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第二章・騎士団入団編

間話98話後 アリスの精霊融合実験

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「起きてますか? 起きてますか?」

 床に倒れている今日届いたばかりの実験材料ルディに呼びかける。
 反応がないので、完全に魔力増強薬=魔薬が効いているようだ。
 常人の身体だと破裂するか、頭がおかしくなる危険な薬だけど、これで5級のゴミが4級にはなる。
 壊れたとしても、材料は沢山用意できるから問題ない。

 シルビアの手紙でアンブロシアとタナトスを使って、人間を一気に強化する方法が見つかった。
 残念ながら、その方法を試しても、薬を使用した人間達は全員精神が壊れてしまった。
 このエロガキが今のところ唯一の成功例だけど、新鮮な血液と細胞を採取したら用済みだ。

「よしよし。あとは実験場に運んで、アンブロシアと召喚した精霊との融合実験ね」

 手早く血と肉を採取して、台車にルディを乗せた。
 私の研究室で肉塊になられて、暴れられるのは困る。
 この実験材料と違って、簡単に手に入らない貴重な材料が沢山ある。
 壊されたら大変だ。

「ふっふふふふ」

 長い廊下を台車を転がして、監視部屋にいるエリアスの所に急いで向かう。
 部屋から脱走する悪い実験材料はいないだろうから、念の為に実験に付き合ってもらう。

 実験でルディの精神が壊れてしまう可能性は高いけど、暴走する危険はほとんどない。
 召喚した精霊がルディの身体と融合すれば、召喚者である私が操る事が出来るはずだ。

「エリアス、彼女達が帰って来る前に終わらせるから手伝って」
「あぁ? 見て分かるだろう、忙しい。アルフレッドのジジイが入り口を見張ってないから、俺がここにいないと出入り自由だ。やるなら一人でやれ」

 監視部屋で退屈そうにしているエリアスに、協力を頼んだのに面倒な事は嫌らしい。
 重要度の低そうな適当な理由で断られた。

 見られたら困る場所なんて少ししかないし、見られたら処理すればいいだけだ。
 実験に必要なのは従魔使いの少女だけで、もう一人の少女は実験材料メリッサに使えばいい。

「手伝ってよ! 言っておくけど暴走したら、エリアスの責任だからね!」
「はぁ……暴走しているのはお前だろう。たった二人しかいない状態で危険な実験をするな」
「嫌ですよ。一週間も待ったんだからもう待てません!」

 強い口調で頼んでも、氷の番人には冷静という冷たい反応で断られてしまった。
 戦闘の腕で雇われた人間には、偉大な実験に立ち会える名誉が理解できないようだ。

(仕方ないですね。一人でやりましょう)

 シルビアの手紙が届いてから、もう一週間も経過している。
 他所の研究所のキールとかいう男に、強化する方法を知られてしまった。
 これ以上、差を広げられて無能の烙印を押されるわけにはいかない。
 目指すは予算削減ではなく、予算増加だ。

「子供か。一応は止めた。やりたいなら自己責任でやれ」
「はいはい、分かりましたよ。一人でやりますよ。分かっていると思うけど成功したら、手柄は私一人のものだからね。あとで協力したとか言わないでよね」
「好きにしろ。暴走したら、いつものように通路は氷漬けにしてやる。召喚獣で溶かすなよ」
「べぇー。溶かされたくないなら、溶けない氷を作りなさいよ」

 これ以上は脳筋馬鹿と話すだけ時間の無駄にしかならない。
 舌を出した後に、監視部屋から実験場への廊下に台車を転がしていく。

「さてと……パンツはそのままでいいですね」

 実験洞窟の中心まで台車で行くと、パンツ姿のルディを台車から地面に落とした。
 水玉パンツを脱がして、わざわざ見たくないものを見たくないので、パンツはそのままにする。

 それにアンブロシアを使えば肉塊になって、パンツは破れる。
 人間の姿になれる保証もないので、最後の瞬間まで人間として服だけは着させあげよう。

(まずは召喚獣を全てルディの身体に憑依させる。その後はアンブロシアを投与すれば成功するはず)

