巻き込まれ転移者の特殊スキルはエロいだけではないようです。

7ズ

文字の大きさ
上 下
27 / 48

26・火口の魔王

しおりを挟む
 朝日もまだ水平線の向こうに沈んでいる時間帯に俺は身支度を整え、家を出ていた。
 昨日のヤバいセックスの所為でステータス値がヤバい事になってる。

名:ハラノ ジュンイチロー
LV:69
HP:4180(+136539)
MP:0(+11755)
ATK:3275(+18528)
EDF:3275(+18528)
スキル:搾精超強化Lv4、肉体性感度(極)
    ∟搾精スキル抽出
     ∟魅了Lv2、鑑定LvMax、気配遮断、追跡、生成術Lv3、状態異常耐性(中)
神聖治癒術LvMax
 ∟能力値供与
 ∟再生治癒術Lv3


 人間のレベルは上限Max100。それ以上はステータス値は上がらず、年齢と共に数値が落ちて行くらしい。
 しかし、スキル効果で増加しているステータス値は100レベルの上限数値も超え、老化による衰えの影響も受け難い。
 長生き出来そうだ。

「(長生き出来るかは、魔王に勝てればの話になるが……)」

 専用マスクを着用した状態でフェル火山を登り始めた。
 よくこんな場所で魔王が発生したものだ。人為的でも結構難しそうだ。今回は自然発生なのかも知れない。

「……あ?」

 魔王が発生すると他の小動物含めて魔物達は逃げ出してしまうらしいが……見覚えのある魔物の遺体が道端に横たわっていた。

一角紅いっかくべに……」

 前足の折れた一角紅。聖女様を襲ったヤツだな。行き場が無く、フェル火山に戻ってきたところで力尽きたようだ。
 体にはフェル火山に群生している遺体の養分と魔力を吸い取る腐生菌が根を張り、青々と発光している。

「?」

 一角紅の側に大きな足跡があった。追跡を使うまでもない。魔力に引かれて菌が発生しており、頂上へ向かって光が点々と続いている。
 その道中には一角紅と同じように命を落とした魔物達が転がって光っていた。
 足跡を辿って獣の山道を登る。火山灰で、視界が悪く、しっかり踏み込まなければ危険な程足場は悪かった。
 マグマ溜まりもあり、落ちたらただでは済まない。
 そして……その足跡の終着点は山頂の火口付近だった。

『ゴオオオォッ! 』

 火口からは煙が上がり、その火口近くに何かがいるのが分かった。
 視界が悪過ぎて鑑定が届かない。が、黒煙から見えた身体の一部は巨大で、毛皮に発光する菌が付着していた。
 その巨大な影は俺の姿を確認すると……威嚇するように身を屈めた。
 ゆっくりと足を進め、その姿の全貌が見えてきた。
 赤い巨体の熊の姿。

「(一角紅か……いや、あれは違う!)」

 二本の角を持つ大熊……二角紅蓮ふたかくぐれんだ。

二角紅蓮:活火山の山岳に棲息する大型魔獣。角を使い縄張り争いや狩りを行う。巨体ながら俊敏な動きで獲物を追い詰める。
一角紅の上位種であり、極めて獰猛。

 俺の目の前にいる個体は、体長が5メートルはあるだろうか。
 赤くも青い体毛は逆立たせる奴から放たれる禍々しいオーラが、肌をチリつかせる。

「(……は?)」

 鑑定をしようと二角紅蓮に意識を向けるが、表示された数値に俺は今までにない程困惑した。

種:二角紅蓮
Lv:85
HP :0
MP :125ⅢⅢ
ATK:28005
EDF:10
スキル:ー

 バグっているのか? それとも……いや、そんなはずはない。こんな数値は、流石におかしいと俺でもわかる。
 
「(確かに動いてる……)」

 こちらをしっかり認識して、敵意むき出しにしているにも関わらず、何故か生命力であるHPの数値だけゼロになっていた。
 それにMPもおかしい。下の桁の数字の入れ替わりが激し過ぎる。増減をすごい速さで繰り返している。
 動揺を隠せない俺は、気付けば無意識にバトルアックスを構えていた。
 二角紅蓮は俺の武器を見ると、興味深そうに首を動かして近寄ってくる。
 不気味だ。
 けれど、このまま睨み合っていても何も変わらない。
 意を決して全速力で飛び掛かり、バトルアックスの一撃をお見舞いする。

『サク……』
「あ?」

 二角紅蓮の首が呆気なく胴体と分離する。
 俺の一撃が、簡単に入った。まるで豆腐でも斬ったかのように手応えが無かった。
 俺が強いからとか、そんなんじゃない。手応えが無さすぎる。

『……モゴ……』
「……はぁ!?」

 切り落とされたはずの首の断面がボコボコ泡立ち、糸のような物が落ちた首を拾って、元の位置に繋ぎ合わせる。

「…………うそ、だろ?」

 次から次へと異常事態が起きている事に混乱が止まらない。

『ガッ!』
「くっ」

 一瞬にして距離を詰めて来た二角紅蓮の丸太のような豪腕が襲いかかる。
 咄嵯に反応してバックステップを踏むと、背後にマグマ溜まりがあり、そこへ足を突っ込んでしまった。

