【異種間】睡眠サポートサービス【BL】

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5:暴食①

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 夢魔の他にも、悪魔は時代に合わせて人間と関わりを持っている。
 そして、人間に害を成す悪魔から人間を守る人間、悪魔を害する人間から悪魔を守る悪魔が存在する。

 悪魔祓いと人祓いと呼ばれる、人界と魔界の均衡を保つ存在だ。
 彼らは常に表立って活動するわけではないが、人間社会に紛れてそれぞれの動向を探っている。

「明野先輩、なんかお肌ツヤツヤしてる」
「この三ヶ月で目の下の隈も無くなったし、仕事もバリバリこなして」
「シャキッとして、なんかかっこよくなりましたよね」
「「わかる~」」

 社内の女子達がヒソヒソと同僚の変化を話題にしている。

「あの、明野さん。今日は定時で上がれそうなので、どこか行きませんか? 久しぶりに二人で飲みに行きましょうよ」
「悪いけど先約があるんだ」
「え~、やっぱり彼女できたんですか? 可愛い後輩より彼女ですか?」
「いや……そういうわけじゃなくて、同居人が飯作ってくれてるから」
「それはそれで羨ましい!」

 明野 智樹は苦笑いしながら席を立ち、そそくさと会社を後にした。
 そんな彼の後を付ける人影が二つ。
 一つは、長い金髪をポニーテールに纏めた女。
 もう一つは、髪を短く切り揃えた男。
 二人は尾行対象を見失わないよう一定の距離を保ちながら、付かず離れずの距離を保っている。
 やがて、尾行対象である智樹はマンションの一室へ入っていった。
 尾行していた男が影となり、地を滑るようにドアの僅かな隙間から室内へと侵入する。

「夢魔を視認したら視覚共有してちょうだい」
『了解』

 相棒の返事を聞き届けてから数分もせず、視覚共通が行われた。
 木の上で待機している女性の目の前に室内の映像が映し出される。

「…………は?」
『気持ちはわかる。聴覚も共有するぞ』

 耳鳴りのような音が響くと同時に、住民達の会話が聞こえてきた。

「今日はグラタンを作ってみたんです。どうですか?」
「焼き目といい、香りといい……本当に料理が上手いんだな」
「人間の三第欲求は表裏一体ですから、何かが欠けたら全ておじゃんです。なので人間の性欲ポテンシャルを高める為に夢魔は大体料理上手で床上手なんですよ」
「ジョニーは両方上手い方じゃないか?」
「そ、そう思っていただけてるなら、嬉しいです」

 夢魔と人間が楽し気に食卓に付いている。

「どういう事?」
『わからない……姿を見せて、会話もしている。食事にも変わったところはない』
「……悪魔の中でも淫魔族は問題を起こしやすい。でも、これは……」
『……襲っている様子は無いな』

 智樹が食事を終えると、夢魔が食器類を洗い始めた。
 食器を洗いながら、妙にソワソワし始めた夢魔に二人が気付く。
 食後は特に眠り易く、夢魔の力が最も効き易い時間帯。
 
「『(食後、眠ったところを襲ってるのか?)』」

「……ジョニー」
「ッ!」
「風呂の前にお前の食事、済ませよう」
「ま、まだ洗い物が……ぁ、ダメです、んぅ……」

「『お前ニンゲンが襲うんかい!』」

 キッチンで洗い物をしている夢魔のジョニーを背後から抱き締め、衣服越しに胸や尻を撫で回し始める智樹。

「ぁ……ふ、う……」
「ジョニー……ココでヤっていいか?」
「…………ん」

 ジョニーが小さく頷いたのを確認した智樹は、キッチンで事に及んだ。

「……何やってるのよ、あの二人」
『さっぱりわからん。だが、二人共嫌がっていないのは確かだ。合意の元にお互い食事をしているように見える』
「悪魔を利用してるようにも見えない……恋人、かしら?」
『それはないだろう。夢魔は基本的に精を摂取する際に愛を求めたり与えたりしない。利害の一致じゃないか?』


