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編み物、裁縫、粘土細工、ガラス細工、紙細工、木工細工などのありとあらゆる雑貨品を作った。制作するのは簡単である。作り方を覚えて作る。ただそれだけをやれば作れない物はほとんどないだろう。難しいから出来ないと言う奴は理解していないだけでしかない。数学の問題と同じで解き方を理解していないと解く事は出来ない。そして、解く事が出来れば、手の平を返したように簡単なものになってしまう。出来ない人間はいない。理解しようとしなかったか、理解するのを諦めただけでしかない。私も綺麗事は言える。だが、同族の人間達の生き方を理解しようとするのは、もう随分と昔に諦めた事であった。
大人しく良い子にしていれば、徐々に印象は良くなるものだ。職員の人は私が前科者だと理解しているが、利用者で知っている人は誰もいない。誰もいないはずである。私はただの天才肌の好青年でしかない。精神障害者のね。それに作業所には男は2人しかいない。私と18歳の知的障害者のどちらかを選ぶしかないのだ。心理学だったと思うが、学校の教室の中にいる15人のブスの女性しか、世界に女性が存在しないとすると、男はその15人のブスの中で1番の可愛いブスを必死に見つけようとするらしい。それと同じであった。女性の利用者の2人が私に好意を持つようになった。
ブス2人にも、ニコニコ笑顔で対応する私は知的な紳士に映るだろう。少しずつ目的の2人とも仲良くなっていく。25歳の女性の方が私の家とは近いようだった。だが、まだガードが固かった。その女性は自転車とバスを使って作業場に来ていた。家の近くまでは一緒に帰るのだが、自宅を知られたくはないようだった。家の近くになると自転車に乗って帰って行く。彼女との会話から親から仕送りをもらって、アパートで1人暮らしをしているのは分かっていた。私は休日になると彼女の自転車を探す事にした。
彼女の自宅はこの場所から自転車で5分ぐらいだと言っていた。彼女は何かの賞を取った事があり、実家の場所と学生時代の部活動は陸上部だと話していた。プロの探偵ではないが、それに等しい実力はあった。一軒家は除外する。家賃が高そうなアパートとマンションも除外する。実際に歩いて5~10分の範囲を地図に印をつけていく。はっきりと言えば建物は無数にある。彼女の会話の中で重要な部分は1つずつ記憶を巻き戻し再生する。彼女はネギを育てていて、隣人に水をかけてもらったと話していた事を思い出した。畑か、小鉢での栽培かもしれない。実家は農家をやっていると言っていたので、どっちらの可能性もあった。では、自転車はどうだろうか?錆びてはいなかった。つまりは新品か、雨がかからない所に置いてある事を意味する。そう考えると部屋の中に入れている可能性もある。そうなると駐輪場に置いてある自転車から彼女の住まいを探すのは難しいだろう。
さて、思いついた情報を更に分析する。もっとも効率的でもっとも確実な方法である。今日は彼女と一緒に帰らなかった。彼女は近所のスーパーで買い物をすると自転車に乗って自宅の方向にペダルを漕いで行く。こんな時間まで1人で何をしていたのか心配してしまうが、今は走るのに集中しないといけない。幸いに自転車レース中ではない。見失わないように後を付ける事は難しくはなかった。彼女は5分と言っていたが、それは嘘だった。別れた場所から2分の所にあるアパートに入った。道理で分からないはずである。彼女は1階の部屋に住んでいて、自転車も部屋の中に入れていた。おそらくは電気が付いた部屋が彼女の部屋なのは間違いないだろう。
平日や休日に通行人のフリをして彼女の家の前を通るようにした。洗濯物は部屋干しのようだった。たまに布団を干しているようだが、それだけだった。彼女が外出している時に布団の匂いを嗅いでみた。無味無臭と言った所だろうか。主張しないタイプなのかもしれない。作業所で彼女の抜け落ちた髪は何本も手に入れていた。人通りもある場所なので布団についた髪の毛を少しだけ回収すると帰る事にした。
