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第一章・風竜編
第64話 風竜の隠し技と竜の血の効果
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「グゥ、ガァアア! キィシャーー‼︎」
「ぐぅ……あとで回復するからちょうどいいんだよ!」
風竜の竜鱗を突き破り、腹の中に両腕が手首まで入り込んでいる。
風竜は苦しみ暴れているけど、あとで回復薬をガブ飲みさせるから問題ない。
振り落とされないように、しがみ付く。
(ほっ……ここなら安全そうだ)
風竜の右腹に両手を突っ込んで、両足を地面から浮かせて、ぶら下がり続ける。
この位置なら攻撃されないと思っていたけど、そんなに甘い訳なかった。
「くっ……ぐがぁ! あがぁ、あがぁ!」
槍のような硬く尖ったヒレの先端が、右足の膝上に突き刺さる。
真横から振るわれた鞭のような尻尾の先端が、背中に激しく叩きつけられる。
「ここは駄目だ! 一番の危険地帯だ!」
靴を犠牲に移動を決意した。
今度からは爪先が開いている靴を買うようにする。
靴を突き破って両足の爪を伸ばして、目指すは絶対安全そうな腹の下だ。
「グゥガァァ、ガアッ! フゥガアッ!」
「マイク、これもお前を助ける為だから我慢しろよ」
謝りながらも、両手足を風竜の身体に突き刺し引き抜き、腹の下に向かって移動していく。
これなら、移動しながらダメージを与えられる。
それに地面から百三十センチ程離れている腹の下なら、尻尾と前足のヒレ攻撃は届かない。
せいぜい押し潰されるだけだ。
そして、押し潰すには腹を地面に着けないといけない。
つまり、俺を攻撃するには風竜は移動と回避をやめないといけない。
その瞬間をお父さんとクラトスに攻撃してもらえば、押し潰されるのも無駄にはならない。
「マイク。苦しいなら、その全部を俺に打つけて来い。全部受け止めてやる」
しっかりと腹の下に張り付くと、やって来るだろう攻撃を待った。
痛みも苦しみも仲間なら分け合うのが当然だ。
お前は仲間だと思ってないかもしれないけど、俺は仲間だと思っている。
ついでに俺を押し潰したら、両手足の爪が深く突き刺さるから覚悟してほしい。
俺だけ痛い思いをするつもりはない。これが理想の仲間だと思う。
「ハァッ! 遅い!」
「ん? 何をやっているんだ?」
腹の下から風竜の顔の方を見ると、クラトスが赤黒い剣を振り回しているのが見えた。
風竜の前足の攻撃に合わせて、剣を振るって、硬いヒレと剣を打つけ合っている。
狙いは分からないけど、ヒレと打つけ合っても折れない剣は丈夫そうだ。
隊長が持つ剣だから、名剣なのかもしれない。
(それよりもお父さんはどこにいるんだ?)
探しているのは盲目の風竜と斬り合いをしているクラトスじゃない。
強制従魔契約するには、お父さんの力が必要だ。
前後左右に首を回して探してみるけど、見つからない。
やられてしまった可能性はないと思うから、居るとしたら頭や背中の上だと思う。
あまり致命傷になるダメージは与えたくないけど、風竜は元気に動き回っている。
もっと致命傷になるようなダメージを与えないと、強制契約なんて出来ない。
「瀕死の状態か……」
足を切り落とす、臓器を切り裂く、大量出血させる。
思い付く方法はあるけど、死にそうな状態にしたいなら全部やるべきだ。
「これだと殺しているのか、助けているのか分からないな!」
「フゥガァッ!」
右手を腹から引き抜いて、すぐ下の腹に力一杯突き刺した。
風竜が人間が腹を殴られたような軽めの声を上げた。
この程度では腹パンチ一発分ぐらいのダメージしかないのかもしれない。
「だったら百発でも二百発でも殴るだけだ」
そう決意すると、突き刺したばかりの右手を引き抜いて、また刺した。
