巻き込まれ転移者の特殊スキルはエロいだけではないようです。

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28・帰還と進展

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 オーラル王国の騎士がフェル火山の麓で、純一郎の下山を朝から待機していた。

「もう夜になるぞ。カリン様が単独で魔王討伐なんて無茶な注文をするから……」
「けれど、カリン様も考え無しに行かせないだろう。何せ、相手はあの黒竜を倒したお方なのだからな」

 お国の救世主。彼等にとっては勇者に等しい存在。
 そんな彼を無闇に死にに行かせる程、第一王子は愚かではない。

「ん? おい、あれ!」
「あ!」

 騎士達が山を見上げて声を上げる。
 その視線の先には、ボロボロの防具で何かを引きずり裸足で下山してくる純一郎だった。
 その姿を見た騎士達は安堵の表情を浮かべる。
 どうやら無事だったようだ。そう思った矢先、彼等の顔が凍り付いた。
 純一郎が引きずっていたのは、二角紅蓮の巨大な頭と魔石。そして、純一郎の防具は大量の血に塗れ、冷え固まったマグマが体にへばり付いていた。
 破落戸ならずもののような格好の彼に一人の騎士が駆け寄り、声をかける。
 純一郎と護衛任務で面識のある騎士だった。

「ジュンイチロー殿!」

 騎士が肩に手を置いた瞬間、純一郎はそのまま地面に崩れ落ちた。
 彼の身体からは白い湯気が上がっていた。そして、火山にいたと言うのに、身体は氷水を被ったように冷え切っていた。

「息はしてる」
「山で何があったんだ?」

 身体を触り、脈を測ると微かにだが動いているが、意識を失った原因もわからないままだ。
 騎士達は急いで純一郎を担ぎ上げ、急ぎ王宮へ馬を走らせた。

 純一郎が目を覚ましたのは、魔王を討伐して二日後の事だった。

「……ぅ、ん?」
「ジュンイチロー様!」
「…………聖女様?」
「よかったぁ……」

 泣きそうな顔の聖女マナリアの顔が、寝起きの視界に飛び込んできた純一郎は微妙な顔をしていた。

「俺は……どれぐらい寝てたんですか?」
「二日間です」
「ふ、二日間!?」
『ガバ!』
「まだ安静に! 高熱が下がったばかりなのですよ!」

 勢いよくベッドから上半身を起こしたが、マナリアの言葉通り、全身には酷い倦怠感が残っていた。
 そのまま前のめりに布団へ倒れ込む純一郎。
 
「……家族が、家で待ってるんです。帰らなければ……はぁ、俺、どうやって歩いて……?」

 魔王を倒してから、自分がどうやって帰って来たのか記憶に無いらしい。
 途中から作業となったフェルナンドサーチライトの対処と四肢の切断。
 気を程々に遠くしておかなければ、発狂してしまいそうな激痛の中で、再生治癒術とアイスウォーターを機械的に発動させていた。

「…………魔石は?」
「ご安心ください。半分は、ジュンイチロー様が持ってきてくださったので……昨日、ドトーリン王子の指揮下の騎士達が、残りの魔石を掘り返しに行ったそうです」
「そうですか……はぁ……まさか、菌が魔王になるとは…………予想外過ぎる」

 純一郎は溜息を吐きながら、マナリアに支えられながらなんとか立ち上がった。

「早く帰らないと……」
「ご家族の事も気掛かりでしょうが、自分の身も大切にしてください」
「…………俺は自分の心を大切にしています。だから、一秒でも早く、家族に会いたいんです」
「……わかりました。後日、こちらの報告書を提出してください……」

 マナリアから書類を受け取って、純一郎はバトルアックスを杖にして王宮を後にしようとしていた。
 しかし王宮の門でドトーリン王子と鉢合わせてしまった。

「ジュンイチロー殿! お目覚めか!」
「王子……」

 血相をかいて彼に駆け寄り、アックスを持つ手を取った。

「……?」
「…………すまない……一人で行かせるべきではなかった」
「いえ、そんな。俺が了承した事です。対処がわかったら、後半は作業でしたよ」
「……28」

 その数字が何を意味するか、純一郎はわからず首を傾げた。

「28本……全く同じ大きさと特徴を持つ人間の手足があった」
「……王子、そんなお気になさらず。もう済んだ事です。俺は家族の元へ帰ります」
「ならば家までは送ろう。歩くのはまだキツイだろう」

