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第一章・風竜編

間話44話後 エイミーと眼鏡さんの害虫退治

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「では、私が今日のリーダーです。私の指示には従ってもらいますよ」

 冒険者ギルドの8級掲示板の前で、ローワンさんが眼鏡を指先で上げながら言ってきた。
 勝手に言っているから、とりあえず聞こえなかった事にして無視しよう。
 今日はルディがお父さんとクエストに行って居ないけど、戦力は多いから問題ないと思う。
 ローワンさん、レーガンさん、リックと私の四人なら、ある程度のクエストは出来るはずだ。

「クエストはエイミーが選んでいいぜ。最近8級になったばかりなら、どんなクエストがあるのか興味があるだろう?」
「いいんですか?」

 クエストを見ていると、私の後ろからクエストを見ていたレーガンさんが言ってきた。
 確かに私にとっては、初めての8級クエストだから興味はある。
 でも、右隣の眼鏡さんが不満そうな顔をしている。

「ちょっと勝手に決めないでくれませんか? リーダーは私ですよ」
「俺達は何回も見ているからいいんだよ。それに出来るクエストをキチンと選べる判断力も見たいしな」
「やれやれ女性は買い物が長いんですよ。選んでいる間に一日が終わってしまいますよ」
「分かりました。選んでみます」

 眼鏡さんが何か言っているけど、レーガンさんも無視しているから、やっぱり無視していいみたいだ。
 今のルディ達は戦闘力を上げるのが目的だから、近場で沢山の魔物を倒せるのがいい。

(近隣の森の害虫駆除? 詳しい内容を見たいけど、用紙に手が届かないよ! 何で、上の方に置くかな)

 条件に合いそうなクエストを見つけたので、人差し指で指して、レーガンさんに言ってみた。
 ちょっと上の方にあるから、私の身長だと届かない。

「あれなんてどうですか?」
「あれか?」
「どれどれ、これですか」
「あっ……」

 レーガンさんに頼んだのに、眼鏡さんが勝手にクエスト用紙を手に取って、内容を読み始めた。
 自己中心的な人がリーダーに向いていると思っているなら、絶対に違うと思う。

「うちの近所の畑を荒らす害虫退治ですか。前にやった事がありますが、イモ虫とバッタ退治ですよ? 『きゃぁ~~、怖ぁ~い』とか言って、抱き着いて来ないでくださいよ」

 無視していたのが悪かったのかもしれない。ちょっと怒っている気がする。
 眼鏡さんは気持ち悪い仕草と声で、私が悲鳴を上げて、誰かに抱き着く真似をしている。
 多分、彼女はいないし、抱き締めた事があるのは枕だけだと思う。

「ローワン、そういうのはセクハラだぞ」
「やだな、冗談ですよ。でも、イモ虫とバッタ退治は本当ですよ。女子はああいうのは苦手でしょう?」

 レーガンさんが眼鏡さんを注意してくれたけど、反省するつもりはなさそうだ。
 女の子を馬鹿にしている感じが伝わってくる。
 きっと女の子よりも男の方が優れていると思っているんだ。
 だったら私がそれが間違いだと証明するしかない。

「大丈夫です。そのぐらい我慢できます」
「フッ。本当ですか? まあいいでしょう。口では何とでも言えますが、実際にやらせてみれば、すぐに分かりますからね。これにしてあげます」
「むぅ~~!」

 まるで私が我儘を言って、あのクエストを無理矢理選んだみたいだ。
 やるか、やらないかは皆んなで相談すればいい。
 でも、眼鏡さんが相談もせずに、クエスト用紙を持って受付カウンターに向かっていった。

 ♢

 街中を北に進んで、街を出ると、そのまま砂利道を北に進んでいく。
 害虫が出る場所は街から出て、北西の方角にある森の中らしい。

 基本的に魔物は洞窟や遺跡などのダンジョンに出現するのが一般的だ。
 でも、実際はこの世界全体が巨大なダンジョンだと言われている。
 だから、ある日突然、街中に魔物が現れてもおかしくないそうだ。

 だけど、実際にそんな事は起きたりしない。
 理由は魔物を避けるようにして、人が住む村や街が作られているからだ。

「この辺は私の庭のようなものです。私の後に付いて来れば、すぐに見つけられますよ」
「よろしくお願いします」
「イモ虫達の出現場所はだいたい同じです。この時期に毎年現れるので、定期的に駆除するんですよ」
「そうなんですか?」

 森の中を先頭で歩く眼鏡さんが話しかけてきた。
 イモ虫の出現場所を知っていると言うので、案内してもらっている。
 あまり興味はないけど、話を聞かないと怒りそうだから一応聞かないといけない。

「ええ、朝起きたら、大型犬ぐらいの緑色のイモ虫やバッタが家の前にいるからビックリしますよ」
「へぇー、大変そうですね」

 さっき『怖ぁ~い』って馬鹿にしてたけど、自分はしっかりビックリしたんだ。
 それとも、私が見たらビックリするとか、まだ思っているのかな?
 
