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25・日常……END
しおりを挟む遅延性媚薬の完成品を売り出してからというもの……ノトスの元へ訪問者が頻繁に来るようになった。
個人的な性の問題を抱えている者が訪ねて来る事は偶にあったが、三日と間を空けずに様々な人々がノトスの元へと足を運ぶ。
結婚を控えた若い男。
「最近、疲れからか勃たなくて……新しい仕事に慣れない所為かも」
「ちゃんと眠れてます?」
「…………あまり」
「そうですか。なら、淫夢薬を一週間分お出しします。眠りながら勃起不全治療が出来る優れものです。もし、コレで兆しが取り戻せなかったら、また来てください。お大事に」
「ああ、ありがとうございます!」
スリットが入った際どいドレス姿の娼婦。
「お客様との行為が苦しくて……媚薬も飲んでるんだけど、あまり効いてる気がしないの」
「媚薬との相性もありますから。貴方用に調整した媚薬をお渡ししますので、それで様子見してください」
「ありがとうございます」
不妊に悩む妻を救いたい中年商人。
「子どもが欲しいと言っているのに、なかなか出来なくて……」
「あまり思い詰め過ぎずに。奥様にはこの排卵を促す媚薬品と貴方には特殊精力剤を出しておきます」
「私もですか?」
「子作りは女性だけの問題ではなく、夫婦の問題なので。二人三脚で頑張りましょう」
「っ、はい」
このように、悩みや問題を持つ者達が次々とやってくる。
原因は、どうやら娼館の支配人がノトスの生活を心配して性の問題を持つ客や娼婦など数人にノトスの店を紹介したのがきっかけだ。
的確な処方や気遣いを見せるノトスの評判が口コミで広まり、現状の結果となっている。
「はぁ……疲れた」
「お疲れ様です」
「ああ、ミナ君。来てたのか」
「はい。ハーブティー如何ですか?」
「いただくよ」
薬師見習いのミナもノトスの元へ立ち寄る頻度が増えていた。
温室にある仕事場で薬品調合などを教え、時にはノトスの媚薬作りを手伝っている。
ミナの淹れたハーブティーを飲みながら、遅延性媚薬の作り方を説明していく。
『コポポポ……』
「ここで“時間停止・弱”を付与すれば、効果の発動時間を遅らせられる」
「即効性と遅延性の違いってそんなに大事なんですか? 早く効く方が、遅いよりいいと思うんですけど……」
「……始まりは早く効く方が重宝されたらしい。ノロノロと尾を引きながら効き目が出る原初の媚薬も俺は好きだが、エロい事に関しちゃ皆貪欲だ」
先代達が考案した遅延性の媚薬が市場に出回った後も改良は絶えず行われ、結果的に今では即効性の媚薬が主流となっている。
しかし、完璧な遅延性媚薬の挑戦は媚薬生産者のロマンと化している。
「即効性のが使い勝手は良いし、今更最新の遅延性媚薬が登場したところで蛇足。けれど、遅延性の爆発力は桁違いだ」
「……壮大に語ってますけど、ようはめちゃくちゃ興奮するしエロいって事ですよね?」
「まぁ、そうだ。めちゃくちゃ興奮するしエロい。誰もが思い描く理想のエロは、ぶっちゃけ遅延性の方が再現性高いからな。だからロマンになってる」
ノトスの教え子達が生み出した遅延性能こそ、ノトスが目指す理想形態。絶頂後にくる第二波。欲情の津波。
「しょうもない……」
「そう言うな。コレで助かる命も、生まれる命もある」
「生まれるのは分かりますけど、助かるってどういう状況ですか?」
「冬山で遭難した奴が媚薬飲んで体温維持したまま下山した話は多い。気付け薬にもなるしな」
「…………」
物は使い方次第で化けるのだと、ミナは多角的な視野が持てない自分の未熟さを実感する。
「筋肉の収縮や血の巡りが良くなるから、心肺停止中に投薬して心臓が再起動した例もある。そこから医薬品用に改良された媚薬も存在する」
「世界は広いですね……」
「ああ。俺達もその世界を広げられる人間だ。ほら、できたぞ」
「……普通の媚薬との違いがわかりません」
「時間停止以外は通常と同じだから」
チャプンと少量の遅延性の媚薬が試験管の中で揺れる。
「即効性の効果の上にもう一段遅延で催淫効果乗せたらどうでしょう」
「それは過剰快感で脳が焼き切れて死ぬ。薬と同じく、多ければ良いってもんじゃないぞ」
「うーん……では、死なない程度の二段階効能は可能ですか?」
「可能だが……なに? ミナ君、使いたい相手いるの?」
「いえ、気になっただけです」
好奇心旺盛なミナの質問は、ノトスにとって新鮮なものだった。
まだまだ視野の狭い若者だが、考え方の柔軟性と妥協点の提示の早さは評価していた。
「あと、もう一つ気になっている事があるんですが……」
「何?」
「ノトスさんが魔法で使う弱や中って、肉の焼き加減じゃないですか。一般的には下位、中位、上位、最上位って言うので」
「ああ、それは催淫魔法特有の位付けで、熱を持たせて人の身を焦がす魔法だから、そういう洒落た位付けになったって聞いた。俺は癖で普通の魔法にも催淫魔法の位名称使っちまうだけ」
他と違い、催淫魔法が異端な物として区別されているのがよくわかる話だ。
「……面白いですね」
「そうだろう? 案外面白い魔法なんだ。催淫魔法って」
ミナの感想に上機嫌に胸を張るノトス。
自分の中で劣等の象徴だった催淫魔法は、誇りある己の能力だと堂々と言ってのける。
『チリンチリン』
「ああ、お客さんだ。ちょっと行ってくる」
「はい」
催淫魔法士を取り巻く環境は目まぐるしく変わる。
だが、ノトスにとって尊い平和な日常に変わりない。
この先も、変化を繰り返しながら変わらぬ日々が続く事を願いながら、ノトスは新たな来訪者を受け入れる。
「こんにちは。今日はどういった御用で?」
END
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