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10:特別の意味を知る人生②

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「わかんねえ……恋だの愛だの、甘ったるいのはシラケてたのに……望んだ環境にいたはずの四年前の事を思い出すと身体が震えるし、心臓も痛い」
「……」
「甘っちょろい優しさをくれる颯太が今ではずっと側に居て欲しい気持ちもある」
「大和さん」
「……性欲だけで、ただ抱いて欲しいとは、今は思っちゃいない」

 前はプレイの一環としか思っていなかったようだ。しかし、今の大和さんは自分の心根を噛み砕いて僕に伝えてくれている。

「そう思ってる理由は……ヤってみなきゃわかんねえよ」

 おっと、うまくこちらを丸め込んで事に及ぼうとしている。本心半分性欲半分ってところだ。
 
「わかりました。ベッド行きましょうか」
『ジャラ』

 お姫様抱っこで運ぶと鎖が派手に音を立てて揺れた。大和さんが動揺している。
 前なら犬のように鎖を引っ張って連れて行けとか一言文句が出ていただろう。
 大和さんは驚きながらも、僕の腕の中で何も言わずに身を預けている。
 ゆっくり丁寧にベッドへ降ろして覆い被さりながら、大和さんの身体を愛撫する。

「ぁ、あ……っ」
「……」
「ん、んっ」

 僕の手の動きに合わせて甘い声を上げる。期待からか体温の上昇を感じる。鼓動も大分早い。
 
「背中、痛く無いですか?」
「……ちょっと痛い」

 素直に言ってくれて嬉しい。
 負担がかからないように、ゆっくりと進めていく。

「…………颯太も脱げよ」
「あっ、すみません」

 久しぶりの行為を間違えないように、脳内で手順を整理する。
 ボクサーパンツを脱ぐと、大和さんに熱視線を注がれた。

「そんな見ないでください。初めてでもないのに」
「いや……挿れんのは、初めてだし……うわぁ、デケェ」

 手の甲で陰茎をスリッと撫でられる。

「ん、ぅ…………煽らないでください」
『グイ』

 片足を持ち上げて、準備万端な後孔に人肌温度のローションを塗り込み、指を一本挿れる。

「ぁっ!」

 なるべく性急にならないように、ゆっくりと時間をかけて解していく。
 だが、大和さんの慣れもあってすぐに柔らかくぬかるんでいった。

『グチュ、クニュ』
「もう、はいる。大丈夫だから、ぁ、あっ、指抜け……って」
「充分柔らかいですけど、大和さんまだ身体が強張ってますよ」

 後孔は解れても、大和さん自身が固くなっている。
 大体セックスでは一方的に蹂躙される為、耐える姿勢に入っていた。

「優しくしますから……もうちょっとだけ解させてください」
「んっ!」

 大和さんの陰茎を掌で包み込むように握り込むと、ゆっくりと上下に動かして扱き始めた。

「っふ……ぁ、あ、はぁ」

 直接陰茎に刺激を与える事で身体の力が抜ける。その隙を狙って後孔の中を撫で擦り、執拗に掻き回した。そして、前立腺を指の腹でノックして押し潰す。

「んぁっ! あ、はぁ……やば」

 感じ入る大和さんの声を聴いているだけでゾクゾクする。
 二本の指で後孔をクパァと広げつつ、キスで緊張の糸を緩ませていく。

「んっ……んん、もぉ……い、れて」

 必要以上に時間をかけ、丁寧に解し続けた甲斐もあり、大和さんが僕に手を伸ばしながら先を強請る。

「はぁ、ちょっと待ってください」
『ピリ』

 ゴムを装着してから、準備が整った陰茎を後孔にあてがう。

「挿れますよ」
「んッ……」
『クプ』

 先を沈ませると、後は驚く程スムーズに入っていった。吸い付かれる感覚と繋がっている事実が僕を大いに興奮させる。

「ぅあ、ぁ……」

 陰茎の太い部分が入っていく衝撃に大和さんが顔を顰めるが、痛みは感じていないようだ。

「大丈夫ですか?」
「ん……ぁ、平気」

 大和さんの下腹部を撫でながら声を掛けると、徐々に恍惚とした表情に変わっていく。
 根元付近までグッと押し込み終えると、僕は上体を倒して大和さんに覆い被さった。そして、ゆっくりと抽挿を開始する。

「んっ、ぁ、あっ……颯太、もっと」
「ッ……く」
『ヌチュ、グプ』

 次第に動きが速まり、大和さんの口からひっきりなしに嬌声が上がる。腰を打ち付ける度にビクビクと陰茎が反応し、鈴口から蜜をこぼしている。
 僕は遠慮なく目の前の身体を堪能しながら抽挿を繰り返し、自分の快楽も追い求めていく。

「あぅ、あっ! あ゛ぁ!」
「っ……好き」
「ひぐッ!」

 抱き込むようにしながら、耳元で愛を囁くと後孔がキュッと締まる。

「大和さん、好き。大好き」
「ふ……ぅ、んっ……あ゛ぁッ!」

 止めどなく与えられる快楽に思考を溶かされ、僕の言葉も聞こえていないかもしれない。だが、僕は構わず何度も好きだと言い続けた。

「好きです」
「あっ、やば……いぃ、んぁっ」
「大和さん……っ」
「はッ、はぁっ、あっ、いく、あ゛ぁッ!」
「はっ……!」

 大和さんが果てるとキツく締め付けられ、僕も堪らず精を吐き出した。
 お互い絶頂の余韻に浸りつつ息を整える。僕は中に出した精液が零れないようにゴムを抑えながら陰茎を抜いた。そして、新しいコンドームに付け替えて再び覆い被さった。

