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第二章・騎士団入団編

第73話 隣町への移動と宿屋の拷問官

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 騎士団の門が見えてきたけど、どうやら建物には入らずに、すぐに逃げないといけないらしい。
 クラトスに指示されて、先に騎士団に走って行った兵士達が馬車を用意して待っていた。
 馬車は二頭引き四輪馬車で、四人乗りが三台止まっている。

「まずは東の町を目指す。そこまでは捕虜も一緒だ。仲良くしろよ」
「えっ……」
「二人はこっちらの馬車に急いで乗ってください」

 クラトスはそれだけ言うと、お父さんと一緒に馬車に乗って出発した。
 俺は兵士に呼ばれて、レーガンと一緒に馬車に向かったけど、既に縛られた眼鏡が乗車している。
 この馬車の中では、ゆっくりと休む事は出来そうにない。

「チッ。この屑野朗と一緒かよ」
「うぐっ!」

 レーガンは馬車後方の座席に座っている、眼鏡の右肩を殴ってから、その右隣に座った。
 眼鏡は口に布を巻かれて、両手を腹の前で縛られ、両足も縛られている。
 捕虜だとしても、抵抗できない相手に理不尽な暴力は振るわない方がいい。

「気持ちは分かるけど、もう殴ったら駄目だ。色々と話してもらう必要があるんだから」
「あぁ、すまない。確かに俺も聞きたい事が山程ある。洗いざらい吐いてもらうから覚悟しろよ!」
「うぐっ、くっ……」
「出発します。一緒に同行するナチェンです。よろしくお願いします」

 茶色い髪の二十二歳ぐらいの男の兵士が、扉を閉めながら馬車に乗ってきて、俺の隣に座った。
 重そうな銀色の鎧を脱いで、黒色の騎士団の制服を着ている。
 レーガンに胸ぐらを掴まれている、眼鏡はあまり気にならないようだ。

「こちらこそ、よろしく。俺はルディで、7級冒険者をやっています。後ろ座席の二人が犯罪者のレーガンとローワンです」
「はい、知っています。さっきの喧嘩を見ていました。見れば見るほどに悪そうな顔ですね」

 兵士のナチェンが名乗ってきたので、軽く俺達の自己紹介を代表でしておいた。
 特に前と後ろ座席には、絶対に越える事の出来ない善と悪の境界線がある。
 悪が境界線を無断で越えた時は、正義の鉄拳が容赦なく振るわれる。

「じゃあ、ちょっとだけ寝るから二人の見張りを頼んだよ」
「はい、任せてください」

 三人に境界線を越えた時の対処方法を教えたので、あとはナチェンに任せて寝る事にする。
 いざという時の襲撃に備えて、逃げる体力を回復させておいた方がいい。
 揺れる馬車の中でゆっくりと目を閉じた。
 
(はぁ……それにしても完全な赤字だ)

 回復薬は全部使い切ったし、靴はまた足爪で穴が空いてしまった。これで壊れたのは三足目だ。
 特に最悪なのは、レアモンスターを倒して手に入れた、百六十万ギルの黒い骨剣を失った事だ。
 落ちている場所を教えれば、もしかすると見つかるかもしれないけど、あまり期待できない。
 キール辺りがタイタスの持ち物と一緒に盗んでいそうだ。

 多分、眼鏡は弁償できないし、騎士団もしてくれない。
 ついでに言えば、報奨金も払うつもりもないし、クエストじゃないから報酬も出ない。
 まぁ、騎士団の仕事を紹介してもらえたから、給料に期待するしかない。

(あれ? 騎士団の給料って、高いのか?)

 色々と考え始めたら、気になって眠れなくなってしまった。
 これで給料が驚く程に安かったら最悪だ。

「ナチェンさん、騎士団のひと月の給料はいくらぐらいですか?」
「はい? えっーと、それはちょっと……」
「事件に関係する重要な事なんです。答えてください」

 目を開けると左隣のナチェンに聞いた。
 言いたくなさそうな感じだったけど、事件、特に俺にとって重要な事なので答えてもらう。

「はい、三十五万ギルぐらいです」
「そうですか……」

 ガッカリするほど安かった。5級クエストを三回やれば、二、三週間で稼げる金額だ。
 ゆっくりと目を閉じると寝る事にした。

「もしかして、兵士に買収されている人がいると考えているんですか?」
「それは言えません」
「ご、極秘という事ですね。流石は調査部の兵士の人は違いますね。誰も信用できないんですね」
「質問が多いですね? 気をつけた方がいいですよ」
「す、すみません!」

 早く寝たいから、質問してきたナチェンに話す気がない感じに対応する。
 既に俺が調査部の兵士になっているみたいだけど、やるとは一言も言ってないと思う。

(はぁ……予定変更して、村で暮らしてもいいかもしれない)

 ♢

 街道の近くに隠れるように野宿して、一日かけて隣町【アムハル】に到着した。
 今は木製二階建ての宿屋の前に馬車を止めて、クラトスが兵士十三人を集めて、何やら話している。
 両足複雑骨折中のお父さんだけは、既に宿屋の中で休んでいる。

 時刻は昼少し前だ。マイクの前足ヒレに開けられた右膝上の穴も塞がった。
 歩くのも走るのも問題ない。なので、町で肉料理でも食べて失った血を補給したい。
 ついでに回復薬と靴も買いに行きたい。

「ウォーカーの家族が来るまで、この町で待機する。その間に敵の内通者がいないか調べさせてもらう。そこの三人は付いて来い」
「「「はい!」」」

 クラトスに指差された兵士三人が一緒に宿屋の中に入っていった。
 三人の兵士達の顔は緊張していたり、平然としていたりといった感じだ。
 これから一人ずつ念入りに、訊問でもされるのかもしれない。