そして、また引き抜いて刺そうとした瞬間、風竜の身体に異変が起きた。
「グゥガァ……ヒュゥゥゥ……」
「何だ? この風は?」
風竜の身体を透明な薄緑色の光が包み込んでいく。
身体の表面を不規則な方向に風が流れていく。
着ている服が風で煽られ、地面に落ちている葉っぱや小枝が飛ばされていく。
何が起こるのか分からないけど、嫌な予感しかしない。
「グゥオオオオーー‼︎」
「ぐがぁ……がぁはっ‼︎」
耳を両手で覆いたくなる雄叫びが聞こえた瞬間、風竜の身体から真下に吹き飛ばされた。
背中から地面に激しく叩き付けられ、全身の骨がバラバラに砕けたような痛みが駆け巡る。
風竜の身体が大爆発したか、巨人の拳で殴られ、地面に押し潰された気分だ。
「うぐっぐぐぐ、マイク……俺だけ痛いのは無しだろ」
それでも、即死はしなかった。手足の先は何とか動かせる。
巨大な岩盤に押し潰されたような瀕死の重傷だけど、近くに病院はないし、救助隊は来ない。
自力で何とかしないといけない。
「ぐっ、くぅぅぅ、ブッ殺す」
そんなつもりはないけど、凹んでいる地面から起き上がりながら言ってみた。
今すぐに回復薬を飲みたいけど、そんな暇は無さそうだ。
急いで体勢を立て直さないと次の攻撃が来るかもしれない。
「はぁ、はぁ、はぁっ……絶対に殺してやる」
地面を這っていきながら、風竜の腹の下から出ると、近場の木の陰に隠れて、回復薬を飲んだ。
風竜は微動だにせずに立ったままでいる。まだ目が見えていないようだ。
(使用者が死んでも魔法の効果は残るんだろうか?)
風竜の周囲には、お父さんとクラトスの姿は見えない。
周囲の匂いも風で吹き飛ばされているようで、二人の匂いがかき消えている。
二人が戦闘不能状態なら、ヘイストの効果も直に消えてしまう。
逃げる力も残ってないし、お父さんが居ないなら、作戦を変更しないといけない。
俺だけでも失明させる事は出来る。
後ろ足を突き刺せば動きは鈍らせられる。
まだまだやれる。
「ぐっ……!」
木を支えに立ち上がると、もう一度だけ周囲を見て確認した。
風竜の頭にも背中にも誰も立っていない。
勝てると油断して、範囲攻撃を使えると考えなかった所為だ。
「ふぅ……二人は生きていると信じて、どうにかするしかない」
息をゆっくり吐いて気持ちを落ち着かせていく。
戦える人間は俺一人しかいない。俺が敗れたら、二人を助けられない。
一人と二人……いや、一人と三人の命だ。悪いけど犠牲になってもらうしかない。
「ここからは魔物同士の殺し合いだ!」
風竜の腹に向かって走り出した。
走るたびに全身の骨が軋んで、身体が右に左に倒れそうになる。
特に穴の空いた右膝上のダメージがキツい。
それでも、倒れる訳にはいかない。
作戦は失敗した。もう生け捕りなんて甘い事は言ってられない。
負傷している今が最後の倒すチャンスだ。
「ナァッ!」
風竜の右腹に上から下に右手を振り下ろした。
全然力が入っていない一撃は、竜鱗に守られた腹に、軽い引っ掻き傷をつける事しか出来なかった。
「グゥガァ?」
視界の左端で風竜の尻尾が動くのが見えた。
とっさに地面に背中から倒れ込んで振るわれた尻尾を回避した。
「ぐぅうう! くっ、まともに回避も出来ない!」
倒れ込んだまま身体を転がして、風竜の腹の下に無様に逃げ込んだ。
魔法で強力な防御力を手に入れて、即死は免れても、生き恥を晒している。
「はぁ、はぁ……ここまで、んっ? 血か」
上からポタポタと液体が右頬に落ちてきた。
右手の甲で拭き取ってみると、黒っぽい赤色の血が付いていた。
腹の下に開けた傷口から流れ落ちている。
「あぁ、まだ武器は残っていた」
でも、爪より多少マシなだけだ。
とりあえず、口を開けて、落ちて来る血を飲んでみた。
攻撃の前に出来れば味見したい。
(ゔゔゔっ~~! ゔゔゔっ~~! これ飲んじゃ駄目なヤツだ!)