「……えっ」

 まさか続行するとは思っていなかったようで、大和さんは瞬きを繰り返して僕の顔と再起したモノを交互に見つめている。

「次はもっと、気持ち良くしてあげます」

 想像よりも遥かに大和さんとのセックスは気持ちが良かった。愛でて、可愛がって、快楽で溶かしたい欲求が芽生える。
 踏み躙られたい性を持つ大和さんが望むプレイとは真逆の行為だった。

『パチュ、グプン、ズニュルル……』
「ぁ、んん……ンッ……はぁ、あぁ」

 緩やかな腰の動きと、輪郭が溶け合うような濃密なキスを何度も交わしながら、責め立てる。

「ひぁっ……ん、んぅ、颯太、もぉ……イかせて、くれ」
「イったら、疲れちゃうでしょ? もっともっとドロドロに甘やかしたいんです」
「だからって……んっ、こんな焦らされたら、おかしくなっちまう」
「僕の事だけ考えてください」
『グプ、クチュ……グリュ、グリュ』

 奥を亀頭で捏ねるように突き回し、そのままねっとりと揺さぶる。激しい抽挿より断然この動きの方が大和さんの反応が良い。

「あっあぁ、それ、だめッ……ん、んんん!」

 粘着質な快楽に酔いしれて目を蕩けさせていた大和さんの表情が一気に強張った。

「イ、く……ッ! あぅ、ぁあああ!」

 ビクビクと内腿を痙攣させ、大和さんは射精を伴わずに絶頂を迎えた。所謂、メスイキというものだ。

「はぁ……ん……」
「女の子みたいにイけましたね」

 言い方が気に触ったのか恨みがましい視線を向けられたが、僕は気にせず抽挿を再開する。

「っ!? まって……今、イったばっかで、ぁうっ」
「大丈夫。ゆっくり動きますから。もっと気持ち良くなってください。全身で僕を覚えてください」

※※※

「はぁ……はぁ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるなら眼科行った方がいいぞ」
「大丈夫そうでよかった」

 終始緩慢なセックスだったのだけれど、大和さんは何度も身体を震わせてメスイキを迎えていた。

「……お前って、ちゃんとSっ気あったんだな」
「え?」

 別にSMプレイをしたつもりは無い。ただ、大和さんを隅々まで愛したかっただけだ。

「久しぶりにトぶかと思った」

 ベッドに座り込んでフラフラしている大和さんを支えるように抱き寄せて、汗で頬に張り付く髪を撫で払う。

「激しくはなかったでしょ?」
「ねちっこ過ぎる。まぁ良かったけど……あんなにじっくりとイかされたの初めてだ」
「これからは、嫌って程してあげますよ」

 額にキスを一つ落とすと、大和さんは身を縮こまらせて身動ぎした。

「……もっと激しい方が、俺の精神衛生上助かる」
「そうですか? なら、次はもう少し激しくしてみますね」
「そうしてくれ」

 次回予告に乗り気な大和さん。無意識かもしれないが、僕から与えられる愛情を心地良さそうに受け入れてくれている。
 頬を撫でる手に擦り寄ってくる。可愛い。

「……ヤってみて、どうですか?」
「…………どうって何が?」
「あ、逃がしませんよ? 僕への気持ちです。はっきりしましたか?」
「………………なぁ、颯太。約束してくれ」
「?」

 大和さんが俯きながら、しどろもどろに言葉を紡ぐ。

「関係が変わっても……環境は変えないで欲しい。首輪をして、犬猫のように扱って、時には罵って欲しい」
「……そこは、話し合いましょうか」

 話し合えば、お互いに丁度良い折衷案を見つけられる筈だ。
 
「大和さん、そう言ってくれるって事は……そう言う事ですか?」
「…………そう言う事だ」
「どう言う事かはっきり言ってください」
「なんだお前」

 わかってるクセにわざわざ言わせるのかよ、と大和さんは呆れたように言葉を漏らした。
 セックスまでしたのに、それを口にして言うのは恥ずかしいらしい。
 僕は大和さんが言い易いようにサポートする事にした。
 俯き気味の大和さんの顎を掬って、強引に目線を合わせる。

「ちゃんと言えたら、沢山キスしてあげます」
「んっ……」

 軽く口付けをして離れると、名残惜しげに潤んだ瞳で見つめられた。本当に可愛い人だな。

「ほら、もっと欲しいでしょ?」
「……わかったよ」

 大和さんは僕に手を伸ばしながら顔を近づけてくる。そして、耳元で内緒話をするように囁いた。

「……好きだ。颯太が、好き」
「…………よくできました」

 大和さんの言葉を皮切りに、何度も何度もキスをして舌を絡め合う。

「ん……ぁ、ふ……っ……」
『チュプ……』

 互いの吐息と唾液が混ざり合い、一つに溶けていくような濃厚で甘いキス。何度も角度を変えながら繰り返して、満足するまで貪り続けた。
 
 気付けば、時計の針が十二時を過ぎて大分経っていた。

『ぎゅるるる』
「……腹減った」
「そうですね」

 ムードもへったくれもない腹の虫が空腹を訴えてくる。
 キスで腹は膨れないが、それでも離れるのは口惜しい。

「ご飯……」
「……カップ麺にするか?」
「んぅ……作ります」

 面倒だが、大和さんにはしっかり食べて欲しい。
 ベッドから起き上がり、散らばった衣服を着込んでキッチンへ向かった。

『グイ』
「?」
「……俺も手伝う」

 胸の内から湧き上がる感情を抑えながら、僕は大和さんの手を取った。
 


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