生贄になる娘の身代わりに父が神様に嫁撃をかました結果 ──神様! 俺で妥協してくれ!

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おまけ

おまけ①使いの物の怪

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「今回はコレとコレとコレとコレと……」
「旦那、旦那コレは多過ぎですぜ! 三着までにしてくだせぇ! 有り難みが消えますって!」
「そうか? じゃ、調味料と材料の買い出し頼む。サヌキ」
「へい」

 山狸のサヌキが木の葉を頭に乗せて宙返りをすれば、小太りの強面の男に大変身。

「(旦那は最近、狸使いが荒いぜ全く。銭貰っても割に合わねえ労力だ)」
「あ、そうそう。これ、うちの嫁からお前へ」
「へ!?」
「いつもお使いお疲れ様です。助かっています……との事だ」

 風呂敷に包まれた長方形の木箱。獣の嗅覚で中身を察してしまったサヌキの口からジョバッと涎が溢れ出た。

「こ、こりゃ……いいんですかい!?」
「手作り弁当だ。有り難く味わえ」
「へへい!」

 サヌキは涎を拭いながら、人里の質屋まで山中を駆け降りる。
 
「(くぅ、あの何考えてるかわかんねえ旦那の奥さんは人情味溢れたお方だな~! 労いの心を持ってる!)」

 質屋の暖簾をくぐり、顔見知りの店番に気さくに挨拶を向ける。

「よっ、兄さんお久しぶり」
「サヌキさん、ご無沙汰しております。前のお着物、蒐集家の方に高値で取り引きされたらしいですよ」
「ふふん。そりゃ、年代物であれだけ綺麗なら、そうなる。ささ、今回のも見ものだぜ」
「はい。おやっさん、お願いします」
「あいよー」

 査定役の男性を呼んでサヌキの持ち寄った物を鑑定する。

「……また今回も年代物を……しかも保存状態が極めて良い。良い色を出している」

 どれも高貴で雅な雰囲気を纏った逸物であり、見る目のある人なら喉を鳴らすだろう品物ばかり。

「一着、三円でどうかね?」
「……コレは五円以上の価値があるぞ。なんせ、戦国頃の上物だ。戦火で燃え散った絹織りの生き残り。その価値がわからないアンタじゃあるまい」

 サヌキの持ち込む物は値千金の最高の値がつく。
 金では替が効かない価値がある。

「……では、こっちは六円。これは八円でどうだ?」
「うむ。いいだろう。アンタは物の価値がわかる人だ。今後も贔屓にさせてもらうぜ」
『ジャラ』

 結構な額の入った麻袋を片手に、調味料の店を渡り歩く。
 
「まぁ、こんぐらいだろ」

 塩や砂糖、醤油、味噌、小麦粉、油、などなど、南蛮から入ってきた新しい品も扱っている。
 
「一仕事終えたところで……へへ」

 広場から離れた場所にある並木の下で腰を下ろして風呂敷を広げる。

『パカ』
「ほぁ……」

 二段の木箱に敷き詰められた弁当は色とりどりの小料理が並んでいる。
 震える手を宥めて箸に手を掛ける。

「(白米に梅干し……白身魚と野菜の天麩羅、焼き鳥、卵焼き、煮物に切り干し大根!  あーーーっ!! 沢庵までっ)」

 一つ口に入れて咀嚼し、身体が震える程の感動に目を潤ませた。
 
「(あったけぇ……胸があったけぇよ! 会った事ねえけど、きっと線の細い美人で儚い黒髪の……小鳥のように小柄な人にちげぇねえ!)」

 そんな希望に満ちた予想を立てながら次々と口に放り込む。
 あっという間に平らげて、食べ足りない気分に駆られつつも御馳走様と風呂敷と木箱を仕舞う。

「(……もう少し、ブラつくか)」

 気紛れに、サヌキは些細な買い物をした。

「使いご苦労。弁当箱を」
「へい。いやぁ美味かったです! 今まで食ってきた物の中で最高でしたよ!」
「当然だ。不味いとぬかしたら消し去ってやるところだ」
「はっはっは! ちげぇね! こんな美味いもん不味いなんて言う奴は、制裁を受けても文句言っちゃいけねえですぜ!」
「ふ、また頼む」

 サヌキの素直で協調性の高い性格は、山神のサンガクにも重宝されている。
 人前に姿を出しても、あまりに整った容姿と纏う神聖なオーラは一目で違和感を感じ取られる。
 飢えで弱ったコノハでさえ、勘付いてしまう程の神々しさがある。
 その為、使いを頼むしか購入手立てがない。

「コノハ、使いの弁当箱だ。美味かったそうだ」
「ああ、お口に合ってよかったです」

 風呂敷を広げ、洗い場で弁当箱の箱を開けると……

『カラン』
「ん? コレは……簪?」

 ありがとうと書かれた紙に包まれていたのは、美しい金細工の簪。

「なんか……勘違いされてる気がするが、有り難く受け取っておくか」
「お、コノハそれ何?」
「ワカ様。恐らくお使いの方からのお礼の品です」
「お礼の……嬉しいか?」
「え? まぁ、嬉しいですけど、俺じゃ似合いませんね。流石に」

 簪と見て苦笑いを浮かべるコノハに、ワカはニッコリ微笑んで掛ける。

「貸してみな」
「あっ」

 指先は存外器用に動き、あっという間に髪に取り付けてしまった。
 伸び放題だった髪は、神域での生活で艶とコシが出ており、簪で結い上げるのは造作無い作業だ。

「に、似合いませんよ。俺にこんな上等な簪」
「似合う似合わないじゃないだろ。こういうのは」
「……でも」
「愛らしいぞ。綺麗だ」

 ワカの真摯な瞳に見据えられ、ポッと顔が熱くなる。

「……今すぐ食っちまいてぇ」
「ワカ様、いけません。それは晩御飯の後です」
「はぁい」
「コノハお洒落してる」
「こ、コレは」

 ミドリにも見つかり、簪を見せると良いものを貰ったなと笑って抱き締められた。
 他の男からの贈り物を身に付ける妻を許容するのは、器の大きさ云々ではない。
 自分の嫁を彩る物の出所を深く気にしていないだけだ。
 
「俺も何か贈り物したいな……コノハは何か欲しい物はないのか?」
「そう、ですね……俺は特に、欲しいものは無いです」
「じゃ、勝手に贈る」
「程々のモノにしてくださいね」

 二人にぎゅうぎゅう抱きしめられながら、頭に飾られた簪を意識する。

「(今日だけは、このままでもいいかな)」
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