58 / 102
第一章・風竜編
第58話 マイクとの再会と罠の罠の掛け合い
しおりを挟む
眼鏡は匂いの元に真っ直ぐに進んでいる。というよりも匂いが眼鏡に合わせて移動している。
匂いの一人はマイクで間違いないと思う。いや、匂いの一つかもしれない。
マイクが身に付けていた物を持っていれば、マイクの匂いがするはずだ。
(この際、マイクの匂いは忘れよう。問題なのはもう一人の匂いだ)
もう一人の匂いは一度だけ、冒険者ギルドで嗅いだ事のある匂いだ。
眼鏡の仲間っぽくて怪しかったから、念の為に嗅いでおいた。
オッサン臭はそこまで覚えたくなかったけど、我慢しなければならない時もある。
「おい、誰か居るぞ。どうする、避難してもらうか?」
レーガンが前方に見えた二人の人影を指差して、前を歩く眼鏡に聞いた。
武器を持たない一般人なら、ベノムスネークに襲われると思ったようだ。
残念だけど、避難するのは俺達かもしれない。
微かに煙草の臭いがする。三人目がいる可能性もあると警戒した方がいい。
「フッ。その必要はないですよ。私達の仲間ですから」
「何だよ、他にも応援を頼んでいたのかよ」
「まぁ、そんなところです」
「だったら、隠さずに教えろよな」
「クッフ、フフ、驚かそうと思ったんですよ」
眼鏡は必死に笑いを押し殺すようにして、レーガンに答えている気がする。
仲間の姿が見えて安心しているようだけど、罠に嵌ったのは俺達じゃない。
眼鏡、お前達の方だ。
(さてと、全員半殺しにして騎士団に連行してやる。特に眼鏡は念入りにする。戦闘準備はバッチリだ)
人影との距離が二十メートル程になると、ハッキリと人影の姿が見えてきた。
一人は額に十字傷がある大男で、金色の荒々しい髪に口髭と顎髭を生やしている。
青っぽい黒色革鎧で全身を隠して、その上に袖無しの胴体を守る赤色金属鎧を着ている。
そして、右手に木製の柄と銀色片刃の大斧を持って、左手で黒い服を着た黒髪の男を支えている。
お父さんに聞いて、男の事は知っている。冒険者6級で名前は——
「マイク⁉︎ 何で、マイクがいるんだよ⁉︎」
レーガンが立ち止まって、いきなり大声で叫んだ。
身長百九十センチ程の大男が支えている、百七十センチ程の小柄な男に気付いたようだ。
確かにマイクだけど、どう見ても目が虚で正気とは思えない。
それにレーガンの声が聞こえたはずなのに、無反応なのはおかしい。
(変な薬を使われたみたいだけど、生きているなら治せる!)
何の目的でマイクを連れて来たのか知らないけど、取り返させてもらう。
そう思って、斧を持った大男に向かって走ろうとした。
「おっと、動かない方がいいですよ」
「くっ……!」
「少しでも動いたら、マイクの首が胴体から永遠にお別れする事になりますから」
でも、その前に槍を持った眼鏡が、槍と腕を水平に広げて、俺達の前に立ち塞がった。
どうやら、もう仲間の演技はやめるようだ。
それにマイクは人質として連れて来られたみたいだ。
眼鏡の声を聞いて、大男がマイクの首に大斧の刃を向けた。
大男は俺が近づいたら離れたけど、距離は二十メートル程を保っている。
この距離が声が聞こえて、いざという時に反応できる距離みたいだ。
「お、おい、ローワン。何言ってんだよ?」
「クッフフフ。分からないんですか? やれやれ馬鹿は勘も鈍いようですね」
「はぁっ? 分からねぇから聞いてんだろ? お前、何してんだよ?」
レーガンはマイクを見て激しく動揺していたけど、流石は冒険者だ。
乱れた感情を力尽くで抑え込むと、警戒するように目の前の眼鏡に聞いている。
心のどこかで、やっぱり眼鏡が怪しいと思っていたのかもしれない。
「分かっているんだろう? ローワンは誘拐犯の仲間なんだよ。そして、俺達をこの森の中で始末するつもりなんだ。そうだろ?」
眼鏡が勿体ぶって話すので、話が全然前に進まない。
なので、眼鏡の代わりに、残酷な真実をレーガンにハッキリと教えてあげた。
でも、その真実は簡単に受け入れるものじゃなかったようだ。
「何言ってんだよ、ルディ? ローワン、違うよな?」
「フッフフ。ええ、その通り全然違います。始末するつもりではなく、始末するんですよ」
