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生二十四話 絶対に勝てる秘策がある
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「ヤッタナ」
「はっ⁉︎」
片言の変な声が背後から聞こえて、急いで包丁の切っ先を向けて振り向いた。
「……何だ、チャンコか」
「チャンプダ」
赤い顔の人物を見て安堵した。『殺ったな』じゃなくて、『やったな』だった。
まったく紛らわしいから早く人間に戻ってほしい。
(あーあ、もったいないな)
包丁中二本ともに『微塵切り』の文字が現れている。
前回苦労して溜めた必殺技ポイントが楽々溜まってしまった。
使いたいけど、バンダナは瀕死状態で使う必要もない。
ラナさんは魔女になるまで数時間ぐらいかかる。そもそも切ったら死んでしまう。
癌(がん)とかみたいに悪い部分だけ手術で除去できれば最高だけど……それは無理♪
「おい……助けてくれ……」
「あっ」
おっとと、今はそれどころじゃなかった。
顎を打ち抜かれた坊主が救助を要請してきた。
包丁二本を左胸に戻すと、坊主の元に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねえよ……痛っっ、脳が揺れて動けそうにねえな……」
本当に大丈夫じゃないみたいだ。
坊主が起き上がろうとしたけど、痛みに我慢できずにやめてしまった。
こんな時は救急車だろうけど、呼び方が分からないので、とりあえず薬屋だ。
睡眠薬があるから、医者を呼んで来るまで安静に寝かせて放置できる。
「チャンコ、ちょっといい」
「ナンダ?」
「動けないそうだから、薬屋まで運んで睡眠薬でも飲ませてよ」
まだ赤猿状態なのでちょうどいい。
チャンコを右手で手招きして呼んで、坊主を運ぶようにお願いした。
運び方はお姫様抱っこでもおんぶでも引き摺るでも好きにしていい。
「マダ、ゼンブオワッテナイダロ。マジョハドウスル?」
「あー、それなら大丈夫! 二人とももう使えないし、いるだけ邪魔だから!」
チャンコが心配なのか訊いてきた。
でも、戦えない人は邪魔にしかならない。容赦なく戦力外通告を言い渡した。
「ぐぅっ、言うじゃねえか……ほら、餞別だ。ヤバくなったら使え」
「おおっ、ありがとうございます」
倒れている坊主が痛そうに顔を歪めると、上着のポッケから飴玉を一個取り出した。
タダでくれるそうなので、しゃがみ込んで遠慮なく左の手の平に乗っている飴玉を摘んだ。
——ガシィ!
「はうっ⁉︎」
何故か右手首を掴まれた。やはり戦力外通告に怒っている?
「ぐぅっ、テメェー、何しやがった」
「えっ? 何の事ですか?」
「魔法陣を傷付けても効果は消えねえ。そんなんで消えていたら、戦いになんねえだろうが」
「あー、なるほど……」
戦力外を怒っているわけじゃなくて、私が隠し事をしていると怒っているみたいだ。
残念ながら、私も初めて聞いた情報なので分かりません。
奇跡が起きたとか、不良品の魔法陣だったとか……とにかく理由は自分で考えてほしい。
「答えろ、何をした」
「すみません、分かりません」
それでもしつこく訊いてきたので、謝り本当の事を言ってみた。
まあ、納得しないとは思うけど。
「ぐぅっ、分からねえはずねえだろうが、俺の目を伏し穴だと思ってんのか。テメェー、『魔女』だろうが」
「…………」
うん、完全に疑われている。多分、一本の包丁を二包丁流にした所為だ。
普通の人は剣を半分に折らないと、短剣二本作れない。
「すみません、俺、男なんで気持ちには応えられません。すみません……」
「は、はあ? うがぁ、ま、待て!」
とりあえず面倒事は嫌なので、丁重にお断りしてから坊主の左手を振り解いて離れた。
まだ何か言い足りないみたいだけど、その身体で無理はよくない。
それに救急車が到着した。
「ヨシ、ノセテクレ」
「はいよ!」
近所の人達が四角い木製テーブルを持ってきて、それを地面に裏返しにして置いた。
ベッドの方が良さそうだけど、知らない男を自分のベッドに寝せたくないなら仕方ない。
テーブル担架で薬屋まで運んでもらうしかない。
「待て、あの女は魔女だ! 何か隠してやがる!」
「エッホエッホエッホ!」
何か坊主が必死に言っているけど、テーブル担架に乗せられると、男四人によって運ばれていった。
私の事を悪い魔女だと思っているみたいだったけど、それは完全に間違いだ。
(さてと、魔女になる前に避難でもさせようかな)
言うのは簡単だけど、理由が思いつかない。
炎の魔女が暴れるから逃げた方がいいですよ、と住民達に言っても逃げるか微妙だ。
こういうのは実際に現れないと危機感がない。学校の避難訓練と一緒だ。
それに逃げるとしても避難場所が分からないから、逃げようもない。
(うーん、このままでいっか♪)
少し考えてみた結果、住民達の避難誘導はしない事にした。
するとしたら時間がかかるし、それだけで疲れてしまう。
多分、家の外に出ないように私が見張っている方が疲れないし安全だ。
前回は不意打ちの魔女化だったから対策は練れなかったけど、今回は時間がある。