数滴飲んだだけで分かってしまった。
まるで臭虫をすり潰して、臭い体液だけを濃縮したような味だ。
のたうち回りたい気持ちを我慢して、両手で口を押さえて吐かずに飲み込んだ。
噛み付き攻撃はやっぱり中止にする。攻撃した瞬間にショック死してしまう。
(ハァ、ハァ、戦う前に死にそうになった。あれ? 痛みが少し引いている?)
さっきまで全身に感じていた痛みをあまり感じない。
あまりの不味さに身体が痛みを忘れてしまった……とは思えない。
だとしたら、回復薬の効果が現れたか、この風竜の血が原因だ。
確かめる方法はあるけど、あまりやりたくない。
それでも、アイテムポーチから回復薬を取り出して、回復薬を少し飲んだ。
そして、寝転んだまま、右腕を伸ばして、回復薬の瓶の中に落ちて来る血を入れていった。
この血に強力な鎮痛薬の作用があるなら、今はそれに頼るしかない。
血入りの回復薬を鼻をつまんで一気に飲み込んだ。
(ゔゔゔっ~~!)
のたうち回るのも吐くのも何とか我慢した。予想通りに痛みは消し飛んだ。
それに傷口がいつもよりも治るのが早い気がする。
鎮痛効果だけじゃなくて、回復効果もあるようだ。
でも、完全回復した訳じゃない。
痛みが消えただけで、ダメージはしっかりと残っている。
右膝上の大きな傷口も塞がっていない。
強力な一撃を喰らえば、それで全てが終わってしまう。
それでも、もう時間切れだ。暗黒魔法の効果はいつ消えてもおかしくない。
右腕に力を入れて決意を固めると、腹の下の傷口に狙いを定めて、右手の爪を突き刺した。
「オラァッ! リヤァッ!」
そして、尻尾の方に向かって、風竜の身体を爪で切り裂いた。
「フゥガアアアア‼︎」
風竜の苦痛と怒りの混じった叫び声が上がったので、第二回戦始まりだ。
素早く腹の下から出ると、風竜の攻撃を警戒した。
♢
「ぐぅ……あとで回復するからちょうどいいんだよ!」
風竜の竜鱗を突き破り、腹の中に両腕が手首まで入り込んでいる。
風竜は苦しみ暴れているけど、あとで回復薬をガブ飲みさせるから問題ない。
振り落とされないように、しがみ付く。
(ほっ……ここなら安全そうだ)
風竜の右腹に両手を突っ込んで、両足を地面から浮かせて、ぶら下がり続ける。
この位置なら攻撃されないと思っていたけど、そんなに甘い訳なかった。
「くっ……ぐがぁ! あがぁ、あがぁ!」
槍のような硬く尖ったヒレの先端が、右足の膝上に突き刺さる。
真横から振るわれた鞭のような尻尾の先端が、背中に激しく叩きつけられる。
「ここは駄目だ! 一番の危険地帯だ!」
靴を犠牲に移動を決意した。
今度からは爪先が開いている靴を買うようにする。
靴を突き破って両足の爪を伸ばして、目指すは絶対安全そうな腹の下だ。
「グゥガァァ、ガアッ! フゥガアッ!」
「マイク、これもお前を助ける為だから我慢しろよ」
謝りながらも、両手足を風竜の身体に突き刺し引き抜き、腹の下に向かって移動していく。
これなら、移動しながらダメージを与えられる。
それに地面から百三十センチ程離れている腹の下なら、尻尾と前足のヒレ攻撃は届かない。
せいぜい押し潰されるだけだ。
そして、押し潰すには腹を地面に着けないといけない。
つまり、俺を攻撃するには風竜は移動と回避をやめないといけない。
その瞬間をお父さんとクラトスに攻撃してもらえば、押し潰されるのも無駄にはならない。
「マイク。苦しいなら、その全部を俺に打つけて来い。全部受け止めてやる」
しっかりと腹の下に張り付くと、やって来るだろう攻撃を待った。
痛みも苦しみも仲間なら分け合うのが当然だ。
お前は仲間だと思ってないかもしれないけど、俺は仲間だと思っている。
ついでに俺を押し潰したら、両手足の爪が深く突き刺さるから覚悟してほしい。
俺だけ痛い思いをするつもりはない。これが理想の仲間だと思う。
「ハァッ! 遅い!」
「ん? 何をやっているんだ?」
腹の下から風竜の顔の方を見ると、クラトスが赤黒い剣を振り回しているのが見えた。
風竜の前足の攻撃に合わせて、剣を振るって、硬いヒレと剣を打つけ合っている。
狙いは分からないけど、ヒレと打つけ合っても折れない剣は丈夫そうだ。
隊長が持つ剣だから、名剣なのかもしれない。
(それよりもお父さんはどこにいるんだ?)
