0(+10051)
ATK:3275(+18028)
EDF:3275(+18028)
スキル:搾精超強化Lv4、肉体性感度(極)
    ∟搾精スキル抽出
     ∟魅了Lv2、鑑定LvMax、気配遮断、追跡、生成術Lv3、状態異常耐性(中)
神聖治癒術LvMax
 ∟能力値供与
 ∟再生治癒術Lv3

名:カムフラ
種:森狼
LV:20
HP:1185(+30000)
MP:205(+2000)
ATK:300(+1500)
EDF:255(+1500)
スキル:疾風Lv2、追跡、魔力耐性(小)

 そして、カムフラは面白いスキルを持っている。

疾風:10段階ある速度階級3番目にあたる。使用者の素早さを向上させる効果があり、階級が上がる毎にスキル名称も変わる。

速度階級:1から10まであり、数字が大きくなる程に上昇するスピードは上がる。
軟風なんぷう和風わふう疾風しっぷう雄風ゆうふう強風きょうふう疾強風しっきょうふう大強風だいきょうふう暴風ぼうふう烈風れっぷう颶風ぐふうの10段階である。

 竜種のとある小柄な種族のみが颶風まで極められるというが、もしかしてそれって、スカイフィッシュじゃないか?
 どろんこのカムフラを水遊び兼ねて庭で綺麗にしてやり、木の実で煮込んだ骨付き肉をあげる。美味そうに食べてくれるのが嬉しい。

「(流石にカムフラから精を摂る気にはなれないな)」
「バフゥ……」
「良い子良い子……お前はとってもお利口さんだなぁ。カムフラ」

 抱き締めて撫で回してやると、尻尾を振って喜んでくれる。癒される……これがアニマルセラピーなのか。
 ほっこりとしたらモモとの寝室へ向かう。
 ベッドでモモに相談する。

「そろそろ魔石処分しないと……どうしよう」
「ただ売ると足が付く可能性があるからか?」
「そう……魔王を産む種を掻っ攫ってるわけだし」
「…………そうだな。あのバトルアックスも大概だが、あまり家に魔石があるとチビ達に悪影響が出る」

 子どもや周囲の魔物の為にも、早めになんとかしたい。

「…………うーーん……生成で、宝石みたいに加工して売ればなんとかなる?」
「なら不純物混ぜとけ。魔石の純度を落とせば質も価値も落ちて目立たないはずだ」
「なるほど。モモ賢ーい」
「ふふん」

 イチャイチャとスキンシップをしつつ、くっついていれば、いつの間にか眠っていて……朝には水音で起きる。

『パシャパシャ』
「んあ……あ、はいはい」

 夜泣きが無い分通常の子どもより余裕を持てる。授乳も必要ないし。
 けれど、注意する事はあまり変わらない。

「ご飯だぞ~お腹減ったな」
「きゅぅ」
「きゅい」
「よしよし、排泄も出来てる。水槽もすぐに綺麗にするからな」

 清潔と安全を保ち、なるべく一緒に過ごすようにしている。
 寝床用の水槽から食事用の水槽へ双子を移動させ、ご飯を与える。
 
「いっぱい食べて、大きくなれよ」

 健やかなる健康を祈る日々は続く。
 そして、魔石に染料を混ぜ込んで純度を落として宝石のように生成加工した。
 それを鑑定士の元へ持ち込んで、通常の十分の一の価格で引き取ってもらえた。
 それでも金貨1枚と銀貨5枚だ。

「……もっと買取価格安くなんないですか?」
「あんたイカれてんのか? 普通ならもっと高値で買い取れって言うもんだろ」

 紳士服を着込んだ鑑定士のお爺さんがモノクルを外して俺を睨んでくる。

「こっちも信用商売だ。価値あるものは適切な値段で取引させてもらう。金が要らなかろうが、持ち込んだからには受け取るものだ。純度は低いが美しい。防具に嵌め込むには見栄えは十分。高価なアクセサリーにするには加工が未熟だがな」
「……そうですか」

 未熟……そりゃ、そうだ。ゲンゾウさんみたいに職人やってるわけでもないし、器用でもない。見様見真似の拙さはある。
 でも、なんか……ちょっと、そう言われると悔しいな。根性論は嫌いだけど、俺の性格は根性に寄ってるのかもしれない。

「(金貨……どうすっかな)」

 この街には両替所はあるが、金を預けられる場所がない。銀行があるのはもっと栄えた王都などだ。
 大金を持っていると、なんだかいらない面倒事が起きそうだ。
 貯金は大事だが、金庫のスペースにも限界がある。
 実は結構パンパン。新しい金庫を買うか、中身を減らすか。
 貨幣の価値を自分の価値に落とし込んで考えているが、こんな感じ。
 小銅貨が百円ぐらいで、お小遣いとして優秀だ。銅貨が千円ぐらい。買い物で重宝してる。銀貨が一万ぐらい。何気に増減が一番激しい。金貨で十万ぐらい。実は娼館のチップや討伐の報酬を両替したら結構な金貨に化て金庫のスペースを食っている。俺が貧乏性で大きな買い物しなのもあって貯まっている。金貨は他のより分厚いから少し減らしたい。
 金貨の上にある白金貨が百万ぐらい。両替出来るが、絶対に白金貨への両替はしない。
 国によって価値は変動するらしいが、国を出る気はないので、その辺は気にしていない。

「モモ、なんか欲しい物ある?」
「別に。ジュンが居ればいい」
「俺だって、もう欲しいもの全部側にあるしな……今後魔石を加工して売っていったら貯まる一方だ」

 乞食に配っていた時期もあったが、近場の乞食達が立ち直って居なくなってしまった為、行き所がない。
 なんて贅沢な悩みだ。

「(家も結局無償で貰ったし、家賃もない。丈夫な家具も揃ってる)」

 本当にどうしよう。
 金庫を開けて、金貨の数を数えてみた。

「…………237枚」

 思った以上にあった。いや、引っ越しや家を建てるのに200枚ぐらいぶっ飛ぶと思ってたから……銀貨5枚も入らないぐらいギチギチだ。

「なぁ~モモ~、金貨100枚(約一千万円)使っても違和感無い場所ってある?」
「……賭博?」
「万が一にも勝ったら、億万長者になっちまう。そんな危ない博打出来ないって」
「言ってる事おかしいだろ」

 うん。自覚してる。けど、日本のように幾ら貯金しても足りない程、物価が高いわけでも、税の種類があるわけでもない。
 ココでは子どもを育て抜くのに、金貨5枚と言われている。学校に行っても追加の金貨2枚。
 子どもへの資産にしても多過ぎる。

「じゃあ、娼館にでも行くか?」
「……それだ!!!!」
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