 ドトーリンの言葉に少々思考したが、純一郎は送ってもらう事となった。
 馬車に揺られ、純一郎は自分の手を見つめ、動きを確認している。
 身体にこびりついていたマグマは剥がされ、冷え切った体は元の体温へ戻っているが、HPが戻りきっていない為気怠さが残っていた。
 防具は自動修正で元には戻っていたが、血の汚れがベッタリと付いていた。

「……当分、魔王は現れないだろう。ゆっくり休んでくれ」
「そうさせていただきます」

 馬車が止まり、ドトーリンは先に降りた。
 そして、純一郎に手を差し出す。

「王子、そのような事を俺には」
「怪我人を労わるくらい許してくれ」

 紳士的な対応に困った表情を浮かべる純一郎だったが、諦めたようにドトーリンの手を取る。
 支えてもらい、降車する。

「それでは、後日報告兼ねてお伺いします」
「ああ。気長に待っている」
「ジュン!」
「!」

 後ろから純一郎を呼ぶ声がする。
 振り向けば、尻尾を振り乱すカムフラと両手を広げこちらに走ってくるモモがいた。
 純一郎は嬉しさに顔を歪めて、両腕を広げて受け止める。

『ガバッ』
「ジュン、遅いぞ! 遅過ぎる!」
「ごめん……」
「フゥン、クゥークゥーン」
「カムフラも、心配かけてごめんな?」

 ドトーリンは、その光景を見て笑みを浮かべ、何も言わずにサラリとその場を後にし王宮へと戻った。
 そして、執務室でドトーリンは魔王討伐現場の惨状を思い出していた。
 
「……アレを一人で」

 魔王を単独での討伐を成功させた純一郎。大量の魔物の抜け殻と菌に侵された手足の残骸。
 
『コンコンコン』
「!」
「私だ」
「兄上、どうぞ」

 今回はノックをして、返事を聞いてから入室してきたのはドトーリンの兄である第一王子のカリンだった。

「今回の件の報告はお待ちください」
「ああ。待たせてもらおう。それで、本当に一人で魔王を?」
「はい。現場を見る限りでは、菌に感染した側から手足を切り落とし、再生治癒術を使って身体を再生させながら戦っていたようです」
「…………なんと、勇ましくも狂気的な戦い方をする奴だ」

 純一郎の戦い方に眉を寄せたカリンだが、それ以上は言葉が出なかった。
 ただ、自分の命令通りに事を完遂した純一郎の評価は、カリンの中で大いに上がった。

「面白いな」
「……兄上、魅了に弱いんですから、好奇心でジュンイチロー殿に近付いたら危ないですよ」
「魅了があっても一時の事だ。問題はない」

 ドトーリンが呆れたように溜息を吐く。今回は任を命じたカリンから純一郎へ直々に報酬が手渡される事となった。
 ドトーリンの執務室を後にしたカリンは次にこの国の王、ガラドーラン・J・エルコンドルの執務室へと向かった。

「父上」
「カリンか。どうであったドトーリンの様子は」
「少々気が落ちていましたが、業務には差し違えないかと」
「……ドトーリンは優し過ぎる。人の心に寄り添ってしまうからな。此度のジュンイチローの働きは見事なものだと耳には入った」

 書類を見ながら話す国王は顔を上げず続ける。

「あのような力で、魔王討伐を果たすとは……恐ろしい男よ。どれほどの行為を積めばそれほどの力を得られるのか検討もつかん」
「はい。その力を自国に留めておけるよう、親交を深めるべきでしょう」
「うむ。今回の魔王は自然発生のもの。人為的なものよりずっと厄介であったはずだ。金にも物にも糸目は付けず与えよ」
「かしこまりました」

 書類から視線を上げた王は少し目を細め、カリンへ微笑んだ。

「お前も食われぬようにな」
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