上 下
2 / 2

第2話 スキル所持者

しおりを挟む
 サメは、一軒家を丸呑みにできそうなほど巨大な口を広げ降りかかる。ロドンとクレスはプランクトンか何かと同列に思われているようだった。

「……逃げるぞ!!」ロドンは、クレスを箒ごと抱えて走り出す。

 爆音を轟かせて、ロドンたちにサメの巨大な口が迫る。街の方角からは恐怖に駆られた悲鳴が上がる。

「どうしてサメがああもデカい!そんでどうして飛んでんだ!」

 走るロドンに抱えられながら、クレスが叫ぶ。
「あの!!」
「何だぁ!?」

「私、飛べます!走るよりずっと速く!!」

 クレスはロドンの腕からするりと抜けると、箒に跨った。そのままふわりと宙に浮くと、ロドンの周りを目にも留まらぬ速さで一周する。

「おお」予想外のスピードに圧倒されるロドン。

「乗ってください」低空飛行のままホバリングするクレス。その顔つきは先程までとは打って変わって精悍なものとなっていた。

「よっしゃ!」ロドンは箒の柄に掴まる。猛スピードで砂埃を上げる箒は広場の植え込みを突っ切り、サメの牙がもたらす死と破壊から逃れんとしていた。

 ロドンとクレスは体勢を低くする。

「ギリギリいけるか……?」

 箒は間一髪、閉じかかったサメの口から抜けた。サメの口が閉じられる。噴水が、市長像が、ベンチが、植え込みが、ノコギリ状の歯に圧砕されていく。

「ナイスッッ!!」ロドンは右手を柄から離し、ガッツポーズをとる。

 サメが再び上昇すると、広場一帯は巨大な顎の形にえぐり取られていた。

「このまま街を出ます!あのサメは貴方……私たちを狙っているので!!」風圧に煽られながら、クレスが叫ぶ。

「なんで分かるんだよ」

「後で説明します!信じて!!」

「ああ、信じるぜ!!」ロドンはクレスの腰に手を回した。

「ひゃぁっ!?」クレスの動揺を反映するかのように、箒が乱暴に蛇行する。

「空気抵抗を下げるためだ、我慢しろッ!!」

「~~~~~~~~ッッ!!」声にならない叫びを上げるクレス。

 姿勢を低くした二人を載せ、箒は草原を横断する。地表面より少し上を滑空する箒が、青い草海の面に真っ直ぐな線をつくる。

 ちらとロドンが振り返っても、サメの姿は見えない。

「撒いたみてェだな」

 正面に向き直って訪ねる。

「街まであとどれくらいだ?」

「あと1日くらいでしょうか」

「街と街がそんなに離れてんのか。不便だな」

「はい。それなりに産業ができて魔物の出ないところを選ぶとなると、場所は限られるので。だから魔法使いは運び屋として需要が高いです。魔女の宅配便ですね」
 クレスは誇らしげに胸を張る。

「そうか」ロドンは息を漏らすように笑った。

 ◆

 日が傾いて薄暗くなり始めた草原の河畔、二人は焚き火を囲んでいた。

わりぃ、ちょっと焦げた」
 ロドンは、枝で串刺しにされた川魚を差し出す。

「わ、ありがとうございます」
 クレスは魚を横向きに持ち、腹に噛りついた。

「昼の話だけどよ、なんであのサメがオレたちを狙ってるってわかったんだ?」

「広場には私とロドンさんしかいないのに、どうしてサメは私たちを襲ったのかな、って考えたんです」

 言われてみれば、近くには市街地がある。人を喰いたいならわざわざ人口密度の低い広場を狙う必要はなかった。

「スキル所持者はスキル所持者を倒すと、その人の持っていたスキルを獲得できるんです。ほら、サメは【空間飛行】のスキルを持ってるって言ったじゃないですか」

「ああ、言ってたな」ロドンが頷く。

「石を【発射】したロドンさんを空から見ていて、それで襲ったのかなって」

「……お前、あの一瞬でその判断を?」

「領主様に今回の作戦に同行するよう言われてから、たくさん勉強したので。学びは思考のの第一歩ですから」

 ロドンは感心した。そして同行者の少女を、なおのこと頼もしく感じた。

「ほら、広場で地図を見せたとき、サメの飛行ルートを予測してたじゃないですか。あれもサメが能力を集めているんだろうと仮定して推測したものなんです。クナルトやリアトのような街には、能力者がいますから」

