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11・出立の月夜
しおりを挟む次の日の午後。
再びゲンゾウさんの店に行くと、昨日と同様の場所に座っていた。
けれど、あの威圧的な雰囲気が無くなっており、普通の鍛治職人のような物静かな佇まいだ。
「おお、来たかジュンイチロー」
「昨日振りです」
「一応出来たぞ」
「早くないですか!?」
昨日の今日で作ったとか……スキル恩恵半端ねえ!!
あまりにスピーディな仕事ぶりに驚愕しながらも工房へ案内され、仕上がった防具を見せてもらった。
「ど、どひゃぁ~……」
「どういう反応だソレ」
「……かっこいい、です」
防具と言うから表に出ているガッツリ全身鎧のイメージだったが、ゲンゾウさんが作ってくれたのは、鎧とロングコートが一体化したような見た目のものだった。
全体的に青みがかった黒に近い紺色の布とブーツや手甲は革製だが要所に金属が使われているので防御力は高そうだ。
そして何よりかっこいい!
「肩の部分は少しゴツいが、視界を遮らない程度には押さえてる。機能性を重視して関節部は工夫しておいた」
「ほへー、いろいろ考えてもらったみたいで……ありがとうございます!」
俺は早速装備させて貰った。着る時の手順に慣れないとトイレで大惨事になる。
着心地は悪くないし、とっても動きやすい。関節部の可動域が特に重視されてる。
これならバトルアックスを派手に振り回しても支障がないし踏ん張りも効く。
「魔石を利用したから、通常の五倍は頑丈だ。着用者の魔力を吸って自動修復も可能だ。物理攻撃も魔法も弾けるし、熱にも強い」
「至れり尽くせりじゃないですか!」
「あとはコイツだな」
「え?」
ゲンゾウさんが横からヌッと取り出したのは、バトルアックスだった。
「た、頼んで無いですよ?」
「サービスだ。魔石の余りを混ぜて生成した武器だが、今のよりずっと強いぞ」
「……本当に至れり尽くせりですね」
俺がお礼を言うと、ゲンゾウさんは無言でコクっと首を縦に振った。
試しに振るってみると、確かに今のものより軽くて扱い易い。
「料金は?」
「今回は銀貨2枚にまけてやる」
「え? オーダーメイドって普通銀貨5枚以上では? 武器まで作って貰って申し訳ないですよ」
「構わねぇよ。こっちもサービスしてもらったからな」
「アレで足ります?」
純粋に問いかけてみるとゲンゾウさんが顔を抱えていた。
「だから、男娼の営業を持ち込むな。十分だ。次からはまけたりしねえ。俺も金払ってお前に会いに行くから」
「あ、ありがとうございます!」
銀貨二枚でこの一式が買えるなら安いものだ!
ゴドーさんも見習って欲しい!
「ところで、お前のステータスだが……俺のスキル抽出してないか?」
「!」
そういえば確認してなかった。
名:ハラノ ジュンイチロー
LV:19
HP:150(+14876)
MP:0(+7958)
ATK:25(+5675)
EDF:25(+5675)
スキル:搾精超強化Lv3、肉体性感度(高)
∟搾精スキル抽出
∟魅了Lv1、鑑定Lv3、気配遮断、追跡、生成術Lv2
ゲンゾウさんから抽出されたスキルは生成術。しかも、既にレベル2。
「同じスキルを抽出すると統合されてスキルレベルが上がるって事か……便利だな」
「あー鑑定レベルも上がってるのはそれのおかげですか!」
数値も全て目標値に到達した。
そして、鑑定のレベルアップと新たなスキルを獲得出来た。
「(……勇者達が少しでも楽になれるようにと始めたが、コレが本当に勇者達の為になるのかわからない。けれど、俺の為にはなった)」
遂に当初の目標へ到達し、魔王討伐へ赴く準備が整った。
※※※
装備に慣れる為に、数回大型の魔物討伐依頼を受けた。
スキル達の扱い方もわかった。
「ジュンイチローさん、この頃ハイペースですが、大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫です。次はコレを」
「は、はい」
一人で勝手に突っ走って緊張でピリピリしている俺は以前とは別人レベルで生き急いで金を稼いでいるように見えるだろう。
冒険者仲間や受付嬢が心配してくれるが、コレは一時的な事だ。
そして、魔王討伐の為に魔王の出現地の近場にある討伐依頼を受けた。
出向く前に娼館の支配人には詳しい事は話しておくことにした。
「朝一に行くんですか?」
「はい。死ぬ前には逃げますけど、一応ご挨拶をしておこうかと思いまして」
「……そうですか。まぁ、案外大丈夫かもしれませんよ」
娼館の支配人は俺の背をポンポンと叩いて見送ってくれた。
『ジュンイチロー、明日の朝に出るのか?』
「ああ……早くに出ないと人目に付きやすいからな。だから、モモも早く寝ろよ」
『はいはい』
ベッドの横にあるサイドテーブルの引き出しに詰められたクッションの上にモモがポスっと身を沈める。
早朝の出発となるので、俺も早めに眠る。
嘘だ。
『Zzz……』
「(……モモは、巻き込めない)」
気配遮断の必要性は魅了の打ち消しだけでは無い。
この時の為だ。
俺は、最大出力で気配遮断を発動させて鎧を纏い、バトルアックスを手に窓からスルリと音も無く深夜の外へ抜け出した。
モモは、勇者との戦闘で肉体と力の半分以上を失っており未だに全快していない。
レベルも今の俺と同じぐらいだし、魔王の一撃で粉微塵になってしまうかもしれない。
「(モモが傷付くのは絶対に嫌だ。俺のエゴに付き合わせて死ぬ思いなんてさせたくない)」
名:ハラノ ジュンイチロー
LV:20
HP:200(+14876)
MP:0(+7958)
ATK:30(+5675)
EDF:30(+5675)
スキル:搾精超強化Lv3、肉体性感度(高)
∟搾精スキル抽出
∟魅了Lv1、鑑定Lv3、気配遮断、追跡、生成術Lv2
自分のステータスをもう一度確認してから、気配を遮断した状態で目的地へと向かう途中。
フッと月明かりの道のりに見覚えがあり、少し走る速度を落とした。
「ここは……」
魔王が出現した場所から一番近い森だ。
人の為に開かれた道を歩む。
俺が魔物に襲われて怪我を負ったあの道だ。
確か、秘密の荷物を村に運搬して……ん?
