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第二章・騎士団入団編

第75話 朝目覚めたら隠れん坊

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「んんっ……? ふわぁ~~、よく寝たぁ」

 目を覚ますとベッドの上に寝ていた。
 確か取り調べを受けていて、その後にベッドの上でマッサージをしてもらっていた。
 気持ち良くて、そのまま眠ってしまったようだ。

 窓を隠す布には明るい光が当たっている。
 朝か昼か知らないけど、お腹が空いているから何か食べたい。

「ん? 何で裸なんだ?」

 身体の上に乗っている薄緑色の毛布を退かして、ベッドから起きようとした。
 でも、ちょっと退かしただけで、何も着ていない事に気づいてしまった。
 シャツやズボンなら分かるけど、流石に下着まで脱いで寝たりしない。

「これだと、部屋の外に出られないよ……ん?」

 服が無いなら毛布を身体に巻くという方法もあるけど、それは最終手段だ。
 まずは近くに服やアイテムポーチが落ちてないか探してみよう。
 そう思って、右隣のベッドの上を見てしまった。
 そこには銀色の髪の女性が寝ていた。

(おい、嘘だろう⁉︎ 同じ部屋で裸でマッサージって、全然記憶が無いけど、どんなマッサージを受けてたんだよ!)

 慌てて周囲の状況から何が起こったのか推理してみた。
 シルビアのベッドに付けられている棚の上には、折り畳まれた茶色い制服と白い靴下が見える。
 そして、薄緑色の毛布からチラッと見えている、シルビアの肩や背中は何も身に付けていない。

 何をやったのか思い出せないけど、裸の男女が同じ部屋で別々のベッドに寝ているのは普通じゃない。
 身も心も何だかスッキリした気分だから、何かをやってしまったのだろう。

(んっ~~~、駄目だ! 全然思い出せない。もう一度、マッサージをしてもらえば思い出せるかもしれないけど)

 とりあえず、そんな時間はない。
 この状況を兵士やクラトス、レーガンに見られるのは非常に気まずい。
 朝か昼か知らないけど、早く何か着ないと駄目だ。
 夜中に人は部屋にやって来ないけど、朝と昼ならやって来る。

「おはようございます」
「ハッ⁉︎」

 ほら、やっぱりやって来た。分かっていたけど、遅かったようだ。
 突然、部屋の扉が二回叩かれて、女性の声が聞こえてきた。

「すみません。この部屋にルディはいますか?」
「エ、エイミー⁉︎」

 扉の向こう側にいるのは、エイミーのようだ。
『何故、ここにいるんだ?』という混乱する頭で考えてみた。
 その結果、おはようございますで、今が朝だという事が分かった。

 多分、昨日の昼から今日の朝まで、この部屋で寝ていたんだ。
 そして、エイミーが宿屋に居るという事は、エイミーのお母さんもいるはずだ。
 一晩中、どんなマッサージをしていたのか思い出したいけど、今はそれどころじゃない。

(ベッドの下に隠れるしかない!)

 毛布から飛び出すと、ベッドを軽々と持ち上げて、その下に潜り込んで隠れた。
 きっと、腕力はこんな時の為に鍛えておくんだと思う。

(まさか、村以外で裸隠れん坊をする事になるとは……)

 ベッドの下の二十センチ程の隙間から、息を殺して部屋の中を見る。
 このままエイミーが扉から立ち去れば、何も問題ない。

 それと俺の服は床には落ちてないようだ。
 シルビアのアイテムポーチの中に入っているんじゃないだろうか?
 マッサージの料金として、身ぐるみ剥がされてしまった可能性がある。

「すみません。おはようございます」
「んんっ~~、はぁ~い。ちょっと待ってて」
「くっ!」

 しつこく扉を叩いて聞いてくるエイミーに、シルビアは起きてしまった。
 返事をした後に、ゴソゴソと物音を立ててから、ベッドから降りて扉に向かっていく。
 靴下は履いてなかったけど、茶色い制服を着ているのが見えた。

 あの服装なら変な事をしていたとは疑われない。
 まあ、別に疑われても問題ないとは思うけど、変な誤解をされるのは困る。 
 シルビアとはマッサージだけの関係だから、恋人や彼女は別に作りたい。
 身近な女の子はとりあえず、候補として確保しておきたい。
 
「あっ、えっーと……ルディはいますか? ここにいるかもしれないと聞いたんですけど……」

 シルビアが扉を開けると、微妙な間が発生したけど、すぐにエイミーは喋り始めた。
 誰に聞いたか知らないけど、正確だ。
 でも、朝っぱらから俺に何の用があるんだろうか?

