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18・迫る日常の崩壊
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次の日の調査も特に成果は無く、討伐者に繋がる手がかりは見つからなかった。
良かった。いろいろと証拠隠滅しといて。けど、木の窪みは迂闊だったな。
でも、二人と気不味い関係になったからには、俺とはもう関わってこないはずだ。
「ただいまぁー」
「バウ! ハッハッ!」
「おぉーよぉしよしよし!」
家に帰るとカムフラが嬉しそうに出迎えてくれた。
『わしゃわしゃ~』
「ハッハッ」
「ははは、お前は可愛いなぁ」
狼って言うよりマジで犬だな。尻尾ちぎれそうな勢いで振ってる。
「ジュン、おかえり」
「ただいまモモ」
人型で料理の最中だったのか、エプロンを着けたモモが顔を出した。
「風呂にするか? 飯にするか? それとも、私か?」
「飯食って風呂入ってからお前」
「……私が一番じゃないのか」
「俺は好きな物は最後に食べるタイプなんだよ」
ショボンとした表情を作るモモに軽く唇を重ねてやる。
すぐに機嫌を良くして微笑むのだから、可愛くて仕方がない。
「今日の晩ご飯はなんだ?」
「鹿肉のシチューだ」
「いいねぇ、楽しみにしてる」
「ああ」
防具を脱いで鑑定妨害のスクロール2セットを棚にしまう。
「……は?」
「?」
「おま、お前……」
「な、なんだ?」
『すごいヤツとヤったな! 大丈夫なのか!?』
鍋を掻き混ぜながらすごい動揺して念話で話しかけてきた。
ステータスを確認したら、動揺している理由がわかった。
名:ハラノ ジュンイチロー
LV:69
HP:4180(+80937)
MP:0(+5653)
ATK:3275(+12426)
EDF:3275(+12426)
スキル:搾精超強化Lv3、肉体性感度(高)
∟搾精スキル抽出
∟魅了Lv1、鑑定Lv3、気配遮断、追跡、生成術Lv2、状態異常耐性(中)、神聖治癒術Lv3
神聖治癒術:特別な人間のみが授かる特殊な治癒術。失った手足さえ再生出来る程の絶大な回復力を持つ。
「ああ、聖女様が訳ありで……お互い納得の上だったから」
『神聖魔法を司るスキルは、教会に属する選ばれた信者にしか発現しない。神に選ばれた人間として、事によっては王より権力が上なんだぞ?』
「どこでそんな知識得たんだ?」
『海辺で暮らしてた頃は聞こえてきた一単語一単語に鑑定を掛けて暇潰ししてたんだ』
うっわぁ……やる気のある学生みたいな学習法だな。
俺もそうやって使えばモモみたいに博識になれるんだろうけど、結局面倒でやらないんだけどね。
とりあえず、鑑定妨害のスクロールを常日頃身につける事で一応解決とした。
「うまぁ……モモの料理スキルがどんどん上がってるな」
「ワフ!」
カムフラ用のシチューも別で作っているモモ。
シチューが得意料理となっているが他の料理も全て美味しい。
「ジュンに美味しい物食べさせたいからな」
「うわ、おま……うわー」
きゅんきゅんするわ。なにこれ、新婚さん?
「なんてたって、もうすぐ私の産卵期だ。栄養をしっかり摂ってもらって、健康でいてもらいたい」
「!」
そうなのか……もうすぐ、その時期が来るのか。
「ジュン? どうした、どこか痛いのか?」
「い、いや、大丈夫」
「無理するな。疲れてるなら今日は」
「大丈夫だって! 自分が、親になるって思うと感慨深いし、ちゃんと育てられるか、不安がちょっと出ちゃっただけで……」
子どもが出来る。親になる。当然の事だが、無事産んであげられるのか、育ててあげられるのか、そもそも知識が全く無い。
「不安になるのはそれだけ向き合っているからだ。存分に不安になれ。私がその不安を和らげていこう」
「……モモは、子育て初めてじゃないの?」
「親が人間に食われて、残された子らを育てた経験は何度かある。番ったのは初めてだ」
重いっっ! 人間の前でそれ言わないでくれ!
