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2:◯◯しないと出られない建築①
しおりを挟む『トンテンカントンテンカン』
「……大仕事だな」
「全くだ」
色事特化の催淫魔法士であるノトス・ロルールの元へ規模の大きい依頼が舞い込んだ。
とある貴族の御令嬢の指示により、屋敷の敷地内に『性行為をしなければ出られない部屋』なるものの建築が行われている。
「この手の依頼、大なる小なり増えてきてるけど、この国大丈夫なのか?」
「俺達建築家や技術者は食いっぱぐれないから気にしないようにはしてる」
「娯楽に耽ってるだけ平和でしょうよ」
顔馴染み達と手分けしながら、ノトスも作業に勤しんでいた。
現場監督から依頼主のリクエストを知らされる。
「ロルール、媚薬を市販より強めにしてくれって……出来そうか?」
「うーん中弱ぐらいなら……成人なら理性はぶっ飛ばないかな。媚薬の効き過ぎでショック状態になったり、生命を脅かす危機的状況に陥ってもセキュリティ上こっちから手出し出来ないし、観測も出来ない。対象者の健康面と安全面を踏まえて、媚薬の効能はご理解頂こう」
「わかった。後で報告書にまとめとくよ」
ノトスが呼ばれたのは、部屋に常備する媚薬作りやその他アメニティ等への魔法付与の依頼だ。
「あと、えーっと、無排薬も」
「……無排薬なんて、久々に聞いた」
「俺は聞いた事ねえんだけど、どんな薬なんだ?」
「排泄を無くす薬。尿や便を身体から消し去る。戦争時の長期遠征部隊は排泄さえ真面に出来ない状況が多かった。それで体調を崩す兵士達が多かったから改善の為に作られたのが、無排薬」
「おおー流石、物知りだな」
依頼人が無排薬を知っているという事は、戦争時に戦線と関わりのあった家柄である事が察せられる。
それと同時に、ノトスは渋い顔をして無排薬の使用理由に勘付いてしまった。
「……後ろもか」
特殊プレイ用か、男同士用かまではわからないが、後ろ方面にも手当てが行き渡るという事に気付き空を仰いだ。
前線で命を賭ける兵士達の健康を守る為に作り出された薬が、平和な現在は貴族の娯楽アメニティに成り下がっている。
虚しさを胸に抱えながらも、依頼はきちんと熟すノトス。
「(無排薬は味が難点だ)」
ただ無排薬としての効能を付与する魔法を使えば良いわけではない。
媚薬を作る際にもノトスが草花で基礎を造るのは、香り付けだけではなく、より魔法の効果を身体に浸透させる為である。
魔法が付与されているのは薬の方であり、人間に効果が出るのは間接的なものだ。使用者の肉体がしっかり薬を吸収しなければ効果は現れない。
無排薬にも、体への浸透を手助けする薬草が存在する。
だが、その薬草は苦味が強い。
便秘薬の最終兵器として市場で出回っていてもおかしくない代物だが、現在そうなっていない理由はただシンプルに、不味いからだ。
兵士の中には膀胱炎になった方がマシ、漏らした方がマシだと言って拒否する者もいた程に、味がエグい。
「(性行為しないと出られない部屋……ムードが結構大事だろうな。内装もザ・ヤり部屋って感じだし……無排薬の味で萎えるだろ。キスだって不味くなる。こんなに皆で頑張ってるのに、台無しになる)」
たかが味、されど味。
ノトスが無排薬のレシピに頭を悩ませながらとりあえず必要な薬草を必要経費で落とせるか思考を巡らせながら、建材を運ぶ者達の邪魔にならないようにアメニティの配置を内装担当者と打ち合わせをする。
「(ああ……必要経費で落とせなかった時の事を思うと気が重くなる)」
研究と実験、試行錯誤の繰り返しだ。
その苦労も知らず、依頼主からもっとなんとかしてと言われる事も少なくない。
「媚薬の収納場所はやっぱり目が付けやすい場所がいいですね。ベッド横のサイドテーブルの引き出しがベストかと」
「そうだな。ベッドの配置は中央?」
「はい」
内装担当の若い職人は、設計図を広げてノトスをチラチラと見ていた。
ノトスはそれに気付きつつも、無視しながらアメニティや内装に手を加える。
「薬品類の発光はいるか?」
「欲しいところですね。ムードの為に光量は抑え気味にするので、一目で何かわかるぐらいの発光で。ライトは四つですかね」
「わかった」
順調に簡易な間取りや家具の配置が決められていく。
「あの……」
「ん?」
「……噂、なんですけど、こういう建物って、誰かが動作確認で……その……スるん、ですか?」
「…………この案件は初めて?」
「はい」
噂の真意を誰に聞けばいいかわからなかったんだろう。
ノトスはこういった案件の常連だ。尋ねる相手としては、適任であった。
「真偽を言うならば、噂は本当だ」
「マ、マジですか……」
「依頼者からライン引きされた性行為の当たり判定が部屋には組み込まれる。それが作動する確認作業が必要となる。利用者の安全を守る為にやる事だ。恥ずかしいだろうが、コレも仕事のうち」
若い職人の肩をポンポンと慰めるように軽く叩く。嫌な顔をしながらも、納得しようとしている。
「まぁ、基本は自己推薦式だからやりたくなきゃやらなくていい。君みたいなのは特に」
「え? なんでですか?」
「童貞には荷が重い」
「ど!? どっ童貞じゃ、ないですよ!」
ブワっと顔を赤らめて、ワタワタと否定する若い職人をハイハイとあしらうノトス。
「だが、事実が噂で止まっているのは、関係者が全員外部に漏らしていないからだ。守秘義務の書類に名を記したなら、この話を外でする事は違法となる。君も気をつけるように」
「はい……」
噂話が噂話止まりの理由がしっかりある事に、若さ溢れる彼は恥ずかし気に項垂れている。だが、すぐに顔を上げて仕事を再開する。
ノトスも隅で調合を行い、作業員に試飲させて感想を募っていた。そうしているうちにも日が傾いていく。
「無排薬の所為でめちゃくちゃ腹が減ったぞ」
「腹が空っぽだ」
「まっずぃ……口直しに酒でも飲みに行こう」
月が爛々と輝く時間帯となり、今日の仕事を終えた作業員達は口々にそう言いながら、各々帰路についたり飲みに行った。
自身も試飲で腹が空っぽのノトスもそろそろ帰ろうかと支度していると、ほぼ出来上がっている建物の中に明かりが灯っている事に気付いた。
覗いてみると茶髪の丸っこい頭が見える。あの若い職人がまだ一人残って内装の作業を続けていた。
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