「ここには居ないわよ。ここは私の部屋だから。あなた、可愛いわね。もしかして、彼女なの?」
「いえいえ、そんな関係じゃないです⁉︎ ルディが騎士団に入ると聞いたので、私も連れて行ってもらおうと思ったんですけど、失礼しました。他を探してみます」

 二人の生足を見ながら、会話を聞き漏らさないように集中する。
 俺の彼女かと聞かれて、エイミーは強く否定している。

 これはヤバイ。女の子同士の会話を盗み聞くのは意外と興奮する。
 ベッドの隙間から見ているから、凄くいけない事をしている気分だ。
 エイミーが俺を探している理由は分かったけど、死亡率四割の仕事なんてしない方がいい。
 安全以外は何もないけど、パロ村でゆっくりのんびりと暮らした方がいい。
 
「ちょっと待って」
「はい?」

 でも、そんな俺の優しい願いはシルビアに阻止された。
 立ち去ろうとしていたエイミーを呼び止めた。
 
「だったら、私に話をした方が早いわよ。調査部にルディを紹介するのは私だから。さあ、中に入って。ゆっくり話しましょう。私はシルビアよ」
「あっ、はい。エイミーと言います。十五歳で冒険者8級です。よろしくお願いします!」
「若いわね。とりあえず、奥の方のベッドに座って」
「はい」

(ひぃぃ‼︎ 嘘だろう⁉︎)

 エイミーが部屋の中に入ってくると、俺が隠れているベッドの上に座った。
 エイミーがいつも履いている、くるぶしまで隠している茶色い靴と生足が至近距離に見える。
 反対側のベッドには靴を履いてないシルビアの足が見える。

 ベッドの下に隠れただけなのに、この状況は非常にマズイ。
 どう見ても裸の変態が、見ず知らずの女性の部屋の中に忍び込んだみたいだ。
 絶対に見つかったらいけない隠れん坊が始まってしまった。

「8級だと基本的に無理ね。6級でもお勧め出来ないわ。だから、非戦闘の雑務作業をしてもらう事になるけど、大丈夫?」
「はい、実力不足なのは分かっています」
「と言っても、あなたの場合は基本的に保護が目的かな。あなた、テイマーなんでしょう? 誘拐される危険性があるなら、調査部は身を隠すには最高の場所よ」

 二人は向かい合って、普通に話している。
 俺もその非戦闘の雑務作業がしたいけど、そもそも仕事内容はまったく聞いてない。
 俺もしっかりと聞くから、ここはエイミーに詳しく聞いてもらいたい。

 特に仕事場所が、街か村かは重要な事だ。
 近くに娯楽が無ければ、ただの牢獄暮らしと変わらない。

「そうなんですね。ありがとうございます。それで外出とかは出来るんでしょうか? 近くに魔物がいるなら、倒して強くなりたいんですけど……」
「う~ん、それは基本的に無理かな。でも、カルナが魔物の素材を集めていたから、ちょうどいいかもね。ルディと一緒にカルナの仕事を手伝ってみる?」
「はい、それでお願いします。ルディは私の言う事なら、何でも聞いてくれるから問題ないと思います」

(おい!)

 聞きたい情報ではなかったけど、エイミーが俺の事をどう思っているのかは分かった。
 まぁ、従魔だから仕方ないとは思うけど、何でも言う事を聞く訳じゃない。

「フッフフ。頼もしい彼氏ね。じゃあ、紹介状は書くけど、無理そうならいつでも言うのよ」
「はい、そうします。それと本当に彼氏じゃないですから」
「そうなの? 優秀そうだから、今のうちに手懐けた方がいいわよ。駄目なら捨てればいいんだから」
「う~ん、一応考えておきます。それじゃあ、よろしくお願いします」
「はぁーい」

 エイミーの中では余程、重要な事なのだろう。しっかりと彼氏じゃないと否定している。
 でも、出世すれば考えるみたいな事を言っているので、優秀になってから逆に捨てるのも有りだ。

(さて、どうしたものか……)

 部屋からエイミーが出ていったけど、シルビアはまだ部屋の中にいる。
 昨日の夜にお互いの裸を見た関係ならば、ベッドの下から現れても問題ないかもしれない。
 でも、悲鳴を上げられたら、エイミーも含めた大量の兵士が駆け付けてくる。
 そしたら、安全は安全でも、安全な牢獄に送られてしまう。

「可愛らしい彼女さんね。見つかったら、大喧嘩になってたわね。はい、服。先に出るけど、早く服を着て出るのよ。すぐに馬車が出発すると思うから」
「……はい、ありがとうございます」

 どうしようかと考えていたら、俺の畳まれた服が目の前の床に置かれた。
 シルビアにはベッドの下に隠れていた俺が見えていたようだ。

「あのぉ……起きたら裸だったんですけど、昨日の夜に俺達、何かしたんですか? ちょっと記憶にないんですけど……」

 俺が隠れているベッドに座って、長い白靴下を履いているシルビアに、気になっていた事を聞いてみた。
 自分でも最低の事を聞いている自覚はあるけど、覚えていないから仕方ない。
 それにもしも、何か取り返しの付かない事をしているなら知っておきたい。

「そう。覚えてないならいいわ。私は楽しかったけど、あなたにとっては、その程度の夜だったのね」

 傷ついたような悲しい声が上から聞こえてきた。
 とりあえず急いで謝って、いい感じに誤魔化すしかない。
 
「ご、ごめんなさい! そういう意味じゃなくて、記憶が飛んでしまうぐらいに、凄かったという意味なんです!」
「ウッフフフ。確かにそうね。記憶が飛びそうになるぐらいに激しかったわね。じゃあ、私は別の場所で仕事があるから。今度会ったら、またお願いね」
「あっ、はい。また今度」

 よく分からないけど、上手く誤魔化せたようだ。
 シルビアは我慢できないといった感じに笑いながら、部屋から出ていった。
 俺もベッドから早く出て、服を着よう。

「それにしても、また今度か……次はしっかりと覚えておかないとな」
 
 ♢
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