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27・覚悟と度胸と狂気の勝利
しおりを挟むやはりリスクは避けられないな。
体勢を屈めて両足に力を込め、地面を抉り飛ばす勢いで前へ跳ぶ。
『ドゴォ!』
片手でバトルアックスを振るい、二角紅蓮の後ろ足を切り裂いて、バランスを崩させ、背後からアイスウォーターを直接表皮にぶち当てる。
『ドバシャン!』
「(どうだ!?)」
『ザシュン!』
触れていた掌を針が何本も貫通する。
しかし、針を覆っていた菌はボロボロと剥がれ落ちていった。
『ズルッ!』
「くぅ~~、イッテェな……」
手を引き抜いて距離を取りながら急いで冷水を浴びる。
「お……」
『ヨロ……』
菌が一部死滅したようで、背中がベコリと凹んでいる。
コレならいける!!
『ジュグン!』
「い゛ッ!?」
貫かれた手の内が刺すような痛みが走る。人差し指の爪が割れ、そこから青光りの糸が這い出て来た。
「(流しきれてなかったか!)」
菌糸が皮膚の下へどんどん潜っていく感覚が痛みで伝わる。
マズい! 早く方を付けなければ!
「(ごめんモモ! 直ぐには帰れないかも!!)」
こうなっては時間が無い!
覚悟を決めて、二角紅蓮へ再度突撃をかます。
だが、俺の行動は想定内だったようだ。
「なっ」
『シュラララ』
凹んだ背中がバックリと割れ、幾億本もの菌糸が絡み合いまるで生き物のようにうねって、飛び出した。
鞭の如くしなる光の縄が何本も縦横無尽に振り回される。
『ヒュン! ヒュン! シュ!』
「うぉ!」
俺は必死に避けて、時にはアックスで弾き、斬り裂いたが、奴の菌糸は伸縮自在らしく、いくら斬っても瞬時に生え変わる。
それどころか、切断された菌糸は本体から離れても冷水をかけない限り地を張って俺の足に絡みつこうと伸びてくる。
そして、菌糸の縄以外にも二角紅蓮の薙ぎ払いや、体当たりなども攻撃に加わってきた。
それでも捌けているのは、黒竜の経験があるからだ。アイツの方が一撃一撃が重くて早かった。
「(コイツのスピードも大した事は無い……でも)」
『ドッ!』
「うわあ!」
奴の体当たりを食らって、後方へと吹っ飛ばされた。
そのまま地面に激突するかと思ったが、俺が飛ばされた先にはマグマ溜まり。
『ドボ!』
「ギャッ! あっづい! あづ!」
致命傷には至らないが、マグマが熱いし痛いし、熱い!!
『ジュグジュグ』
「ああ、ちくしょう……!」
アイスウォーターを担当する左手が痛い。
放つついでに冷やしている分、進行は遅いが着実に菌は俺の中で増殖している。
右手に握るバトルアックスに力を込める。
アイスウォーターを撒き散らしながら、再び撃ち合いに持ち込んだ。
『ザン! ザン! ズザン!』
「オラァ!!」
削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って! 全然終わりが見えない!!
『ジュボル……』
「は!?」
唐突に菌糸の縄がマグマ溜まりに突っ込まれて、俺の方へマグマを掬い投げてきた。
『バドン!』
「こ、コイツ!!」
俺が嫌がる事を平然と……なんて野郎だ!!