探しているのは盲目の風竜と斬り合いをしているクラトスじゃない。
強制従魔契約するには、お父さんの力が必要だ。
前後左右に首を回して探してみるけど、見つからない。
やられてしまった可能性はないと思うから、居るとしたら頭や背中の上だと思う。
あまり致命傷になるダメージは与えたくないけど、風竜は元気に動き回っている。
もっと致命傷になるようなダメージを与えないと、強制契約なんて出来ない。
「瀕死の状態か……」
足を切り落とす、臓器を切り裂く、大量出血させる。
思い付く方法はあるけど、死にそうな状態にしたいなら全部やるべきだ。
「これだと殺しているのか、助けているのか分からないな!」
「フゥガァッ!」
右手を腹から引き抜いて、すぐ下の腹に力一杯突き刺した。
風竜が人間が腹を殴られたような軽めの声を上げた。
この程度では腹パンチ一発分ぐらいのダメージしかないのかもしれない。
「だったら百発でも二百発でも殴るだけだ」
そう決意すると、突き刺したばかりの右手を引き抜いて、また刺した。
そして、また引き抜いて刺そうとした瞬間、風竜の身体に異変が起きた。
「グゥガァ……ヒュゥゥゥ……」
「何だ? この風は?」
風竜の身体を透明な薄緑色の光が包み込んでいく。
身体の表面を不規則な方向に風が流れていく。
着ている服が風で煽られ、地面に落ちている葉っぱや小枝が飛ばされていく。
何が起こるのか分からないけど、嫌な予感しかしない。
「グゥオオオオーー‼︎」
「ぐがぁ……がぁはっ‼︎」
耳を両手で覆いたくなる雄叫びが聞こえた瞬間、風竜の身体から真下に吹き飛ばされた。
背中から地面に激しく叩き付けられ、全身の骨がバラバラに砕けたような痛みが駆け巡る。
風竜の身体が大爆発したか、巨人の拳で殴られ、地面に押し潰された気分だ。
「うぐっぐぐぐ、マイク……俺だけ痛いのは無しだろ」
それでも、即死はしなかった。手足の先は何とか動かせる。
巨大な岩盤に押し潰されたような瀕死の重傷だけど、近くに病院はないし、救助隊は来ない。
自力で何とかしないといけない。
「ぐっ、くぅぅぅ、ブッ殺す」
そんなつもりはないけど、凹んでいる地面から起き上がりながら言ってみた。
今すぐに回復薬を飲みたいけど、そんな暇は無さそうだ。
急いで体勢を立て直さないと次の攻撃が来るかもしれない。
「はぁ、はぁ、はぁっ……絶対に殺してやる」
地面を這っていきながら、風竜の腹の下から出ると、近場の木の陰に隠れて、回復薬を飲んだ。
風竜は微動だにせずに立ったままでいる。まだ目が見えていないようだ。
(使用者が死んでも魔法の効果は残るんだろうか?)
