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第14話

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「皆さん、これが警察のやり方です‼︎ 証拠もないのに、善良な人間を犯人呼ばわりですよ‼︎ 国家権力という皮を被ったヤクザです‼︎ 私はこんな卑劣な連中には決して屈しない‼︎ 捕まえたければ捕まえればいい‼︎ 私は無実だ‼︎」
「いいぞ、村長ぉー‼︎ もっと言ってやれぇー‼︎」
「そうだぁー‼︎ 警察はこの村から出て行けぇー‼︎」
「ちょっと田代警部⁉︎ これはマズイですよ‼︎」

 調子に乗っている村長がテレビカメラや他所者、住民達に向かって声高々に訴える。
 自分が絶対に犯人ではないという自信を持って、周囲とテレビカメラの先にいる視聴者に訴える。
 そして、その村長に続くように、他所者と住民達が警察への怒りを爆発させている。
 藤岡はヤバイと慌てているが……

「あなた達は一体何を言ってるんですか? 村長が犯人だという証拠ならありますよ。被害者が書いたダイイング・メッセージです」

 田代は堂々と村長が犯人だと言い続ける。

「はぁっ? お前こそ、何を言ってる? まさか私の名前が田中一だから、犯人だと言うつもりなら、そこにいるのも、あそこにいるのも田中だぞ!」

 田中、田中、田中だ。村長が指差す方向には地味な服装の村人・田中が何人もいる。
 オシャレな服の他所者・田中もいるかもしれないが、そっちを探すのは難しい。
 だが、田代が言いたいことはそういうことではない。

「あなた達はあのおかしなダイイング・メッセージを見ても、何も思わなかったのですか?」
「だから『犯人は田中』だろうが。それ以外に別の読み方でもあるのか?」
「それは私よりもあなたと悦子さんの方が、よくご存知なんじゃないですか?」

 田代が周囲の人達を見回しながら、おかしな点がなかったか訊ねるが、村長が代表で無いと答えた。
 その答えに対して、田代は村長と悦子の方が詳しいだろうと訊き返した。
 その反応は……
 
「だから何で私が知っているんですか‼︎ 私は事件とは無関係なんです‼︎ 村長ぉー‼︎ いい加減この人達、村から追い出してくださいよぉー‼︎」
「ああ、分かっている分かっている……非常に不愉快だ‼︎ さっさと村から出て行ってくれ‼︎」
 
 悦子と村長が大激怒だ。住民も味方して「出て行け!」の大合唱が止まらない。
 普通の人ならすぐに逃げ出す状況だが、田代はその場を微動だせずに言った。

「言われなくても出て行きますよ‼︎ 犯人を連れてね‼︎」

 強気な態度に思わず、「うぐっ‼︎」と周囲の人達が息を呑んで黙ってしまった。
 その空白の時間に田代が続きを話していく。

「ダイイング・メッセージのおかしな点とは不自然に大きな『中』の文字の四角部分です。本来は『犯人は田口』と書いたものが、後から『中』に書き換えられたんですよ。本来無いものが加わったことで、事件がより複雑なものになってしまいました。現場に訪れていないはずの田中美海さんの靴跡が、何故か事件現場に残されたようにね。そう思いませんか、村長?」
「何故、私に訊くんだ!」
「あなたの奥様のことだからですよ。一昨日の昼頃から昨日の早朝四時頃まで、奥様がどちらにいらっしゃったのかご存知ありませんか?」
「知らん! 私はその時間は外出していた。妻が家にいたのか、外にいたのかさえ分からん!」
「そうでしたね。村長は深夜は田畑を荒らす害獣の見回りをするそうですね。では、お答えしましょう。田中陽平さん、旧姓田口陽平さんの家にいましたよ。お昼から朝までいたそうです」
「い、いい加減にしろぉー‼︎ 妻は関係ないだろう‼︎」

 カメラの前だ。全国の皆さんに村長妻の浮気を暴露(ばくろ)されたら、もう我慢の限界だ。
 村長は田代に詰め寄ると、その胸ぐらを掴んで激しく怒鳴りつけた。
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