怒りに任せてアックスを横一閃して溶岩の塊を切り落とす。しかし、その瞬間を狙っていたかのように奴は突進してきた。
二角紅蓮の薙ぎ払いを避ける。すると、逃げた場所の地中から菌糸の縄が突き出されて脚を絡み取る。
慌てて振り解くが、今度は頭上に現れた菌糸の鞭が降り注ぐ。
それをアックスを盾にして受け止める。だが、横っ腹を引っ叩かれた衝撃で吹き飛ぶ。
すぐに受け身を取って起き上がって追撃を躱す。
「(……対応されてるな)」
俺の戦い方を学習され、見切って来ている。
ならどう戦う。どうすれば勝てる。
考えれば考える程、自分の動きが鈍くなっている事に気付く。
蝕まれる痛みに焦っている。
死ぬような痛みではないが、コレを放置して長丁場で戦闘を続ければ死に至る。
『バドン! バッボン!』
またもマグマが投擲された。同時にこちらに向かってくる二角紅蓮の身体。
やらなければ、やらなければならない。
うぅ、痛いだろうな。きっと。
でも、やらなきゃ死ぬ。
「おっらぁああ!!」
『ドゴォン!』
左拳を振り上げて、マグマを無視して二角紅蓮の首元に叩き込む。
皮を突き破り、体内に入り込んだ拳を広げれば、爪と肉の隙間や傷口から菌糸が強引に潜り込んでくる激痛に歯を食い縛る。
「(アイス、ウォーター!!)」
『ドッバァ!』
直接体内に放出される冷水により、フェルナンドサーチライトが内部でどんどん崩れていくのが伝わってくる。
俺を引き離そうと、俺の身体に爪を、肩に牙を突き立てられるが、食い込む事はない。
二角紅蓮の亡骸が持つ攻撃力より俺の方が防御力が勝っている。聖女の鎧の差でな。
ものの数秒で、二角紅蓮の全身に行き届いたのか俺に突き立てていた爪も牙もズルリと脱力し地面に巨体がズシャリと落ちる。薄っぺらくなった皮の中からボロボロと残骸が零れ落ちていく。
これでもう大丈夫……と言いたい所だが、菌が完全に死滅したわけではない。
「はぁ……はぁ……」
息が荒くなる。疲れからではなく、今からしなければならない事に対する緊張と恐怖からだ。
『ズキン、ズキン』
『グジュ……』
マスクを外し、布を噛み締めたら、二の腕を縛る。
抉り出しても、手の中を細く伸びた菌糸を全ては取り除く事は出来ない。
……腕を、切断するしかない。
HPは十分にある。
バトルアックスを短く持ち、刃を地面に置いた左腕に振り翳し──
「フーッ……フーッ……フッ!」
『ドシュ!!』
俺の防御力と攻撃力は同じ数値であり、聖女の鎧とバトルアックスの上乗せだと、こうなる。
「うう、あああ、ぐうう……あああああああ!!!」
聖女の鎧の方が若干上回る。だから、何度も何度も斬り付けなければならない。
『ドシュ! バキィ、メキョ…ギリ、ドス!』
「ハァ、は、ぐっ! ウウッ!」
気が遠くなる痛みだ。けれど、モタモタしていたら、菌糸が切断位置を越えてやり直しになる。
『ザシュン!!』
「ぐぅうう……ひ、ふぅ、ひっく」
二の腕部分で切断し、断面に光の糸を確認する。
「(無い……けど、万が一の為に冷水を)」
『ジョバ……』
「うがっ! ううううう!!」
痛みに悶えながら、急いで切断した箇所に魔力を集中させる。
「あ、ぁあ……聖女様……聖女様ぁ、あなたが、ふたなりで、本当に……良かった…………再生」
神聖治癒術の派生スキル。再生治癒術のスキルによる四肢欠損さえ治せる特殊魔法
淡い緑の光に包まれながら、左腕の断面から新たに左手が再生されていく。
「はぁ……はぁ……はは、マジか」
痛みが消えた訳じゃないが、左手を動かしても違和感は無い。
『ズ……ズズ』
「!」
周囲から急に気配を感じて、咄嵯にバトルアックスを構える。
火口付近へ何かが登ってくる。
「! 一角紅」
遺体となり、横たわっていたはずの一角紅がのそりのそりと俺へ向かってくるのが見えた。
しかも……一体じゃない。
『ズズズ……ズン、ズズン』
「おいおい、冗談だろ?」
道中で見かけた亡骸の魔物達がゾンビのような行進をしているのが見える。
全員、身体中に青い光が付着していた。
短時間で死滅させる方法はわかったが、それに伴うリスクに俺は苦笑いを浮かべる。
そして、もう一度、覚悟を決める。
「やってやるさ……かかってこい魔王共……一匹残らず水浸しにしてやる!」
俺と魔王共の地獄のような戦闘は延々と続いた。
そこら中に魔物とフェルナンドサーチライトの残骸、菌に侵され、斬り落とした俺の腕や脚が転がっている。
「はーっ、はーっ……ゲホッ、ゴホゴホッ! ぉえ!」
陽が傾き、空に一番星が煌めいた時、戦いは漸く終わりを迎えた。
「(モモと……セックスしておいて、良かった……)」
名:ハラノ ジュンイチロー
LV:69
HP:51/4180(+0/136539)
MP:0(+11051)
ATK:3275(+18528)
EDF:3275(+18528)
スキル:搾精超強化Lv4、肉体性感度(極)
∟搾精スキル抽出
∟魅了Lv2、鑑定LvMax、気配遮断、追跡、生成術Lv3、状態異常耐性(中)
神聖治癒術LvMax
∟能力値供与
∟再生治癒術Lv3
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