風竜の周囲には、お父さんとクラトスの姿は見えない。
周囲の匂いも風で吹き飛ばされているようで、二人の匂いがかき消えている。
二人が戦闘不能状態なら、ヘイストの効果も直に消えてしまう。
逃げる力も残ってないし、お父さんが居ないなら、作戦を変更しないといけない。
俺だけでも失明させる事は出来る。
後ろ足を突き刺せば動きは鈍らせられる。
まだまだやれる。
「ぐっ……!」
木を支えに立ち上がると、もう一度だけ周囲を見て確認した。
風竜の頭にも背中にも誰も立っていない。
勝てると油断して、範囲攻撃を使えると考えなかった所為だ。
「ふぅ……二人は生きていると信じて、どうにかするしかない」
息をゆっくり吐いて気持ちを落ち着かせていく。
戦える人間は俺一人しかいない。俺が敗れたら、二人を助けられない。
一人と二人……いや、一人と三人の命だ。悪いけど犠牲になってもらうしかない。
「ここからは魔物同士の殺し合いだ!」
風竜の腹に向かって走り出した。
走るたびに全身の骨が軋んで、身体が右に左に倒れそうになる。
特に穴の空いた右膝上のダメージがキツい。
それでも、倒れる訳にはいかない。
作戦は失敗した。もう生け捕りなんて甘い事は言ってられない。
負傷している今が最後の倒すチャンスだ。
「ナァッ!」
風竜の右腹に上から下に右手を振り下ろした。
全然力が入っていない一撃は、竜鱗に守られた腹に、軽い引っ掻き傷をつける事しか出来なかった。
「グゥガァ?」
視界の左端で風竜の尻尾が動くのが見えた。
とっさに地面に背中から倒れ込んで振るわれた尻尾を回避した。
「ぐぅうう! くっ、まともに回避も出来ない!」
倒れ込んだまま身体を転がして、風竜の腹の下に無様に逃げ込んだ。
魔法で強力な防御力を手に入れて、即死は免れても、生き恥を晒している。
「はぁ、はぁ……ここまで、んっ? 血か」
上からポタポタと液体が右頬に落ちてきた。
右手の甲で拭き取ってみると、黒っぽい赤色の血が付いていた。
腹の下に開けた傷口から流れ落ちている。
「あぁ、まだ武器は残っていた」
でも、爪より多少マシなだけだ。
とりあえず、口を開けて、落ちて来る血を飲んでみた。
攻撃の前に出来れば味見したい。
(ゔゔゔっ~~! ゔゔゔっ~~! これ飲んじゃ駄目なヤツだ!)
数滴飲んだだけで分かってしまった。
まるで臭虫をすり潰して、臭い体液だけを濃縮したような味だ。
のたうち回りたい気持ちを我慢して、両手で口を押さえて吐かずに飲み込んだ。
噛み付き攻撃はやっぱり中止にする。攻撃した瞬間にショック死してしまう。
(ハァ、ハァ、戦う前に死にそうになった。あれ? 痛みが少し引いている?)
さっきまで全身に感じていた痛みをあまり感じない。
あまりの不味さに身体が痛みを忘れてしまった……とは思えない。
だとしたら、回復薬の効果が現れたか、この風竜の血が原因だ。
確かめる方法はあるけど、あまりやりたくない。
それでも、アイテムポーチから回復薬を取り出して、回復薬を少し飲んだ。
そして、寝転んだまま、右腕を伸ばして、回復薬の瓶の中に落ちて来る血を入れていった。
この血に強力な鎮痛薬の作用があるなら、今はそれに頼るしかない。
血入りの回復薬を鼻をつまんで一気に飲み込んだ。
(ゔゔゔっ~~!)
のたうち回るのも吐くのも何とか我慢した。予想通りに痛みは消し飛んだ。
それに傷口がいつもよりも治るのが早い気がする。
鎮痛効果だけじゃなくて、回復効果もあるようだ。
でも、完全回復した訳じゃない。
痛みが消えただけで、ダメージはしっかりと残っている。
右膝上の大きな傷口も塞がっていない。
強力な一撃を喰らえば、それで全てが終わってしまう。
それでも、もう時間切れだ。暗黒魔法の効果はいつ消えてもおかしくない。
右腕に力を入れて決意を固めると、腹の下の傷口に狙いを定めて、右手の爪を突き刺した。
「オラァッ! リヤァッ!」
そして、尻尾の方に向かって、風竜の身体を爪で切り裂いた。
「フゥガアアアア‼︎」
風竜の苦痛と怒りの混じった叫び声が上がったので、第二回戦始まりだ。
素早く腹の下から出ると、風竜の攻撃を警戒した。
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