上 下
98 / 102
第二章・騎士団入団編

第95話 実力主義と洞窟実験場

しおりを挟む
「アリスさん、そろそろ仕事を始めましょう。ここで話をしていても材料は集まりません」

 お喋りをやめて、俺は仕事を始めようと言った。
 俺達の仕事は口ではなく、身体を動かす事だ。

「ん? さん付けはいいよ。じゃあ、まずは10級ぐらいの簡単な素材から集めてもらおうかな?」
「その前に鑑定水晶で俺達を調べた方がいいと思います。メリッサは冒険者じゃなくて船員だったので、まったく戦闘経験がないです」

 いきなり仕事に行くつもりはない。
 女の子二人に格の違いを今すぐに教えたいだけだ。

「えっ? 二日も二人っきりで特訓したじゃない!」

 一日目十五分、二日目二十五分。
 あれは特訓ではない。お遊びだ。

「メリッサ。俺は練習の時に、実力の一パーセントも出していなかったんだよ」
「そんなの嘘だよ! 何回も倒れてたじゃん!」
「あれは弱過ぎて可哀想だったからだよ」
「ぐっぬぬぬぬ!」

 メリッサは怒っているようだけど、魔物に袋叩きに遭う前に現実を教えてあげた。
 これも優しさだけ理解してほしい。

「そうね。いきなり魔物と実戦は早いね。修練場があるから、私が実力を見てあげるね」
「よろしくお願いします。3級の俺と違って、二人とも戦闘面では少し不安がありますから」

 男の俺だと、やっぱり女の子相手だと手加減してしまう。
 ここはアリスに二人をボコボコにしてもらいたい。
 でも、研究員とか言っていたから、俺よりも弱いかもしれない。
 まだまだ身体は本調子じゃないけど、女の子相手なら、ちょうどいいハンデだろう。

「えっ? ルディは7級でしょう? 嘘吐いたら駄目だよ」
「エイミーが寝ている間に強くなり過ぎてしまったんだよ。3級海賊を撃退してしまうぐらいにね」
「むぅ~~!」

 頬を膨らませて、エイミーがちょっと怒っているけど事実だから仕方ない。
 鑑定水晶で調べれば、風魔法、爆裂魔法、強化魔法、炎魔法のどれか一つぐらいは覚えているはずだ。

「喧嘩するなんて仲が良いんだね。じゃあ、修練場に移動するよ」

 鉄扉を閉めると、また長い廊下を今度は四人で歩いていく。

「三人とも昼ご飯は食べた? よかったら、用意するよ?」
「タダですか?」
「もちろんタダよ。寝れる場所もあるから自由に使っていいからね」
「やったぁ! 宿付き飯付きね! あっ、お給料とかいくらぐらいなの?」
「それは仕事量と結果で決まるかな?」

 先頭をメリッサと歩くアリスは、さっきの顔だけ美少年と違って友好的だ。
 そして、そんな美少年がいる丸部屋が見えて来た。
 先輩の一人の時間を邪魔しないように、さっさと部屋の中を通りたい。

「あっ、エリアス発見! ねぇ、エリアス。暇なら修練場でこの子達の実力を見てあげてよ! ルディなんて、3級の実力があるんだよ。久し振りに本気を出せちゃうかもよ!」
「……」

 丸部屋に到着したアリスが、椅子に座っている顔だけ美少年に話しかけまくっている。
 なのに、エリアスと呼ばれた美少年は、一切会話する意思がないようだ。
 ピクリとも反応しない。同僚に対しても、冷たい態度は変わらないようだ。
 
「あっははは。ちょっと忙しかったみたいだね。修練場はこっちだよ」

 どう見ても机に両足を乗せて、メチャクチャ暇そうにしか見えない。
 アリスに本気でそう思っているのか聞きたいけど、そう思っているなら、それが真実なんだろう。
 でも、俺達は別の通路に入る事をエリアスに禁止されている。
 一歩でも入ると殺すらしいから、入っていいのか聞かないといけない。

「えーっと、エリアスさん? 俺達も通路に入っていいですか?」
「さっさと消え失せろ。殺すぞ」
「はい! すぐに消えます!」

 良かった。入っていいみたいだ。
 アリスに続いて、急いで通路の中に飛び込んだ。
 俺は無視されなかったから、ちょっと気に入られているのかもしれない。

「もぉー、アイツ、超最悪! 生意気なガキは殴らないと駄目よ!」
「もしかすると、女性が苦手なだけかもしれないよ? ルディとは普通に話してたし、恥ずかしがっているだけかも」

 通路に入るとすぐに、メリッサとエイミーがエリアスの悪口を言い始めた。
 もしも悪口が聞こえたら、皆んなの意見じゃなくて、二人の個人的な意見だと思ってほしい。

「あっ、それ有り得るわね。好きな女の子に意地悪するタイプなのよ。三人全員に意地悪するんだから、女なら誰でもいいんじゃないの? クッフフ。試しに付き合ってあげたらどう?」
「えっー、顔は良いけど、あれは嫌だなぁー」
「私も性格が良くならないと嫌ね。でも、お金は結構持ってそうな感じね」

(これってもしかして? 俺の事を話しているんじゃないのか?)

 二人の個人的な意見を聞いていると、ある事に気づいてしまった。
 さっき俺も二人を怒らせたばかりだ。二人に気があると勘違いされている可能性がある。
 つまり、優しくしてくれないと付き合えないと、遠回しに俺に伝えているんじゃないだろうか?