「ああ、気にするな。取って食われるのは人間相手に限らずよくある事だ」
「……モモが取られなくて良かった」
「取られたと思ったら、死ぬ思いをしたがな」
高濃度な魔力だまりに放り込まれて、呼吸もままならぬ状態で、とにかくもがいてもがいてもがいて……魔力耐性のスキルを獲得した。身体の細胞が壊れていく激痛に悶え苦しみ、それでも自己再生で死に切れずに生き永らえた。
苦しみと痛みから解放されたら、魔王と呼ばれて人間に殺されかけて、俺と出会った。
「あの時食べた薬草が……今まで食べたどんなモノよりも美味かった」
「は、はは、大袈裟だな」
目頭が熱くなった。モモが人間にされた仕打ちは理不尽極まり無い。なのに、人間の俺を好きだと言ってくれる。
「モモ、辛かった分、俺がうんと幸せにするから」
「そうか……今夜も楽しみだ」
「おおっおおお手柔らかに!」
※※※
オーラル王国──オーラル王宮・第二王子執務室。
ドトーリン・J・エルコンドルは、宮廷神官を呼び出し、此度の調査の報告書を渡した。
「ふむ。やはり手がかり無しですか」
「ああ……しかし、もし本当に噂通り男娼が討伐者だった場合、国を上げて討伐者を公表するのは些か難しいな」
「そうでございますね。下世話な男娼を王宮に立ち入れさせるなど……」
神官の男が口元を歪めて吐き捨てるように言った。
しかし、その言葉にドトーリンはギロリと神官を睨み付けた。
「ボクが言っているのはそう言う事ではない。男娼もこの国で必死に生きている大切な一国民。自身を晒されたく無いと思っているならば、その心を尊重すべきだ。公表は出来ずとも、王宮に招く事にはなんら問題は無い」
「は、はい。王子様、お言葉が過ぎました。申し訳ありません」
「わかったなら良い」
神官は自身の失態を取り戻そうと調査書類に視線を落として話を続ける。
そこには少しだけ見覚えのある名が載っていた。
B級冒険者・ジュンイチロー
「……このジュンイチローと言う冒険者ですが、変わったスキルをお持ちではなかったですか?」
「っ!?」
神官の言葉に少し動揺が顔に出るドトーリンだったが、すぐに平静を取り戻して話しを続けた。
「ああ……珍しいスキルを持っていた」
「…………ホコン、勘違いでしたら申し訳ございません。そのスキルは搾精のスキルでは?」
ドトーリンの眉がピクリと動く。
「……何故、搾精だとわかった」
「その者に心当たりがございます。王子様は覚えていらっしゃらないかと思いますが、勇者召喚にて呼び出されたのは四人でございます」
「四人? 勇者は三人ではないか」
「一人、召喚に巻き込まれた人間が居たのです。その者が、搾精スキルを持つハラノ・ジュンイチローでした」
ドトーリンは召喚の儀を終えて変わった服を身に纏っていた若い勇者達に顔見せをした事を思い出した。その中で一人、黒い衣服に身を包んでいた大人がいた気がする。顔も思い出せず、そもそも存在さえ忘れていた。
「……何故、勇者としてココに居ない」
「彼は基礎ステータスがあまりに低くレベルを上げたところであまり意味がありません。スキルを活かせば上限無く強くなれますが、それにはあまりに下衆で非道な方法しかありません」
「…………」
ドトーリンの脳裏にも強制的に精を摂取させ続けるその方法が浮かび、口元に手をあて眉を顰めた。
神官の男もそれをわかっているようで、それ以上の事は語らなかった。
「ん? ……基礎ステータスが低い?」
「? はい。一般の半分もありませんでした。他の勇者と同じく魔力もありません」
「(……どう言う事だ。ジュンイチロー殿のステータスは、30レベルの平均的な範囲の数値であったはず。魔力もあった。搾精スキルの追加ステータスがあったが……基礎ステータスが低いならば、あの数値はおかしい)」
神官の言葉を元にドトーリンがジュンイチローのステータスについて思い返していると、一つの可能性が頭を過った。
まさか、と思いつつも否定出来ない答え。
ドトーリンは頭を抱えながら大きく溜め息をついた。
「(……二重妨害工作か?)」
厳重に何かを隠しているのならば、鑑定妨害のスクロールを二重に仕込んでいてもおかしくはない。
実際にドトーリンを含む王族や貴族達は多重妨害魔法具を身に付けている。
「(……味見をしたボクに対して複雑な表情をしていたのは、向けられた信頼に対して後ろめたさを感じたから? あの恥じらいも半分は演技?)」
「……ドトーリン王子様?」
「もし、彼が男娼をしていたならば……どうなる」
