上 下
69 / 102
第一章・風竜編

第69話 雷魔法の蘇生術とマイクの復活?

しおりを挟む
 地面に落ちている銀色のケースを、キールを警戒しながら左手で拾った。
 偽物かもしれないので、ケースの蓋をスライドさせて中身を確認する。
 確かに本物のようだ。二センチ程の赤白の楕円形カプセルが入っている。
 前にフレデリックが持っていたのと同じ薬だ。

「どうした? 嘘じゃないんだろう。だったら早く試せ」

 赤白カプセルを指でつまんで見ていると、キールが薬を試せと急かしてきた。
 そんな事は言われなくても分かっている。

「当たり前だ。本物なのか確認していただけだ」
「見ただけで本物だと分かるのか? クックッ。他にも色々と教えてもらう必要がありそうだ」
「チッ……」

 余計な事を言ってしまったようだ。
 知っている事を全部喋るまで逃してくれそうにない。
 まぁ、最初から逃してくれるとは思ってない。

 それに今は自分の心配よりも、マイクの心配をする方が先だ。
 キールの言う通り、薬を使えば死ぬかもしれない。
 でも、使わなければ死ぬだけだ。
 迷っている時間もないし、やるしかない。

(俺は一錠だけだったけど、この大きさなら何錠いるんだ?)

 風竜の大きな身体を見て考える。
 俺の大きさから計算すると、四十錠近くは必要だと思う。
 銀色ケースの大きさとカプセルの大きさから、ケース一箱に入っているのは十錠ぐらいだと思う。
 どう考えても薬の量が足りないと思う。追加の薬を貰えなければヤバイ。

(頼むぞ、マイク。お前だけが頼りなんだ)

 とりあえず迷っている暇はない。
 傷口に一錠ずつ入れていって、変化が起き始めたらやめればいい。
 奇跡が起きるように、マイクの傷口に赤白カプセルを一錠入れた。

「ハッハッ。本当にやるとは思わなかった。二十秒以内に取り出さないと薬が溶け出すぞ」
「問題ない。これで助かるんだから」
「それは楽しみだ。だが、くだらない時間稼ぎはやめた方がいい。俺をイラつかせるだけだ」

 キールは持っている黒鉄棒の先端を風竜の身体に押し当てている。
 分かっていないようだけど、マイクが人間に戻れば、力が数十倍に上昇する可能性がある。
 上手くいけば、マイクは助かり、お前はマイクにボコボコにされて、俺達は助かるんだ。

(マイクが助かった瞬間、お前は終わりだ。覚悟しろよ)

 予想通り、一錠だけでは変化は起きない。二錠、四錠、八錠と次々に入れていく。
 でも、変化は起きない。心の中で頼むと祈りながら、最後の十錠目を傷口に入れた。
 もう銀色ケースの中には赤白カプセルは無い。

「薬が足りないみたいだ。もっと薬をくれ」

 十錠目を入れて三十秒待った。風竜の身体に変化は起きなかった。
 なので、追加の薬をキールに要求した。けれども、やっぱり無理なようだ。

「……もういい。芝居はもうたくさんだ。この大きさなら十錠あれば十分に足りる。変化が起きない場合に考えられる原因は二つだ。薬が足りないか、死んでいるか、そのどちらかだ」

 銀色ケースの二箱目の追加要求をキールはイラつきながら断った。
 もしかすると、もう持ってないのかもしれない。

「マイクは死んでいない。薬が足りないだけだ。もう一箱渡せば、それで分かる」
「おいおい、お前が今使った分だけで、三百万ギルもするんだ。死体にもう三百万ギル使えと言うのか? こっちは慈善活動をしに来たんじゃないんだぜ!」
「やめろ‼︎」

