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2:食事①
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睡眠サポートサービス『スリープ』から、私の睡眠をサポートする為に夢魔のジョニーが家にやってきた。
二週間ほど、共に生活をしてわかったことは……
「(コイツめちゃくちゃ優秀だ……)」
「智樹さん、美味しいですか?」
「ああ」
敬語は使わないでいいと言われたので、遠慮なくタメ口を使っている。
私は今日もジョニーが作った朝食を食べている。
いつものように美味しい。
ジョニーは、まるで家政婦のように甲斐甲斐しく家事をこなしてくれていた。
おかげで、私の生活の質が二段階ほど上がった。
「……ジョニーは食べないのか?」
「俺は夢魔ですから、人間の食事は身体に合いません」
私の為に作ってくれた朝食だが、一緒に食べようと誘っても頑として首を縦に振らない。
最初は遠慮しているのかと思ったのだが、どうやら本当に食べられないらしい。
休日にずっと様子を見ていても食事も排泄も一切していない。人間ではないという事を、強く実感させられる。
それなのに、人間の私に尽くしてくれて……流石に何だか申し訳なくなる。
睡眠の為とは言え、やり過ぎな気がする。
「じゃあ、何を食べてるんだ?」
「え? そりゃ……」
ジョニーが口を開けたまま、固まった。
私は何か変なことを聞いただろうか。
夢魔である彼が、一体何を食べるのか興味があったし、用意できるならしてやっても良いぐらいの働きをしてもらっている。
「……食事中にする話しじゃないので、仕事から帰って来た時にでも教えますね」
「わかった」
少し気不味そうに視線を逸らすと、食器を流しへ持って行った。
……夢魔の食事事情は、人間の食事中にする話ではなかったようだ。気を付けなければ。
私は仕事へ行く支度を整えて、玄関へ向かう。
その後ろには、見送りをする為に鞄を持ってついてくるジョニーの姿がある。
「本当に甲斐甲斐しいな……」
「そこは、ありがとうって言ってくださいよ」
「ありがとう。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
見送られ、出勤する。
二週間前と比べて信じられない程、身体が軽い。
睡眠の質が格段に良くなり、疲れもしっかり取れている。
そして仕事も捗る。
同僚からは、最近調子が良いみたいだなと言われた。
「お前最近弁当持って来てるけど、彼女でも出来たのか?」
「あ、鈴木さん……なんて言うか、家事代行してくれる同居人が居まして」
弁当は、私が買ったものではなくジョニーが用意したものだ。
朝起きれば、朝食と共にテーブルの上に用意されている。
栄養バランスを考えたメニューで、文句の付け所がない。
しかも、とても美味しい。
私はそれを毎日食べている。
「なんだ。お前、顔色すげえ良くなったから女でも出来たんじゃないかと思ったら、そういう事情か」
「……女じゃ、ないですね」
女性じゃないし、人間でもない。
睡眠サポートで夢魔に生活のサポートさせてますなんて、説明出来ないので曖昧に笑って誤魔化しておく。
弁当は今日も美味い。
※※※
今日は残業をしてしまった。いつもの夕飯の時間に間に合わない。
待たせてしまうのも悪いと思い、食べて帰るとメールを送ろうと帰りの道端で携帯を開いて立ち止まるった時……
「あっ……」
路地裏から声が聞こえてきた。
反射的にそちらを見ると、人影が重なっていて、思わず凝視してしまう。
体格からして男同士……それに、相手の一方は……
「(ジョニー?)」
ジョニーは見知らぬ男に足を抱えられて、揺さぶられていた。
抵抗しているようには見えない。むしろ、しがみついて積極的に受け入れているように見える。
「んっ……ぅ」
漏れ聞こえる色っぽい吐息に、思考回路が停止する。
見てはいけなと目を逸らそうとした瞬間、ジョニーの身体が大きく跳ねる。
男は満足した様子でジョニーにキスをして腰を揺らしながら、ジョニーに埋め込んでいた自身を引き抜いた。
そして、脱力しきっているジョニーの頬を優しく撫でると、その場を去っていった。
残されたジョニーは、ぼんやりとした表情で男を見送る。
男が見えなくなると、ジョニーは身なりを正して路地裏からこちらへ歩いてきた。
「あ、智樹さん」
「…………」
「智樹さん?」
「い……今……」
「ああ、俺の食事ですよ」
平然と答えるジョニーに、私は混乱していた。
あれが、食事? あんな事が?
