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7:踏み躙られてきた人生①
しおりを挟む※久遠 大和目線
監禁されて半年とちょっと。
中山くんはいつも通り出勤して、いつも通り家に帰ってくる。会社で見かけていた時と何も変わらない様子で。
犯罪を犯してる人間の顔じゃない。イかれてやがる。
「(そこがいいんだけど……)」
優しくて常識的なはずの男が、失恋に狂って小汚い中年男性を手にかけた。
好きだの愛してるだの言ってるが、どうやら本気らしい。
性的な事を求めて、セックス以外は応えてくれた。
俺の性にも真摯に向き合ってくれているが、彼の性である優しさもブレはしない。
それらが中山くんの中でおかしな融合を果たして、乱暴な優しさというものを生み出した。
初めてだ。撫でられながら首を絞められているような矛盾に、脳がクラクラする。胸が熱くなって、ときめいてしまう。
彼の感性が普通じゃないように、俺も普通じゃないのは解ってる。
「久遠さん、猫ちゃんの日はもう過ぎましたよ」
「誘ってんだよ」
「……動物を抱く趣味はありません。人として媚びてください」
膝に跨って猫のように頬を擦り付けても、反応が悪い。俺の事が好きなのに、彼は発情しても猿になってくれない。
監禁した張本人である中山くんに犯されたいなんて欲求を抱いているのもおかしい話だ。愛でて欲しいんじゃない。惨めにさせて欲しいんだ。エゴでぶん殴って欲しいだけなんだ。
人生終わるような監禁に踏み切るぐらいの頭おかしさがあるんだから、独りよがりのエゴをぶつける素質は絶対にあるはずなんだ。
優しいから、いい感じにセーブも出来るし、やり過ぎない。やり過ぎても度は過ぎない。そんな男だから、側に居る。苦手な料理だって作ってやりたくなる。いつも美味い美味いと顔を綻ばせて笑ってくれるし……作り甲斐がある。
「中山くん……中に君のが欲しい」
「……年上として媚びて欲しいです」
「注文が多い」
「頑張ってください」
「……………… 颯太」
下の名前を呼べば、中山くんの身体が動揺に強張った。
無茶振りに応えたら、今日こそ抱いてもらえるかもしれない。
呼び捨てで、彼の名前を口にしたら……不思議と鼓動が跳ねて、心がくすぐられた。
この感覚は、何て言うんだろう。言葉にならないけれど、違和感がある。
「我慢せずに、俺を抱いていいんだぞ? 俺も身体が火照って仕方ないんだ……頼むよ」
「……名前」
「聞けよ」
「もっと呼んでください」
「…………はぁ、颯太」
もう一度呼べば、彼のテンションが明らかに上がった。
……俺が名前呼ぶだけでこんな風になるんだな。
「久遠さんの口から僕の名が……ふふ」
「……そんなに嬉しいなら、これからそう呼んでやる。俺の事も名前でいいぞ」
「え……ぃ、いいんですか!?」
「ああ、減るもんじゃねえし」
「……や、やっ大和さん」
幸せを噛みしめるみたいに俺の名前を呼んでいる。
本当に俺が好きなんだなって思い知る瞬間が何度もある。
「で? 抱いてくれねえのか?」
「ちょっと……すぅーー……この気持ちを乱したくないので、今日はもう無しで」
「やるだけやらせてこの野郎!」
「すみませんすみません」
謝りながら俺を抱き締めてキスの雨を降らせてくる。
ガッカリしたが、こうやって執着されていると思えば悪くもない。
けど、やはり……まだまだ物足りない。
「……はぁ、その、舌出してもらえませんか?」
「……ん」
舌を出して絡ませながら密着度を上げていく。徐々に興奮して昂ぶってくる。体温が上がって全身が疼いてきた。
彼が欲しくて仕方ない……このまま押し倒して、ぐちゃぐちゃにして欲しいのにな……してくれない。
もどかしい……もどかしい……もどかしい……頭がおかしくなる。
「触ってくれよ……」
「っ……ふふ、エッチですね。でも今日は寝ましょう」
「(くそったれ……)」
一人で焦らされて悶々する苦しさ。生殺し状態で放置され続ける辛さ……未だに発散してもらえず、雁字搦めになって肥大していく欲求。
ハードル上げやがって……お優しいだけのセックスしてきたら、出てってやる。
※※※
監禁一年目が見えてきた温かい春の日。残業続きで帰りの遅い颯太に、未だに抱かれていない。一度も。
ドロドロした不倫の昼ドラマ鑑賞を終えて、俺は夫とすれ違って肉欲を抱える妻に共感している。身体ごと。
抜いても、後ろが疼くし……精神圧迫が圧倒的に足りない。
尊厳も何もかも捨て去って、惨めに這いつくばって罵られていたいのに。
「……はぁ~~あ……今日も遅いのかもなぁ」
独り言を零して、疲れて帰ってくる颯太の為に作る夕飯を脳内で軽くイメージした。
『ピンポーン』
「……ん?」
宅配か?
『ピンポーン……ピンポーンピンポーン』
「(……しつこいな。なんだ?)」
親族の可能性もある為、来訪者が見れる扉の穴を覗き込む。
「ッ……!?」
心臓が止まりかけた。
両手を口に当てて息を殺して、玄関でしゃがみ込んだ馬鹿な俺は、首輪に繋がっている鎖の事をすっかり忘れており、派手に音を立ててしまう。
『ジャラララン!』
「……っ……」
扉越しに感じる存在。
背筋が悪寒でギシギシと痛む。
なんで居場所がバレてんだ。転職しまくったし、痕跡を残さないように物も最低限にしてきた。颯太も外で俺の事なんて言ってないはずだ。
「………………大和……」
扉越しに聞こえる。のっぺりとした、男の声。
「随分と探したぞ……こんなとこに居たのか。ミニマリストの悪癖は酷いな。俺まで捨てやがって」
「…………」
「悪かった……俺が悪かったよ。大和」
「…………」
謝る気も許す気も毛程もない癖に、淡々と語る男が不気味でしょうがない。
「……居るんだろ? 入れてくれよ」
「…………」
「入れてくれないなら、今のご主人様がどうなっても知らないぞ」
「ッッ!?」
颯太への危害宣告に冷や汗と震えが止まらない。
この狂った来訪者が颯太に与える危害など考えたくないが……被害証言も出来ず、社会復帰が出来ぬ程にズタズタにされる颯太の姿が勝手に脳裏を過ってしまった。
ガチガチと歯を鳴らしながら、ドアチェーンを外してドアノブを回すと……乱雑に扉が開かれた。
「久しぶりだな……大和」
「っ……は、はは」
にっこりと胡散臭い笑顔を貼り付けた男が俺の肩を押して家の中へと上がり込んできた。
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