「素直に喋る訳ねぇだろうに。コイツに喋らせた方が早いんじゃねぇのか? ほら、喋れよ!」
「うぐっ! 拷問したって無駄ですよ。知っている事は全て話しました。私はタイタスの儲け話に協力していただけです!」
「被害者面してんじゃねぇよ!」
「ぐふっ!」

 敵の内通者がいないか調べ終わるまで、宿屋の外で全員待機しないといけない。
 レーガンは腹立たしげに眼鏡の尻を足で蹴って、内通者がいないか喋れと言っている。
 多分、眼鏡は下っ端の中の下っ端だから、その儲け話に乗って来た冒険者の名前しか知らない。
 本当に使えない眼鏡だ。お陰で買い物に行けない。

「これって、結構かかるんですか?」

 隣にいるナチェンに聞いた。内通者を調べるのなら、俺とお父さんは必要ないはずだ。
 本当に内通者がいても素直に喋るとは思えないし、何時間かかるか分からないのを待っていられない。

「いえ、すぐに終わると思います。何でも調査部に凄腕の拷問官が所属しているらしく。その人にかかると、一分もかからずに知っている事を全て話すそうです」
「ん? それって、宿屋の中に調査部の人がいるって事ですか?」

 拷問官という言葉も気になるけど、調査部という事は同僚になるかもしれない人と会えるという事だ。
 これで上半身裸で頭から袋を被った、ノコギリ持った太った男なら最悪だ。

(あぁ、そんな人は紹介してほしくないよ。その人と眼鏡のどっちかの友達にならないといけないなら、眼鏡を選ぶよ)

 一分で喋らせるなんて、まともな人間の出来る事じゃない。
 もうノコギリ使わずに、歯で指ぐらいは噛み千切って食べているはずだ。

「次はそこの三人だ。さっさと来い。終わった奴は食事して、部屋で寝ていろ」
「「「はい!」」」

 最悪の同僚を想像していると宿屋の扉を開けて、クラトスが次の兵士三人を呼んだ。
 早い事は早いけど、一分は流石に嘘だったみたいだ。
 最初の兵士が宿屋に入ってから、五分は経過している。

「何度も言いましたけど、知っている事は喋りました! 拷問するなんて意味ないです! ルディ、お願いです。私は脅されて仕方なく協力していただけなんです。仲間だったんですから助けてください」

 拷問されるのが嫌なのか、突然、眼鏡が俺に助けを求めてきた。
 だけど、助けを求める相手を間違えている。

「仲間だと? お前にとっての仲間は金になる人間の事だろう。俺達を殺そうとして、エイミーにエッチな事をしようと考えていた、お前は仲間じゃない。ただのド変態クソ眼鏡野朗だ!」
「あぐっ!」

 ピョンピョン飛び跳ねて、縋り付いて来た眼鏡を殴り飛ばした。
 両手足を縛られている眼鏡は、受け身も取れずに地面に倒れてしまう。
 でも、この程度で拷問が終わるはずがない。地面に倒れている眼鏡を何度も足蹴りする。

「オラッ、オラッ! そんなに拷問されたくないなら、俺が代わりに拷問してやるよ! これでいいんだよな?」
「うぐっ、ぐがぁ、や、やめ……助けて」
「助ける訳ないだろうが!」
「ごおべぇぇぇ! あぐっ……」

 眼鏡は拷問をやめてほしいみたいだけど、やめる訳がない。
 最後に少し強めの足蹴りを顔面に喰らわせてやると、情けなく気絶してしまった。

「ふぅー……これだけやれば拷問は必要ないだろう?」
「えぇ、そ、そうですね」

 地面にグッタリ倒れている眼鏡を指差して、隣のナチェンに聞いた。
 これで駄目だと言われたら、俺の拷問が無駄になってしまう。
 眼鏡の望み通り、拷問官からの拷問からは助けてやった。
 これでもう仲間でも何でもない。

 倒れている眼鏡の治療をレーガンに任せて、宿屋の中に呼ばれる兵士達を見ていく。
 三人ずつ呼ばれていくので、最後は俺達四人だけになってしまう。
 レーガンと眼鏡は黒だから、実質、俺とナチェンの二人を調べるだけになる。
 
「最後はお前達だな。そっちの眼鏡と赤髪は兵士部屋に行け。それと何で眼鏡はまた怪我しているんだ?」
「それはこの眼鏡がド変態で拷問してくれと頼んで来たからです!」

 やっと俺達の番がやって来た。宿屋の扉を開けて、クラトスが俺達四人を呼んだ。
 ついでに怪我している眼鏡の事を聞かれたので、素直に答えた。

「チッ。回復薬が勿体ない奴だ。今度からは治療せずに放置しろ。あと頼まれてもやるんじゃない」
「はい、分かりました」

 言われなくて眼鏡を暴行する趣味はない。
 レーガンに眼鏡を担いでもらうと、二人を前に歩かせて、宿屋の中に入っていく。
 一階にある木製カウンターだけの食堂で、兵士五人が椅子に座って食事している。
 美味しそうだ。俺も早く食べたい。

「こっちだ。今のところは誰も内通者はいない。このまま綺麗なままでいたいものだ」

 クラトスはよそ見をしている俺に向かって言うと、二階への階段を上がっていく。
 ナチェンが内通者ならば、睡眠中の俺を殺して、眼鏡も口封じしていた。
 おそらく、内通者は誰もいないと思う。拷問官の取り調べが適当じゃなければだ。

 ♢
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