「そうですね。最初は大変でしたが、そのお陰で子供の頃から弓矢でイモ虫を射ち殺していたので、冒険者登録する前から一流冒険者に匹敵する実力でしたよ」
「じゃあ、凄腕なんですね?」
「そこまでじゃないです。まぁ、百発撃てば一発ぐらいは外しますよ。今、三十メートル先の木から落ちた葉っぱを射抜きましたよ。見えましたか?」
「えっ? す、凄いです! 全然見えなかったです!」
「フッ。でしょうね」

 一流冒険者が何級なのか気になるけど、聞いたら長くなりそうだからやめておこう。
 眼鏡さんは左手に持った槍を弓矢のように構えて、矢を撃つ真似をしてくれている。
 話を聞くだけじゃなくて、見ないといけないらしい。
 私としては眼鏡さんを見るよりも、イモ虫とバッタを探したい。

(透明な矢なんて見えないよ。もう眼鏡さんの相手は疲れたから帰りたいよ)

 基本的に魔物が出現しない場所に街は作られる。
 でも、わざと魔物が出現する近くに街を作る場合もある。
 そういう街はたいてい冒険者ギルドと騎士団の二つを作る場合が多い。
 魔物を倒す人がいないと、あっという間に魔物に街が壊されるからだ。

(はぁ……でも、その所為で眼鏡さんみたいな勘違い男が誕生しちゃうけど)

 魔物を倒せば強くなれる。理由は倒した魔物の魔素が身体に取り込まれるからだ。
 子供の頃から魔物を倒していたのなら、細い身体の眼鏡さんが、実は怪力だという事も有り得る。
 まさに人は見かけによらないという事だ。

 でも、強いからといって、尊敬は出来そうにない。
 そっちは見かけ通りの人だと思う。
 自慢話が多くて、俺は凄いんだから、お前達付いて来いという主張が凄い。
 
「だったら、今日は弓でいいんじゃないのか? リックも槍を使うんだから」
「ガァル。グゥル」
「ほら、リックさんも弓矢をやれって言ってるぞ」
「絶対に分かってないですよね? 今のは別にどっちでもいいよ、ですよ」

 眼鏡さんの道案内の所為で、なかなかイモ虫が見つからないので、リックの気持ちは分かる。
 二人とも全然違うので、私がリックの気持ちを通訳してあげた。

「どっちも違うよ。『早く帰りたい』って言ったんだよ」
「へぇー、流石はテイマーだな。魔物の言葉が分かるんだな」
「本当ですか? 適当に言うだけなら誰でも出来ますよ」
「えっ……」

 レーガンさんは素直に信じてくれたけど、やっぱり眼鏡さんは駄目だ。
 自分よりも優れている女の子が許せない人間なんだ。
 なんて心の狭い人なんだろう。こっちは透明な矢も信じてあげたのに。

(ダメダメ。嫌な人だけど、チームなんだから仲良くする努力をしないと……)

 ここは私が一歩下がって、嘘でも眼鏡さんの主張が正しいと認めてあげよう。
 そうすれば、喜ぶし、きっと眼鏡さんはそういう女の子が良いんだから。

「も、もしかしたら、違ったかもしれないです……」
「フッ。でしょうね。分からない時は分からないと認めるのも大事な勇気ですよ」
「むぅ~~!」

 やっぱり無理。凄くムカつく。こんな人と仲良くなれない。
 眼鏡さんは眼鏡を指で押し上げると、侮辱するような笑みを向けてきた。
 レーガンさんがいなかったら、リックに頼んで槍で串刺しにして絶対に殺している。

「おや? 噂をすれば虫ですね。では、昆虫採集ではないですが、害虫駆除を始めますか」
「やっとかよ。うげぇ、めちゃくちゃいるな。五十、六十匹はいるぞ」
「ガァル、ガァル」

 やっと見つけてくれたようだ。眼鏡さんの相手はもう我慢の限界だった。
 木にくっ付いている緑色の大きなイモ虫がたくさん見える。
 高さ三十センチ、長さ七十五センチぐらいはある。
 これ、全部殺していいんだよね?

「うりぁああああ!」
「やれやれ、やる気だけはあるようですね」
 
 怒りをぶち撒けるように叫びながら、盾を持って突撃した。
 イモ虫達には悪いけど、眼鏡さんの代わりにグチャグチャにしてあげる。

 ♢
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