 キールが黒鉄棒を振り上げた瞬間に叫んだけど、遅かった。
 風竜の右前足に黒鉄棒が振り落され、骨の折れるような鈍い音が聞こえてきた。

「ほら、死んでいる。呻き声の一つも上げなかった。さてと、薬には死体を生き返らせる効果はない。お前が嘘吐きなのか、コイツが死体だった所為か……どっちだと思う?」

 黒鉄棒の丸い先端を俺に向けて、キールは質問してきた。
 マイクが死んでいるから、と答えるべきだけど、それを言ったところで何の意味もない。
 
「俺は嘘は吐いていない」
「ハァッ。そうか。それは悪かったな。だが、嘘吐きを確かめる方法ならあるんだぜ。お前は運が良い。いや、悪いのか。〝ブリッツ〟 俺なら一時的に生き返らせる事が出来るからな」

 キールが短い言葉を唱えると、バチバチと黒鉄棒が青白い雷の光を激しく上げ始めた。
 路地裏で見た時と同じ光だ。問題はその雷を放つ黒鉄棒の先端を風竜に向けている事だ。

「マイクに何をするつもりなんだ?」
「嘘吐きを見つけるんだよ。俺が気になって眠れないだろ?」

 風竜のブレス攻撃と同じように、黒鉄棒の先端に青白い雷が集まり球体になっていく。
 これからキールが何をするのか分かったけど、死体で遊ぶような男じゃないはずだ。
 生き返らせる事が出来るなら、邪魔しない方がいい。

「〝ライトニング〟」
「ぐっ……!」

 言葉を唱えると同時に黒鉄棒の先端が激しく光り、青白い雷の球体が発射された。
 少しだけ目を閉じてしまったけど、雷の球体が風竜の腹の下、ちょうど人間の左胸の辺りに直撃するのが見えた。

「ヴゥゥゥ~~……」
「マイク?」

 雷の球体が直撃すると、すぐに風竜が呻き声を上げて、身体を激しく痙攣させ始めた。
 でも、三秒間ほど痙攣してから何も起こらずに止まってしまった。

「一発じゃ足りないか。五発で無理なら仕方がない。俺の判断で嘘吐きを決めてやる。〝ライトニング〟」

 風竜の身体に何も変化が起きなかったので、キールはもう一度、雷の球体を同じ場所に発射した。
 雷の球体が直撃すると、また風竜は三秒間ほど激しく痙攣して止まってしまった。
 また何も起こらないと思っていたけど、今度は違った。

「グゥガ、ガガガ、グゥルルルラァッ!」
「マ、マイク?」

 止まっていた痙攣が始まると、今度は風竜が苦しみ始めた。
 身体の表面からピンク色の肉が膨れ上がり、全身を隠していく。
 薬が使われた動物と同じように変化が起こり始めた。

「良かったな。三分もあれば嘘吐きが分かる。それにちょうど邪魔な騎士団も五十人ほど、こっちに向かって来ているようだ。まとめて全員始末できる」

 黒鉄棒の放電を消すと、キールが笑みを浮かべて話してきた。
 離れた場所の相手の位置が分かるようだ。
 確かに口だけ騎士団の雑魚が何十人来ても、虫を足で踏み潰す程度の力で始末できると思う。

「約束が違うぞ。その竜が人間に戻ったら見逃してくれるんじゃなかったのか?」
「ハッハッ。まさか、本気で信じてくれたのか? 本当に人間に戻れたら、死体でも貴重な実験サンプルだ。理由と原因を調べるに決まっている」

 やっぱり見逃すつもりはなかったようだ。得意顔で本心を話してくれる。
 でも、お前は油断し過ぎている。冥土の土産に話しているつもりなら、俺達は死ぬつもりはない。
 
「一つ聞いてもいいか? どうせ殺すんだから教えてくれてもいいだろう」
「ん? ああ、そうだな。教えられる事なら教えてやるよ」

 お父さんもキールに聞きたい事があるようだ。
 一つと言わずに、三つぐらいは教えてくれそうだ。

「お前達の目的は何だ? 面倒な薬を使わなくても、それだけの実力があれば、人殺しぐらいは簡単に出来るだろう」
「くだらない質問だな。何か勘違いしてないか? 人殺しがしたいのは俺達じゃない。依頼人達だ。需要があるから供給している。それにこの世界は約三十秒に一人の人間が死ぬそうだ——」

