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第3話
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「お待たせしました。結構量があるので大変でした」
「お手数をおかけしてすみません」
村長が両手で抱えて、十数段に重ねられた名簿(本)を持って来ると、テーブルの上にドンと置いた。
田代は村長に礼を言うと、一番上にあった名簿を開いて、中身の確認を始めた。
「田中さん、田中さん、田中さんと……本当に田中さんが多いんですね」
「ははっ! それはそうですよ! この村には田中しかいませんから!」
「おや? 田中さん以外にも、別の苗字の人がいたようですが、これは何ですか?」
パラパラとページをめくり、田代は名簿に書かれた名前を調べていく。
生まれた年月と死亡した年月、親や子供がいるか、などの簡単な家族構成が書かれている。
その中で田代が気になったのは、山中という苗字にバツが書かれ、田中に変更された点だった。
「あーこれですか。これは村に連帯感を生む為にやったんですよ! 元々、村には田中と山中の二つの苗字が多くて、あとは少数がチラホラ。それで村の過疎化が進んだので、もう村人全員家族になろういうことで、田中で統一しようということになったんですよ」
「それはまた思いっきったことを……」
「ええ、反対もあったんですが、そこは村長の私が! 一軒一軒説得して頑張った次第です!」
村長はよくぞ気づいてくれたと、満面の笑みで、田代に自分の功績を語り始めた。
雨の日も風の日も、時には自分の田んぼを放り出して、反対住民の田んぼを手伝いつつ、説得に説得を続けた苦労を語っていく。
住民達には迷惑な話だっただろうが、村長には誇らしい活動だったようだ。
そのお陰で田中率100%の奇妙な村が完成してしまった。
「おや? 勇雄さんの奥様は去年亡くなっていらっしゃるんですね?」
村長の自慢話を聞きながら、名簿を調べていた田代が気になる点を見つけたようだ。
名簿の被害者の左隣に書かれている、田中勇雄の妻・田中和子(かずこ)……が。
「ええ、あの時の勇雄さんは見てられんかったです。結婚して60年も経つ、半身のような和子さんが亡くなって、抜け殻のようでした」
「そうですか、それはお気の毒に。それで和子さんは病気か何かですか?」
「いや、それが……」
「ん? どうかしましたか?」
さっきまで笑みを浮かべて話していた村長だが、和子の話はあまり明るい話ではないようだ。
亡くなった理由を訊いた田代に対して、目を逸らして答えにくそうに、視線を彷徨(さまよ)わせている。
「あんま大きい声で言えんのですが、殺されたんじゃないかと……」
けれども、周囲に村の人が誰もいないのを確認すると、覚悟を決めたようだ。
耳打ちするように小声で二人に向かって、和子が殺された可能性を話した。
「それはまた……一体誰に?」
田代が周囲を警戒してから、村長に小声で訊き返した。
「それは分からんとですが、あの和子さんが田んぼで溺れ死ぬなんてありえんです。誰かに殺されたんじゃないかと、村で噂になっとります」
「田代警部、これは……」
藤岡は連続殺人の可能性があると思ったのか、田代の方を緊張した空気を顔にまとって振り向いた。
「藤岡君、どうやら調べなければいけないことが増えたようですね」
田代は隣に座る藤岡を軽く同意するように見ると、すぐに村長に視線を戻して探るように言った。
「お手数をおかけしてすみません」
村長が両手で抱えて、十数段に重ねられた名簿(本)を持って来ると、テーブルの上にドンと置いた。
田代は村長に礼を言うと、一番上にあった名簿を開いて、中身の確認を始めた。
「田中さん、田中さん、田中さんと……本当に田中さんが多いんですね」
「ははっ! それはそうですよ! この村には田中しかいませんから!」
「おや? 田中さん以外にも、別の苗字の人がいたようですが、これは何ですか?」
パラパラとページをめくり、田代は名簿に書かれた名前を調べていく。
生まれた年月と死亡した年月、親や子供がいるか、などの簡単な家族構成が書かれている。
その中で田代が気になったのは、山中という苗字にバツが書かれ、田中に変更された点だった。
「あーこれですか。これは村に連帯感を生む為にやったんですよ! 元々、村には田中と山中の二つの苗字が多くて、あとは少数がチラホラ。それで村の過疎化が進んだので、もう村人全員家族になろういうことで、田中で統一しようということになったんですよ」
「それはまた思いっきったことを……」
「ええ、反対もあったんですが、そこは村長の私が! 一軒一軒説得して頑張った次第です!」
村長はよくぞ気づいてくれたと、満面の笑みで、田代に自分の功績を語り始めた。
雨の日も風の日も、時には自分の田んぼを放り出して、反対住民の田んぼを手伝いつつ、説得に説得を続けた苦労を語っていく。
住民達には迷惑な話だっただろうが、村長には誇らしい活動だったようだ。
そのお陰で田中率100%の奇妙な村が完成してしまった。
「おや? 勇雄さんの奥様は去年亡くなっていらっしゃるんですね?」
村長の自慢話を聞きながら、名簿を調べていた田代が気になる点を見つけたようだ。
名簿の被害者の左隣に書かれている、田中勇雄の妻・田中和子(かずこ)……が。
「ええ、あの時の勇雄さんは見てられんかったです。結婚して60年も経つ、半身のような和子さんが亡くなって、抜け殻のようでした」
「そうですか、それはお気の毒に。それで和子さんは病気か何かですか?」
「いや、それが……」
「ん? どうかしましたか?」
さっきまで笑みを浮かべて話していた村長だが、和子の話はあまり明るい話ではないようだ。
亡くなった理由を訊いた田代に対して、目を逸らして答えにくそうに、視線を彷徨(さまよ)わせている。
「あんま大きい声で言えんのですが、殺されたんじゃないかと……」
けれども、周囲に村の人が誰もいないのを確認すると、覚悟を決めたようだ。
耳打ちするように小声で二人に向かって、和子が殺された可能性を話した。
「それはまた……一体誰に?」
田代が周囲を警戒してから、村長に小声で訊き返した。
「それは分からんとですが、あの和子さんが田んぼで溺れ死ぬなんてありえんです。誰かに殺されたんじゃないかと、村で噂になっとります」
「田代警部、これは……」
藤岡は連続殺人の可能性があると思ったのか、田代の方を緊張した空気を顔にまとって振り向いた。
「藤岡君、どうやら調べなければいけないことが増えたようですね」
田代は隣に座る藤岡を軽く同意するように見ると、すぐに村長に視線を戻して探るように言った。
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