「……なるほどな」

 その時、焚き火の中に何かが飛び込んだ。

 火は一瞬にして消え、辺り一面は闇に閉ざされる。

「何だ」ロドンは、一瞬にして暗転した視界に戸惑う。

「【炎魔法】!」クレスが叫び、杖の先には小さな火が点った。僅かな光が戻る。

「サンキュ」

「あまり広範囲は照らせませんが」

 炎のあった場所に灯りを近づける。組み上げられた枝に飛び込んでいたのは、一本の矢だった。

「何で、矢で焚き火が消えた?」

「【水魔法】が使われたんだと思います。私から離れないでください、ロドンさん」

「ああ。お前こそ離れるなよクレス。次はオレが弾く」ロドンが腰に下げた剣を抜いた。

 覚束ない光のもと、周囲を窺う。あたりは草原ばかりだが、進行方向には森がある。

「森から撃ってきてるのか?でも──」
 遠すぎる。焚き火なんて、あると言われても気づかないはずだ。

「夜目が効くっつったって、限度があるだろ」

「──スキル所持者かもしれません」クレスは杖を握り直す。

「なるほど。なら殺そう」
「でも、遠距離戦は──」
 ロドンが遮った。

「この距離で撃ってくる奴から、逃げ切れると思えねぇ」
「な、なるほど……」
「それに、理由はまだある」
「へ?」
 クレスはキョトンとする。

「お前、さっき言ってただろ?」
 ロドンは呆れたような目を向ける。

「スキル所持者は倒した相手のスキルを奪える、ってなぁ」
「あっ……」

 ロドンは舌なめずりをした。
「誰だか知らねぇけど、サメ殺しの足しにさせてもらうぜ」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ
ファンタジー
 極々平凡なサラリーマンの『舞日 歩』は、駄女神こと『アテナ』のいい加減な神罰によって、異世界旅行の付き人となってしまう。  そこで、主人公に与えられた加護は、なんと歩くだけでレベルが上がってしまうというとんでもチートだった。  しかし、せっかくとんでもないチートを貰えたにも関わらず、思った以上に異世界無双が出来ないどころか、むしろ様々な問題が主人公を襲う結果に.....。 これは平凡なサラリーマンだった青年と駄女神が繰り広げるちょっとHな異世界旅行。

英雄のいない世界で

赤坂皐月
ファンタジー
魔法の進化形態である練魔術は、この世界に大きな技術革新をもたらした。 しかし、新しい物は古い物を次々と淘汰していき、現代兵器での集団戦闘が当たり前となった今、この世界で勇者という存在は、必要の無いものとみなされるようになってしまっていた。 王国の兵団で勇者を目指していた若き青年、ロクヨウ・コヨミは、そんな時代の訪れを憂い、生きる目標を失い、次第に落ちこぼれていってしまったのだが、しかし彼の運命は、とある少女との出会いをキッカケに、彼の思わぬ方向へと動き始めてしまう──。 ●2018.3.1 第1シーズン『THE GROUND ZERO』が完結しました! ●2018.3.23 BACK TO THE OCEAN Chapter1 完結しました。 ●2018.4.11 BACK TO THE OCEAN Chapter2 完結しました。 ●2018.5.7 BACK TO THE OCEAN Chapter3 完結しました。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

最強魔力量の最弱魔術士はマトモに戦わない

༺みずな(シャキシャキ)࿐
ファンタジー
「このクソ魔術しか使えん役立たずが!」そう彼こそが正真正銘の最弱魔術、その名も『集配魔術』の使い手、ルヴェンだ。彼は幼い頃に捨てられ、トロンの村の酒場の主人に引き取られていた。その暮らしはバカにされながらも平和なものだった。しかし、ある事件をきっかけに世界の残酷さと自らの正体を知った彼は復讐を決意し旅に出る。そんな彼が配るものは絶望か希望か。理不尽な魔力量と最弱魔術によって紡がれる予測不能の物語、ここに開幕。

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...