「始末……? 始末ってどういう意味なんだよ?」
レーガンは何度も眼鏡に質問を繰り返す。
ここまで来ると理解力が無いというよりも理解したくないだけだ。
「はい? やれやれ、自分で考える頭は無いんですか? 始末は始末です。殺すという意味ですよ。あっははは、どうやって殺すのかも教えてあげましょうか?」
「何言ってんだよ! 悪い冗談やめ——」
「その必要はないよ。この場にいる全員誰も死なない。でも、ローワンとタイタス。あんた達二人は牢獄送りだ」
これ以上は眼鏡にムカつく言葉を喋らせる必要はない。
眼鏡と、その後ろに隠れている斧男のタイタスをビシッと指差して教えてやった。
「なっ⁉︎ どうして、名前を……」
眼鏡が俺がタイタスの名前を知っていたのに驚いている。
そんなの調べたからに決まっている。
「残念だけど、お前達の計画は最初から分かっている。罠に嵌められたのはお前達の方だ! この場所は騎士団が完全に包囲している。大人しくマイクを離して投降しろ。さもなくば痛い目に遭わせる」
「ハッ! それがどうしたんですか。やはり私を調べていた騎士団の人間でしたか。こっちには人質がいます。少しでも動いたら、マイクの命はないですよ!」
右腕の爪を五本伸ばして、眼鏡に鋭い先端を向けてから、ハッキリと警告した。
この爪の切れ味は知っているはずだ。
けれども、眼鏡は少しだけ動揺しただけで、すぐに強気な態度に戻った。
人質を使えば、まだ助かると無駄な抵抗を続けたいようだ。
「ちょ、ちょっと待てよ⁉︎ 一体お前達はさっきから何の話をしてんだよ⁉︎」
そして、状況が分からずに混乱しているレーガンはとりあえず無視だ。
俺も騎士団に所属しているなんて初めて知った。
そんな記憶はまったくない。
「お前達の言う事を聞くつもりはない。どうせ、言う事を聞いてもマイクを離すつもりはないんだろう? だったら、マイクには悪いけど、お前達を半殺しにして許してもらうよ」
「ぐっぬぬっ!」
眼鏡の見え透いた罠に騙されるつもりはない。要求に従うつもりはない。
言う事を聞いても三人まとめて殺されるだけだ。
だったら、マイクを犠牲にして、眼鏡とタイタスの二人をブチ殺す。
「クッ、クッハハハハ! これは傑作だな。ローワン。操り人形になっていたのは、お前だったようだな」
「ぐっ……あなたも一緒ですよ。笑ってないで早く手を貸してください!」
こっちを傍観していたタイタスが突然、大声で笑い出した。
6級冒険者という事で余裕があるみたいだけど、俺は7級だし、5級のお父さんを連れて来た。
絶対に逃げられないし、逃すつもりもない。
「何がおかしいんだ? あんたもその操り人形の一人だろ?」
「いいや、それは違う。操り人形はお前とお前とお前だ。本当に騙された振りをしていたのが、どっちらなのか、まだ分からないようだな」
タイタスは余裕のある笑みを浮かべて、大斧を俺達三人に順番に向けていった。
意味ありげな事を言っているけど、切り札が一枚しかないのは分かっている。
「負け惜しみだろ。それとも、近くに隠れているキールという名前の雷使いに助けを呼ぶのか?」
「……おい。あの方が来ているのを、どうして知っている?」
「フッ。腐った悪党の臭いがするから、分かるに決まっているだろう」
同じ煙草の臭いがしたから聞いてみたけど、正解だったみたいだ。
キールの名前を出した途端、タイタスが笑みを消して、身体から殺気を溢れさせている。
(あの方か……どうやら、タイタスも下っ端みたいだ)
だったら、やる事は決まっている。
眼鏡と斧男の二人の下っ端を瞬殺して、キールに登場してもらおう。
「調子に乗るなよ、お前は実験材料だ。コイツと同じ、ただの実験体だ。そして、お前達程度を始末するのに、わざわざあの方は動かない。今回の目的はコイツの実戦テストだ」
顔に怒りを滲ませて、タイタスは大斧を近くの木に水平に振り払って、木に食い込ませた。
そして、空いた右手でポケットから銀色のケースを取り出した。
「あれは……⁉︎」
忘れるはずがない。あれは魔物に変える薬を保管しているケースだ。
そして、タイタスが次に何をするのか瞬間的に理解してしまった。
「邪魔だ!」
「ぐほっおっ!」