 男の言葉に反して、二人の性交兼食事光景は、俗に言う恋人の営みそのものに見える。
 キスをしながら互いの身体に触れ合い、快楽を与え合っているのだ。

「はぁぁ……とりあえず、聞き取り調査だけしましょ」
『了解。不可視の解除と共に転移を行う』
「了解」

※※※

 私は思っていた以上に性欲が強いらしい。
 食器を洗うジョニーの後ろ姿に欲情してしまった。恋愛感情ではなく、ただムラッときただけ。
 ジョニーの後孔は排泄器官ではなく、食道兼性器となっており、早急な挿入に支障は無い。
 キッチンの洗面台に手をついているジョニーの腰を掴んで、欲望のままに打ち付ける。
 
「あ、ぐっ……! 激し、です!」
「いつもと違う場所だから、興奮してるんだ」
「ぅ……もう」

 ジョニーは振り返ると、唇を重ねてくる。
 最近自分からキスをするようになってきた。
 最初の頃は、私を気遣ってか愛情表現のような接触は控えめだったけど、今では好きなようにしている。
 
「お楽しみのところ失礼」
「「…………」」
「少々お時間をいただいても?」

 ……え? は?? 待って? 人? 女性と、男性……なんで?? 今、私……ジョニーと……

「ーーーーーーッッ!?」

 声にならない絶叫を響かせながらジョニーを引っ張り、畳んであった洗濯物のバスタオルを引っ掴んで露出部位を隠した。
 人前で下半身丸出しとか死にたくなる。しかも性行為をガッツリ見られた。

「……死にたい!!」
「と、とも、智樹さん! しっかり!」
「ああ……そうか、感覚が麻痺してたけど見られたら普通恥ずかしいものですよね」
「人間って繊細だな」

 ジョニーが下着とズボンを履き直させてくれたが、私はもう羞恥心で爆発してしまいそうだった。

「食事中だったのに……悪魔祓いと人祓いが何の用ですか?」

 私とは違い、性行為が食事でしかないジョニーに羞恥心は無く、ただ不貞腐れたように二人の不法侵入者に対して質問を投げた。

「失敬。ですがこちらも仕事なので……」
「ここ周辺で夢魔による暴食被害が人間に出てる。俺達は原因の夢魔を捜索中なんだよ」
「そちらの人が高濃度な夢魔の香りを纏っていたもので、後を付けていた」

 女性はそう言って私の方を指差した。
 夢魔の香り? 悪魔祓い? 人祓い? 暴食被害? 何がなんやら……

「夢魔の香りって……暴食被害とは……なんですか?」
「悪魔と接触した人間は独特な匂いがするんです。肉体的な接触をする淫魔族の香りは中でも特徴的です。夢魔の香りも、悪魔に精通した者なら嗅ぎ分けられます」
「夢魔とセックスしてるならアンタも知ってるだろうが、人間の精で腹を満たしてる。夢魔の暴食は、人間で言うところの強姦だ」

 二人がはっきり教えてくれるが……理解が追いつかない。

「??」
「あー……智樹さん、つまりですね。夢魔が人間達襲って迷惑かけてるから捕まえようと専門家が動いてるんです。夢魔の香りの付いてる智樹さんを被害者と勘違して、後を付けて今に至る……て、感じです」
「……専門家」

 金髪の女性は人間だろうが、短髪の男性は……人の形をしているけど、恐らく人ではない。瞳孔が横長でヤギのようだ。
 
「そうですね。専門家という認識で結構です」
「夢魔を最近見かけた事は?」
「……アスタルっていう夢魔が家に来た以外は……私はジョニーしか知らない」
「ふぅん。そっちの夢魔は? 様子のおかしい同族を見かけてないか?」
「ここら辺はチラホラ居るけど、食い散らかしてるヤツは見かけてない」

 チラホラ居るんだ。まぁ、人間は悪魔を認識出来ないみたいだし、不思議ではないか。

「そうですか」
「最中にお邪魔して悪かった。じゃあな」
「人間の方、貴方も襲われないように夜道はお気を付けて」
「……はい」

 二人は煙のように一瞬で居なくなった。
 なんだったんだ本当に。

「……智樹さん、どうします?」
「?」
「続き……」
「…………お風呂入ってから、ベッドで……」
「はい!」
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