「夢魔って、人間にインキュバスとかサキュバスの呼び名で呼ばれる存在ですから。俺達は食事として、人間の精が必要なんです。時々、ああして姿を見せて食事をしてるんです」
「だからって……」
私は動揺して、言葉が上手く出てこなかった。
そんな私にジョニーは不思議そうに首を傾げる。
性交はただの食事。人間からしたら、その価値観は理解し難い。
ジョニーもそれを理解して朝食の時に公言を避けた。
羞恥心と言うか、もんじゃ焼きの最中にゲロの話しをしない程度の気遣いだ。
「いや、いい……」
「?」
私は深く追求するのをやめた。
食事の余韻でまだ赤い顔をして、少しふわついた足取りで歩くジョニーの後ろ姿を見ながら、考える。
彼は夢魔であり、人間の常識に当て嵌めて考えて良い相手ではない。
けれど、なんだろう。この気持ち。
ジョニーは俺の睡眠サポーターであって、友人や恋人とかじゃない。何処で何してようが、別に問題はない。
でも……なんかモヤっとする。
帰宅すると、食卓には既に夕食が並べられていた。
ご飯に味噌汁に野菜炒めと、これまた健康的な献立である。
相変わらず美味い。ジョニーの作る食事は、私の舌に合う。
「……ジョニー」
「はい?」
「お前の睡眠サポートは完璧だ」
「え、急にどうしたんですか」
いきなり褒められて、ジョニーは戸惑っていた。
「毎朝毎朝、生まれ変わったような気分だし、スッキリ疲れが取れて仕事も捗ってる。食事は美味い……でも、一つ引っかかってる」
「え!?」
「基本無料だろうと、ここまでしてもらってるだけじゃ私の中にも申し訳なさが生まれる。罪悪感ってヤツ」
「……うわ、出たよ……人間ってどうしてこう……」
ジョニーが私の言葉に頭を抱えた。
「面倒臭いだろうけど、やられっぱなしはストレスの元だ」
「……仲間も言ってたけど、優しい人間はこっちにお返ししたがるって。恩だのなんだの」
溜息混じりに呟くジョニーに、私は苦笑を浮かべる。
返せない恩程、焦ったいものはない。
「私は食事を与えてるわけじゃないし……」
「え? 貰ってますよ? 寝てる間に」
「…………は?」
聞き捨てならない言葉に間抜けな声が出た。
二週間ほど、共に生活をしてわかったことは……
「(コイツめちゃくちゃ優秀だ……)」
「智樹さん、美味しいですか?」
「ああ」
敬語は使わないでいいと言われたので、遠慮なくタメ口を使っている。
私は今日もジョニーが作った朝食を食べている。
いつものように美味しい。
ジョニーは、まるで家政婦のように甲斐甲斐しく家事をこなしてくれていた。
おかげで、私の生活の質が二段階ほど上がった。
「……ジョニーは食べないのか?」
「俺は夢魔ですから、人間の食事は身体に合いません」
私の為に作ってくれた朝食だが、一緒に食べようと誘っても頑として首を縦に振らない。
最初は遠慮しているのかと思ったのだが、どうやら本当に食べられないらしい。
休日にずっと様子を見ていても食事も排泄も一切していない。人間ではないという事を、強く実感させられる。
それなのに、人間の私に尽くしてくれて……流石に何だか申し訳なくなる。
睡眠の為とは言え、やり過ぎな気がする。
「じゃあ、何を食べてるんだ?」
「え? そりゃ……」
ジョニーが口を開けたまま、固まった。
私は何か変なことを聞いただろうか。
夢魔である彼が、一体何を食べるのか興味があったし、用意できるならしてやっても良いぐらいの働きをしてもらっている。
「……食事中にする話しじゃないので、仕事から帰って来た時にでも教えますね」
「わかった」
少し気不味そうに視線を逸らすと、食器を流しへ持って行った。
……夢魔の食事事情は、人間の食事中にする話ではなかったようだ。気を付けなければ。
私は仕事へ行く支度を整えて、玄関へ向かう。
その後ろには、見送りをする為に鞄を持ってついてくるジョニーの姿がある。
「本当に甲斐甲斐しいな……」
「そこは、ありがとうって言ってくださいよ」
「ありがとう。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
見送られ、出勤する。
二週間前と比べて信じられない程、身体が軽い。
睡眠の質が格段に良くなり、疲れもしっかり取れている。
そして仕事も捗る。
同僚からは、最近調子が良いみたいだなと言われた。