精神障害者は精神が不安定である。薬を飲んで安定させているが、それでも不安な気持ちは完全には消えてくれないはずだ。私は薬を全く飲んでいない珍しいタイプである。作業所の帰り道に2人だけで何度も遊んで、少しずつプライベートな話をするようになっていく。彼女の両親が離婚するかもしれない事や、彼女の妹が可愛いくて出来が良い事などを知る事が出来た。まるでデートをするような感じに少しずつ私の気持ちは変化していた。もしかしたら、この感情が恋かもしれない。愛なのかもしれないと感じるようになっていた。
初めての感情に私は戸惑ってしまった。それでも、心が満たされていたのは紛れもない事実である。私と彼女の年齢差はほとんどない。同じ25歳でも私の方が8ヶ月だけ若かった。彼女の気持ちは分からなかった。ただの同じ作業所の仲間だと思っているだけかもしれない。その証拠に彼女は誰にでも楽しそうに接していた。私と同じようにもう1人の男にも接していた。特別ではないとは分かっていた。私だけが彼女を特別に思っていたのかもしれない。それとも私が前科者だと隠しているからだろうか?過去を隠そうとすればどうしても嘘をつかなければならない。その嘘が彼女に分かるのかもしれない。もしかすると彼女は私が汚い前科者だと何処かで知っているのかもしれない。私は知られる事が怖かった。
いつものように古本屋で立ち読みしたり、100円ショップで面白い商品を見つけたりして2人で遊んだ。夜の帰り道、突然、雨が降って来た。幸い2人の自宅の近くだったので少し濡れるだけで済むだろう。彼女は自転車を走らせれば、ほぼ無傷で済むかもしれない。『傘貸そうか?家には上げないけどね。』と彼女の口から思いがけない言葉が出てきた。家の場所は知っている。私の自宅までは走ればそこまで濡れない。必要はない。傘を借りる必要はなかった。けれども、私は借りる事を選択してしまった。その選択を後悔した。死にたい程に後悔する日がやって来る。もしも、過去に一度だけ戻れるのなら、大学進学を諦めた日でもなく、2人の若い男女を殺した日でもなく、この日に戻りたかった。その日に私は彼女を手に入れて、彼女を失ってしまった。
大人しく良い子にしていれば、徐々に印象は良くなるものだ。職員の人は私が前科者だと理解しているが、利用者で知っている人は誰もいない。誰もいないはずである。私はただの天才肌の好青年でしかない。精神障害者のね。それに作業所には男は2人しかいない。私と18歳の知的障害者のどちらかを選ぶしかないのだ。心理学だったと思うが、学校の教室の中にいる15人のブスの女性しか、世界に女性が存在しないとすると、男はその15人のブスの中で1番の可愛いブスを必死に見つけようとするらしい。それと同じであった。女性の利用者の2人が私に好意を持つようになった。
ブス2人にも、ニコニコ笑顔で対応する私は知的な紳士に映るだろう。少しずつ目的の2人とも仲良くなっていく。25歳の女性の方が私の家とは近いようだった。だが、まだガードが固かった。その女性は自転車とバスを使って作業場に来ていた。家の近くまでは一緒に帰るのだが、自宅を知られたくはないようだった。家の近くになると自転車に乗って帰って行く。彼女との会話から親から仕送りをもらって、アパートで1人暮らしをしているのは分かっていた。私は休日になると彼女の自転車を探す事にした。
