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第二章・騎士団入団編

第80話 海賊対策と眠れる少女への報告

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「皆んな、一度冷静になるんだ。落ち着いて考えて行動すれば、海賊船から逃げられる。さっきの港に引き返せば問題ない」

 港を出発してから、まだ三時間程度だ。
 二日かかるコルトの街を目指すよりは、引き返した方が早い。
 多少、街に到着するのが遅れる程度は我慢しよう。

「それは無理だ。ゼルドの海賊船はこの船と同じ中型帆船だが、大砲を積んでいるし、噂では船の速度も相当に速いらしい。港から船の後ろを付いて来られていたら絶対に逃げられない」
「俺も聞いた事があるぞ。何でも逆らった船に乗っていた人間は、男も女も関係なく連れ去られるそうだ。噂だと、快楽殺人が好きな食人鬼の変態金持ちに売られるそうだ」

 聞いてもない事をペラペラと喋る、豪華な制服を着た船員と青ざめた顔の乗客がいる。
 まだ海賊の仲間が紛れ込んでいたようだ。お陰で他の人達が怖がってしまった。
 お喋りな二人には平手打ちで警告してから、聞かれた事だけを話してもらおう。

「はぐぅッ!」「くばぁッ!」
「他に俺をイラつかせる話をしたい奴はいるか?」

 二人を立たせるのも、俺がしゃがみ込むのも面倒なので、足で平足打ちした。
 皆んな黙っているので、他に紛れ込んでいる海賊の仲間はいないようだ。

(同じ中型帆船か……)

 今、乗っている船は長さ二十五メートル、横幅の広いところは八メートル程ある。
 甲板の後方には大きな部屋があり、地下一階が乗客用で、地下二階が積荷と船員用だ。
 船の真ん中に三本の高い柱が立っていて、その柱に頑丈そうな大きな白布を広げている。
 その布に風を受けて、海の上を滑るように走っている。

 船には詳しくないけど、この柱を壊すか、大きな布を破けば走れなくなるはずだ。
 海賊船が現れた時は、柱か布を壊せば、速さなんて関係なくなる。

(まぁ、こんな感じかな。どうせ、雑魚海賊が現れても大した事ないでしょう)

 怯える船員と乗客達に代わって冷静に作戦を考えると、倒れている海賊四人を縄で縛った。
 船員と乗客の縄を解くのは、船内の安全を確認した後でもいいけど、見張りも必要だ。
 船員の縄だけ解く事にしよう。

「死にたくなかったら、追いつかれないように全力で逃げるんだ。分かったな?」
「「「はい!」」」

 縛れていた船員六人全員の縄を解いた。
 俺が負傷させた船員が二人いるけど、使える者は全員使う。

「船長、大丈夫ですか?」
「うぐっ、大丈夫だっ、何とか舵は握れる」

 船長? さっき平足打ちした男が船員二人に支えられながら、船の後方に歩いていく。
 ちょっと負傷したからって心配し過ぎだ。あんなのは放って置いて、情報収集しよう。
 
「船員と乗客は全員で何人いるんだ?」

 仕事に逃げようとしていた船員三人を捕まえて聞いてみた。

「船員は二十名、乗客は三十九人ですが、海賊五人を引くと三十四人です!」
「……全員で五十四人か」

 それだけいるなら、海賊と正面から戦えそうな気もするけど、油断は禁物だ。
 船員には海賊四人と船の操縦を任せて、俺が船内を調べた方が良さそうだ。
 海賊の仲間が隠れていたら、また人質に取られてしまう。

「船内に入った船員と乗客は海賊の仲間として処理する。絶対に入るなよ」
「「「はい!」」」

 一応警告したから、大丈夫だろう。
 今度は海賊から話を聞くとしよう。

「おい、起きろ。起きないなら海に捨てるぞ」

 顔面が腫れ上がっている、深緑色の髪の男の頭を叩いて起こす。
 四人全員の顔を覆い隠した黒布マスクは剥ぎ取った。
 年齢は見た感じ、二十代前半と全員が若い。

『若いんだから、もっとまともな仕事を見つけた方がいい』と言いたいけど、もう遅い。
 反抗して海に捨てられるか、協力して牢獄に行くか、その二つしか選べない。

「うっ、ぐっ、むぐっ……」

 呼びかけながら軽く叩き続ける。
 しばらくすると、やっと意識を取り戻した。

「はっ! テ、テメェー!」
「ハァッ!」
「ひぃっ‼︎ 何でもないです!」

 でも、口の利き方が悪いので、顔に当たらないように素早く右拳を振って止めた。
 次は当てるので、聞かれた事は素直に答えた方がいい。
 エロ良いお姉さんと違って、俺の訊問は厳しいから覚悟した方がいい。

「これから質問する。嘘を教えたら、半殺しにしてから海に落とす。船には全員で何人の仲間がいる?」
「ゼロです! 俺達五人だけです! 船を停止させたら合図を出すんですよ!」
「本当だろうな? 嘘だったら、その舌と下を切り落とすからな」
「ば、化け物‼︎」

 右手の親指と人差し指の爪だけ伸ばして、ハサミのように動かして、念の為の最終確認する。
 質問には答えてないけど、時間もないから怯える男の顔を信じる事にする。
 流石にそろそろエイミーの身の安全を確認したい。
 海賊に色々な意味で襲われている可能性もある。

(まぁ、個室の鍵は俺が持っているから大丈夫だと思うけど)

 個室の壁に銀色の鍵が二本ぶら下がっていたから、部屋を出る時に鍵は閉めてきた。
 エイミーが扉を中から開けなければ、誰も襲う事は出来ない。
 万が一にも扉を打ち破られても、あの海賊達の実力ならば、エイミーでも倒せるはずだ。
 熟睡して無抵抗じゃなかったら……。

 警戒しながら、甲板の下に続く階段を下りていく。
 海の匂いと船と積荷の匂いが強いので、人の匂いはちょっと分かりづらい。
 廊下まで来たけど、人の姿は見えないし、動いている気配がしない。

「静か過ぎる……」

 海賊達が暴れているなら、怒鳴り声や悲鳴が聞こえてもいいけど、波の音以外は聞こえない。
 むしろ、海賊がいないなら、船員と乗客が好きに話して動き回ってもいいはずだ。

(何かおかしくないか?)