「相手にもよりますが、それなりに力は付くでしょうな」
神官の言葉に、ドトーリンはジュンイチローに対して疑惑を浮上させた。
魔王討伐者の可能性を。
ドトーリンがジュンイチローに対して疑いの目を向け始めた一方で、王宮の神官達が寝食を行う一室で、個室を与えられている女性が裸体を晒してベッドに横になっていた。
豊満な胸、白い素肌に薄ピンク色の小さな突起物が見える。腰はくびれて引き締まった身体だが、臀部は大きく張りがある。
小柄ながら女性らしさを主張する肉体には、聳え立つ異物があった。
「はぁ……はぁ……イ、けない」
ビキビキと血管を浮き上がらせ、腹につきそうな程そそり立った男性器が透明な液体を垂らしながら揺れる。
指先が触れると電流のような快楽が走るのに、気持ちが良いだけで達せない。
シーツに銀髪を散らし、悩まし気な吐息を漏らすのは、オーラル王国の第十五代聖女を冠するマナリアであった。
女性器も男性器も備えた両性具有の彼女は、自慰をして高まる快感と、一向に解放されない熱で苛まれていた。
いくら自身を責めようとも射精は叶わない。絶頂を許されない身体が、更なる刺激を求めてしまう。
純潔を守る事は出来ても、男性器の処理はしなければならない。
「うっ、くぅ! どうしてぇっ!?」
健康上、射精は必要なのだがどうしても出来ない。
男女のシンボルを持って生まれたマナリアは、特異な身体を見た両親に捨てられ、教会で育った。
相対する物が一つとなった神秘の存在として、彼女は聖女候補に選ばれ、天は神聖なスキルをマナリアに与えた。
しかし、教会で過ごす日々の中、その身体は次第に成長していき、男性の象徴も少しずつ大きくなっていった。それに合わせて、彼女にとっての苦悩の毎日が始まった。
中々吐精が出来ないのだ。性自認と大元の肉体が女性の為、男性のモノに触れて扱く事は自分の体であっても上手くいかない。
そんな彼女が最近思う存分射精出来たのは、調査の為に魔王の討伐現場へ出向いた夜。
同行し、護衛の役目を果たした冒険者の口の中。
「(ジュンイチロー様の……口、お口の中、舌が、喉が絡み付いて、吸われて……ああっ、ビクビクって締め付けられて)」
その時の感覚を思い出し、自分のモノを扱き上げる。先走りが手を汚すが、それでもイケない。
「(イきたい……イきたい……楽になりたいのに……ぁ、ああ、ジュンイチロー様、もう一度、お口汚しをお許しください……)」
結局、今日も疲れによって性器は萎えてしまった。
「ぅう……なんて、はしたない。あのお優しい方を私ので汚したいだなんて……」
罪悪感に打ち拉がれた。教会では神秘的な存在だと言われていても、一歩信仰の外に出ればただの異常でしかない身体。
そんな自分の身体を見て、不快感や嫌悪感を示してこなかった一般人は初めてだった。優しい彼の口に、またお世話になりたいと、マナリアは望んでしまっている。
欲求不満な日々が、彼女の心を蝕んでいた。
──コン、コンコン。
控えめにドアがノックされ、マナリアは慌てて服を纏い身なりを整え、いつも通りの聖女として来客を出迎えた。
「どなた?」
「ボクです。ドトーリンです」
『ガチャ』
「王子様、如何なさいました?」
「少し相談がありまして……」
「?」
ドトーリンがマナリアの部屋を訪ねたのは他でもない。ジュンイチローの事である。
「二重の鑑定妨害、ですか?」
「そうです。神官の話が本当なら、彼は我々にステータスを偽装していたと言う事です。搾精スキル以上に知られたくないモノがある」
神官は、もしジュンイチローが魔王討伐者であっても王宮に迎え入れるのは避けたいと言っていた。彼を追放すると決めた王の命令に反する事だからだ。
ご尤もな意見だが、ドトーリンは魔王討伐者がジュンイチローの場合であっても王宮へ招く意見は変わらない。
「それで私の“真眼”で見抜いて欲しいと?」
「そうです。妨害を看破し、真実を見る事が出来る聖女様のお力添えをお願いしたいのです。我々に対して精一杯礼儀を尽くそうとした彼が、スキル以外に何を隠そうとしているのか……」
「……暴いて傷付けた事を後悔したのでしょう? もう一度、彼を暴くのですか?」
「っ!」
聖女として、マナリアはドトーリンの願いを断るべきだと考えた。
ドトーリンから懺悔を受け、彼がジュンイチローの隠したがっていた秘密を暴いて、彼を傷付けた事を後悔しているのを知っている為だ。
もう一度、こちら都合で暴く事になる。しかも、今回は完全にドトーリン個人の意思で。
