【異種間】睡眠サポートサービス【BL】

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1:睡眠サポートサービス

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 軋む身体に年々需要が上がっていく睡眠という行為。
 しかし、寝たいのに眠れない。
 そんな状況に陥る人は多いだろう。
 かくいう私もその一人である。
 最近は特に寝付きが悪くて困っている。
 原因は……

「(……仕事行きたくない……)」

 そう、私は社会人である。
 今日は金曜日だが明日から休日出勤で、朝から夜まで仕事をしなければならないのだ。
 それが憂鬱で仕方がない。
 精神的に負担がかかると眠らなければならないのに、逆に目が冴えてしまう。

「あー……もうやだ……」

 このまま布団の中で悶々としていても良いことは何もない。
 何か良い方法は無いだろうか?
 スマホを弄りながら考えていると、あるアプリの広告が表示された。

【あなたに最高の朝を! 睡眠導入サポートサービス『スリープ』】

 ……なんだこれ? こんな広告見た事が無い。
 怪しいと思いつつも気になってタップすると画面が変わった。
 そこには白衣を着た可愛らしい小悪魔少女のイラストが描かれている。
 そしてその下にはこう書かれていた。

《眠れないアナタへ素敵な夢をお届けする睡眠サポートサービスです》 

 どう見ても怪しいが、興味が湧いてしまった。
 私はそのままアプリをインストールした。
 画面に表示されたアイコンをタップして起動してみる。

「まずはプロフィール」

 名前を入力……明野あけの 智樹ともき
 性別、男……年齢……睡眠時間……身長・体重……
 何項目か入力した後、希望睡眠時間というものがあった。
 睡眠時間まで設定出来るのか。
 う~ん……そうだなぁ……とりあえず五時間でいいか。

《ありがとうございます! このサービスは基本全て無料となっておりますのでご安心ください♪ ただし、睡眠中のトラブルには対応しかねますので予めご了承下さい》

 まぁ当然だよな。
 それくらいなら問題無い。

《それでは、今から表示される文字を声に出して読んでください》
「え?」

 画面に表示された文章を読むように促される。
 ひらがなの文字列に疑心感を募らせながらも従ってみた。

「……おいでませ……むま……」

 言葉を口にした途端、猛烈な睡魔におそわれる。
 視界が歪み意識が遠退いてく。私は抗うこと無く身を委ねることにした。

「おやすみ」

 誰かが耳元で囁いた気がしたが、確認する前に私の意識は完全に落ちていった……。

※※※

 チュン、チュン

「…………すっごい」

 ぴったり五時間で起きた私はカーテンを開けると思わず感嘆の声を上げた。
 雲一つ無い青空。
 燦々と降り注ぐ陽射しが眩しい。
 まるで私の起床を祝福しているようだ。

「気持ちの良い朝だなぁ」

 ここ最近感じたことの無い清々しいスッキリとした気分だった。
 やはり、睡眠は大事だ。
 さて、朝食を食べたら支度をして会社に行くとするかな。
 昨日の夜が嘘のように身体が軽い。
 休日の電車は早朝は混んで無いから気楽だ。

「おはようございます!」

 元気良く挨拶しながらオフィスに入る。
上司はまだ来ていないようなので自分の席に着いた。
 今日の仕事の確認をしていると先輩社員の鈴木さんが話しかけてきた。

「休日出勤なのに、なんでお前はそんなに元気なんだ?」
「なんか凄く調子が良いんですよね。よく眠れたみたいで」
「ふぅん、睡眠で……」

 鈴木さんは少し不思議そうな顔をしていたけど、それ以上は特に気にしなかったようで仕事に戻っていった。
 私も書類を確認していると、やがて部長がやってきた。
 皆に挨拶をし、今日の予定を伝える。
 その後、私は予定通り同僚達と共にいつも通りの仕事をこなした。
 普段よりも効率が良く、タイピングミスも無くこなせたのはきっと良い睡眠が取れたからだろう。
 その後も順調に業務をこなし定時になると、私は早々に帰宅することにした。
明日は日曜日だから休みだ。
 ゆっくり休んで英気を養おう。
 浮き足立って家の扉に手をかけた。

『ガチャ』
「おかえりなさい」
『……バタン』
「………ん?」

 私の家だよな??
 見慣れない男性が居たのでドアを咄嗟に閉めたのだが、私の家で間違いない。
 何故、見知らぬ男性が自分の家に居るんだ??
 もう一度、恐る恐る開けると先程の男性がエプロン姿で変わらずそこに立っていた。

「おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも……寝る?」
「……警察にします」
「おっと! 冷静な判断力ですね! でも残念。俺は不審者ではありませんよ」
「じゃあ、変質者ですか?」
「失礼ですね~ちゃんとしたサービス業者ですよ。ほら、ここに書いてあるでしょ?」

 そう言って男性は首から下げている社員証のようなカードを私の前に出した。
 そこには【睡眠サポートサービス『スリープ』】と書かれている。

「……確かに……昨日インストールしたヤツですけど……それでも、不法侵入は違法行為です」
「不法侵入では、ありません。あなたがお呼びになられたのです」
「私が? 呼んでませんよ?」
「メッセージに従って、あなたはなんと声に出しました?」

 メッセージを声に出す……??
 ああ、何か言った気がするな。

「……おいでませ……むま?」
「そう言って、俺を招いて下さったじゃないですか~!」
「はぁ!?」

 眠りの為の呪文は、コイツを招く呪文だったとでも言うのか!?