右手を振り払って、目の前の邪魔な眼鏡を右頬を殴り飛ばして排除すると、そのまま突っ走る。
マイクに飲ませる訳にはいかない。
「コイツの身体に合わせた特別薬らしい。裏切り者の仲間を殺させた後は、色々と嗅ぎ回っている騎士団を壊滅させる。白茶のお前は俺が死なないように相手をしてやる。安心しろ、まだ死ななくていいぞ」
「やめろ!」
止めようとしたけど、全然間に合わなかった。
タイタスは素早く薬をマイクに飲ませると突き飛ばして、木に刺さっている大斧を手に取った。
そして、大斧を両手で握って、俺に向かって刃を思いっきり振り回した。
「遅い! 〝旋風烈斬〟」
「くっ、オラッ‼︎」
突撃をやめて急停止すると、両手の爪を大斧が振られた刃の軌道上に、気合いを入れて構えた。
お父さんに聞いて、タイタスが使えるスキルや魔法は知っている。
「くぅっ、うぅぅっ……!」
まるで巨大な牙で激しく噛み付かれているようだ。
構えると同時に、両手の爪を高速回転する力強い風の刃が襲って来た。
約二秒間。両爪と激しく削られ、両腕を揺すられ続けて、やっと風の攻撃は収まった。
予想よりは重い一撃だったけど、耐え切れない攻撃ではなさそうだ。
「ほぉ……聞いてた通りの頑丈さだな。爪が折れないどころか、吹き飛ばされないか」
右手に持った大斧を肩に担いで、タイタスが面白そうに俺を見ている。
誰情報か知らないけど、今の俺はその時の百倍強い。
「風魔法を使って、ノコギリのような回転する風の刃を飛ばす、『旋風烈斬』。爆裂魔法を使って、斧の刃に触れた相手を破壊する、『爆裂粉砕斧』だろ? どちらも威力は凄いようだけど、当たらなければ意味ないよ」
「なるほど。よく調べているな、変態野朗。だが、仲間を守りながら上手く避けられるかな?」
自分の能力を全て知られているのに、タイタスはまだ余裕があるようだ。
軽く笑みを浮かべて、チラッと倒れているマイクの方を見た。
♢
匂いの一人はマイクで間違いないと思う。いや、匂いの一つかもしれない。
マイクが身に付けていた物を持っていれば、マイクの匂いがするはずだ。
(この際、マイクの匂いは忘れよう。問題なのはもう一人の匂いだ)
もう一人の匂いは一度だけ、冒険者ギルドで嗅いだ事のある匂いだ。
眼鏡の仲間っぽくて怪しかったから、念の為に嗅いでおいた。
オッサン臭はそこまで覚えたくなかったけど、我慢しなければならない時もある。
「おい、誰か居るぞ。どうする、避難してもらうか?」
レーガンが前方に見えた二人の人影を指差して、前を歩く眼鏡に聞いた。
武器を持たない一般人なら、ベノムスネークに襲われると思ったようだ。
残念だけど、避難するのは俺達かもしれない。
微かに煙草の臭いがする。三人目がいる可能性もあると警戒した方がいい。
「フッ。その必要はないですよ。私達の仲間ですから」
「何だよ、他にも応援を頼んでいたのかよ」
「まぁ、そんなところです」
「だったら、隠さずに教えろよな」
「クッフ、フフ、驚かそうと思ったんですよ」
眼鏡は必死に笑いを押し殺すようにして、レーガンに答えている気がする。
仲間の姿が見えて安心しているようだけど、罠に嵌ったのは俺達じゃない。
眼鏡、お前達の方だ。
(さてと、全員半殺しにして騎士団に連行してやる。特に眼鏡は念入りにする。戦闘準備はバッチリだ)
人影との距離が二十メートル程になると、ハッキリと人影の姿が見えてきた。
一人は額に十字傷がある大男で、金色の荒々しい髪に口髭と顎髭を生やしている。
青っぽい黒色革鎧で全身を隠して、その上に袖無しの胴体を守る赤色金属鎧を着ている。
そして、右手に木製の柄と銀色片刃の大斧を持って、左手で黒い服を着た黒髪の男を支えている。
お父さんに聞いて、男の事は知っている。冒険者6級で名前は——
「マイク⁉︎ 何で、マイクがいるんだよ⁉︎」
レーガンが立ち止まって、いきなり大声で叫んだ。
身長百九十センチ程の大男が支えている、百七十センチ程の小柄な男に気付いたようだ。
確かにマイクだけど、どう見ても目が虚で正気とは思えない。
それにレーガンの声が聞こえたはずなのに、無反応なのはおかしい。
(変な薬を使われたみたいだけど、生きているなら治せる!)