『ドボ!』
「熱ぅッ!」

 ジュンッとブーツが溶け焦げる感じがしたが、マグマに足突っ込んで熱いだけで済んでいるのは、防御力と聖女の鎧のおかげだろう。
 
「(……とにかく、動きは黒竜程トリッキーじゃない)」

 俺は、二角紅蓮の両腕を切り落とす連撃を放った。
 やはり、手応え無くボトリと落ちる。
 そもそも避けると言う動作をしない。

「!」

 また、糸が伸びて両腕を繋いだ。

「…………どうなってる」

 再生能力を持っているにしても異常な再生速度。俺が倒した魔物達の死骸も、再生する様子なんてなかった。
 モモは自己再生が出来るがこんなスピーディではない。
 再生するならもっと遅いはずだ。
 
 俺はその後も二角紅蓮に攻撃を叩き込んで観察した。
 そして、やっと気付いた。

「(コイツ二角紅蓮は……魔王じゃない)」

 切り刻まれても傷口が繋ぎ合わされていく。まるで乱れた衣服を整えるように。
 二角紅蓮の骸に何かが潜んでいる。
 そいつが魔王だ。いや、そいつが魔王だ。

「(鑑定!)」

 ステータス値は流石に出なかったが、正体はわかった。

フェルナンドサーチライト:主に活火山の生物の遺体に根を張る腐生菌。魔力を吸い取ると青く発光し、魔力値と魔物の肉体が朽ち果てるまで増殖を繰り返す。
 
「魔王は……お前らだな」

 二角紅蓮の皮を被り、亡骸内で大量増殖したフェルナンドサーチライトがまるで生きているかのように操っている。
 牙も爪も角も得たフェルナンドサーチライトは、菌床を増やす為に魔物を殺していたのか。山中に転がっていた青い光を放つ魔物達を思い出す。

「(あの巨体にどんだけ詰まってんだ……)」

 いくら俺が攻撃を叩き込んでも意味がない。
 だが、鑑定による追加情報で弱点はわかっている。
 
「(……モモより温度調整は下手だが、俺の魔法でも十分だ)」

 いつもモモがお湯を沸かす水魔法の逆を行う。灼熱の活火山で生活を営むフェルナンドサーチライトは冷水を浴びると温度差に耐えられず、細胞が崩れ去る。
 
「!」
「流石に気付くか」

 俺の魔法に気付いたのか、二角紅蓮の動きが変化する。
 自分達を脅かす存在には容赦をしないと、俺に飛び掛かってきた。
 単調な動きだ。

「アイスウォーター!」

 水の球を攻撃を避けながら二角紅蓮の身体にヒットさせる。
 よしよしよし! コレを続ければ勝てる!!

『ブシュ! 』
「なに!?」

 奴の体毛が針のように鋭く尖って俺に向かって飛んできた。
 それをギリギリのところで避けるが、何本か腕を掠めてしまい、出血する。

「(……防具と聖女の鎧を貫通してきやがった)」

 飛ばされた針のような物を確認すると、体毛をコーティングした菌だった。

 ジクジク……ジュク……

「!?」

 掠れた傷口に青い光を放つ菌が菌糸を伸ばして体内に入り込もうとしていた。

『バシャ』
『……ボロ』
「おいおいおい……お前、腐生菌だろ? 寄生型じゃねえのに、なんで……」

 体内に入られる前に、腕に付着した菌を水で除去したが……腐生菌は死んだ生き物に根を張る。死んだ生き物からしか得られない栄養があるからだ。生きている生物に根を張るのは、寄生タイプの菌。
 全く生き方が違うのに何故?

「(もしかして、増殖目的じゃない? コレって……)」
『ザン!』

 再び菌の針を打ち出されたが、今度は全て弾き落とした。
 
「(相手を殺す事が目的なのか)」

 生きた生物から栄養を取る為の攻撃ではなく、殺す為だけに特化した攻撃。
 体の奥に潜り込まれたらなす術が無い。脳か心臓、或いは臓器を壊されてじわじわと殺されてしまう。
 
「(冬虫夏草の中には蟻を操作してゾンビ化する菌も居るしな……)」

 思っていた以上に恐ろしい相手と対峙している。
 俺は一定の距離を保ち、針を防ぎながら冷水を浴びせまくる。地味な戦法だが、接近戦は危険過ぎる。

『バシャン!』
「……効いてる気がしない」

 身体を切り裂いて、距離を取りつつ塞がる前に冷水を打ち込んでみたが、一向に弱る気配を見せない。
 
「(バトルアックスのおかげで魔力は尽きない。向こうは消耗するはずなのに……)」

 針を防ぎながら思考を巡らせる。
 俺の出来る最大限の低温にしてる。氷水と言って差し違え無い冷たさのはずだ……なのに効いてない?

「(……熱い)」

 火口付近での立ち回りだから、体感ではサウナにいるぐらい熱い。実際はもっと熱いのだろうが。
 ……あ。
 掌にあるアイスウォーターを上に打ち上げて、頭に被ってみた。

『バシャ』
「……温い」

 射出して1秒足らずで微温湯ぬるまゆになって落ちてきた。
 そりゃそうだ。冷たくても、たかが氷水。マグマの熱気に晒されたら一瞬だ。
 安全策として距離を取っていたのが裏目に出た。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...