「(ぃ、いや……まさかな)」
流石に勘繰り過ぎだろうと、自分の憶測を頭から追い払う。
今は、今この瞬間に集中しよう。
足を動かす速度を戻して、真っ直ぐ走り抜けると村が見えて来た。
「(魔王の出現地にだいぶ近いけど……村の人大丈夫なのか?)」
少し心配になって村を囲う木の塀に跳躍でヒョイっと登る。
視認できる範囲で鑑定を行う。
「(……あれ?)」
生物の鑑定結果が出ない。そういえば、門番も居なかった。
家々に明かりがないのは深夜だからだろうが……門の入り口の篝火さえも消えている事に胸騒ぎがする。
気配も感じないのでそっと村の中へ入る。
木造の家の窓から中を拝見するが、暗くて細かくは、よく見えない。
「(仕方ない……えーっと、追跡)」
誰から抽出したのかわからない追跡スキルを使用して、地面に残る真新しい足跡を追跡する。
このスキルは追跡対象の移動ルートが光の糸として視認が可能となり、動きを辿る事が出来る。
どのような行動をしていたかの詳細までは見る事は出来ないが、ある程度の行動は把握出来る。
「(異様に村中を動き回ってるな)」
光の糸が家々に立ち寄っている跡が見える。そして、最終地点は村の奥にある荒屋だ。
そろりそろりと荒屋に近付いて、中を見ると……嫌な予感がする。見覚えのある麻袋が机に置いてある。
「(鑑定……)」
特殊繊維の袋:魔力を妨害する特殊な繊維で編まれた袋。
見た目は麻袋だが、どうやらただの麻袋では無いようだ。
俺はスッと中へ入り、疑惑が確信へと変わる恐怖に震えながら、袋の口をソッと開けた。
「うっ……!」
目に飛び込んできたブツに思わず、口に手を当てて狼狽えてしまった。
「(……魔石だ。間違いない)」
袋の中身は魔石だった。
俺の勝手な予感が的中してしまった。
いっその事、ココで魔石を売買してただけだって思わせて欲しいが、どう考えても売買する商品を扉もない荒屋に放置はあり得なさ過ぎる。
「……グルゥゥゥ!」
「!?」
背後から獣の唸り声が聞こえた。
振り返れば、コレまた見覚えのある狼が牙を剥き出しにして立っていた。
「(気配遮断は解除してない……まさか、この魔石の匂いに吊られたのか?)」
こちらに警戒した様子の森狼を刺激しないよう、袋の口をキュッと締める。
「あ、お前」
「ゥゥゥウ! ガウ! ガウアウ!」
眼前の森狼の身体に二ヶ所、突き刺されたような傷跡があった。化膿しているのか傷周りの毛はベタつき、変色してしまっている。
「……今ならわかるぞ」
森狼に襲われてパニックになっていたあの頃とは違い、討伐をこなしてきた今だからこそ、森狼が何故俺を襲ったのか理解出来た。
「森に魔石が運ばれたから……その所為で、仲間を失ったのか」
魔王を誕生させる為、森に魔石を運び、魔力だまりを作っていたのなら、元々住んでいた魔物達は徐々に充満していく過剰な魔力に気付かなければ、手遅れで命を落としてしまう。
群れで行動するはずの森狼が一匹で俺に襲いかかって来たのは、仲間を殺した石の匂いが俺からしたからだろう。
「…………」
「グルゥゥ…」
今の俺なら、バトルアックスで簡単に屠ることが出来る。
それを向こうも分かっているのか、前のようにがむしゃらに突っ込んでこない。
「……ごめんな」
『ガッ!』
「ワウ!」
一呼吸で森狼の首根っこを掴んで床に押さえつける。後ろ足でバタバタと床を蹴るが床に傷が出来るだけだ。
「ゥウ! グウウウウ! ウウ!」
力任せに暴れて喚く森狼の金色の瞳からボロボロと雫が零れ落ちていく。
「……ヒール」
「バウ!?」
せめてもの償いに、俺は森狼の傷に手を当てて治癒魔法を唱えた。
痛々しい傷口が塞がっていくのを感じた森狼は驚きの声を上げて固まった。
「もう傷は大丈夫だ」
「ガウッ……ガフッ」
首根っこを放してやると、恐る恐る立ち上がって、俺の顔色を伺いながら距離を取る。
「俺が、森の魔石をなんとかするから……だから」
「キャウン……」
ポンっと森狼の頭に手を乗せて優しく撫でる。俺を威嚇していた鋭い視線が緩まる。
「少し休んでろ」
「……クゥーン」
俺の言葉を理解してくれたかはわからないが、小さく鳴いた後に警戒で強張っていた尻尾をパタリと垂らす。
俺も知らず知らずのうちに国のデモンストレーションに加担していたようだ。
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