彼女の自宅はこの場所から自転車で5分ぐらいだと言っていた。彼女は何かの賞を取った事があり、実家の場所と学生時代の部活動は陸上部だと話していた。プロの探偵ではないが、それに等しい実力はあった。一軒家は除外する。家賃が高そうなアパートとマンションも除外する。実際に歩いて5~10分の範囲を地図に印をつけていく。はっきりと言えば建物は無数にある。彼女の会話の中で重要な部分は1つずつ記憶を巻き戻し再生する。彼女はネギを育てていて、隣人に水をかけてもらったと話していた事を思い出した。畑か、小鉢での栽培かもしれない。実家は農家をやっていると言っていたので、どっちらの可能性もあった。では、自転車はどうだろうか?錆びてはいなかった。つまりは新品か、雨がかからない所に置いてある事を意味する。そう考えると部屋の中に入れている可能性もある。そうなると駐輪場に置いてある自転車から彼女の住まいを探すのは難しいだろう。
さて、思いついた情報を更に分析する。もっとも効率的でもっとも確実な方法である。今日は彼女と一緒に帰らなかった。彼女は近所のスーパーで買い物をすると自転車に乗って自宅の方向にペダルを漕いで行く。こんな時間まで1人で何をしていたのか心配してしまうが、今は走るのに集中しないといけない。幸いに自転車レース中ではない。見失わないように後を付ける事は難しくはなかった。彼女は5分と言っていたが、それは嘘だった。別れた場所から2分の所にあるアパートに入った。道理で分からないはずである。彼女は1階の部屋に住んでいて、自転車も部屋の中に入れていた。おそらくは電気が付いた部屋が彼女の部屋なのは間違いないだろう。
平日や休日に通行人のフリをして彼女の家の前を通るようにした。洗濯物は部屋干しのようだった。たまに布団を干しているようだが、それだけだった。彼女が外出している時に布団の匂いを嗅いでみた。無味無臭と言った所だろうか。主張しないタイプなのかもしれない。作業所で彼女の抜け落ちた髪は何本も手に入れていた。人通りもある場所なので布団についた髪の毛を少しだけ回収すると帰る事にした。
精神障害者は精神が不安定である。薬を飲んで安定させているが、それでも不安な気持ちは完全には消えてくれないはずだ。私は薬を全く飲んでいない珍しいタイプである。作業所の帰り道に2人だけで何度も遊んで、少しずつプライベートな話をするようになっていく。彼女の両親が離婚するかもしれない事や、彼女の妹が可愛いくて出来が良い事などを知る事が出来た。まるでデートをするような感じに少しずつ私の気持ちは変化していた。もしかしたら、この感情が恋かもしれない。愛なのかもしれないと感じるようになっていた。
初めての感情に私は戸惑ってしまった。それでも、心が満たされていたのは紛れもない事実である。私と彼女の年齢差はほとんどない。同じ25歳でも私の方が8ヶ月だけ若かった。彼女の気持ちは分からなかった。ただの同じ作業所の仲間だと思っているだけかもしれない。その証拠に彼女は誰にでも楽しそうに接していた。私と同じようにもう1人の男にも接していた。特別ではないとは分かっていた。私だけが彼女を特別に思っていたのかもしれない。それとも私が前科者だと隠しているからだろうか?過去を隠そうとすればどうしても嘘をつかなければならない。その嘘が彼女に分かるのかもしれない。もしかすると彼女は私が汚い前科者だと何処かで知っているのかもしれない。私は知られる事が怖かった。
いつものように古本屋で立ち読みしたり、100円ショップで面白い商品を見つけたりして2人で遊んだ。夜の帰り道、突然、雨が降って来た。幸い2人の自宅の近くだったので少し濡れるだけで済むだろう。彼女は自転車を走らせれば、ほぼ無傷で済むかもしれない。『傘貸そうか?家には上げないけどね。』と彼女の口から思いがけない言葉が出てきた。家の場所は知っている。私の自宅までは走ればそこまで濡れない。必要はない。傘を借りる必要はなかった。けれども、私は借りる事を選択してしまった。その選択を後悔した。死にたい程に後悔する日がやって来る。もしも、過去に一度だけ戻れるのなら、大学進学を諦めた日でもなく、2人の若い男女を殺した日でもなく、この日に戻りたかった。その日に私は彼女を手に入れて、彼女を失ってしまった。
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