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第二章・騎士団入団編
第84話 海賊船長との交渉と決裂
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左手に丸盾を構えて船内の廊下を前進する。
キールの雷魔法で民家に吹き飛ばされた経験がある。
馬鹿みたいに突っ込んで、魔法で海の中に吹き飛ばされたくない。
戦わずに戦線離脱はあまりにも恥ずかし過ぎる。
(海賊を殺すのは可哀想じゃない。海賊を殺すのは可哀想じゃない)
右手の爪を伸ばしながら、海賊達を容赦なく切り刻む自分の姿を想像する。
可哀想な人を可哀想だと思うのは正常な感情だ。可哀想な人を傷つける事は出来ない。
そして、どんな人でも殺されるのは可哀想そうだと思う。
でも、相手は海賊だ。そんな偽善が通用する相手じゃない。
殺したい程の恨みは俺にはないけど、噂通りなら極悪非道な連中だ。
睡眠ガスを使って、船を襲う連中を放って置く事は出来ない。
きっと今まで襲った船の中に、若い女性が乗っていたら、エッチな事をしていたはずだ。
女性を自分の汚らしい欲望を満足させる為に使うなんて、人間のやる事じゃない。
(恥を知るべきだ‼︎)
そして、これ以上の生き恥を晒さなくていいように、俺がバッサバッサと叩き切ってやる。
悪党共め、覚悟しろ‼︎ ……みたいな感じで倒していこう。
よし、今の気分なら殺せそうだ。
「こ、殺さないでください! こ、降参します!」
海賊達を刺激しないように両手を上げて、階段をゆっくりと上がっていく。
怯える可愛い声で降参宣言している人間を、いきなり魔法で攻撃しないはずだ。
まずは甲板まで行って、キチンと状況確認してから、敵の位置と海賊の船長を確認する。
その後は皆殺しだ。一人残らず魚達の餌にしてやる。
「おい、そこで止まれ!」
「は、はい!」
「船長、抵抗していた男が降伏して来ました。どうしますか? 殺しますか?」
黒布マスクで顔を覆い隠した男二人が、剣先を階段下に向けて、甲板への出入り口を塞いでいる。
雑魚そうだけど、仕方ない。刺激しないように階段の途中で待機した。
それに船長が「殺せ」と言ってきても、剣で突き刺す程度じゃ俺は殺せない。
「ほぉ……面白い。通してやるんだ。こちらも聞きたい事がある」
手下はガサツな感じなのに、意外と船長は低い声で知的な雰囲気がある。
まぁ、声だけなら俺も頑張れば、女の子に間違われる可能性もある。
とりあえず頑張って、敵意を感じさせない可愛い声を出そう。
「了解です! おい、ゆっくりと上れ。おかしな真似はするんじゃねぇぞ」
「あ、ありがとうごさいます!」
言われた通りにゆっくりと上っていたら、もう一人の方がブチ切れた。
「……さっさと上れ! このクソ野朗!」
「は、はい、すみません!」
申し訳なさそうに急いで階段を駆け上がる。
お前は後で絶対にブッ殺すから覚悟しておけ。
(少し熱いな。燃えているじゃないか)
無事に甲板の上に到着したけど、パラパラと火の粉が落ちてくる。
頭上を見上げると、三本の柱に付いてある帆が全て燃えている。
これだと船を漕がないと陸地には辿り着けない。
「いいか、少しでも動くと首を撥ねるからな」
「は、はい……」
海賊の脅しと火の粉の雨を気にせずに、甲板の上の海賊達を数えた。全員で十四人しかいない。
二十八人いると言ってたから、残りの半分は海賊船の方にいるようだ。
そして、出入り口の二人以外は黒布マスクで顔を隠していない。
剣を持った若々しい二十代の若者達が人質達を取り囲んでいる。
友達同士で仲間を集めていったら、こんな感じになりました、という感じだ。
「船長、コイツです! この男が俺達の邪魔をしたんです!」