もしも、討伐者と関係ない秘密を覗いてしまったら、お互い傷付くだけで得るものは無いだろう。
「私もジュンイチロー様に関心はございます。けれど、もう少し慎重にいきましょう。暴き立てて、討伐者と発覚しても、そのような強引な方法では、協力も信頼も得る事は出来ません」
「……そうですね。焦り過ぎました」
聖女の意見に耳を傾けるドトーリンに、彼女は胸を撫で下ろした。
これで話は終わるだろうと、思っていたからだ。しかし、ドトーリンの言葉には続きがあった。
「ですが、やはり必要な事なのです」
「……王子様」
「フェル火山にて、魔王が確認されたそうです」
「ま、またですか!? この二年でこの発生率は異常ですよ!?」
「ボクも兄上や父上に原因を探る調査団を編成する許可を求めてはいるんだが、危険過ぎると渋られ続けているんです。勇者達の指導者が居ない今、再び魔王の元へ送り出すのは不安でならない……急がなければ」
ドトーリンとマナリアもこの二年における魔王の出現率の高さに頭を悩ませていた。
今回召喚された勇者達は役目を受け入れるスピードも早く、スキル理解も、魔法の扱いも、元から知識はあったような口ぶりで習得していった。レベリングもこなし、ハイスピードで歴代最高記録の魔王討伐数を誇っていた。
しかし、竜の魔王に敗北し瀕死の重傷を負ってから、勇者達の成長が止まってしまったのだ。鍛錬は積んで、戦闘技術もレベルも、高い水準に達した勇者達を王宮で指導できる者が居ない。
魔王討伐者に勇者達の指導者としてスカウトする事が、彼らの目的だ。
次の魔王が確認されたからには、事を早急に運ばなければならなくなった。
良かった。いろいろと証拠隠滅しといて。けど、木の窪みは迂闊だったな。
でも、二人と気不味い関係になったからには、俺とはもう関わってこないはずだ。
「ただいまぁー」
「バウ! ハッハッ!」
「おぉーよぉしよしよし!」
家に帰るとカムフラが嬉しそうに出迎えてくれた。
『わしゃわしゃ~』
「ハッハッ」
「ははは、お前は可愛いなぁ」
狼って言うよりマジで犬だな。尻尾ちぎれそうな勢いで振ってる。
「ジュン、おかえり」
「ただいまモモ」
人型で料理の最中だったのか、エプロンを着けたモモが顔を出した。
「風呂にするか? 飯にするか? それとも、私か?」
「飯食って風呂入ってからお前」
「……私が一番じゃないのか」
「俺は好きな物は最後に食べるタイプなんだよ」
ショボンとした表情を作るモモに軽く唇を重ねてやる。
すぐに機嫌を良くして微笑むのだから、可愛くて仕方がない。
「今日の晩ご飯はなんだ?」
「鹿肉のシチューだ」
「いいねぇ、楽しみにしてる」
「ああ」
防具を脱いで鑑定妨害のスクロール2セットを棚にしまう。
「……は?」
「?」
「おま、お前……」
「な、なんだ?」
『すごいヤツとヤったな! 大丈夫なのか!?』
鍋を掻き混ぜながらすごい動揺して念話で話しかけてきた。
ステータスを確認したら、動揺している理由がわかった。
名:ハラノ ジュンイチロー
LV:69
HP:4180(+80937)
MP:0(+5653)
ATK:3275(+12426)
EDF:3275(+12426)
スキル:搾精超強化Lv3、肉体性感度(高)
∟搾精スキル抽出
∟魅了Lv1、鑑定Lv3、気配遮断、追跡、生成術Lv2、状態異常耐性(中)、神聖治癒術Lv3
神聖治癒術:特別な人間のみが授かる特殊な治癒術。失った手足さえ再生出来る程の絶大な回復力を持つ。
「ああ、聖女様が訳ありで……お互い納得の上だったから」
『神聖魔法を司るスキルは、教会に属する選ばれた信者にしか発現しない。神に選ばれた人間として、事によっては王より権力が上なんだぞ?』
「どこでそんな知識得たんだ?」
『海辺で暮らしてた頃は聞こえてきた一単語一単語に鑑定を掛けて暇潰ししてたんだ』
うっわぁ……やる気のある学生みたいな学習法だな。
俺もそうやって使えばモモみたいに博識になれるんだろうけど、結局面倒でやらないんだけどね。
とりあえず、鑑定妨害のスクロールを常日頃身につける事で一応解決とした。
「うまぁ……モモの料理スキルがどんどん上がってるな」
「ワフ!」
カムフラ用のシチューも別で作っているモモ。
シチューが得意料理となっているが他の料理も全て美味しい。
「ジュンに美味しい物食べさせたいからな」
「うわ、おま……うわー」
きゅんきゅんするわ。なにこれ、新婚さん?
