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 翌朝、昨日の女が私の部屋にやって来た。眠そうな感じしか伝わって来ない。本来ならばこの時間は寝ているのだろう。文句でも言いに来たのか、追加報酬でも要求するつもりなんだろうか、どちらにしても面倒そうな雰囲気しか伝わって来ない。眠いのなら自分の部屋で寝ればいいのに彼女の狙いがいまいち分からなかった。よく考えれば私の恋愛経験はゼロなのかもしれない。恋人と一緒に自分の部屋で休日を過ごした事がなかった。そろそろ人生を終わらせる頃だと思う。経験した事がない事があるのなら、悔いが残らないように経験する必要があると思った。床に座ってテレビを見ていた私の前に、彼女が無理無理に座って来た。背後から酒臭い彼女の身体を嫌々抱き締める。どうでもいい昨日の仕事の話を聞かされ続けた。彼女の話はほとんど聞き逃して、テレビを死んだ目をして見続けていた。

 家族に対して完全に心を閉ざしていたように彼女に接した。さっさと帰ればいいと思っている。誰よりも冷たい自分がいる。頭の中で彼女を何回か殺した。首絞めて殺した。頭を床に打つけて殺した。酒の臭いがする。酔っ払いは嫌いだ。馬鹿にみたい騒ぐ。迷惑でしかない。殺せ、殺せ、殺せ、感情に蓋をしても、それでも殺意は溢れて来る。私の本性は誰にも見せたくない。見せられるものではない事は自分が1番分かっている。私は時々、死にたくなる。殺意を身体に纏う事で、自分が早く死ねるのではないかと思っていた。右手で彼女の胸を擦る。それだけで彼女の身体ビクビクと震えてしまった。よく考えれば、彼女はその辺の一般的家庭のお嬢様ではない。私の本性が見えていたのかもしれない。殺意を感じる事が出来るのかもしれない。凶悪な支配欲でボロボロにされたいのかもしれない。世の中には自分から進んで、傷付こうとする変わった人間もいるぐらいだ。彼女の子供の頃は知らないが、人とは違う何かがあるのかもしれない。

 昨日の昼間から夕方までの時間に、彼女の中に精液を出し尽くしていた。私の下半身は反応しない。そんなものなのかもしれない。何も考えずに好きなように彼女の身体を背後から弄る事にした。テレビを見ながら、彼女の右耳を唇で噛む。左手で左胸の乳首を、右手で彼女のクリトリスを弄くり続けた。雌豚はさっさと逝って帰ればいい。テレビを見ながら感じ続けている彼女には一切の感情が生まれない。怒るのも、不快に思うのも、彼女に対して僅かなエネルギーを使うのさえ無駄だとしか思わない。昨日よりも濡れているかもしれない。昨日よりも感じているのかもしれない。昨日の演技のような声よりはマシかもしれない。昨日と違う自分を見せて私の興味を誘っているのかもしれない。これも演技かもしれない。彼女の心が分からない。

 飽きるのにそう長くの時間は必要なかった。右手に付着した彼女の体液を早く洗い落としたい。彼女は満足したのか私の部屋を無言で出て行った。私の畳んだ布団の上には、昨日、彼女に渡した封筒とお金が置いてあった。数えるのも不愉快でしかなかった。追いかけて無理矢理渡しても受け取らないだろう。だったら1、2発殴って渡せばいい。殺すと脅して渡せば受け取るだろう。私が理解出来ない行動はとにかく不愉快でしかない。合理的に考えて納得出来ない行動は全てが間違いでしかない。間違いは正さなければならない。少し演技しないといけない。演技しないと殺すかもしれない。

 彼女の部屋はマンションの5階だった。どの部屋も家賃が3万程度の安くて狭くて、少人数を除けば、ゴミのような人間しか暮らしていなかった。彼女は違うのかもしれない。少しは敬意を払う姿勢を持とう。チャイムを鳴らしたが無反応だった。いないのかもしれない。そんな事があるだろうか?もしかして、部屋ではなく外かもしれない。一応はドアノブを回してみる事にした。ゆっくりと鉄扉が開いた。女の1人暮らしで不用心としか思えない。私が女ならば絶対にやらないだろう。その前にこのマンションには住まないと思う。それなりの収入があるのなら、さっさとマシな住まいに引っ越すべきである。それとも、私と同じように身元保証人がいないので、まともな住居が借りられないのかもしれない。そういえば、彼女はさっき何を話していたのだろう?全然、思い出す事が出来なかった。テレビの内容さえも思い出す事が出来なかった。思い出す事が出来たのは彼女の酒の臭いと甘い声だけだった。

 部屋に入ると彼女がベッドで寝ていた。そんなに疲れていたのだろうか?それともこれから私以外の男でもやって来るのだろうか?風呂場に誰かが隠れていて、住居侵入の現行犯で私を捕まえるつもりなのだろうか?本当に予想が出来ない事は面倒で不愉快で凄くドキドキさせる。緊張感と恐怖感が自分を包み込んで来る。どちらも好きな感情である。自分が生きてる実感を感じさせてくれるものだ。玄関の鍵とチェーンをかけた。風呂場の中を確認したが誰もいない。ベランダと押し入れはどうだろうか?気配は感じない。では、彼女はどうだろうか?顔は見えるが毛布で隠れた手足は見えない靴を履いてかもしれない。包丁を持っているかもしれない。催涙スプレーやスタンガンを持っている可能性も高い。防犯ブザーはこの状況では最も効果的かもしれない。意識が覚醒すると考えられる全ての行動パターンが一気に頭の中に流れ込んで来る。日常とは違うこの感覚と興奮が私を悪い方向へと連れて行こうとする。善行よりも、悪行の方が頭の回転が速くなり、心をドキドキさせてくれる。このまま彼女を殺してもいいかもしれない。

 乱暴に素早く彼女から毛布を引き剥がした。軽く悲鳴を上げて驚いていたが、私を確認すると胸を撫で下ろして安心していた。ただ横になって本当に寝ているだけだった。期待した結果が簡単に起こるとは思わない。それが現実である。私を殺したいと思う人間はいない。誰もが私に興味がある訳ではないのだ。誰かが飲酒運転で捕まろうが、覚醒剤で捕まろうが、世の中の人はそんな事を気にするよりも、自分の事を気にするはずだ。自分に関係する事しか目には見えていない。私と同じように誰もが自分勝手で迷惑な存在でしかない。立ち上がろうとする彼女をベッドに押し戻すと眠くはないが一緒に寝る事にした。酒臭い身体は嫌だが、ベッドの匂いと毛布の匂いは嫌ではなかった。酒の味のしないキスを数回すると久し振りに頭の声が全く聞こえなくなっていた。
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