 だとしたら、困った事になる。エイミーとメリッサなら、エイミーを選ぶ。
 エイミーとシルビアとアリスなら、ちょっと悩んでしまう。
 ここは第五の女カルナを見てから、誰と付き合うか決めてあげるしかない。

「二人とも何を言ってるの? エリアスは二十六歳だよ。見た目は十四歳だけどね」
「嘘⁉︎ 全然見えない!」
「本当に二十六歳なんですか? どう見ても子供ですよ」

 アリスが教えてくれた衝撃の事実に、メリッサは驚き、エイミーは疑っている。
 俺は子供にペコペコするよりも、歳上にペコペコする方が気が楽だから、歳上歓迎だ。

「本当だよ。私よりも歳上なんだよ。ついでに2級以上の氷魔法の使い手だから、私は尊敬を込めて、永遠の美少年とかけて、裏で『氷遠ひょうえんの美少年』って呼んでいるよ」
「あっははは。確かに似ているようで、ちょっとだけ違いますよね」
「うんうん。そうだよ。美少年も時が経てば、氷のように醜く溶けるんだよ」

(宿屋でもそうだったけど、女って可愛い顔して、腹の中はドス黒いんだな)

 アリスは本人の前では笑っていたけど、絶対に尊敬の気持ちは欠片もなさそうだ。
 人の性格に文句を言う前に、自分達の性格を直した方が良いと思う。
 でも、結局、男も女も顔が良いのがモテるんだよな。

「はい。到着したよ」
「あのぉ……『実験場』って書かれてますけど」

 悪口を言いながら、通路を進んだ先には鉄扉があった。
 エイミーは鉄扉に張られた紙が気になるようだ。
 扉に張られた白い紙には、実験場と書かれてある。
 確か修練場に行くはずだった。意外と方向音痴なのだろうか?

「多目的用の部屋だから、呼び名は何でもいいんだよ。さあ、入って入って!」

 小さな事は気にしない。
 そんな感じでアリスは鉄扉を開けると、目の前には洞窟が広がっていた。

 洞窟は直径三百メートル、高さ二十メートル以上はありそうだ。
 巨大な濃茶の岩洞窟は、地面も天井もゴツゴツしているし、所々岩が突き出ている。
 でも、天井は星空のようにキラキラと輝いて、洞窟全体を明るく照らしていて綺麗だ。

「随分と荒れ果ててますね? まるでここだけ天然の洞窟ですね」
「最初は小さな白い部屋を作ったんだけど、すぐに壊れるから、修理するのが面倒になったんだ。掃除するのも大変だからね」
「確かに岩や石ころが散らばってますね」

 これだけ広いとエイミーも思いっきり走れそうだ。
 しかも、部屋を壊していいなら、遠慮なく戦える。
 
「地面が乾いているから、テントがあればここに住めそうね」
「それは駄目。ここは毒薬を使った動物を放し飼いにするから住めないよ」
「えっ、動物実験とかするんですか? 可哀想ですよ。やめませんか?」
「駄目。動物を魔物に変えて倒すと、珍しい素材を落とすからやめません」
「「えっー!」」

 多目的用と言ったのに意外と厳しい。テントは置かせないし、動物実験も中止しない。
 ここは俺も空気を読んで、アリスに何かお願いした方がいいけど、何も思いつかない。
 とりあえず無難なお願いでもしてみよう。

「そろそろ始めませんか? 俺がエイミーとメリッサと戦えばいいですよね?」

 もちろん手加減はするけど、動きを押える為に身体を抱き締める必要がある。
 イヤらしい気持ちはまったくないので、変なところを触っても、怒らないでほしい。

「そうだったね。まずは鑑定水晶で皆んなを調べさせてもらうよ。メリッサ、エイミー、ルディの順番で調べるから並んで」
「「はぁーい」」

 そう言って、アリスは俺達を集めると、背中の蝶々結びされたベルトリボンから、台形の台座に乗った透明な水晶を取り出した。
 あのリボンの中にアイテムポーチがあるようだ。

「これに触ればいいんでしょ?」

 最初に水晶に触れたメリッサは予想通り、スキルも魔法も何も持って無かった。
 本人はガッカリしていたけど、伸び代が無限にあるというだけだ。

「う~ん、前に調べた時と同じだよ」

 次のエイミーも『従魔契約』と『テイマー』の青文字しか浮かび上がらなかった。
 まぁ、風竜の時は散歩してただけだし、海賊の時はおっぱい揉まれただけだ。
 当然の結果だ。

「ふぅー、最後は俺ですね」

 最後に本命の俺の出番がやって来た。アリス以外は見ない方がいいかもしれない。
 あまりにも実力差があり過ぎると、ショックで立ち直れなくなるかもしれない。
 しっかりと水晶を右手で握ると、赤文字が浮かび始めた。

「結構たくさんあるね。『超速再生』は上位の魔物がよく持っているよ。魔法は『プロテス』『シェル』だけだね」
「ん? えっ? ちょっと待ってください⁉︎」

 まさかの俺も変化なしだ。この鑑定水晶が壊れているとしか思えない。
 俺はタイタス、風竜、ゼルドの強敵との戦いを三回も繰り返し勝利した。
 その俺が寝ていただけのエイミーと同じ変化なしは有り得ない。
 
 ♢
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...