「なんてたって、もうすぐ私の産卵期だ。栄養をしっかり摂ってもらって、健康でいてもらいたい」
「!」
そうなのか……もうすぐ、その時期が来るのか。
「ジュン? どうした、どこか痛いのか?」
「い、いや、大丈夫」
「無理するな。疲れてるなら今日は」
「大丈夫だって! 自分が、親になるって思うと感慨深いし、ちゃんと育てられるか、不安がちょっと出ちゃっただけで……」
子どもが出来る。親になる。当然の事だが、無事産んであげられるのか、育ててあげられるのか、そもそも知識が全く無い。
「不安になるのはそれだけ向き合っているからだ。存分に不安になれ。私がその不安を和らげていこう」
「……モモは、子育て初めてじゃないの?」
「親が人間に食われて、残された子らを育てた経験は何度かある。番ったのは初めてだ」
重いっっ! 人間の前でそれ言わないでくれ!
「ああ、気にするな。取って食われるのは人間相手に限らずよくある事だ」
「……モモが取られなくて良かった」
「取られたと思ったら、死ぬ思いをしたがな」
高濃度な魔力だまりに放り込まれて、呼吸もままならぬ状態で、とにかくもがいてもがいてもがいて……魔力耐性のスキルを獲得した。身体の細胞が壊れていく激痛に悶え苦しみ、それでも自己再生で死に切れずに生き永らえた。
苦しみと痛みから解放されたら、魔王と呼ばれて人間に殺されかけて、俺と出会った。
「あの時食べた薬草が……今まで食べたどんなモノよりも美味かった」
「は、はは、大袈裟だな」
目頭が熱くなった。モモが人間にされた仕打ちは理不尽極まり無い。なのに、人間の俺を好きだと言ってくれる。
「モモ、辛かった分、俺がうんと幸せにするから」
「そうか……今夜も楽しみだ」
「おおっおおお手柔らかに!」
※※※
オーラル王国──オーラル王宮・第二王子執務室。
ドトーリン・J・エルコンドルは、宮廷神官を呼び出し、此度の調査の報告書を渡した。
「ふむ。やはり手がかり無しですか」
「ああ……しかし、もし本当に噂通り男娼が討伐者だった場合、国を上げて討伐者を公表するのは些か難しいな」
「そうでございますね。下世話な男娼を王宮に立ち入れさせるなど……」
神官の男が口元を歪めて吐き捨てるように言った。
しかし、その言葉にドトーリンはギロリと神官を睨み付けた。
「ボクが言っているのはそう言う事ではない。男娼もこの国で必死に生きている大切な一国民。自身を晒されたく無いと思っているならば、その心を尊重すべきだ。公表は出来ずとも、王宮に招く事にはなんら問題は無い」
「は、はい。王子様、お言葉が過ぎました。申し訳ありません」
「わかったなら良い」
神官は自身の失態を取り戻そうと調査書類に視線を落として話を続ける。
そこには少しだけ見覚えのある名が載っていた。
B級冒険者・ジュンイチロー
「……このジュンイチローと言う冒険者ですが、変わったスキルをお持ちではなかったですか?」
「っ!?」
神官の言葉に少し動揺が顔に出るドトーリンだったが、すぐに平静を取り戻して話しを続けた。
「ああ……珍しいスキルを持っていた」
「…………ホコン、勘違いでしたら申し訳ございません。そのスキルは搾精のスキルでは?」
ドトーリンの眉がピクリと動く。
「……何故、搾精だとわかった」
「その者に心当たりがございます。王子様は覚えていらっしゃらないかと思いますが、勇者召喚にて呼び出されたのは四人でございます」
「四人? 勇者は三人ではないか」
「一人、召喚に巻き込まれた人間が居たのです。その者が、搾精スキルを持つハラノ・ジュンイチローでした」
ドトーリンは召喚の儀を終えて変わった服を身に纏っていた若い勇者達に顔見せをした事を思い出した。その中で一人、黒い衣服に身を包んでいた大人がいた気がする。顔も思い出せず、そもそも存在さえ忘れていた。
「……何故、勇者としてココに居ない」
「彼は基礎ステータスがあまりに低くレベルを上げたところであまり意味がありません。スキルを活かせば上限無く強くなれますが、それにはあまりに下衆で非道な方法しかありません」