ラナさんを丈夫なロープでベッドに縛って、ついでに手足をコネコの枷で拘束すれば完璧だ。
「はっ⁉︎」
片言の変な声が背後から聞こえて、急いで包丁の切っ先を向けて振り向いた。
「……何だ、チャンコか」
「チャンプダ」
赤い顔の人物を見て安堵した。『殺ったな』じゃなくて、『やったな』だった。
まったく紛らわしいから早く人間に戻ってほしい。
(あーあ、もったいないな)
包丁中二本ともに『微塵切り』の文字が現れている。
前回苦労して溜めた必殺技ポイントが楽々溜まってしまった。
使いたいけど、バンダナは瀕死状態で使う必要もない。
ラナさんは魔女になるまで数時間ぐらいかかる。そもそも切ったら死んでしまう。
癌(がん)とかみたいに悪い部分だけ手術で除去できれば最高だけど……それは無理♪
「おい……助けてくれ……」
「あっ」
おっとと、今はそれどころじゃなかった。
顎を打ち抜かれた坊主が救助を要請してきた。
包丁二本を左胸に戻すと、坊主の元に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねえよ……痛っっ、脳が揺れて動けそうにねえな……」
本当に大丈夫じゃないみたいだ。
坊主が起き上がろうとしたけど、痛みに我慢できずにやめてしまった。
こんな時は救急車だろうけど、呼び方が分からないので、とりあえず薬屋だ。
睡眠薬があるから、医者を呼んで来るまで安静に寝かせて放置できる。
「チャンコ、ちょっといい」
「ナンダ?」
「動けないそうだから、薬屋まで運んで睡眠薬でも飲ませてよ」
まだ赤猿状態なのでちょうどいい。
チャンコを右手で手招きして呼んで、坊主を運ぶようにお願いした。
運び方はお姫様抱っこでもおんぶでも引き摺るでも好きにしていい。
「マダ、ゼンブオワッテナイダロ。マジョハドウスル?」
「あー、それなら大丈夫! 二人とももう使えないし、いるだけ邪魔だから!」
チャンコが心配なのか訊いてきた。
でも、戦えない人は邪魔にしかならない。容赦なく戦力外通告を言い渡した。
「ぐぅっ、言うじゃねえか……ほら、餞別だ。ヤバくなったら使え」
「おおっ、ありがとうございます」
倒れている坊主が痛そうに顔を歪めると、上着のポッケから飴玉を一個取り出した。
タダでくれるそうなので、しゃがみ込んで遠慮なく左の手の平に乗っている飴玉を摘んだ。
——ガシィ!
「はうっ⁉︎」
何故か右手首を掴まれた。やはり戦力外通告に怒っている?
「ぐぅっ、テメェー、何しやがった」
「えっ? 何の事ですか?」
「魔法陣を傷付けても効果は消えねえ。そんなんで消えていたら、戦いになんねえだろうが」
「あー、なるほど……」
戦力外を怒っているわけじゃなくて、私が隠し事をしていると怒っているみたいだ。
残念ながら、私も初めて聞いた情報なので分かりません。
奇跡が起きたとか、不良品の魔法陣だったとか……とにかく理由は自分で考えてほしい。
「答えろ、何をした」
「すみません、分かりません」
それでもしつこく訊いてきたので、謝り本当の事を言ってみた。
まあ、納得しないとは思うけど。
「ぐぅっ、分からねえはずねえだろうが、俺の目を伏し穴だと思ってんのか。テメェー、『魔女』だろうが」
「…………」
うん、完全に疑われている。多分、一本の包丁を二包丁流にした所為だ。
普通の人は剣を半分に折らないと、短剣二本作れない。
「すみません、俺、男なんで気持ちには応えられません。すみません……」
「は、はあ? うがぁ、ま、待て!」
とりあえず面倒事は嫌なので、丁重にお断りしてから坊主の左手を振り解いて離れた。
まだ何か言い足りないみたいだけど、その身体で無理はよくない。
それに救急車が到着した。
「ヨシ、ノセテクレ」
「はいよ!」
近所の人達が四角い木製テーブルを持ってきて、それを地面に裏返しにして置いた。
ベッドの方が良さそうだけど、知らない男を自分のベッドに寝せたくないなら仕方ない。
テーブル担架で薬屋まで運んでもらうしかない。
「待て、あの女は魔女だ! 何か隠してやがる!」
「エッホエッホエッホ!」
何か坊主が必死に言っているけど、テーブル担架に乗せられると、男四人によって運ばれていった。
私の事を悪い魔女だと思っているみたいだったけど、それは完全に間違いだ。
(さてと、魔女になる前に避難でもさせようかな)
言うのは簡単だけど、理由が思いつかない。
炎の魔女が暴れるから逃げた方がいいですよ、と住民達に言っても逃げるか微妙だ。
こういうのは実際に現れないと危機感がない。学校の避難訓練と一緒だ。
それに逃げるとしても避難場所が分からないから、逃げようもない。
(うーん、このままでいっか♪)
少し考えてみた結果、住民達の避難誘導はしない事にした。
するとしたら時間がかかるし、それだけで疲れてしまう。
多分、家の外に出ないように私が見張っている方が疲れないし安全だ。
前回は不意打ちの魔女化だったから対策は練れなかったけど、今回は時間がある。
ラナさんを丈夫なロープでベッドに縛って、ついでに手足をコネコの枷で拘束すれば完璧だ。
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