 お父さんの質問にキールは答えているけど、やっぱり目的を話すつもりはないようだ。
 口に出している言葉は人殺しを正当化するような事ばかりだ。
 悪い事をしている自覚はなく。むしろ、人殺しを楽しんでいるようにしか聞こえない。

「こうやってダラダラ話している間に四人も死んでいる。ちょっとだけ早く殺しても世界は変わらないままだ。むしろ、殺意を覚える人間を殺してやっているんだ。感謝してほしいね」
「……なるほど。聞きたい事は何も答えていないが、お前達が屑野朗の集まりだという事はよく分かったよ。ありがとうよ、クソ野郎」
「ハッハッ。どういたしまして」

 お父さんは上半身だけを起こして、キールの話を最後まで聞いていた。
 そのムカつく話のお礼に頭を下げずに、右手の中指を立てて、感謝の言葉を言った。
 それだと、あまりにも上品過ぎる。
 俺が代わりに、アイツの尻の穴に爪を突っ込んで、背中まで尻の割れ目を広げてやる。

「お前を苦しめるのに三十秒は短過ぎる。何十年も牢獄の中で苦しませてやるよ」
「ハッ、ハハ。お前も早死にしたいらしいな」
「いいや、お前の相手は俺達じゃない。マイクだ! お父さん、契約の鎖でマイクを操ってください!」
「何を言っている? 恐怖で頭がイカれたのか?」

 キールは気づいていないようだ。とっくに肉塊の成長は止まっている。
 肉塊の停止は、肉塊の中身の肉体の変化が終わっている事を意味している。
 あとは肉塊を突き破って、マイクが自力で外に出るだけど、ゆっくり待つつもりはない。
 お父さんに契約の鎖を使ってもらって、すぐに出て来て戦ってもらう。

「〝コントラクト〟 マイク! 与えられた名に従い、その力を貸せ!」

 両手を肉塊に向けて、お父さんは呪文を唱えると、マイクに出て来いと命令している。
 なかなか出て来ないけど、お願いだから早く出て来てほしい。

「ヴオオオオッ‼︎」
「うっ……あっはは、やっぱり生き返った」

 俺の願いがマイクに届いたのか、肉塊から天を衝くような大きな雄叫びが上がった。
 そして、ブチブチと肉が引き千切られる音が聞こえてきた。
 やっぱり俺の予想通り、薬を使えば、人間に戻れたんだ。

「ヴオオオオッ‼︎」
「っ……! 何だ、この声は? 何故、死んでない? 有り得ない事だぞ」

 キールは肉塊から聞こえる雄叫びが信じられないようだ。
 動揺している今が攻撃チャンスかもしれないけど、ここはマイクに譲るしかない。
 でも、人間に戻れたはずなのに、何で魔物のような雄叫びを上げているんだ?
 
「ぐっぐぐ、くっ、何という凄まじい力だ! 抑え切れない!」

 お父さん、それ絶対に言ったら駄目な言葉です。

 ♢
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】大聖女の息子はやり直す

ゆるぽ
ファンタジー
大聖女の息子にして次期侯爵であるディート・ルナライズは義母と義姉に心酔し破滅してしまった。力尽き倒れた瞬間に15歳の誕生日に戻っていたのだ。今度は絶対に間違えないと誓う彼が行動していくうちに1度目では知らなかった事実がどんどんと明らかになっていく。母の身に起きた出来事と自身と実妹の秘密。義母と義姉の目的とはいったい?/完結いたしました。また念のためR15に変更。/初めて長編を書き上げることが出来ました。読んでいただいたすべての方に感謝申し上げます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...