何の目的でマイクを連れて来たのか知らないけど、取り返させてもらう。
そう思って、斧を持った大男に向かって走ろうとした。
「おっと、動かない方がいいですよ」
「くっ……!」
「少しでも動いたら、マイクの首が胴体から永遠にお別れする事になりますから」
でも、その前に槍を持った眼鏡が、槍と腕を水平に広げて、俺達の前に立ち塞がった。
どうやら、もう仲間の演技はやめるようだ。
それにマイクは人質として連れて来られたみたいだ。
眼鏡の声を聞いて、大男がマイクの首に大斧の刃を向けた。
大男は俺が近づいたら離れたけど、距離は二十メートル程を保っている。
この距離が声が聞こえて、いざという時に反応できる距離みたいだ。
「お、おい、ローワン。何言ってんだよ?」
「クッフフフ。分からないんですか? やれやれ馬鹿は勘も鈍いようですね」
「はぁっ? 分からねぇから聞いてんだろ? お前、何してんだよ?」
レーガンはマイクを見て激しく動揺していたけど、流石は冒険者だ。
乱れた感情を力尽くで抑え込むと、警戒するように目の前の眼鏡に聞いている。
心のどこかで、やっぱり眼鏡が怪しいと思っていたのかもしれない。
「分かっているんだろう? ローワンは誘拐犯の仲間なんだよ。そして、俺達をこの森の中で始末するつもりなんだ。そうだろ?」
眼鏡が勿体ぶって話すので、話が全然前に進まない。
なので、眼鏡の代わりに、残酷な真実をレーガンにハッキリと教えてあげた。
でも、その真実は簡単に受け入れるものじゃなかったようだ。
「何言ってんだよ、ルディ? ローワン、違うよな?」
「フッフフ。ええ、その通り全然違います。始末するつもりではなく、始末するんですよ」
「始末……? 始末ってどういう意味なんだよ?」
レーガンは何度も眼鏡に質問を繰り返す。
ここまで来ると理解力が無いというよりも理解したくないだけだ。
「はい? やれやれ、自分で考える頭は無いんですか? 始末は始末です。殺すという意味ですよ。あっははは、どうやって殺すのかも教えてあげましょうか?」
「何言ってんだよ! 悪い冗談やめ——」
「その必要はないよ。この場にいる全員誰も死なない。でも、ローワンとタイタス。あんた達二人は牢獄送りだ」
これ以上は眼鏡にムカつく言葉を喋らせる必要はない。
眼鏡と、その後ろに隠れている斧男のタイタスをビシッと指差して教えてやった。
「なっ⁉︎ どうして、名前を……」
眼鏡が俺がタイタスの名前を知っていたのに驚いている。
そんなの調べたからに決まっている。
「残念だけど、お前達の計画は最初から分かっている。罠に嵌められたのはお前達の方だ! この場所は騎士団が完全に包囲している。大人しくマイクを離して投降しろ。さもなくば痛い目に遭わせる」
「ハッ! それがどうしたんですか。やはり私を調べていた騎士団の人間でしたか。こっちには人質がいます。少しでも動いたら、マイクの命はないですよ!」
右腕の爪を五本伸ばして、眼鏡に鋭い先端を向けてから、ハッキリと警告した。
この爪の切れ味は知っているはずだ。
けれども、眼鏡は少しだけ動揺しただけで、すぐに強気な態度に戻った。
人質を使えば、まだ助かると無駄な抵抗を続けたいようだ。
「ちょ、ちょっと待てよ⁉︎ 一体お前達はさっきから何の話をしてんだよ⁉︎」
そして、状況が分からずに混乱しているレーガンはとりあえず無視だ。
俺も騎士団に所属しているなんて初めて知った。
そんな記憶はまったくない。
「お前達の言う事を聞くつもりはない。どうせ、言う事を聞いてもマイクを離すつもりはないんだろう? だったら、マイクには悪いけど、お前達を半殺しにして許してもらうよ」
「ぐっぬぬっ!」
眼鏡の見え透いた罠に騙されるつもりはない。要求に従うつもりはない。
言う事を聞いても三人まとめて殺されるだけだ。
だったら、マイクを犠牲にして、眼鏡とタイタスの二人をブチ殺す。
「クッ、クッハハハハ! これは傑作だな。ローワン。操り人形になっていたのは、お前だったようだな」
「ぐっ……あなたも一緒ですよ。笑ってないで早く手を貸してください!」
こっちを傍観していたタイタスが突然、大声で笑い出した。
6級冒険者という事で余裕があるみたいだけど、俺は7級だし、5級のお父さんを連れて来た。
絶対に逃げられないし、逃すつもりもない。
「何がおかしいんだ? あんたもその操り人形の一人だろ?」