「あぁ……」
正面に見える黄土色の髪を濡らした男が、俺の方を指差して喚いている。
黒布マスクで顔は見えなかったけど、海に飛び込んで逃げた男の声に似ている。
多分、コイツで間違いないけど興味がないから無視しよう。
警戒するべきは男が話しながら、何度も視線を向けている濃い青髪の男の方だ。
(なるほどね。コイツが悪党の親玉ですか)
巨漢の屈強な男を想像していたけど、普通と言えば普通の二十八歳ぐらいの男だ。
身長百七十七センチ程、引き締まった身体付きだけど、馬鹿みたいに筋肉は盛り上がっていない。
半袖の白い制服っぽい服を着ていて、下は黒に近い茶色の長ズボンを履いている。
武器は左腰の剣と、左手に持っている細い銅色の筒だけのようだ。
「やめた方がいい。視線に、力の入り具合に、どんなに隠しても攻撃の気配は出るものだ。人質がどうなってもいいのか?」
「何の事でしょうか? 降参しに来たんですけど……」
俺の探るような視線に船長ゼルドは、左手の筒を左方向にいる人質の塊に向けた。
異常に勘が鋭いのか、歴戦の経験なのだろうか、俺が襲い掛かってくると予想している。
長さ三十センチ、太さ四センチ程の細く長い筒の中心には、二センチ程の穴が開いている。
強力な武器には見えないけど、笛を持ち歩く悪党はいない。多分、吹き矢のような武器だと思う。
結構、魔法を使い慣れてきたけど、防御魔法をかけられるのは六人が限界だ。
プロテスとシェルを分散してかければ、六人までには防御魔法をかける事は出来ると思う。
でも、甲板の人質は二十人以上、船内にも三十人近くいる。
全員を守るのは絶対に不可能だ。守るなら船長と船員だろうな。
「睡眠ガスが効かない身体に、刃物で切れない身体、これだけでお前の実力は分かったつもりだ。5級相当の実力者で防御系の魔法持ちだ。違うか?」
誰を助けるか考えていると、ゼルドが人質に筒を向けたまま、俺に聞いてきた。
ほとんど正解だけど、正直に答えても不利になるだけだ。
「大ハズレ。ただ身体が頑丈なだけだ。それに人質なんてどうでもいいんだろう? 殺したければ、さっさと殺せばいい。そしたら、俺もお前達を遠慮なく皆殺しに出来る」
「テメェー、舐めてんのか!」
「さっさと盾と鉤爪を捨てろ! この豚共、殺すぞ!」
雑魚達がうるさいけど、親玉が誰だか分かった。もう大人しくする必要はない。
人質数人には犠牲になってもらって、速攻で親玉をブチ殺す。
そうすれば、他の雑魚海賊は、誰の言う事を聞くべきか理解できるはずだ。
「そう興奮するな。お前達もだ。こちらは積荷を貰えればそれでいい。人間を買い取っていた所が取引きを中止したからな」
「……じゃあ、積荷を渡せば人質には手を出さないんだな?」
ゼルドは興奮していた海賊達を落ち着かせると、予想外の事を言ってきた。
信じられないけど、大人しくしていれば、穏便に済ませられるかもしれない。
船長も積荷よりも命が大事だと言っていたから、素直に渡しても問題ないはずだ。
「そんな訳ない。船員と乗客に一人ずつ女が乗っているのは知っている。前の取引き相手は人間なら誰でも良かったが、若い女ならば買いたい奴はいくらでもいる。その二人だけは貰う」
「おい、欲張り過ぎだ。それに人間は物じゃない。殺すぞ?」
その乗客の女とはエイミーの事だ。これ以上、交渉する時間は必要ない。
どこかの変態野朗の玩具にさせるつもりはない。
「……良い殺気だ。海賊にならないか? 仲間の女には手を出さない」
「海賊だって?」
もの凄く睨み付けたのに、ゼルドに逆に気に入られてしまったようだ。海賊に勧誘されてしまった。
どこでも優秀な人間は歓迎されやすいようだけど、俺って犯罪組織の人にしか誘われた事がない。
悪いお仕事の方が向いているという事だろうか?
