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第一章・風竜編

間話70話後 風と雷の結末

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「……アイツら、どこに行くつもりだ?」

 竜男との戦闘中、テイマーの男を抱えて、茶白男が走って行くのが見えた。
 まさか、助けに来た仲間を見捨てて逃げるとは思えない。
 ならば、考えられるのは途中までやって来て、警戒して停止している騎士団との合流だ。
 人数を増やせば、どうにかなると考えているなら、まったくの無駄だ。

「まあいい。予定とは違うが、お前を連れ帰った方が組織の利益になる。お前は幸運だ。人類の進化の為の生贄になれるんだからな」
「グゥルルルル!」

 貴重な実験材料を抱えて、追いかけっこをするほど暇じゃない。
 邪魔な虫がワラワラと増える前に、終わらせる事にしよう。
 唸り声を上げている竜男の向かって、金剛鉄アダマンタイトで作られた戦鎚を向けた。

 コイツの潜在能力は十分に観察させてもらった。
 ただの8級冒険者が薬を使って、一日で2級クラスの実力になれたのは大したものだ。
 だが、上には上が存在する。1級になれたとしても勝てない相手はいるものだ。

「ここから先は一方的な支配だ。〝デウス・エクス・ライトニング雷神の召喚〟」

 竜男にそう言ってから、向けていた戦鎚を今度は空に向けて、呪文を詠唱した。
 その瞬間、身体に纏っていた稲妻が地面に飛び散って、草の地面に金色の魔法陣を浮かび上がらせる。
 次に起こる事は分かっているが、何回やっても慣れないものは慣れない。
 すぐに上空から戦鎚の先端に向かって、巨大な落雷が落ちてきた。

「ぐぅおおおおおお!」

 魔法陣の中で落ちた落雷が全身を包み込み球体に変わった。
 その雷球の中で身を焼かれ、血を沸騰させられ、消えた血の代わりに雷の血が流れ始める。
 そして、この激痛を伴う儀式に耐え切れた者だけが、一時ひとときの時間、超越者としての力を振るえる権利が与えられる。

「ヒュゥゥゥ……」
「はぁっ?」

 儀式が終わり雷球から出ると、ゆっくりと七メートル程離れた所に立っている竜男を見た。
 竜男が口を開いて、直径百二十センチ程の強大な風の力を収束させて待っていた。
 竜と時の四倍程の大きさだか、威力は軽く二十倍近くはありそうだ。

「無駄だ。やめておけ」
「グゥオオオオーー‼︎」

 一応は教えてやったのに、確かに無駄だったようだ。
 言葉を理解できない相手に、言葉で教えるのは無駄だ。
 収束させた風の力が一気に解き放たれて、直径百二十センチの風の壁が迫って来た。

 こんなものは避ける必要もない程のそよ風だ。
 右手の手の平を向かって来る風の塊の前に置いて、黒焦げにする事にした。

「〝シュヴァルツシルト黒い盾〟」

 樹木を直線上に百メートルは薙ぎ倒すだろう強力な一撃も、右手が宙に作り出した六角形の盾に触れた瞬間、熱風へと変わって消失していく。

(コイツが暴れるたびに押さえるのは面倒だな。今後の実験の為にも複数のテイマーが必要になりそうだ)

 まぁ、その必要がないように、この状態になった。
 圧倒的な力でキチンと暴力的な躾をすれば、一度の躾で分かるはずだ。
 それは人間でも魔物でも共通して言える事だ。

「グゥロ⁉︎ グゥオオオオーー‼︎」
「だから、無駄だって言ってるだろう」

 黒い盾を構えたまま、風の咆哮に向かって、平然と暴風を押し退けて歩いていく。
 竜男は更に風の咆哮を吐き出し続けて、力比べがしたいようだ。

 悪いが黒い盾を通ってくる風はまったく感じられない。
 左手の戦鎚を軽く振り上げると、まずは竜男の右足を砕く事にした。
 両手足を砕いてやれば、逃げたくても、逃げられなくなるだろう。

「ハァッ!」
「グゥカアアッ!」

 右膝を狙って、軽く戦鎚を振り回した。
 竜男は戦鎚に右膝を砕かれると、風の咆哮を止めて、代わりに叫び声を上げる。
 そして、右足の支えを失った竜男はバランスを崩して、右腕を地面に付くように右横に倒れていく。
 その倒れていく竜男の隙だらけの左肩に、更に戦鎚を振り落とした。

「ヒュッ!」
「ヴゥガアアアアッ~~‼︎」

 竜男は右手を地面に付くと同時に左肩を砕かれて、叫び声を上げながら背中から倒れていく。
 残り二箇所だ。さっさと砕いて、研究所に運ぶとしよう。

「ガァフゥー! ガフゥッ!」
「何を言っているか分からねぇが、安心しろ。俺達の家に着いたらキチンと治してやるからよ」
 
 右肩、左膝を砕き終わると、倒れている竜男は怯え出した。
 言葉は通じないが、人間の姿で人間の顔をしているなら、表情と仕草でだいたい分かる。
 これなら、何とか意思疎通が出来そうだ。
 助けてくれとお願いしなくても、最初から殺すつもりはない。
 戦鎚の先端に雷を集めると、竜男の胸に押し付けた。

「グゥガァッ~~‼︎ ラッ、グゥガガァ~~‼︎」
「どうした? 早く気絶しないと肉が黒焦げになるぞ」
 
 悲鳴は聞き慣れている。気絶させるには、まだまだ威力が足りないようだ。
 少しずつ電撃の威力を上げていく。やり過ぎて心臓が停止しても、また生き返らせる。
 だから、さっさと死ぬか、気絶するか選ぶんだな。

 ♢
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