監禁してる男からダメ出しされる人生

おまけ

17:初めてを愛でる余生

※大和目線



　俺はアイツに出会う前から、物持ちが悪かった。
　同じ服を数着着回して、一年後に総入れ替えして、また一年。
　ミニマリストと呼ばれているが、よくわからない。
　執着や思い入れというものも、あまりよくわかっていなかった。

「……むにゃ」
「(…………間抜け面)」

　俺の膝の上でピースカ寝ている颯太に対して、俺は初めて執着心というものを覚えた。
　コイツだけは、何故か手放したくないと思っている。
　俺をただ一人の人間として見て、真っ直ぐ直向きに好きだと伝えてくれる存在。俺を理解して、寄り添おうと頑張ってくれた。
　監禁技術はまだまだだが、俺への対応は全て神がかりだ。
　基本、颯太は俺を甘やかすのが上手い。
　俺にないものをたくさん持っていて、それを駆使して俺に施してくれる。
　だから、俺も何かしてやりたくなるんだ。
　この気持ちはきっと……恋だの愛だの言うものだ。

「んぅ……やまと」
「よく寝たな。おはよー」

　呼び捨てにもやっと慣れてきたようで、寝起きでもちゃんと言えている。
　ポヤポヤした状態で俺の肩に額を擦り付けながら、寝惚けてブツブツと何か言っている。
　可愛いな。こんな姿を外では絶対見せないだろう。
　会社で遠目に見た颯太はシャキシャキと働いて、キリッとした表情で電話対応や会議に出ていた。
　顔がまぁまぁ良いし、身体もスラッとしてて、清く正しくサラリーマンをしている。
　清掃員に挨拶してくれる数少ない社員の一人だったから、よく覚えている。

『ちゅ、ちゅぅ』
「くすぐってぇ。顎吸うな」
「髭可愛い」
「そこは可愛くないだろ……」
「大和が可愛いから」

　幸せそうに笑って、俺の顔にキスの雨を降らせている。髭が可愛いとか……。
　颯太は毎朝剃ってるからすべすべだ。滑らかな顎を撫でると、俺の唇や首筋に吸い付いてくる。
　猫みたいに甘えてくる仕草が可愛い。
　この姿を歴代彼女達も知らないだろうと思うと優越感があるし、俺だけが知っている姿だと思うと独占欲も満たされて気分が良い。

「(穏やかだ。つまらないと思っていた平穏な時間があり得ないぐらい心地良い)」
「大和？」
「……はは」

　俺しか見てないって顔を向けてくるのが愛おしい。だから、少し意地悪をしたくなった。
　ちょっと構って欲しくて……わざと身体を引くと、追いかけてくる。
　キュっと俺の袖を掴んで小さく唇を尖らせる様は子供っぽい。

「んー何？」
「別に」

　俺は颯太に向き直り、少し顎を上げてキス待ちの体勢を取る。
　すると、嬉しそうに俺の唇を食むから、その下唇を軽く噛んでやる。
　驚いたのか、肩が跳ねて唇が離れた。
　ちょっとムッとした顔になる颯太が可愛くて、また笑ってしまう。
　俺につられてすぐに笑顔に戻る。本当に俺のことが好きなんだなって実感するし……嬉しい。

『チャリ』
「首輪……そろそろ新調しよう」
「そうだな。一緒に買いに行くか」
「うん」

　首輪は、颯太が俺にくれたものだ。
俺が初めて自分の意思で選んだプレゼント。
　俺の首に嵌っている黒い革のベルトを指先で撫でながら、嬉しそうに笑う。
　その笑みにつられて俺も笑顔になるから不思議だ。
　この狂った幸せな時間がずっと続けば良いなとぼんやり思った。

END