「招いてない! そもそもどうやって、家に!」
「あのぉ、明野さん?」
「!?」

 背後から誰かの声がしたと思ったら、開けっ放しのドアの向こうから女性が顔を出した。
 隣人の草元さんだ。

「大丈夫ですか?」
「ああ、草元さん聞いてくださいよ」
「さっきから一人で喋って……疲れてるんじゃないですか?」
「……一人??」

 俺は振り返って男性を見つめる。ニッコリ笑って手を振ってきた。いや、居るけど。

「無理し過ぎは良くありませんよ?」
「あ……はい、しっかり寝ます……」

 私は草元さんの言葉に動揺しながら扉を閉め、鍵をかけた。

「……どういう、ことだ?」
「まぁ、そういうことですね」

 男性が真横の姿見を指差して、ニコッと笑う。
 鏡には誰も映っていない。

「自己紹介が遅くなりました! 俺は睡眠サポートサービス『スリープ』の夢魔むま! ジョニーと申します!」
「……はぁぁぁぁ」

 情報量が多過ぎて、理解が追いつかない。
 夢魔むまというのは、いわゆる悪魔とか魔物といった類いのものだろうか。
 本当に存在するとは思わなかった。
 ファンタジー小説やゲームの世界だけの話だと思っていたのに……。
 目の前の男はどう見ても人間にしか見えない……見た目だけは。

「智樹さん、とりあえず夕飯食べます?」
「……夕飯?」

 そういえば、風呂かご飯か聞かれてたな。
 気付かなかったが、味噌汁の良い匂いがしている。

『ぐぅぅぅぅぅ』
「…………」
「あらぁ」

 私の意思に反して、お腹は正直に返事をした。

「ご飯にします?」

 私は誘惑に負けて、男性の言葉に頷いてしまった。
 食卓に並べられていたのは、炊き立ての白米に大根の味噌汁、鮭の塩焼き、だし巻き卵だった。
 どれも美味しそうだ。
 そして何より、その全てが湯気を立てており出来たてであることを示している。

「ほうれん草のおひたしもありますよ」
「……睡眠薬とか入って──」
「そんな事しなくても俺は眠らせれますー!」

 睡眠薬に対抗心剥き出しで反論された。
 私は大人しく席に着く。
 いただきます、と言って手を合わせた。
 まずはお椀を手に取り、味噌汁を一口飲む……旨い。
 お世辞ではなく、本当に身に染みる温かい美味を感じた。
 
「……なんで、夕飯作ってたんですか?」
「昨日、智樹さんに招かれて睡眠サポートをした際に、不健康過ぎて全然サポート出来ず……あの程度の快眠で満足されては、俺の主義に反します」
「あの程度……」

 今朝起きた時のあの清々しい目覚めを思い出す。
 あの良い目覚めを“あの程度”と言うのならば、もっと上があると言うこと。

「睡眠の質は日頃の生活に大きく影響します。あなたのような不規則な生活をされている方は、特に!」
「……仕事が忙しいんですよ」

 私は社会人になって五年になるが、仕事に追われる日々が続いている。
 休日出勤も珍しくないし、残業で家に帰る時間も遅くなりがち。
 自炊の気力もなく食事はコンビニ弁当ばかりで栄養バランスなんて考えたこともない。
 こんな食生活を送っていたら、確かに身体はボロボロだろう。
 しかし、改善する気力も無い。だから今もこの有様なのだ。

「仕事はしっかりしなければいけないのは、俺も智樹さんも同じですからそこは仕方ありません。なので、智樹さんの睡眠を全力でサポートするべく、俺が食事や身の回りのことをお世話させて頂くことにしました!」
「……は? 居候する気ですか? 養う金なんて無いですよ!」
「俺は夢魔ですから、食事はそこら辺で適当に済ませます」

 ふわりと空中で胡座をかいて逆さまに浮いて見せるジョニー。
 見た目は完全に人間なのに、やはり人外なんだな。
 悪魔なのか、魔物なのか、よく分からないが……飯が美味いならいいかな、と納得してしまいそうになる自分がいる。

「それに、サービスは基本無料ですよ」

 ニコニコと笑う顔が憎めない。
 綺麗な顔のクセに整えた髭がある分、ヤンチャそうな男臭さがある。女性受けのいい顔だ。
 きっとモテるんだろうな。料理も出来るし。

「……じゃ、私に最高の快眠を提供してくれると約束してくれるんですか?」
「勿論! 俺のプライドにかけて、雑な仕事はしませんよ!」

 暫くは様子を見よう。
 私はそう考えて、出された夕飯を全て平らげた。
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