「お前最近弁当持って来てるけど、彼女でも出来たのか?」
「あ、鈴木さん……なんて言うか、家事代行してくれる同居人が居まして」
弁当は、私が買ったものではなくジョニーが用意したものだ。
朝起きれば、朝食と共にテーブルの上に用意されている。
栄養バランスを考えたメニューで、文句の付け所がない。
しかも、とても美味しい。
私はそれを毎日食べている。
「なんだ。お前、顔色すげえ良くなったから女でも出来たんじゃないかと思ったら、そういう事情か」
「……女じゃ、ないですね」
女性じゃないし、人間でもない。
睡眠サポートで夢魔に生活のサポートさせてますなんて、説明出来ないので曖昧に笑って誤魔化しておく。
弁当は今日も美味い。
※※※
今日は残業をしてしまった。いつもの夕飯の時間に間に合わない。
待たせてしまうのも悪いと思い、食べて帰るとメールを送ろうと帰りの道端で携帯を開いて立ち止まるった時……
「あっ……」
路地裏から声が聞こえてきた。
反射的にそちらを見ると、人影が重なっていて、思わず凝視してしまう。
体格からして男同士……それに、相手の一方は……
「(ジョニー?)」
ジョニーは見知らぬ男に足を抱えられて、揺さぶられていた。
抵抗しているようには見えない。むしろ、しがみついて積極的に受け入れているように見える。
「んっ……ぅ」
漏れ聞こえる色っぽい吐息に、思考回路が停止する。
見てはいけなと目を逸らそうとした瞬間、ジョニーの身体が大きく跳ねる。
男は満足した様子でジョニーにキスをして腰を揺らしながら、ジョニーに埋め込んでいた自身を引き抜いた。
そして、脱力しきっているジョニーの頬を優しく撫でると、その場を去っていった。
残されたジョニーは、ぼんやりとした表情で男を見送る。
男が見えなくなると、ジョニーは身なりを正して路地裏からこちらへ歩いてきた。
「あ、智樹さん」
「…………」
「智樹さん?」
「い……今……」
「ああ、俺の食事ですよ」
平然と答えるジョニーに、私は混乱していた。
あれが、食事? あんな事が?
「夢魔って、人間にインキュバスとかサキュバスの呼び名で呼ばれる存在ですから。俺達は食事として、人間の精が必要なんです。時々、ああして姿を見せて食事をしてるんです」
「だからって……」
私は動揺して、言葉が上手く出てこなかった。
そんな私にジョニーは不思議そうに首を傾げる。
性交はただの食事。人間からしたら、その価値観は理解し難い。
ジョニーもそれを理解して朝食の時に公言を避けた。
羞恥心と言うか、もんじゃ焼きの最中にゲロの話しをしない程度の気遣いだ。
「いや、いい……」
「?」
私は深く追求するのをやめた。
食事の余韻でまだ赤い顔をして、少しふわついた足取りで歩くジョニーの後ろ姿を見ながら、考える。
彼は夢魔であり、人間の常識に当て嵌めて考えて良い相手ではない。
けれど、なんだろう。この気持ち。
ジョニーは俺の睡眠サポーターであって、友人や恋人とかじゃない。何処で何してようが、別に問題はない。
でも……なんかモヤっとする。
帰宅すると、食卓には既に夕食が並べられていた。
ご飯に味噌汁に野菜炒めと、これまた健康的な献立である。
相変わらず美味い。ジョニーの作る食事は、私の舌に合う。
「……ジョニー」
「はい?」
「お前の睡眠サポートは完璧だ」
「え、急にどうしたんですか」
いきなり褒められて、ジョニーは戸惑っていた。
「毎朝毎朝、生まれ変わったような気分だし、スッキリ疲れが取れて仕事も捗ってる。食事は美味い……でも、一つ引っかかってる」
「え!?」
「基本無料だろうと、ここまでしてもらってるだけじゃ私の中にも申し訳なさが生まれる。罪悪感ってヤツ」
「……うわ、出たよ……人間ってどうしてこう……」
ジョニーが私の言葉に頭を抱えた。
「面倒臭いだろうけど、やられっぱなしはストレスの元だ」
「……仲間も言ってたけど、優しい人間はこっちにお返ししたがるって。恩だのなんだの」
溜息混じりに呟くジョニーに、私は苦笑を浮かべる。
返せない恩程、焦ったいものはない。
「私は食事を与えてるわけじゃないし……」
「え? 貰ってますよ? 寝てる間に」
「…………は?」
聞き捨てならない言葉に間抜けな声が出た。
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