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第10話

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「こんな家にタダで住めるなんて、田口の野朗羨ましいですね」

 正午を過ぎた頃、二人は田口の家の前に到着した。古い瓦屋根の平屋で、庭まで付いている。
 その庭には綺麗に干された洗濯物、小さな畑には大きめのキュウリまで実っている。

「おかしいですねぇ~? 村の人の話では、田口は米作りにも野菜作りにも興味がなく、村からの支援金でプラプラ遊んでいるそうですよ」
「最低の奴ですね。さっさと追い出せばいいのに」
「それが出来れば苦労しませんよ。村との契約で最低でも三年は村が面倒見ないといけないそうです」
「面倒見ているのは金銭面だけじゃないみたいですよ」
「どうやらそのようですね」

 二人が庭の野菜を話しながら見ていると、縁側のガラス戸の向こう側に、髪の長い女性の姿が現れた。
 他の村の女性達と違い、服も髪もオシャレに決めている。
 年齢は30代後半で、成熟した大人の色気を醸し出している。

「無断で入ってしまい申し訳ない。田中美海さんで間違いありませんか?」
「ええ、そうですけど……」
「田中勇雄さんの事件で警視庁からやって来た田代と……」
「藤岡です。住民の皆さんに二、三お訊きして回っているところなんですよぉ~! ご協力お願いします!」

 不審者を見るような目付きでガラス戸を開けた女性に、田代はゆっくりと近づきながら話していく。
 女性が田中美海だと認めると、ポケットから警察手帳を取り出して名乗った。
 それに続いて藤岡も和(にこや)かに名乗ると、自然な流れで捜査協力をお願いした。

「それは構いませんが、協力できることはないと思いますよ」

 事件現場にゲソ痕が残されていたのも知らずに、美海は関係ないフリをしているが……

「いえいえ、ちょっとしたことが事件解決のヒントになるものなんですよ。一昨日のお昼頃から昨日の早朝まで、どちらで何をしていたか思い出してくれませんか?」

 田代はゲソ痕の件は追及せずに、形式的に話を聞き出そうとする。

「えーっと、確か街に買い物に——」
「おいおい、嘘付かずに教えてやれよ。ミィちゃんなら俺と一緒に家にいたぜ」
「ちょっと陽ちゃん⁉︎」

 美海が答えている途中だったが、家の中から上半身裸の男がニヤけた顔で現れた。
 金髪の髪にジーパンに裸足と、村長以上に服装がダラしない男だ。

「ヘッヘヘヘ! 別にいいだろう。どうせ調べれば分かることなんだ。下手に嘘付くと怪しまれるだけだぜ」
「ちょっと! 人前でやめなさいよ!」

 田代と藤岡が見ているのに、陽平は堂々と美海の肩に腕を回して抱き寄せた。
 美海の反応を見れば、浮気しているという噂は事実のようだ。

「はじめまして。あなたが田中陽平さんですか?」

 田代は二人のイチャイチャは気にせずに、薄ら笑いを浮かべる男に名前を訊いた。

「へぇー、俺のことまで調べているなんて、警察も暇だねぇ~!」
「いえいえ、調べる必要がない人は調べませんよ。警察は暇ではないですから」

 陽平は生意気な態度だが、生意気さでは田代も負けていない。

「言うねぇ~! テレビで見た通りだ! 残念だったな、俺は犯人じゃない。無駄足だよ」
「残念ながら、それを決めるのは我々です。田中陽平さん、一昨日のお昼頃から昨日の早朝まで、どちらで何をしていましたか?」

 陽平の態度は気にせずに、事情聴取を強気な態度で続けていく。
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