「いいや、それは違う。操り人形はお前とお前とお前だ。本当に騙された振りをしていたのが、どっちらなのか、まだ分からないようだな」
タイタスは余裕のある笑みを浮かべて、大斧を俺達三人に順番に向けていった。
意味ありげな事を言っているけど、切り札が一枚しかないのは分かっている。
「負け惜しみだろ。それとも、近くに隠れているキールという名前の雷使いに助けを呼ぶのか?」
「……おい。あの方が来ているのを、どうして知っている?」
「フッ。腐った悪党の臭いがするから、分かるに決まっているだろう」
同じ煙草の臭いがしたから聞いてみたけど、正解だったみたいだ。
キールの名前を出した途端、タイタスが笑みを消して、身体から殺気を溢れさせている。
(あの方か……どうやら、タイタスも下っ端みたいだ)
だったら、やる事は決まっている。
眼鏡と斧男の二人の下っ端を瞬殺して、キールに登場してもらおう。
「調子に乗るなよ、お前は実験材料だ。コイツと同じ、ただの実験体だ。そして、お前達程度を始末するのに、わざわざあの方は動かない。今回の目的はコイツの実戦テストだ」
顔に怒りを滲ませて、タイタスは大斧を近くの木に水平に振り払って、木に食い込ませた。
そして、空いた右手でポケットから銀色のケースを取り出した。
「あれは……⁉︎」
忘れるはずがない。あれは魔物に変える薬を保管しているケースだ。
そして、タイタスが次に何をするのか瞬間的に理解してしまった。
「邪魔だ!」
「ぐほっおっ!」
右手を振り払って、目の前の邪魔な眼鏡を右頬を殴り飛ばして排除すると、そのまま突っ走る。
マイクに飲ませる訳にはいかない。
「コイツの身体に合わせた特別薬らしい。裏切り者の仲間を殺させた後は、色々と嗅ぎ回っている騎士団を壊滅させる。白茶のお前は俺が死なないように相手をしてやる。安心しろ、まだ死ななくていいぞ」
「やめろ!」
止めようとしたけど、全然間に合わなかった。
タイタスは素早く薬をマイクに飲ませると突き飛ばして、木に刺さっている大斧を手に取った。
そして、大斧を両手で握って、俺に向かって刃を思いっきり振り回した。
「遅い! 〝旋風烈斬〟」
「くっ、オラッ‼︎」
突撃をやめて急停止すると、両手の爪を大斧が振られた刃の軌道上に、気合いを入れて構えた。
お父さんに聞いて、タイタスが使えるスキルや魔法は知っている。
「くぅっ、うぅぅっ……!」
まるで巨大な牙で激しく噛み付かれているようだ。
構えると同時に、両手の爪を高速回転する力強い風の刃が襲って来た。
約二秒間。両爪と激しく削られ、両腕を揺すられ続けて、やっと風の攻撃は収まった。
予想よりは重い一撃だったけど、耐え切れない攻撃ではなさそうだ。
「ほぉ……聞いてた通りの頑丈さだな。爪が折れないどころか、吹き飛ばされないか」
右手に持った大斧を肩に担いで、タイタスが面白そうに俺を見ている。
誰情報か知らないけど、今の俺はその時の百倍強い。
「風魔法を使って、ノコギリのような回転する風の刃を飛ばす、『旋風烈斬』。爆裂魔法を使って、斧の刃に触れた相手を破壊する、『爆裂粉砕斧』だろ? どちらも威力は凄いようだけど、当たらなければ意味ないよ」
「なるほど。よく調べているな、変態野朗。だが、仲間を守りながら上手く避けられるかな?」
自分の能力を全て知られているのに、タイタスはまだ余裕があるようだ。
軽く笑みを浮かべて、チラッと倒れているマイクの方を見た。
♢
0
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜
とかげになりたい僕
ファンタジー
不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。
「どんな感じで転生しますか?」
「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」
そうして俺が転生したのは――
え、ここBLゲームの世界やん!?
タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!
女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!
このお話は小説家になろうでも掲載しています。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる