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7:祝言※
しおりを挟むコノハの嫁入りを祝う宴が執り行われる日がやってきた。
主役であるコノハは前日から大忙し。
夫である山神達に美味しい物を食べてもらえる絶好の機会である為、腕によりをかけて料理を作り続けていた。
来訪される神々にも振る舞う物でもある為、気合が入る。
「(出来た嫁だと思われたい……主に、御三方に)」
「コノハ、これで全てか?」
「あ、はい」
「見た事ない形の物が多いな。本当に食えんの?」
「コノハが頑張って作ったものになんて言い草。嫌なら食うな」
「嫌なんて言ってないだろ!」
配膳をするワカとミドリがムッと睨み合うのを、サンガクが咎める。
いつもの事だ。
「めでたい日に喧嘩などするでない。コノハ、ご苦労であった」
「さ、サンガク様達のお口に合うと嬉しいのですが……」
サンガクに肩をポンと叩かれる。それだけで張り詰めた何かが緩み、ニッコリ微笑むコノハ。
『トントントン』
「おーい! 山神三人衆、祝いに来たぞー!」
「外にまで良い匂いが漂っているが、これは期待できそうだな」
「ええ」
来客のノックにコノハは再び気を引き締めて、三人について出迎える。
サンガクが腕を振るうと、神域の入り口が開いた。
「お久しぶりー」
「おめでとうー」
「これ、祝いの品」
そこに立つ三人の来客の神々を見て、コノハの表情が引き攣る。
サンガクが一人から土産を受け取っている後ろで、コノハは隣に居たワカの裾をキュッと摘む。
「コノハ?」
「…………」
「あー、悪い三人とも。人型になってくれねぇか? 嫁が怖がっちまって」
「おお、こりゃあ失敬」
人を丸呑みに出来そうな大蛇。
蠢く不定形な水の塊。
傷だらけの大百足。
人の世で暮らしていたコノハからすれば、物の怪や妖怪の類でしかない。
『ポポン』
「……これでどうだ?」
だが、次の瞬間には大蛇も水も百足も山神達と同じく人型になっていた。
蛇柄模様の着物を纏った黒髪の青年と長くサラリとした青髪を結った美女、足軽の甲冑と笠を身に付けた男の姿へ各々変化した。
「それで? 怖がってるいたいけなお嫁さんって誰?」
「ココに居るだろ。見えないのか?」
「「「…………」」」
サンガクがコノハの肩を抱いて主張すれば、三人の目は幾度も瞬かれる。
「……お、おのこ?」
「しかも、結構……大人な」
「…………よめ、とは??」
「……どうも。ぉれ……私が、山神様の妻にございます」
深々と頭を下げるコノハに困惑する彼等の姿にワカは愉快愉快とケラケラ笑う。
「……本当に?」
「正真正銘、僕らのお嫁さんだ」
『カサ』
ミドリがコノハの頭にある葉を撫でれば、三人は益々信じられないとあんぐり口を開き始める。
「ごめん……え? 嫁? サンガク、冗談じゃないよな?」
「いやはや、驚きましたな……」
どうやら神々の中にも同性婚の前例はないようだ。サンガクは困ったように笑いながら、事実を伝えた。
「詳しい事は中で話さぬか?」
「ぉ、おお。そうだな」
祝いの席として用意された和室へ入れば、またも驚きの声があがる。
「こ、これは!」
「なんと……豪華な」
「街で見た食べ物もあるな」
並べられた料理を見て感心している様子に、コノハは照れ臭いらしく小さくなっていた。
「ささ、座った座った。積もる話しはあるだろうが、まずは乾杯といこうぜ」
ワカの言葉に皆、各々の座布団へ腰掛けた。手前に置かれた盃を持てば、溢れるように酒が湧き出る。
「(すごい……お酌要らずだ)」
「お集まりいただき、ありがとうございます。本日は無礼講にて御食事をお楽しみくだされ」
サンガクの短い挨拶が終われば、盃を掲げて乾杯をしていく。
「美味い! 何だこれ?!」
「それは山菜の天婦羅と山の恵みで作った煮物です」
「こっちは?」
「油で揚げた鳥の唐揚げでございます」
「……おのこの花嫁とはこれ如何にと思ったが、納得せざるを得ないな」
コノハの料理に舌鼓を打ち、客神達は次々と手をつけていく。
そして、それは夫達も例外ではない。
「……初めて食べるものばかりけど、全部美味しい」
「やべぇ……コノハって天才だったのか」
「うむ。どれもこれも食べ足りぬ程だ」
「材料を揃えてくれた旦那様達のおかげですよ。俺だけじゃ何も出来ませんから」
コノハの謙虚な物言いに益々関心が集まる。
「ほほぉ出来た嫁だな」
「髭面の大人だけど、案外可愛いじゃない」
「……良い子だ」
山神三人衆は嫁を褒められた事と、隣で嬉しげに笑うコノハを見て益々気分が上がった。
「我らが嫁の名はコノハ。村から捧げられた花嫁よ。初めは驚いたが……紆余曲折を経て現在に至っておる」
「紆余曲折って言うけど、それはサンガクの一人劇じゃん」
「僕とワカはすんなりと受け入れた」
「少しは悩め馬鹿どもが」
「ぁ、はは、不束者ですが今後とも宜しくお願い致します」
コノハは床に手を付いて深々と頭を下げる。客神達も遅れながら順に挨拶を交わす。
「俺は土地神をしているカガチだ」
「私は水神のオスイ。ワカと同じ山を管理してるわ」
「あっしは、裏裏山の山神。ツクモだ」
「カガチ様、オスイ様、ツクモ様、お越しいただき誠にありがとうございます」
もう一度頭を下げるコノハを手で制したツクモが笠を持ち上げながら料理を指差した。
「コノハ殿、料理を少し持ち帰らせていただいてもよろしいか? 人里の料理をうちの嫁に食べさせてやりたい」
「ああ、是非是非。奥方様のお口に合えば幸いです」
「そうか。ツクモの嫁も人間であったな」
「初めは環境の変化や食の違いで体調を崩していたりと苦労をかけた」
ツクモの言葉に、山神三人衆がハッとした顔でコノハへ目線をやるが、コノハは気付かず話しを続けていた。
「人間の花嫁は多いのでしょうか?」
「生贄としての花嫁は多いが、本当に神へ嫁入りしている人間はほんの僅か」
「貴方はその中でも希少。ううん、唯一かもしれないわね。男である以前に三人の神と重婚だなん初めて聞いたわ」
「あ……そう、言えば…ぃい、いいんでしょうか。重婚なんて、俺が、山神様を、独占して、しまって……こんな贅沢な」
現状を非常に珍しいと言われて、自身の異常性に気が付いたコノハが狼狽しながら神々へ問い掛けた。
コノハの言葉に神々は噴き出して、ケラケラ笑い合う。
「ぶっはっは! 道に繋がっておいて何を言ってるんだ!」
「うふふ、御三方も満足されてるみたいだし、大丈夫よ」
「ふはっ、これはまた随分と……旦那方、これから退屈しなさそうで何よりだ」
「ああ……全く、初日の図々しさは何処へ行ったのやら」
サンガクがコノハの頭をかき混ぜるように撫で付ければ、また和室から笑い合う声が響いた。
宴は夜まで続き、酒の入った神々はただの酔っ払いになっていた。
コノハも程良く酔いが回って、フワフワと良い気分になってきたが、そろそろお開きと皆が腰を上げて神域の出入り口へ向かう。
「コノハ、コイツら嫌になったらウチの嫁に来い。歓迎するぜ」
「あ、私も候補に入れて!」
「馬鹿言うんじゃねえ。コノハは俺らの嫁だ」
「コノハ殿、今日は馳走になった。次は嫁と共に伺わせていただく」
「はい。お待ちしてます」
和気あいあいと談笑しながら、一人ひとり神域から出て行くのを見送る。
片付けを済ませて一息吐いた途端に、静かな和室に寂しさを覚えるコノハ。そんな彼の腰を抱き寄せたのはミドリだった。
『グイ』
「!」
「コノハ、お疲れ様」
「ミドリ様もお疲れ様でした。酔い覚ましに水をお持ち、しま……あの、離してください」
「…………」
「?」
抱き寄せたまま、酔いで赤らんだ顔を向けてくるミドリに首を傾げるコノハ。
「おいおい、抜け駆けはダメだぞミドリ」
「ワカ様?」
背後から抱き竦められて、本格的に身動きが取れなくなった。
「サ、サンガク様」
コノハがサンガクへ助けを求めるように声を上げると、スッと眼前にサンガクの顔が広がった。
「サン──」
目を閉じる間も無く、口を塞がれてしまう。
いきなりの接吻に驚くコノハだが、二人の夫も構わず耳や頸に口を押し当てを続ける。
「んっ……はぁ……ぁ」
徐々に力が抜けていくコノハの身体を力強く支える。
「? ……っ??」
「はっ……コノハ」
「……ふぁい」
やっと離れたサンガクが濡れた唇を舌舐めずりで整える姿に、ドキリと胸が高鳴った。
ときめきではなく、これから起きる事を察した緊張によるもの。
コノハの耳をワカが食みながら、望む本心を口にする。
「優しくするから、触れていいか?」
「っ……」
嫌がる素振りのない嫁に気を良くしたミドリは、ヒタリと頬に手を当て横を向かせて唇を奪う。
サンガクの手は首から鎖骨をなぞって、胸元へ滑り込んでいく。
着物の割れ目から中へ手を差し込み、円を描くように薄くも弾力のある胸を揉む。
身体を震わすコノハはされるがままで、着物もあっという間に暴かれていく。
帯にミドリの手が伸び、慣れた手つきで解くと容易に布がはだけていく。
「今宵は、三人で良いか?」
「…………は、い」
サンガクの問いにコクリと頷くコノハの唇に、再び接吻をする。
四人が畳の上に寝転ぶと、息の合った連携を取りながらコノハの理性を溶かすように甘く優しく手解きをしていく。
「ぁあ……はぁ……はぁ」
酒気と汗で蒸れた匂い、互いの肌が擦れ合う感触に恍惚の表情を浮かべるコノハ。
「気持ちいいか?」
「……ぁぃ」
コクリと素直に頷く嫁の姿に愛しさが溢れる夫達。
三人から絶え間なく与えられる愛撫と緩やかな交わりに身体を震わせて何度も果てるコノハ。
思考回路は蕩けて、何も考えられなくなっていく。
「コノハ……コノハ……お主、幸せか? 今の生活は辛くないか?」
「さんが、く、さま……俺、しあわせ、です。さん……が、ぁぅ」
サンガクに髪を優しく撫でられて心地良さに目を細めるコノハ。彼の横に寄り添うよう寝そべるワカが手を伸ばし、胸の飾りを指先でクニクニと強弱を付けて捏ねると甘い声を漏らした。
「俺達の事……好き?」
「は、ぃ……ワカさま、は……いかが、ですか?」
「ふは、コノハが好きだ。誰にもやらねえ」
「僕もコノハが好き。いっぱい好き」
ミドリとワカに顔中に口付けられながら、コノハは嬉しそうにふにゃっと笑った。
だが、蕩けた理性の中でも、コノハは自分の言葉に引っかかりを感じてしまっていた。
「好き……です」
けれど、それを理解する前に快楽の渦に飲まれ、夜は更けていった。
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