「ああ、実力がある人間は常に歓迎している。お前の答え次第で、人質と女の未来が決まると思った方がいい。よく考えて答えるんだ」
よく考えろと言われても、考える必要もないぐらいに簡単に答えは出た。
海賊の仕事は目の前のクズ達が教えてくれた。
俺もエイミーも、二十八人のクズ達との共同生活は絶対にゴメンだ。
「ぐがぁッ!」「ぎゃあああッッ‼︎」
「「「なっ⁉︎」」」
返事の代わりに、左手の盾で海賊の顔面を殴り潰し、右手の爪で海賊の腹を切り裂いた。
黒布マスクで顔を隠していた海賊二人が甲板の上に倒れていく。
「悪いけど、海の臭いはあまり好きじゃないんだよ」
「それには同意見だ。〝ファイアボール〟」
俺の答えは気に入らなかったようだ。
素早く左手の筒を俺の胴体に向けて、ゼルドは呪文を唱えた。
吹き矢のような武器だと予想していたので、発射される前に左横に飛んで回避した。
「くっ……!」
予想通り、筒の穴から螺旋状の炎の矢が凄い速さで飛び出してきた。
ボールじゃないという俺の苦情は多分、受け付けられない。
「良い判断だ。じゃあ、これはどうかな? 〝ストライク〟〝ファイヤボール〟」
「くっ……ぐぅッ、がぁッ! くぅぅぅ!」
さっきの炎の矢よりも三倍は速い。
次々に発射される炎の矢は、速過ぎて全部は避け切れない。
防御魔法を突破して、鋭い炎の拳が身体に突き刺さるようだ。
(ぐぅ……3級は嘘じゃないかもしれないな。陸地までは仲間の振りをしていれば良かった)
これ以上、生身で受け続けるのは無理だ。
プロテスとシェルをかけた丸盾を吹き矢の直線状に構えた。
炎の矢は真っ直ぐにしか飛んで来ないから、これで何とか防げるはずだ。
「ひぃっ!」
「船長! 当てないでくださいよ!」
ゼルドの手下達は炎の矢に当たらないように、甲板に伏せている。
多分、俺がやったら狙い撃ちだ。
「おおおおおおっ!」
「防御も恐れも必要なしか」
ゼルドに向かって突撃する。まずは近づかないと何も出来ない。
丸盾は飛んで来る炎の矢を防いで飛散させていく。
やっぱり部屋に戻って、丸盾を持って来たのは正解だ。
レア防具の力を思い知ればいい。
「オラッ、ハァッ!」
「……悪くない動きだ」
右爪の連続攻撃をゼルドは回避しながら、吹き矢で足を狙ってきた。
悪いけど、そんな時間があるなら避けるのに集中した方がいい。
「ぐぅっ!」
左足のスネに炎の矢が突き刺さったけど関係ない。
追加ダメージ覚悟でゼルドの胴体に爪を振り下ろした。
「りああああッ!」
「ぐぅ……!」
手応えはほとんど感じなかったけど、白い制服に二本の傷を付けた。
今度はもっと懐に深く入り込まないといけない。
♢
キールの雷魔法で民家に吹き飛ばされた経験がある。
馬鹿みたいに突っ込んで、魔法で海の中に吹き飛ばされたくない。
戦わずに戦線離脱はあまりにも恥ずかし過ぎる。
(海賊を殺すのは可哀想じゃない。海賊を殺すのは可哀想じゃない)
右手の爪を伸ばしながら、海賊達を容赦なく切り刻む自分の姿を想像する。
可哀想な人を可哀想だと思うのは正常な感情だ。可哀想な人を傷つける事は出来ない。
そして、どんな人でも殺されるのは可哀想そうだと思う。
でも、相手は海賊だ。そんな偽善が通用する相手じゃない。
殺したい程の恨みは俺にはないけど、噂通りなら極悪非道な連中だ。
睡眠ガスを使って、船を襲う連中を放って置く事は出来ない。
きっと今まで襲った船の中に、若い女性が乗っていたら、エッチな事をしていたはずだ。
女性を自分の汚らしい欲望を満足させる為に使うなんて、人間のやる事じゃない。
(恥を知るべきだ‼︎)
そして、これ以上の生き恥を晒さなくていいように、俺がバッサバッサと叩き切ってやる。
悪党共め、覚悟しろ‼︎ ……みたいな感じで倒していこう。
よし、今の気分なら殺せそうだ。
「こ、殺さないでください! こ、降参します!」
海賊達を刺激しないように両手を上げて、階段をゆっくりと上がっていく。
怯える可愛い声で降参宣言している人間を、いきなり魔法で攻撃しないはずだ。
まずは甲板まで行って、キチンと状況確認してから、敵の位置と海賊の船長を確認する。
その後は皆殺しだ。一人残らず魚達の餌にしてやる。
「おい、そこで止まれ!」