 タナトスはアンブロシアよりも魔力増強の効果が高い。
 強化したい場合は普通はタナトスを投与する。

 でも、魔力は魔薬と召喚獣で十分に足りている。
 この場合は肉体変化の効果が高いアンブロシアを投与して、召喚獣との融合率を高めた方が良い。
 失敗した時は他の壊れた実験材料と同じように殺して、魔物素材を落としてもらえばいい。

「〝炎の精霊よ、地の精霊よ、風の精霊よ、水の精霊よ、この者の身体を生贄に我が前に現れ出でよ〟」

 ルディの身体に直接四体の精霊を召喚していく。ルディの身体が金色に輝いている。
 やっぱり他の実験材料よりは身体だけは頑丈だ。
 普通の人間なら爆発して、バラバラに肉片が飛び散っている。

「ここまでは予想通りね。あとはアンブロシアを口から投与するだけ」

 リボン型のアイテムボックスから、ルディ専用のアンブロシアを取り出した。
 シルビアが送ってくれた、毛髪、血液、体液の情報から副作用が少ない特別薬を製造しておいた。
 貴重な素材を使ったので、成功しないと大赤字になる。
 
「は~い、あ~んして」

 精霊達に命令して、ルディの口を開けてもらい、アンブロシアのカプセルを飲み込ませる。
 カプセルを飲み込むと、すぐにルディの身体が苦しみ出した。

『『『『ヒギャアアアアアア‼︎』』』』
「きゃあああ‼︎」

 何重にも重なった精霊達の悲鳴が至近距離で爆発した。うるさいので急いでルディから離れた。
 これだと精霊達にアンブロシアを使ったようなものだ。正確な実験データが取れなくなった。

 それでも第一段階成功だ。精霊に影響を与えているのならば、それでいい。
 あとは肉塊から何が飛び出すのか、何も起こらずに死ぬだけなのか確認するだけだ。

 ♢
 
「今度は上手くいくかなぁー?」

 脈動する肉塊から少し離れて観察を続ける。
 魔物にタナトスとアンブロシアを投与しても死んでしまう。
 人間を魔物にして、タナトスを投与しても死んでしまう。
 アンブロシアで人間に戻してから、タナトスとアンブロシアを投与しても死んでしまう。

 従魔使いだけだと、これ以上、薬を使っても強化できない事は判明している。
 従魔使いの契約が暴走を制御しているのならば、それを召喚で代用できるかもしれない。
 駄目なら従魔使いを大量に集めて、一人の人間を多重契約で抑えるしかない。

「あっ! ふっふ。死んでなかったみたいね。さっさと出て来なさい」

 四十二分も静止していた肉塊が突然激しく動き出した。
 普通は三分経てば変化は現れるのに、随分と待たせてくれる悪い実験材料だ。
 だから、肉塊の中の精霊達に早く出て来るように命令した。

「ん? 早く出て来なさい……駄目そうね」

 でも、肉塊から全然出て来ないので、もう一度命令した。それでも肉塊から出て来ない。
 変化した姿には頭や手足が無い場合もあるので、自力で動けないだけの可能性もある。
 それか命令を聞く意思がまったくないだけだ。

「はぁ……やっぱりエリアスを連れて来るべきだったよ」

 ため息を吐きつつ、どうするべきかと考える。
 エリアスがいれば、肉塊を引き千切らせて、中身を引き摺り出してもらえた。
 暴走するかもしれない魔物が入っている、危険な肉塊には近づきたくない。
 
「ここはアルフレッドが戻るまで待機するしかないかな?」

 エリアスに頼みに行っても断られるのは分かっている。
 私がやるべき事はこのまま肉塊を放置して、実験室に戻るだけ。
 そう思っていたけど、その必要はなさそうだ。肉塊から細い腕が飛び出した。