「…………」
ドトーリンの脳裏にも強制的に精を摂取させ続けるその方法が浮かび、口元に手をあて眉を顰めた。
神官の男もそれをわかっているようで、それ以上の事は語らなかった。
「ん? ……基礎ステータスが低い?」
「? はい。一般の半分もありませんでした。他の勇者と同じく魔力もありません」
「(……どう言う事だ。ジュンイチロー殿のステータスは、30レベルの平均的な範囲の数値であったはず。魔力もあった。搾精スキルの追加ステータスがあったが……基礎ステータスが低いならば、あの数値はおかしい)」
神官の言葉を元にドトーリンがジュンイチローのステータスについて思い返していると、一つの可能性が頭を過った。
まさか、と思いつつも否定出来ない答え。
ドトーリンは頭を抱えながら大きく溜め息をついた。
「(……二重妨害工作か?)」
厳重に何かを隠しているのならば、鑑定妨害のスクロールを二重に仕込んでいてもおかしくはない。
実際にドトーリンを含む王族や貴族達は多重妨害魔法具を身に付けている。
「(……味見をしたボクに対して複雑な表情をしていたのは、向けられた信頼に対して後ろめたさを感じたから? あの恥じらいも半分は演技?)」
「……ドトーリン王子様?」
「もし、彼が男娼をしていたならば……どうなる」
「相手にもよりますが、それなりに力は付くでしょうな」
神官の言葉に、ドトーリンはジュンイチローに対して疑惑を浮上させた。
魔王討伐者の可能性を。
ドトーリンがジュンイチローに対して疑いの目を向け始めた一方で、王宮の神官達が寝食を行う一室で、個室を与えられている女性が裸体を晒してベッドに横になっていた。
豊満な胸、白い素肌に薄ピンク色の小さな突起物が見える。腰はくびれて引き締まった身体だが、臀部は大きく張りがある。
小柄ながら女性らしさを主張する肉体には、聳え立つ異物があった。
「はぁ……はぁ……イ、けない」
ビキビキと血管を浮き上がらせ、腹につきそうな程そそり立った男性器が透明な液体を垂らしながら揺れる。
指先が触れると電流のような快楽が走るのに、気持ちが良いだけで達せない。
シーツに銀髪を散らし、悩まし気な吐息を漏らすのは、オーラル王国の第十五代聖女を冠するマナリアであった。
女性器も男性器も備えた両性具有の彼女は、自慰をして高まる快感と、一向に解放されない熱で苛まれていた。
いくら自身を責めようとも射精は叶わない。絶頂を許されない身体が、更なる刺激を求めてしまう。
純潔を守る事は出来ても、男性器の処理はしなければならない。
「うっ、くぅ! どうしてぇっ!?」
健康上、射精は必要なのだがどうしても出来ない。
男女のシンボルを持って生まれたマナリアは、特異な身体を見た両親に捨てられ、教会で育った。
相対する物が一つとなった神秘の存在として、彼女は聖女候補に選ばれ、天は神聖なスキルをマナリアに与えた。
しかし、教会で過ごす日々の中、その身体は次第に成長していき、男性の象徴も少しずつ大きくなっていった。それに合わせて、彼女にとっての苦悩の毎日が始まった。
中々吐精が出来ないのだ。性自認と大元の肉体が女性の為、男性のモノに触れて扱く事は自分の体であっても上手くいかない。
そんな彼女が最近思う存分射精出来たのは、調査の為に魔王の討伐現場へ出向いた夜。
同行し、護衛の役目を果たした冒険者の口の中。
「(ジュンイチロー様の……口、お口の中、舌が、喉が絡み付いて、吸われて……ああっ、ビクビクって締め付けられて)」
その時の感覚を思い出し、自分のモノを扱き上げる。先走りが手を汚すが、それでもイケない。
「(イきたい……イきたい……楽になりたいのに……ぁ、ああ、ジュンイチロー様、もう一度、お口汚しをお許しください……)」
結局、今日も疲れによって性器は萎えてしまった。
「ぅう……なんて、はしたない。あのお優しい方を私ので汚したいだなんて……」
罪悪感に打ち拉がれた。教会では神秘的な存在だと言われていても、一歩信仰の外に出ればただの異常でしかない身体。