「は、はい!」
「船長、抵抗していた男が降伏して来ました。どうしますか? 殺しますか?」
黒布マスクで顔を覆い隠した男二人が、剣先を階段下に向けて、甲板への出入り口を塞いでいる。
雑魚そうだけど、仕方ない。刺激しないように階段の途中で待機した。
それに船長が「殺せ」と言ってきても、剣で突き刺す程度じゃ俺は殺せない。
「ほぉ……面白い。通してやるんだ。こちらも聞きたい事がある」
手下はガサツな感じなのに、意外と船長は低い声で知的な雰囲気がある。
まぁ、声だけなら俺も頑張れば、女の子に間違われる可能性もある。
とりあえず頑張って、敵意を感じさせない可愛い声を出そう。
「了解です! おい、ゆっくりと上れ。おかしな真似はするんじゃねぇぞ」
「あ、ありがとうごさいます!」
言われた通りにゆっくりと上っていたら、もう一人の方がブチ切れた。
「……さっさと上れ! このクソ野朗!」
「は、はい、すみません!」
申し訳なさそうに急いで階段を駆け上がる。
お前は後で絶対にブッ殺すから覚悟しておけ。
(少し熱いな。燃えているじゃないか)
無事に甲板の上に到着したけど、パラパラと火の粉が落ちてくる。
頭上を見上げると、三本の柱に付いてある帆が全て燃えている。
これだと船を漕がないと陸地には辿り着けない。
「いいか、少しでも動くと首を撥ねるからな」
「は、はい……」
海賊の脅しと火の粉の雨を気にせずに、甲板の上の海賊達を数えた。全員で十四人しかいない。
二十八人いると言ってたから、残りの半分は海賊船の方にいるようだ。
そして、出入り口の二人以外は黒布マスクで顔を隠していない。
剣を持った若々しい二十代の若者達が人質達を取り囲んでいる。
友達同士で仲間を集めていったら、こんな感じになりました、という感じだ。
「船長、コイツです! この男が俺達の邪魔をしたんです!」
「あぁ……」
正面に見える黄土色の髪を濡らした男が、俺の方を指差して喚いている。
黒布マスクで顔は見えなかったけど、海に飛び込んで逃げた男の声に似ている。
多分、コイツで間違いないけど興味がないから無視しよう。
警戒するべきは男が話しながら、何度も視線を向けている濃い青髪の男の方だ。
(なるほどね。コイツが悪党の親玉ですか)
巨漢の屈強な男を想像していたけど、普通と言えば普通の二十八歳ぐらいの男だ。
身長百七十七センチ程、引き締まった身体付きだけど、馬鹿みたいに筋肉は盛り上がっていない。
半袖の白い制服っぽい服を着ていて、下は黒に近い茶色の長ズボンを履いている。
武器は左腰の剣と、左手に持っている細い銅色の筒だけのようだ。
「やめた方がいい。視線に、力の入り具合に、どんなに隠しても攻撃の気配は出るものだ。人質がどうなってもいいのか?」
「何の事でしょうか? 降参しに来たんですけど……」
俺の探るような視線に船長ゼルドは、左手の筒を左方向にいる人質の塊に向けた。
異常に勘が鋭いのか、歴戦の経験なのだろうか、俺が襲い掛かってくると予想している。
長さ三十センチ、太さ四センチ程の細く長い筒の中心には、二センチ程の穴が開いている。
強力な武器には見えないけど、笛を持ち歩く悪党はいない。多分、吹き矢のような武器だと思う。
結構、魔法を使い慣れてきたけど、防御魔法をかけられるのは六人が限界だ。
プロテスとシェルを分散してかければ、六人までには防御魔法をかける事は出来ると思う。
でも、甲板の人質は二十人以上、船内にも三十人近くいる。
全員を守るのは絶対に不可能だ。守るなら船長と船員だろうな。
「睡眠ガスが効かない身体に、刃物で切れない身体、これだけでお前の実力は分かったつもりだ。5級相当の実力者で防御系の魔法持ちだ。違うか?」
誰を助けるか考えていると、ゼルドが人質に筒を向けたまま、俺に聞いてきた。
ほとんど正解だけど、正直に答えても不利になるだけだ。
「大ハズレ。ただ身体が頑丈なだけだ。それに人質なんてどうでもいいんだろう? 殺したければ、さっさと殺せばいい。そしたら、俺もお前達を遠慮なく皆殺しに出来る」
「テメェー、舐めてんのか!」
「さっさと盾と鉤爪を捨てろ! この豚共、殺すぞ!」
雑魚達がうるさいけど、親玉が誰だか分かった。もう大人しくする必要はない。