「ぐっ、ぐぅっ」
「ふっふ。人型みたいね。でも、元の姿のままで変化無しは勘弁してほしいかな」

 私の心配は気にせずに、肉塊を引き千切って人型の魔物が姿を現した。
 前よりも身体が少し縮んだようだ。身長は百六十七センチ程度しかない。
 髪の色も茶と白が混ざったものから、金と白が混ざった長い髪に変わっている。
 少年のような少女のような中性的な顔には、赤い瞳が見える。瞳の色も変わったようだ。

(ほとんど別人ですね。でも、性別までは変わらないようですね)

 上から下までじっくりと見た目の観察を終わらせた。
 死ななかったという結果だけで、精霊との融合は成功したと言ってもいい。
 問題があるとしたら、新しい精霊を召喚出来るかどうかだ。

「そこで止まりなさい」
「……?」
「〝炎の精霊よ、雄々しい者に姿を変えて……駄目ね。まったく反応しない」

 私の身体に少しも召喚術の反応が現れなかった。
 これだと戦闘ではまったく役立たずになる。
 まあ、コレを操れるのなら、心配する必要はないかもしれない。

「ちょっとこっちに来なさい」
「……」

 私の命令にルディは大人しく従っている。
 正確にはルディではなく、身体の中の精霊達なのだろう。
 まずは鑑定水晶で能力の変化を調べないといけない。
 リボンのアイテムボックスから鑑定水晶を取り出すと、ルディに握らせた。

「なっ⁉︎ ⁉︎ ⁉︎」

 驚く事に火、水、風、地の四属性魔法が使えるようになっていた。
 それに『ウォール』=物理と魔法防御を高める魔法も使えるようになっている。
 精霊を取り込んだのが原因だと思う。
 つまり融合させる精霊次第で能力の変化が可能だという事だ。

 でも、一番驚くべきは魔素量の変化だ。スキルや魔法の文字が真っ赤に染まっている。
 これなら間違いなく2級以上の実力がある。失った力よりも得た力の方が多そうだ。

「ふっ、ふっふふ。あの二人にはルディは逃げ出した事にしましょう。そうね……あなたの名前は今日から『テミス』よ。分かった?」
「……はい」

 エイミー達にはルディは逃げ出したと伝えれば問題ないでしょう。
 今日からルディはテミスとして、壊れるまで私の実験材料として協力してもらう。

「ふっふ。言葉は喋れるようですね。まずはその可愛らしいものを服で隠しましょうか?」

 でも、まずは可愛いものをぶら下げているテミスに服を着せてあげないといけない。
 綺麗な顔に身体だけど、実験動物の身体機能に興味はあっても、欲情するつもりはない。
 まあ、実験材料の一人と交尾させて、子供が出来るか調べてもいいかもしれないかな。

 ♢
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みんなの感想(3件)

2021.08.18 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

もう書かないって言ったよね?
2021.08.18 もう書かないって言ったよね?

ありがとうございます。最近知った、低評価は伸び代が恐ろしくあるだけという前向きな言葉を信じて、頑張れるだけ頑張ってみます。

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スパークノークス

お気に入りに登録しました~

もう書かないって言ったよね?
2021.08.16 もう書かないって言ったよね?

お気に入り登録ありがとうございます。今回は精神的に打ち切りを考え始める、魔の三十万字を乗り越えて、アイデアが出るまで続ける決意です。
今回はこの作品に全集中して、第14回ファンタジー小説大賞に挑みたいと思います。

解除
花雨
2021.07.24 花雨

アルビジアさんの作品 まだ一話ですが読ませてもらいました(^o^)。とても読みやすくて面白かったです。夜中先も読みます。気になったのでお気に入り登録させてもらいました(^o^)
良かったら私の作品も観てくださいね(^^) またねっ

もう書かないって言ったよね?
2021.07.25 もう書かないって言ったよね?

 感想ありがとうございます。花雨さんの作品、先程見てきました。
 満足感のある綺麗な作品でした。

解除

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