 考えてみたら、海賊五人で船員、乗客含めて五十四人を制圧するなんて無理だ。
 だって、あの五人は雑魚過ぎる。

 もしかすると仲間同士で協力して、人質にされた振りをして、他の船員や乗客を無抵抗にしたのかも。
 力が無くても、知恵は有るみたいな感じなのかもしれない。
 まぁ、あとで他の部屋を見れば分かるはずだ。今はこの部屋が先だ。

「扉は無事みたいだ」

 部屋の前まで来たけど、扉は壊れていなかった。
 海賊も泥棒と同じならば、鍵ぐらいは作れるかもしれない。
 でも、扉が無事だからといって、エイミーが無事とは限らない。

「エイミー、入るよ。入るからねぇ……よし」
 
 色々と考えるよりも部屋の中を見た方が早い。
 扉を軽く叩いて声をかける。中から返事は返って来ない。
 返事が聞こえないのは入っていい証拠だ。これで着替え中でも俺は悪くない。

 アイテムポーチに仕舞っている銀色の鍵を取り出すと、鍵穴に入れて左に回した。
 扉の鍵が開いたので、ゆっくりと内開きの扉を押していく。

 いきなり誰かが襲って来る可能性も、エイミーが襲って来る可能性もある。
 とりあえず誰でも襲って来い、の気分で部屋の中に入った。

「ふぅ……ふぅ……」

(うわぁー、めちゃくちゃ普通に熟睡しているぅー)

 ある意味、予想通りの状況で逆にビックリだ。
 小さな寝息を立てて、エイミーは普通に寝ていた。

 でも、ある意味チャンスだ。
 海賊が襲って来る予定なので、急いで身体に触れて起こさないといけない。

「ハァハァ、どこまでなら触っていいんだ?」

 起こさないように静かにベッドに接近する。
 さっき扉を叩いて、声をかけても起きなかったから、音で起こすのは諦めた方がいい。
 残された物理的な方法を試すしかない。
 
「んっ……んっ……」

(凄く柔らかい! 海賊様達、ありがとうございます!)

 左手で仰向けで寝ているエイミーの柔らかい二の腕を揉む。
 おっぱいは無理だけだ、女の子の二の腕は、おっぱいと同じ柔らかさだと聞いた事がある。
 一生に二度とないチャンスなので、エイミーが起きるまでは二の腕を堪能する。

「ハァハァ!」
「んんっ~~……ル、ルディ? 何してるの?」

 永遠に続くかもしれない至福の時間は、約十一秒で終了した。
 もう二度と女の子の二の腕を揉む事は出来ないだろう。
 
 だらしない顔を急いでやめると、目を覚ましたエイミーに緊急事態を報告した。
 
「やっと起きた。船が海賊に襲われたんだ! 一応、船に潜んでいた海賊四人は捕まえたんだけど、海に一人だけ逃げられたんだ! 仲間を呼んで来るかもしれないから警戒しておいて!」
「えっ、本当に⁉︎」

 エイミーは俺の報告に少し驚いた顔をした。
 俺だって、湖以外で初めて乗った本物の船で、海賊に襲われるなんてビックリだ。
 でも、本当の事だから信じてもらうしかない。
 
「こんなくだらない嘘は吐かないよ。大部屋と船員の部屋を調べるから、エイミーも武装して付いて来て! やっぱり一人にするのは危険だから」
「う、うん、分かった。ちょっと待ってて……」

(よし、二の腕を揉まれていたのに気づいてないぞ)

 エイミーはベッドから起き上がり立ち上がると、エプロンポケットから骨の黒丸盾を取り出した。
 寝起きの戦闘はキツいかもしれないけど、プロテスとシェルでしっかりと守るから大丈夫だ。

「じゃあ、俺が先頭を歩くから、エイミーは後ろを頼んだよ」
「うん、ふわぁ~~、何だが頭がボッーとする。船酔いかなぁ?」

 部屋から廊下に出たのに、盾を構えているエイミーの目はまだ半開きだ。
 夢の中を彷徨っているみたいだけど、安全が確認できてない船内で寝るのは危険過ぎる。
 心を鬼にして、エイミーの頬っぺたを両手で優しく引っ張って、目を覚まさせる。

「ダメダメ。寝たら死ぬよ。起きて、起きて」
「はふぅぅぅぅ、痛いよぉー」

(ヤバイ。寝起きのエイミーが可愛すぎる! いや、船酔いしているから可愛いのか!)

 何をやっても無抵抗だ。普段のエイミーなら、右手に持っている丸盾で顔面を殴り付けている。
 楽しいけど、やり過ぎると顔が面白いままで元に戻らないかもしれない。
 この辺で許してあげよう。

「とりあえず真っ直ぐ進めば、乗客用の大部屋があるから、そこまで頑張って」
「にぁ、う、はぁぁ、もう無理……」
「エイミー? 危ない⁉︎」

 頬っぺたから手を離して、大部屋の方を指差し、眠そうなエイミーを元気付ける。
 でも、突然。全身の力が抜けたように、エイミーが廊下に向かって倒れていく。
 怪我しないように慌てて抱き留めた。
 
 ♢
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