そんな自分の身体を見て、不快感や嫌悪感を示してこなかった一般人は初めてだった。優しい彼の口に、またお世話になりたいと、マナリアは望んでしまっている。
欲求不満な日々が、彼女の心を蝕んでいた。
──コン、コンコン。
控えめにドアがノックされ、マナリアは慌てて服を纏い身なりを整え、いつも通りの聖女として来客を出迎えた。
「どなた?」
「ボクです。ドトーリンです」
『ガチャ』
「王子様、如何なさいました?」
「少し相談がありまして……」
「?」
ドトーリンがマナリアの部屋を訪ねたのは他でもない。ジュンイチローの事である。
「二重の鑑定妨害、ですか?」
「そうです。神官の話が本当なら、彼は我々にステータスを偽装していたと言う事です。搾精スキル以上に知られたくないモノがある」
神官は、もしジュンイチローが魔王討伐者であっても王宮に迎え入れるのは避けたいと言っていた。彼を追放すると決めた王の命令に反する事だからだ。
ご尤もな意見だが、ドトーリンは魔王討伐者がジュンイチローの場合であっても王宮へ招く意見は変わらない。
「それで私の“真眼”で見抜いて欲しいと?」
「そうです。妨害を看破し、真実を見る事が出来る聖女様のお力添えをお願いしたいのです。我々に対して精一杯礼儀を尽くそうとした彼が、スキル以外に何を隠そうとしているのか……」
「……暴いて傷付けた事を後悔したのでしょう? もう一度、彼を暴くのですか?」
「っ!」
聖女として、マナリアはドトーリンの願いを断るべきだと考えた。
ドトーリンから懺悔を受け、彼がジュンイチローの隠したがっていた秘密を暴いて、彼を傷付けた事を後悔しているのを知っている為だ。
もう一度、こちら都合で暴く事になる。しかも、今回は完全にドトーリン個人の意思で。
もしも、討伐者と関係ない秘密を覗いてしまったら、お互い傷付くだけで得るものは無いだろう。
「私もジュンイチロー様に関心はございます。けれど、もう少し慎重にいきましょう。暴き立てて、討伐者と発覚しても、そのような強引な方法では、協力も信頼も得る事は出来ません」
「……そうですね。焦り過ぎました」
聖女の意見に耳を傾けるドトーリンに、彼女は胸を撫で下ろした。
これで話は終わるだろうと、思っていたからだ。しかし、ドトーリンの言葉には続きがあった。
「ですが、やはり必要な事なのです」
「……王子様」
「フェル火山にて、魔王が確認されたそうです」
「ま、またですか!? この二年でこの発生率は異常ですよ!?」
「ボクも兄上や父上に原因を探る調査団を編成する許可を求めてはいるんだが、危険過ぎると渋られ続けているんです。勇者達の指導者が居ない今、再び魔王の元へ送り出すのは不安でならない……急がなければ」
ドトーリンとマナリアもこの二年における魔王の出現率の高さに頭を悩ませていた。
今回召喚された勇者達は役目を受け入れるスピードも早く、スキル理解も、魔法の扱いも、元から知識はあったような口ぶりで習得していった。レベリングもこなし、ハイスピードで歴代最高記録の魔王討伐数を誇っていた。
しかし、竜の魔王に敗北し瀕死の重傷を負ってから、勇者達の成長が止まってしまったのだ。鍛錬は積んで、戦闘技術もレベルも、高い水準に達した勇者達を王宮で指導できる者が居ない。
魔王討伐者に勇者達の指導者としてスカウトする事が、彼らの目的だ。
次の魔王が確認されたからには、事を早急に運ばなければならなくなった。
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ちょっとオネェだったり、
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皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
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