人質数人には犠牲になってもらって、速攻で親玉をブチ殺す。
そうすれば、他の雑魚海賊は、誰の言う事を聞くべきか理解できるはずだ。
「そう興奮するな。お前達もだ。こちらは積荷を貰えればそれでいい。人間を買い取っていた所が取引きを中止したからな」
「……じゃあ、積荷を渡せば人質には手を出さないんだな?」
ゼルドは興奮していた海賊達を落ち着かせると、予想外の事を言ってきた。
信じられないけど、大人しくしていれば、穏便に済ませられるかもしれない。
船長も積荷よりも命が大事だと言っていたから、素直に渡しても問題ないはずだ。
「そんな訳ない。船員と乗客に一人ずつ女が乗っているのは知っている。前の取引き相手は人間なら誰でも良かったが、若い女ならば買いたい奴はいくらでもいる。その二人だけは貰う」
「おい、欲張り過ぎだ。それに人間は物じゃない。殺すぞ?」
その乗客の女とはエイミーの事だ。これ以上、交渉する時間は必要ない。
どこかの変態野朗の玩具にさせるつもりはない。
「……良い殺気だ。海賊にならないか? 仲間の女には手を出さない」
「海賊だって?」
もの凄く睨み付けたのに、ゼルドに逆に気に入られてしまったようだ。海賊に勧誘されてしまった。
どこでも優秀な人間は歓迎されやすいようだけど、俺って犯罪組織の人にしか誘われた事がない。
悪いお仕事の方が向いているという事だろうか?
「ああ、実力がある人間は常に歓迎している。お前の答え次第で、人質と女の未来が決まると思った方がいい。よく考えて答えるんだ」
よく考えろと言われても、考える必要もないぐらいに簡単に答えは出た。
海賊の仕事は目の前のクズ達が教えてくれた。
俺もエイミーも、二十八人のクズ達との共同生活は絶対にゴメンだ。
「ぐがぁッ!」「ぎゃあああッッ‼︎」
「「「なっ⁉︎」」」
返事の代わりに、左手の盾で海賊の顔面を殴り潰し、右手の爪で海賊の腹を切り裂いた。
黒布マスクで顔を隠していた海賊二人が甲板の上に倒れていく。
「悪いけど、海の臭いはあまり好きじゃないんだよ」
「それには同意見だ。〝ファイアボール〟」
俺の答えは気に入らなかったようだ。
素早く左手の筒を俺の胴体に向けて、ゼルドは呪文を唱えた。
吹き矢のような武器だと予想していたので、発射される前に左横に飛んで回避した。
「くっ……!」
予想通り、筒の穴から螺旋状の炎の矢が凄い速さで飛び出してきた。
ボールじゃないという俺の苦情は多分、受け付けられない。
「良い判断だ。じゃあ、これはどうかな? 〝ストライク〟〝ファイヤボール〟」
「くっ……ぐぅッ、がぁッ! くぅぅぅ!」
さっきの炎の矢よりも三倍は速い。
次々に発射される炎の矢は、速過ぎて全部は避け切れない。
防御魔法を突破して、鋭い炎の拳が身体に突き刺さるようだ。
(ぐぅ……3級は嘘じゃないかもしれないな。陸地までは仲間の振りをしていれば良かった)
これ以上、生身で受け続けるのは無理だ。
プロテスとシェルをかけた丸盾を吹き矢の直線状に構えた。
炎の矢は真っ直ぐにしか飛んで来ないから、これで何とか防げるはずだ。
「ひぃっ!」
「船長! 当てないでくださいよ!」
ゼルドの手下達は炎の矢に当たらないように、甲板に伏せている。
多分、俺がやったら狙い撃ちだ。
「おおおおおおっ!」
「防御も恐れも必要なしか」
ゼルドに向かって突撃する。まずは近づかないと何も出来ない。
丸盾は飛んで来る炎の矢を防いで飛散させていく。
やっぱり部屋に戻って、丸盾を持って来たのは正解だ。
レア防具の力を思い知ればいい。
「オラッ、ハァッ!」
「……悪くない動きだ」
右爪の連続攻撃をゼルドは回避しながら、吹き矢で足を狙ってきた。
悪いけど、そんな時間があるなら避けるのに集中した方がいい。
「ぐぅっ!」
左足のスネに炎の矢が突き刺さったけど関係ない。
追加ダメージ覚悟でゼルドの胴体に爪を振り下ろした。
「りああああッ!」
「ぐぅ……!」
手応えはほとんど感じなかったけど、白い制服に二本の傷を付けた。
今度はもっと懐に深く入り込まないといけない。
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